030 砂金神社攻防戦Ⅴ
030砂金神社攻防戦Ⅴ
AMI歴12年6月1日 砂金神社境内 裏手
五十棲駿
朔日と言う事は、天球上で月と太陽が合であると言う事だ。
見えないだけで月は太陽と共にある。
つまり日中は月は天にあるのだが、夜中である現在は太陽と共に地平線の彼方へ沈んでいる事を意味する。
太陽は朝に昇り夕に沈み、翌朝に再び昇る。変わらぬ姿のまま大地を照らし、一日単位で生と死を繰り返す。
比較すると月は、朔日に姿を消し、それから日毎徐々(じょじょ)に存在を顕わにし、十五夜に全貌を顕わにする。
月が姿を消して復活し徐々に姿を取り戻し又隠れてゆく、毎夜ごとに姿を変化させながら一月という単位でそれを繰り返す。
古来より永劫を象徴する太陽に対し、月は変化を象徴して来た。
太陽は持続的な意思や思考を、月は変化する感情や記憶を。
太陽は昼や未来を、月は夜や過去を。
夫を、妻を、社会を、家庭を、成人を、子供を、正気を、狂気を、聖を、魔を、真理を、幻影を。
陰陽の相反する二つの事柄をそれぞれに象徴してきた。
公明正大で公にされる事を司る太陽に対し、月は不確かで不安定な隠匿される事を司っている。
そして魔力も又月の運行が支配するところである。
主に月の引力が海面を引き上げる事で生じる潮汐の影響は有名だが、同様に地球に満ちる魔力にもまた月による潮汐力が働いている。
朔日は疑似的に月が死を迎え再生する日だ、空に月が無い今宵は当然月から魔力を得る事が出来ずに、月の眷属である我々の力は減退せざるを得ない。
同様に地上の魔力もまた、潮汐の影響を受け夜は魔力濃度が更に低くなる。
だがここ砂金神社は竜脈源を有する精霊結界の内にあり、奏の術式により魔力的な補助を受けられる環境にある。
占星術において合=0度というのは一番影響力が強い角度とされている。
すなわち二つの星の影響力が交わり、互いの影響を強めあうからだ。
太陽と月の合は陰陽が重なり太極へと至る徴であり最も卑近的な死と再生の象徴だ。
更に言うと太陽風に曝された月からは太陽の反対側へ向け尾のようにイオンビームが放たれている訳だが、これが最も地球へ降り注ぐのは朔日の日中である。
奏の精霊結界は、これら人知れず日中に降り注ぐ太陽と月が合わさった陰陽の気を取り込み、夜の戦いに備えてそれを蓄えていた。
通常は幾ら日中に気を蓄えようとしても、地球特有の魔力濃度の薄さから、どんどんと魔力は外へと漏れ続けその濃度を維持する事が出来ないが。
秋月さんの力を借りて強化された結界の力によって、魔力の漏出は最小限に抑えられている。
無論満月から直接魔力を受ける時と違い、陰の気と陽の気が混然一体と化している状態なので、そのままでは我等月の眷族にとっては使い勝手が悪い状態の魔力と言えよう。
そこを精霊結界内に蓄え時間をかけて術式で変換する事で、月の眷族に使い勝手の良い陰の気へと精製してあるのだ。
「つまり此処で戦う分には俺達月の眷族でもコンディションに問題無しって事だなぁ!!」
黒狼王が吠える。
勿論全く問題がないとまでは言えないが、無策のまま新月の夜を迎えるのと比べれば十分に戦える状態である事は確かだ。
隠蔽スキルを破られて現れた敵は三名、内一人はスキルを破られた際に衝撃を受けたらしく他の二人より遅れている。先行する二人を僕と黒狼王がそれぞれ迎え撃つ形だ。
黒狼王の格闘戦能力は非常に高い。
強靭な肉体による耐久性と回復力、時に四肢を駆り地を這うように自在に駆ける俊敏性、高い膂力に裏付けされた攻撃力、野生の勘とも言うべき危機回避能力、魔力の流れさえ嗅ぎ分ける臭覚に、狂乱の女神の加護による耐魔力。様々な要素を高レベルで備え、その猛々しさとは裏腹に奸智にも長ける。敵に回すには実に厄介な相手だった。
何の因果か、この僕が黒狼王と一緒に戦う事になるなんて思いもよらない事があるものだ。
腹立たしい事だが、この男に背中を預けるのに不安が無い事は確かだ。
前世では散々戦ってきた相手だ、その実力は嫌と言う程身に染みている。
むしろこんな化け物を相手にしなくてはならない襲撃者には同情を禁じ得ない。
・・・いや、奏を狙う相手に同情の余地などなかったな。
前世において僕は月に一度の満月の夜のみ、月神の加護を得て人の身へと変じる事が出来た。
その際額の角は一振りの聖槍へとその姿を変え、魔力を込めた聖槍の突きは岩をも砕く力を持っていた。
残念ながらこちらの世界では、聖槍を生み出すだけの魔力は足りておらず、今手にしているのは何の変哲も無い木製の棍棒だ。
我等一角獣はその優美な姿や角に宿した癒しの魔力から、心優しい穏やかな種族であると幻想を抱くものも多い。しかし実態は違う、一角獣は極めて獰猛な性質を持った気性の激しい種族である。
人の身に生まれ変わった今生においても、僕の本質は変わっていない。理知的な思考をする人間であると同時に極めて狂暴な本質も併せ持つのが僕という人間だ。
鏑矢を受け姿を現したのは女二人と大柄の男一人の三人組。
一人小柄な女が後方に下がって苦し気な様子を見せている所を見ると、姿を隠していたのはこの小柄な女のスキルによるものと判断。
大柄の男が黒狼王へ向かったので、必然僕はもう一人のスラっとした女と対峙する事になった。
男が亮人にまっすぐに向かっていったのと対照的に、女は僕から一定の距離を保った所で立ち止まると、その場で攻撃をしかけてきた。
カンッ
女の右手から放たれた何かを、棍棒で払いのける、落ちた何かの正体を見極める間も無く、今度は女の左手から同じものが放たれる。
カンッ
正直光量が足りていないせいで、女の獲物がろくに視認出来ずに一苦労だ。だが、投擲武器なら数に限度があるだろうとそんな事を考えていた所、最初に落ちた何かが女の手に戻っているのが見えた、そして女はそのままそれを振り回す・・・そう、投擲した何かには紐が付いていたのだ。
「標って奴か・・・?」
確か央華連邦の武器にそんなのがあったハズだ、紐の先端に槍の穂先のようなものが付いた武器。
振り回した状態から再び攻撃を放つ女。遠心力が足された標は先ほどより速度を増して左右から時間差を付けて僕に襲い掛かる。
カンッ
一つ目の標を避け、二つ目を棍棒で払う。次の瞬間には手元に戻っている最初の標を再び振り回している。
この間合いでは一方的に攻撃されるだけだな・・・次攻撃が来たら払いながら前へ出て間合いを詰めよう、とそう考えながら女を見据える。
カンッ
「?」
直撃寸前の標を払ったとき、標の先端から何か液体が飛び散る様が見えた。
更に気が付くと女が左右で振り回している標の数が増えている。左右に二つずつ、合計四つだ。
そして今度は四つの標が時間差を付けて次々と放たれる、器用な事してくるな。
回避し、払い、回避する。
さすがにコントロールが難しいのか、最後の標は僕から大きく的を外しているのでそのまま無視しようとしたその時だった。
「んっ!?」
的を外していたと思った標が急に角度を変えて横合いから僕に襲い掛かる。不意を衝く攻撃だったが、何とか後ろへ跳躍してこれを躱す。
「何だ!?」
物理法則を無視した不自然な軌道、考えるまでも無く女のスキルによる攻撃なのだろう。
しかし、どういうスキルなんだこれは・・・
「おいおいおい」
回避した事に息つく間もなく次々と襲い掛かる標、そして気が付くと女が振り回す標の数は左右に四つずつの計八つにまで増えていた。
払い、避ける、時に正面から、時に側面から、時に頭上から、時に左右同時に、時に時間差を付けて。
予測不能な様々なタイミングと角度から繰り出される標の連続攻撃、どう考えても手の動きで操れる数と軌道では無いそれを何とか凌ぎ続けるが、絶え間ない連続攻撃を前に全く間合いを詰める事が出来ずに一方的に攻撃を受け続ける。
幸いな事に(?)どうやら八つが上限だったようで、それ以上に増える気配は無い。
棍棒で紐を絡めとろうと試みもしたが、どうにも攻撃のタイミングが巧みでうまくいかない。
このままでは埒が明かない、これはもう何発か喰らう覚悟で肉迫するしか無いか・・・
僕が捨て身で戦う覚悟を決めようとしたその時、背後に控えていた三人目の女が標使いの背後まで来ていた。
女の周辺で魔力の揺らぎを感じた瞬間、交戦中の標女の姿が掻き消えてしまった。
「まずいっ!?」
標女の攻撃はおぼろげながらもその手の動きで初動が把握できていたのだが。
攻撃を繰り出す姿が見えなくなったせいで初動が全く掴めず、標自体も隠蔽スキルの範囲外に出てくるまで目で捉える事が出来ないという状況に陥ってしまう。
初動が全く把握できない攻撃はさすがに避け切れず、手足に標の攻撃を受けて数か所の切り傷を負ってしまった。
すると攻撃を受けた手足に軽い痺れと激しい痛みが襲ってくる。
「毒かっ!?」
標を弾いた時に飛び散っていた液体の正体はこれかっ!たまらず後ろへ跳躍して標の射程範囲から距離を稼ぐが、攻撃を受けた手足が痺れて力が入らずその場に崩れ落ち、急激に広がる悪寒と共に意識も朦朧としてくる、これはちょっとマズいぞ。
ヴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゥ
その時、再び飛来した破魔の鏑矢により、隠蔽スキルが破られ再び女達が姿を顕す。
奏が見ている・・・!!
傷と毒を受けた事で気弱になりかけていた僕の心に再び闘志が湧き上がる。
奏に無様な姿を見せる分けにはいかない・・・
姿を顕わにした標女は忌々しげな表情で、鏑矢が飛んできた方向を睨み付けていたが、僕と目が合うとその口元を釣り上げた。弱らせた獲物を確認した捕食者の余裕の笑みだ。
隠蔽スキルを使用していたと思わしき小柄な女は標女の後方で頭を抱えて悶えている。
二度に渡りスキルを破られた反動を受け苦しんでいる様子だ。
僕は眉間に意識を集中して魔力を集める。この肉体にとってはそこには何も無いが、幽体レベルで見れば確かにそこには『それ』が存在している。
標女は後方を一瞥だけして、左右に手にした標を振り回しながらゆっくりした足取りでこちらへ近付いて来る。
奏の弓の腕はこれまで何度も見る機会があったのだろう、そちらを警戒している事が分かる。
僕は這いつくばったまま全身に魔力を巡らせ、そのタイミングを計っていた。
間合いに入った瞬間、八つの標が八方から同時に僕へと襲い掛かる。
が、僕は既にその場から比較的攻撃の薄かった右方向へダッシュしていた。右方向から迫っていた標二つを腕に受けながら女に向かって駆け寄る。
標女は弱らせていたはずの獲物が突然復活した事に驚愕の表情を浮かべながらも、手元に戻した標を再び僕に向かって放ってくる。
僕は急所のみを防御しつつ、この身に何本もの標を受ける事になるのもお構いなしに突撃し、ようやく間合いを詰める事ができた。
標女に向って一角獣全力の脚力で加速した渾身の棍棒を突き出す。
ドゴッ
僕の全力ダッシュの勢いが乗った棍棒の突きを胴に受け、標女はその場に崩れ落ちた。
残心の構えで確かめるが、標女は一撃で完全に気を失っているようだ。
棍棒でつついて意識が無い事を確認すると、そのまま背後で苦しんでいるもう一人の女に向かって棍棒をふるいこれも気絶させる。
なんとか敵を倒し、思い出したように黒狼王の方を確認すると、丁度大男が崩れ落ちる所だった。
「ちっ、先を越されたな、こいつ自己再生能力があってよ、意外と手こずっちまったぜ・・・て、お前酷い恰好してんな?大丈夫なのかよ」
「あぁ・・・」
言われて自分の身体を確認すると、手足をはじめ標を受けたそこかしこから血が滲み、頭部以外は全身血まみれと言っていい有様だった。
「大丈夫、傷はもうふさがっている」
「あぁ、一角獣の癒しの力か・・・」
一角獣は獰猛とは言えども攻撃に特化したスキルなどは持ち合わせが殆ど無い、その為自らの癒しの力を活性化させながら多少の傷などものともせずに肉を切らせて骨を断つ泥臭いスタイルで押し通すのが戦い方の流儀だ。
前世の戦い方同様に全身に受けた傷と毒のダメージに対し、角が持つ癒しの力を全身に巡らせる事で対抗したのだ。
「我ながら戦い方に優雅さの欠片も無いのが残念だよ」
「へっ」
黒狼王と目を合わせると、自然と口元に笑みが浮かぶ。
そんな感情の動きが自分でも少し以外だった。
「あら、もう終わってるみたいだね」
「やっほー、助太刀にきたよー!もう遅かったみたいだけどー」
ようやく一息ついた所で、側面で守りについていたはずの宮代くんと小さい方の秋月さんが顔を出した。
「おう、そっちも終わったみたいだな、て事は残りは・・・」
「正面の一くん達だけかな?」
なんで散々弱まる弱まる言ってた新月なのに戦えてるんだよっ!!と言う辺りの仕組みとかの設定話しです。無駄に長いですね、はい、いや本当に初心者あるあるの自分の考えた設定語り多すぎ問題。
因みに砂金神社攻防戦はⅧで終了となります、もうちょっとでゴール。そしてそれが終わると書き溜め分がほぼ尽きる事に・・・尽きた後の明日はどっちだ・・・
三章分書き溜まるまで一休みして又一気にアップするか、上がったそばから上げた方がいいのか?




