025 決戦前夜
AMI歴12年5月24日 佐伯家
佐伯高良(HN:ドリアードT)
またゼンモン持ちのタレコミ情報メールか、送信者は・・・月森妖精さんね。
まぁ彼女からのメールならきっとまた興味深い情報が書かれているに違いない。
と、インキュバスの情報かぁ・・・まぁ女性にとっては重要問題だろうなぁ・・・開示したら当人の恨みを買いそうだが。
矢羽々(やはば)校の比留間ね、同校の女子の為にも警戒を促しておくべきだろうな、サイト運営の都合上女性から支持を失う事体は避けたいし。
最も既にこいつの術に囚われている女子がいるかも知れないが・・・
僕は『賢者の森』に矢羽々(やはば)校にインキュバスが通っている情報を開示する事に決めた、校名とイニシャルだけでもかなり人物は特定されてしまう。
しかし月森妖精さんは央華連邦の飼い犬達との決戦も間近だろうに、他人を気遣うとは余裕があって結構な事だ。
銀の姫の手を借りて結界の強化を試みるそうだが、この魔力が薄い地球でどれだけの精霊結界が敷けるのか興味はある、出来る事ならこの目で確認しに行きたい気持ちもあるけど、そういう訳にも行かないだろうな。
しかしこの戦いで雷神の勇者がどのような運命を辿る事になるのか興味深い。
順当にいけばここで戦死する可能性が高そうだが・・・もし雷神の勇者まで『銀』の陣営に取り込まれるような結果になれば、風神の勇者と合わせ二人の勇者を味方に付ける結果となり、相当なアドバンテージになるだろう。
『七竜戦争』はまだ前哨戦すら始まっていないと言うのに、現状では『白』の姫君が完全に暴走している。
いち早くダンジョンに至ったまでは良かったが、その結果は最悪だ。
『白』は落ちた場所が悪すぎたな・・
三藏郷と央華連邦の争いに巻き込まれて、味方になる可能性が高かった雷神の勇者とも敵対してしまった。
人と竜の幽体が碌に馴染んでいない状態のまま、怒りに任せて竜としての魔力を開放しすぎている。
人の身と幽体に対して竜の幽体は劇薬だ、恐らく魔力を開放した後はかなりの副作用に苦しめられているはずだ。
・・・銀の姫の抱える王子のような存在が居れば話も違うのだがな・・・・
せっかくダンジョンで得た魔力も、これでは宝の持ち腐れどころか害悪にしかなっていない。
何より竜の魔力を使って地球の人間を殺し過ぎている、このままでは怨霊を取り込み過ぎてダンジョンがクリフォトへと堕ちてしまう可能性が高い・・・・
せっかく混沌神の呪いの無い世界に来たと言うのに、自ら呪われるような道を突き進んでいるとは全く頭の痛い事だ。
もどかしい事だが、『七竜戦争』に我々が直接干渉する事は許されていない。
せいぜいからめ手と助言を与えて『再生の儀』が無事に進むことを祈るのみだ。
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AMI歴12年5月25日 砂金神社
砂金奏
砂金神社の敷地内には竜脈源が存在している、そのお陰で何もない土地と比べれば多少マシな魔力濃度があるわけだけれど。
私は前世の記憶を取り戻してからこっち、地球でも魔術が使えないかを色々と試行錯誤してきたの。結果として精霊を呼び出しても碌に維持が出来ない現状認識に至った訳だなんだけれど、事ここ砂金神社内では多少話が変わってくるのです。
神社の竜脈源に陣を張り、砂金神社内には一応精霊結界を敷く事が出来たってわけね。そうは言っても魔力が少ない地球の事情に変わりは無く、外と比べれば多少長時間召喚した精霊を維持出来るって程度なんだけれど。でも個人結界の外でも精霊が維持出来ると言う事は、外と比べて各段に私の使える魔術の幅は広がったと言う事なのです。
「で、玲さんに魔力を供給して貰う事によって、更なる精霊結界の強化と、当日実際に精霊魔法を使う時も側にいてくれれば魔術を長持ちさせる事が出来るんじゃ無いかと思って」
玲さんと伊織くんに神社まで来てもらって、兼ねてよりの実験に付き合って貰う事に。
「・・・なるほど分からん」
「魔力の供給と言われても何をすれば良いのかわからないわ・・・」
「あ、それなら宮代流でやっているように『気』を私に送ってくれれば大丈夫ですから」
「『気』って魔力なの?」
「『気』の中に一部魔力として有効なものが含まれていると思ってくれれば」
「ふーん?」
そう言いながら自身の手のひらを見つめる玲さん、まぁ納得できている訳じゃ無さそうだけど特に反対も無いようなので良かったわ。
「まぁそれで奏さんの役に立つと言うのなら」
「僕は?」
「いつもやっているように、玲さんと気の交換をしながら気を高めて貰えれば助かるわ」
「OK」
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玲さんと伊織くんを同伴して、神社の敷地内の四隅を回って巡らせた陣の強化を行い。
最後に砂金神社の竜脈源たる、およそ樹齢500年を数える大樹の麓で精霊結界の仕上げを行う。
「ん、ひとまずこれで良し、神社周辺まで結界の領域に出来た」
「終わったの?」
「うん、現状出来うる限り精霊結界を強化出来たわ、二人ともありがとう」
「いえいえ」
「玲さんの魔力、凄く術を構築し易かったのよねー、どうも月の属性があるみたい」
「月の属性?」
「えぇ・・私が使う月の森のエルフの術式が、玲さんの魔力と違和感無く馴染んでるから多分だけど」
「ふーん?」
作業がひと段落して二人にお礼を言っていたら、ちょうど美津紀と一くんが裏の森から帰って来た。
「うぉーい馴致は大分上手くいったわよ奏ー」
「奏お姉ちゃん任務完了でーす」
「あれ?小野寺さんも来てたんだ、一くんと一緒とか珍しい組み合わせだね」
「馴致てどういう事?」
「やっほーお二人さん!ふっふっふーんまぁ見てなさいよ」
「預けたお守りの分、十二羽見つける事が出来たのね?」
「まっかせなっさーい!あとちゃんと働いた分は後で追加の報酬をよこせってせっつかれたからヨロシクねー」
「ちゃっかりしてるわねー、いいわ、ちゃんと働いてくれれば文句は無いもの」
「「????」」
私と美津紀の会話の意味が分からずきょとんとしている玲さんと伊織くんが可愛いらしい。
「ふふふ、どうせだから当日まで秘密にしておきましょうか」
「美津紀ちゃんもちゃんと役に立つ所をお見せしちゃうよん」
「なんだか分からないけど引っ張るね?まぁいいけど」
「僕も一人助っ人を頼んでいる方がいますよっ!!」
「助っ人って・・そんな事頼める相手がいるの?」
「後のお楽しみにって事で!まぁ皆さん良くご存じの人ですよっ」
「ふっふっふ準備万端で布陣は万全、不法侵入者にはエルフの森へ無断で立ち入るって事の意味を教えてあげるわ」
「奏ちゃん、悪い顔してる・・・」
おっと、思ったより準備が順調に進んだ事に表情が緩んでしまった。
おしとやかな私のイメージが崩れては駄目ね。
「昨日ミシェル(仮)さんから連絡があったんだって?」
「えぇ、昨日で彼らは帰国したそうよ、一応最低限の監視は残すと言っていたけど」
「じゃぁいよいよ央華連邦が動くかな」
「私もいい加減気を張って生活するのにも疲れちゃったわ」
「常に男子3人を従えたお姫様ムーブも飽きてきた?」
有難いし頼もしいけれど、毎日毎日男子にガードされているのも気を使って肩がこるわ。
贅沢言っている事は自覚しているけれど、精神的なストレスが溜まっていくのは避けられない。
「五十棲くんも毎日良く通うわよね、さすがに神社や学校まで送ったら帰って行くけど」
「私には無理だわー悪いわね奏」
「知ってるわよ、その事で最近一部女子から姫って揶揄されているんでしょ・・常に人の多い大通りを選んで移動するのも、男子が四六時中側に居るのも、その事で女子に妬まれるのももうウンザリよ」
「ストレス溜まってそうだねぇ、明日から僕達も集団登校に混ぜて貰おうか?」
「本当に!ありがとー、伊織くんたちがいれば女子率が上がって嬉しいわー」
「今僕の事も女子にカウントしてなかった?」
「ソンナコトナイワヨ」
女子率が上がる事は大変嬉しいわよ、うん。女の子の生活には華が必要だもの、むさい男ばかりに囲まれていては萎れてしまうわ。
男ばっかりだからと妄想世界に没入するわけにもいかないし・・・
「まぁせいぜい油断しないようにしましょう・・最近になって央華連邦側の監視が増えてるみたいだしね」
「玲さんもそう感じてるんだ、やっぱりそうなんだ・・・はぁー・・・」
そんな会話をしていたら、丁度その遠巻きの監視を逆に追い回していた亮人が戻ってきた。
「おう戻ったぜ、やっぱ大分増員してんなー、おっぱらってもきりがねーや」
「こっちがこれだけ警戒しているのを見ても全く引く気は無さそうって事だね」
「通報される事とか考えないのかね?」
「何て言うのよ?ストーカー被害とでも?」
「拉致されそうなんですーってダメか?」
「相手の特定だって出来ないし、距離だって慎重に取ってる、この程度の状況証拠なんかじゃ碌に動いてくれないわよ」
「でもよう、既に拉致被害が出てるんだから、それと関係あるって言えば動くんじゃねーの?」
「子供がそんな主張して信じると思う?」
「うーん、難しいかー・・あ、拳銃見せたらどうよ?」
「アメリア人に渡しちゃったでしょうに・・・」
「あー・・そうだった・・」
「それにアナタ警察行って調書とか取られたいの?」
ブルブルブル
凄い勢いで首を振る亮人
「正直面倒事は全部アメリア人に押し付けちゃいたいのよね、その方が楽でしょきっと」
「お前って奴は・・・」
「何よ?文句あるなら代案を出しなさいよ」
「雷神の勇者を倒して人質にして拉致被害者の解放を迫るって線はどうするの?」
「それも私達が直接交渉するとかって現実的じゃ無いと思うのよね」
「じゃあそれもアメリアの人達に頼る気なの?そこまで手伝ってくれるかな」
「私達じゃ捉えておく場所だって確保出来ないじゃない、勇者ならアメリア人だって興味あるでしょ、もう丸投げよ丸投げ、子供が背負うような話じゃ無いわよ」
「お前今生の年齢を言い訳に使いすぎじゃね?」
「多少へんてこな力や記憶があろうと、私達の立場がただの子供に過ぎない事に変わりは無いでしょう!だから文句があるなら代案を出しなさいってーのよ!」
「あーそうだ奏ちゃん、羽依がね」
「うんなぁに?」
「砂金神社が襲撃されたら『賢者の森』経由で動画中継する気だって言ってたよ・・・」
「はい?」
え?なんて?
「だから襲撃されたらその様子を生配信するんだって」
「・・・・・」
「はっはっはそりゃいいや」
「あ・・・あ・・・あなた達の妹は何考えてるのよーー!?」
プルルル プルルル
その時、伊織くんの携帯から着信音が聞こえてきた。
「噂をすれば羽依だ・・・はいもしもし羽依?・・・え、うん・・・嘘?本当に・・・あ、うんありがとう、皆にも伝えておく、一旦切るね」
「どうしたの?羽依ちゃんなんだって」
「うん・・・ニュースの話でね、何でも三藏郷自治区で独立戦争が始まったって話」
「え・・・・?」
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居間に移動してTVを付けた私達の目に、聞いた通りのニュースが流れてきた。
「次のニュースです、央華連邦共和国に支配された三藏郷自治区から濱印度に亡命して亡命政府を開いていた宗教的指導者世は、この度三藏郷自治区を三藏郷自治区族の手に取り戻す為の独立戦争の開始を宣言、濱印度軍の協力を得て三藏郷自治区領に進軍を開始したとの事です、既に三藏郷自治区の主要都市は現地でゲリラ活動を続けていた三藏郷自治区族の手で解放されており、央華連邦共和国の部隊はかなりの被害を被っているとの情報が・・・・」
「本当だ・・」
「これどーなるんですかね?」
画面には羅砂の地を亡命政府軍と濱印度軍が占拠する風景が写されていた。
場面が変わるとテングリ=リャマ14世が央華連邦共和国の占領下で三藏郷自治区人がどれだけ不遇な扱いを受けていたかを切々と説きはじめた。
「小白竜は三藏郷自治区亡命政府と手を組んだのかしら?」
「何にせよ俺たちにとっての問題は、これで日本にいる奴等がどう動く事になるかって事だ」
「本国でこんな事が起こったんだから、私なんかに構ってる場合じゃ無いんじゃないの?」
「そうなってくれるのが一番だが・・・逆に後が無くなってなりふり構わなくなるかもな」
「逆に央華連邦軍にとって奏ちゃんの能力の必要性が高まったんじゃ?」
「やる事は変わらない、いつ襲撃を受けてもいいよう警戒を続ける」
「そうだな、奴等のケツに火が付いたのは間違え無いだろうし」
「痛い目を見せて割に合わない事を思い知らせる」
「三藏郷自治区情勢が本格的に戦争として報道されるなら、小白竜の力が世間の目に晒される事になるかも」
もしそんな事になったら、世間はゼンモン持ちに対しどのような反応を示すのだろう。
「央華軍だってやられっぱなしで引っ込みはしないだろうな」
「陸上兵力がダメなら、空爆やミサイル攻撃にでも切り替えるか、最悪核兵器だって・・・」
「濱印度にも核はある、さすがにそれは無いだろう・・・と思いたい」
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AMI歴12年5月31日 砂金神社
砂金奏
あの日、三藏郷自治区独立戦争の報があって以降、私への監視はパッタリと止んだ。
亮人も一くんも玲さんも、揃って監視がいなくなっていると言っている。
私は戦争の影響で日本から撤退したのでは無いかと考えたけれども、それには3人とも否定的な意見だった。油断を誘っているのか、日中隙は見せないと判断したのか、一見何事も無い平穏な日が続き、いよいよ月末がやって来た。
月の森の妖精族である私と、人狼族の亮人、二人分の戦力が大幅に弱体してしまう新月の夜。
こちらの事情をある程度調べているのなら、襲撃をかけるならこの日を置いて他に無いハズ。
いよいよ月明りの無い夜がやってくる・・・
ちょこちょこ出ていたゼンモンWikiこと『賢者の森』の管理人ドリアードTさん初登場。
思わせぶりな事しか言ってねぇ!!!
そしてようやく次話から砂金神社攻防戦が開始されますのでよろしくお願いします。
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
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『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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