024 泡沫(うたかた)の記憶
夢を見ていた
いつも見る前世の夢
夢の中の私は、炎の中を逃げ惑っていました。
私の御爺さまは、以前はこの国の竜騎士として仕えていました。
代々竜騎士を受け継ぐ騎士家の先代の頭首で、今は騎竜も現当主の伯父様へ引き継がれ、騎竜を降りた今は一介の老騎士として王家にお仕えしています。
私はそんな騎士家に生まれた人間の常に従い行儀見習いとして王城へ上がり、栄誉な事に王妃様付きの小姓を務めさせて頂いておりました。
王妃様はとてもお優しいお方で、私にも大変良くして下さいました。
私のいた聖銀竜王国(ケーニヒライヒハインリッヒズィルバードラッヘン)は、小国とは言え強力な竜騎士団を抱え、周辺諸国に警戒されるだけの軍事力を誇っていました。
北の王国と南の共和国は同じ法の神々を崇める国々でしたが、両国の関係は必ずしも平和的とは言えず時には小競り合いを繰り返していました。その時々の情勢に応じて、私の国はどちらの国からも一定の距離を保ちながらも、その強力な軍事力を背景に両国に影響力を及ぼし、法の国々同士で大きな争いがおこらぬよう調停に努めていたそうです。
東には同規模の小国家群があり、我が国とは同盟関係にありました、位置的にはやや東の小国家群から離れているのですが、我が国は同盟の盟主と言うべき立場だったそうです。
そんなある日、同盟諸国は更に東に勢力を伸ばしてきた魔道帝国から侵攻を受ける事になってしまいました。
我が国は北の王国と南の共和国とも協議して、3国共同で小国群の同盟に軍事的支援を送る事になったのですが、それは実は我が国を陥れる為に両国が共謀した罠だったのです。
主力が東の小国家群の同盟と帝国の戦争に参加している間に、手薄になった本国を王国と共和国の軍が襲撃したのです。
同盟の窮地に国王自ら軍を率いて親征していた為、本国の守りはそれは少ないものでした。
伯父様もお父様も、国元を離れ親征軍に参加して魔道帝国との闘いに赴いていました。
魔道帝国は混沌の神々を崇める国です、敵対する神々を祀る国家との闘いだった為、まさか同じ法の神々を奉じる国同士で裏切られるなど思いもよらなかったのでしょう。
後から聞いた話ですが、我が国への襲撃と同時に、魔道帝国との闘いで前線に出ていた我が国の親征軍は、王国と共和国の裏切りに合い背後から襲われ、魔道帝国との挟撃にあった我が国の主力は壊滅的な被害を被って敗走したのだそうです。
最後まで懸命に戦った国王も、この時命を落としたそうです。お父様も亡くなり、伯父は何とか落ち延びたそうですが、騎竜も失いもう満足に戦う力は残っていなかったそうです。
北の王国と南の共和国の二国の軍に我が国の王都が包囲され、放たれた火により城下町が燃え盛っています。
数多の結界を打ち破り王城まで達した攻撃魔法が、所々で城壁を破り、お城の中でも炎が猛威を振るっています。運悪く城内を移動中だった王妃様も、その炎を浴びてお怪我をされてしまいました。
下半身を焼かれたそのおいたわしいお姿を前に、私はあふれ出る涙を止める事が出来ませんでした。
「もう泣くのはおよしなさい、幼い貴女にこんな事を頼むのは心苦しいですが、私にはもう他にすべがありません・・・この子を、頼みます」
そう言うと王妃様は生後間もない王子を御爺さまへと委ねました。
「王妃様・・・」
「騎士ゲルハルト」
「ハッ」
「この子に、最奥の間で竜珠の儀式を受けさせて下さい・・」
「その・・・よろしいのですか?」
「いまだ幼いこの子にとって、それがどれだけの負担になるかは分かりませんが、竜騎士の技を途絶えさせる訳にはいきません、王家の末としてこの子にはその責を負って貰うしか無いのです・・・」
ためらう御爺様のご様子から、その儀式が赤ん坊が受けるにはあまりにも過酷なものだと分かります。
「そして敵に我が国の至宝、始祖竜の竜珠を渡す訳には参りません、王家の・・竜の血を受け継ぐこの子であれば、竜珠を手にする事が出来るはずです」
我が国の至宝と呼ばれる始祖竜の竜珠は、王家の人間にしか扱えず。
竜騎士に竜を操る術を与る儀式の要だと聞いた事があります。
「この子と竜珠を伴い『お山』へと逃げ延びるのです・・・古の盟約に基き、きっと『竜泉郷』はこの子を受け入れてくれるはず・・・王家のみに伝えられる『お山』の麓へと通じる隠し通路があります・・・そこを通れば敵の包囲を抜けられるでしょう」
「そんな・・それでは王妃様は・・・」
「私はこの怪我です、もう満足に治癒の術を施す時間もありません・・この子を頼みます」
「騎士ゲルハルト、一命に変えましても必ずや・・落ち延びて王子と共に捲土重来を果たしてみせましょう・・・」
「ありがとう、でもそこまで望むのは酷でしょうね」
「竜泉郷に住まう神代竜の力をお借り出来れば!」
「それは望み薄でしょう・・神代竜は下界の争いには興味を示しません、せめてこの子が成人するまで匿って貰えればそれだけでも有難い・・」
「王妃様・・・」
「行きなさい、もう一刻でも時間が惜しい・・・」
「ハッ!」
「そんなっ!?」
幼い王子を胸に抱いた御爺さまに手を引かれ、私は王妃様の側を引き離されました。
御爺さまに手を引かれながら、何度も振り返って王妃様の姿を見つめましたが、王妃様は黙って頷くだけでした。
寝室の扉が閉ざされ、咽び泣く私を伴いながら御爺さまは最奥の間を目指して歩みを進めます。
「いつまでも泣いている暇は無いぞ、これからはそなたに王子のお世話をして貰わねばならぬのだ」
私はその時思い知りました、この生まれたばかりの王子の事を、これからは私が守らねばならないのだと。
「はいっ」
いつまでも泣いているわけには行きません・・・王妃様の想いに報いる為、何としてもこの幼い王子と共に生き延びねば・・・
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AMI歴12年5月23日 栫家 栫風香
「また・・・この夢・・・」
夢の中の私は、とあるはるか遠い過去、古の大戦を神代竜を騎竜として駆り戦い抜いた竜騎士が興したと伝えられる小国の騎士家に生まれました。
その国を支える騎士家の次男だった父、その三女として生を受けた私は、行儀見習いとして王城に務める事になり美しき王妃に仕えたのでした。
王都が陥落したあの日、焼け落ちる王城を御爺さまと幼き王子と一緒に逃げ惑いながら最奥の間へ向かい・・・そこで・・・
起き抜けの意識が覚醒してゆくに従い、夢に見た風景が薄れてゆく。
次第に曖昧になってゆく夢の記憶は、追いかけても追いつけない逃げ水のよう。
ただあの日より、自らの命より優先すべき大切な存在を託されたのだ・・・その事実だけはハッキリと覚えています。
でも、前世と同様今も自分は無力な女の子に過ぎない。
他の皆のようにゼンモンとして力を持つでも無く、運動神経も鈍く、肥え太った体系はどう見てもみっともないだけね・・・夢の中の自分は少なくともこんな体形では無かったな・・はぁ、落ち込んでても仕方ないです。
私は蚊帳の外ですけど、昨日は伊織くん達は阿波根さんとの闘いの帰りに尾行していたアメリア人達と会談をしたそうだ。
なんでも世界中でゼンモンを巡って色々な事が起きているそうだ。
ゼンモン・・・私の前世は人族だったから、ゼンモンですら無いのだが、同じように前世を持っていても何の力も持たない私には無関係な出来事に感じてしまう。
とは言え、奏さんが狙われていると言われて無関心でもいられない、すでに何人も他国の人間に拉致されているとも聞けば尚更です。
それはさておき今日はマキシムおじさんの一周忌です、私も一応参列させて頂く予定です。
おじさんは一言で言うと大きな熊みたいな印象の人でした。非常に大柄な体格をしていて、いつもニコニコと穏やかな微笑みを絶やさないような、優しくて物静かなお方でした。
あまり二人の娘さんとは似た所が無かったけど、ただ玲さんと同じ碧い瞳と綺麗な銀髪をしていました。
家はお爺ちゃんもお祖母ちゃんも元気で、お葬式というものに参列したのは去年のおじさんのお葬式が初めてでした。
美沙おばさんも玲さんと羽依ちゃんも涙を堪えている姿はとても悲しそうでした、一番声を出して泣いていたおじさんのご両親と伊織くんです。
伊織くんが泣いている姿を見たのは初めてだったので、とても驚きました。
伊織くん・・・今日も泣いてしまうのかな・・・?
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AMI歴12年5月23日 秋月家 宮代伊織
マキシムおじさんの一周忌は滞りなく終わった。
去年のお葬式の時は、僕自身が悲しかった事もあるけど、隣に立っていた玲ちゃんの悲しみがダイレクトに伝わってきて余計に悲しい気持ちがあふれてしまったんだよね・・・悲しくても涙を流さない玲ちゃんの分まで、僕が代わりに泣いていたような気がする。
今日は僕達は泣かなかったけれど、お葬式の時は気丈に喪主を務めていた美沙お母さんが今日は珍しい位に涙を流していた。
今にして思うと、お葬式の時はまだ実感がわかないまま準備に追われて悲しみに浸る間も無かったって事だったのかも。
美沙お母さんが泣き崩れてしまった時にフォローに入る玲ちゃんはとても大人びて見えた。
準備の段階ではあれこれ手伝って色々手配していたお父さんが、式の最中は一般の参加者として振る舞っていたのが不思議に思えたけど。
今日も玲ちゃんの悲しみは伝わってきたけど、去年と比べるとそれもさざ波のようなものだった。
「皆お疲れ様、玲ありがとうね、助かったわ」
「ううん、お母さんもお疲れ様」
「いやー、去年は大丈夫だったのにねー、娘に助けられちゃって恥ずかしいわ」
「それだけこの一年間大変だったんだろう?女手一つで母親として良く頑張ってきたよ」
「はー・・・うん、そうね、武蔵も色々とありがとう、助かったわ」
家に戻って気が抜けたのか、美沙お母さんが放心気味に話す姿は僕には珍しかった。
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疲れたと言って珍しくお酒を飲みだした美沙お母さんにお父さんが付き合っている。お酒を飲み始めた大人達を尻目に子供だけで二階に引き上げてきた。
「伊織ちゃん今年は泣かなかったねー」
「・・・薄情な妹と違って僕は情に厚いんだよ」
「羽依、不謹慎」
「はーい」
「とりあえず、アメリア人が引き上げる前に終わって良かったね」
「月末までにはいなくなるらしいし、やっぱり月末から朔日が怪しい」
「出来るだけ準備を整えておこうか・・・と言っても何が出来るのか」
「くっくっく・・・とりあえず砂金神社への不法侵入は動画で生中継するつもりだよっ!」
「えっ!?」
「『賢者の森』経由でね、実際に行方不明者が出てる事件関連と言う事で管理人さんに通してあるよ!なぁに身バレはしないように気を付けてやるつもりだから!」
「お前・・・いつの間にそんな事やってたんだよ・・・」
いや、しょっちゅう動画ばっかり撮ってる変な乳妹だけどさ。
「玲ちゃんは知ってたの?」
「私と伊織の顔出しはNGって事にしてあるから大丈夫」
「えーーーー・・・・・」
そーゆー事は教えておいて欲しかったよ。
「準備と言えば奏ちゃんの頼み事って何だったの玲ちゃん?」
「良く分からないけど、魔力を貸してくれって」
「魔力を貸す?」
なんだそれは?
風香ちゃんの前世話が初登場です。
勘の良い読者様にはこの赤ん坊が誰なのかは既にお察しでしょうが。
亡国の王子を抱えての逃避行・・・ファンタジーの王道ですね!
そしてドイツ語はいいね・・・・中二心が満たされる・・・
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
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