021 勇者二人
AMI歴12年5月15日 白銀楼市内 マンション裏手
十一
結局僕はマンションへの突入を決めた。
風の精霊で木の葉を操り防犯カメラを一瞬塞ぎ、その間に塀を飛び越えマンションに内に飛び込む事にした。
ちょっと不自然な事になっちゃうのは仕方ないけど、少しの間レンズに木の葉を張り付けた状態にした上で、塀を飛び越えマンション内への侵入を果たした。
不法侵入かぁ・・・あぁ、これで僕も犯罪者だなぁ・・・
幸いなことに監視カメラは主に侵入者に対する備えとしての役割を担っていたようで、マンション内の廊下などに対する監視カメラは備わっていないようだ。
しかし地球で行うと精霊の遠隔操作は思った以上に魔力を食うなぁ、個人領域内で精霊を操る分にはそれほどでも無いんだけど、領域外で精霊の現界化を維持するのは魔力的に燃費が悪すぎる。地球での魔力の薄さから魔力の可塑性が高くて消費量が多くなっちゃうんだな。
などと考えながらもエレベーターホールへ向かう、すると正面玄関から入って来た男女二人組が居たので、とりあえずホールの手前の廊下で待って二人をやり過ごそうと思ったんだけど。
「あっ!?」
「!!」
二人組の姿を視認した僕はつい声を上げてしまった、痛恨のミス。
それは尾行する犬上亮人の行く手を遮ったゼンモン持ち二人組だったのだ。
この二人の事は遠目に視認していただけなので、歩行音まではちゃんと認識していなかった為、直接目にするまで気付けなかった。
「十一!!」
恐らく向こうも僕の事は奏お姉ちゃんの関係者としてチェック済みだったらしく、央華連邦語で十一の数字を意味する言葉を口にした。
男がこちらに向かってきて、女が後ろでスキルを使おうとする気配を見せる。
僕は両手に棒手裏剣を持ち、牽制として男と女のそれぞれに投げつけた。
棒手裏剣の外観を表す言葉としては、鉄の棒というのが一番伝わると思う。一応持ち手部分と刃の部分は円筒部分と四角推部分で区別はされているけど、一見すると片方がとがった長さ18cm程の鉄の棒である。もっとも現在は先端部分にゴム製のカバーが付けられていて殺傷能力はない、制圧用のゴムスタン弾もといゴムスタン棒手裏剣だ。
風の精霊の補助を受けた棒手裏剣は男に対しては向かってこようとした所にカウンターとなり、避ける事が出来ずに腕で防御する事になり。女の方はスキル発動の為に集中してたのか、回避も出来ずに思いっきり息を吸い込んだ状態で胸元に直撃し、俯いた状態で激しく咳き込んでいる。
二人は既に犬上亮人と羽依ちゃん相手に深刻なダメージを受けていたらしく、男女とも動きは鈍い。僕は棒手裏剣の牽制を腕に受けて立ち止まった男に対し今度は折り畳みの警棒を出して殴りかかった。
構える男に対しフェイントを一つ入れ側面に回り込み後頭部に一撃、それだけで男は白目をむいて崩れ落ちる。そのまま咳き込む女に向かって同じように警棒を叩きつけようと駆け出したその時。
チーーーーン
エレベーターが1階に到着した音がした。
あっやばい、無関係な住人に見られたら巻き込んでしまう!?
突発的に発生した戦闘状況中に、更に予想してなかった要素が加わり一瞬僕は何を優先すべきか判断に迷いその場に立ち止まってしまう。
開いたエレベーターに乗っていたのは、恐らく戦闘中のゼンモン持ちと同学年程度の男。
顔を上げたそいつと目が合った瞬間、僕の背筋に悪寒が走りこいつはヤバイ事態だと直感していた。
刹那、エレベーターに乗っていた男の身体が弾けたかのように錯覚させる勢いで僕に迫る、次の瞬間僕は男が繰り出していた棒状の武器を折り畳み式警棒で受け止めていた。
ビリッビリッ
警棒を握る腕に痺れが走る、この棒は電撃を纏っている?!
「棒のスタンガン?」
いやちがう、まがりなりに個人障壁を纏っていたおかげで、大した衝撃を受けずに済んだが。そもそも警棒の取っ手は合皮とゴムで出来ているのだから、スタンガンであろうと握る手にまで電流が流れる分けは無いのだ・・・と言う事は、この男は武器に雷精を纏わせている!?
現状を分析しながらも、僕達は互いに手にした武器を打ち合っていた。二合、三合と互いの攻撃を武器で受け止める。
相手の操る雷精と僕の操る風精が武器と同時にせめぎ合って火花を散らしている。
風精を纏って身体加速している僕に対して、男の動きは一歩も劣らぬ素早さで拮抗している。
こいつは武器だけのみならず、全身に雷精を纏って身体加速しているな!!
風精による身体強化が外付けのパワー&スピードアシストだとすると、雷精のそれは内面の神経伝達の質と量、更に筋収縮反応を加速させる事で同様の効果を得ている。
方向性の異なる強化を受けた身体能力同士、お互いの力と速度はこれまでの所おおよそ互角、そして僕の持つ折り畳み式の警棒は長さ約30cmであるのに対し、男の持つ棒はおよそ50cm以上はある。本来リーチの差は僕に不利に働きかねない所だが、場所がマンションのエレベーターホールから廊下と言う事もあり、現状狭い屋内で振り回すには小回りが利く分僕の方が有利に立ち回れている。
とは言え敵方にはもう一人女のゼンモン持ちが健在だ。今はダメージから立ち直っていないが、復活してスキルでも使われ僕の邪魔に入られたら状況はどうなるか分からない。
若干有利が保てている今の内に逃走する事が最善であると判断する。
小回り故の手数の多さで相手を押している僕の攻撃に対し、男が受けに回った瞬間を見極め僕はバックステップで相手と距離を取り、同時に棒手裏剣を足元に投げつける。
時間差を付けて二本、今度は先ほどまでと違いカバーを外したガチ殺傷モードだ。
二本同時に打ち払いは出来ないようにタイミングと角度をずらした棒手裏剣に対し、男もバックステップで距離を取りつつ回避する、意図して作り出した間合いが遠のいた状況を見計らい、僕は開いた距離を頼りに全力で逃走に入る事にする。
一目散に来た道を逆に辿り廊下から中庭に出て、そのまま塀を飛び越えて脱兎の如く駆け抜けた。
まぁ撤退を急ぎながらも、帰りも防犯カメラに木の葉を散らすくらいの精神的な余裕はありましたけどね。
全力でマンションから離脱しながら、僕は想定以上に魔力を消費している事に気が付いた。
うーん、この程度の戦闘であっと言う間に身体に貯め込んでいた魔力はもう底が見えてきた。
魔力が薄い地球で更に竜脈からも逸れた場所でガチの魔力を使った戦闘をすると持久力が無さすぎるなぁ。師匠と姉さんの『気』の強さと、それに伴う魔力量が羨ましい。
あーあ、使った棒手裏剣は回収できなかったなぁ、太一郎君に棒手裏剣を作って貰うのも燃料と材料費だけでも結構高くつくんだけどなぁ・・・また坑道巡りに付き合うしか無いか。
棒手裏剣にはミドルレンジの牽制用と割り切って回収できるように鎖でも付けておくんだったかな、、
しかし・・・・あの雷精を纏った男の太刀筋はどこか見た覚えがあった気もするなぁ?
んー・・・何か引っかかる。
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AMI歴12年5月15日 砂金神社 砂金家居間
宮代伊織
亮人くんから連絡を貰ってからしばらくすると一くんからも今から戻るという連絡が入った。
ほどなくして亮人くんと羽依が砂金神社まで戻ってきて、詳しく話を聞く事に。
「で、さっきの銃はどうしたの?」
「さすがに持ち歩くって訳にもいかねーからな、アメリア人に渡しちまったよ、あぁ渡す前に一度くらい撃ちたかったなぁ」
「そっか、まぁ男の子として気持ちは分からないでも無いけど、街中で試し打ちって訳にはいかないでしょう、亮人くんに理性があって良かったよ・・・じゃあ順を追って教えてくれるかな?」
「あぁいいぜ・・・・・」
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「・・・んでよ、銃を持ったおっさんは真っ先に気絶させて戦利品として持ってた銃を二丁確保してとりあえずズボンにつっ挿しといたんだが・・・そのゼンモン持ちの男の方を蹴り飛ばしてついでにジャーマン極めて片付けた気になってたら、意外としぶとくて起き上がったそいつがにいつの間にか俺から銃を一丁奪い返してて」
「女を押さえつけてたアタシに向かって躊躇なく3発も撃ってきたんだよ!女の子相手に酷いよね!!」
「ええぇっ?羽依撃たれて大丈夫だったの!?」
そんな事も起こりえるかもと何となく想像はしていたけど、実際身内が撃たれたと聞いてはやっぱり凄くビックリしちゃうと言うか恐ろし過ぎる。
「羽依ちゃん大丈夫なの!?」
「まぁそこは華麗に避けたから大丈夫大丈夫!えっへん」
「いや、お前一発手で弾いてたよな?あれは何やったんだ?」
「やーねー亮人っち恥ずかしい、そんなの乙女の秘密だよ~」
いやそんな乙女の秘密とかそーゆーおふざけは要らないから!!
「いやいやいや、大丈夫じゃ無いでしょ羽依!!?本当に何とも無いの??」
「伊織ちゃんだって柔の気練って構えてれば射線を把握して弾道を逸らす位できるよぅ?」
「そんな事・・・・」
「正直この間の阿波根のスキルの方がよっぽど威力は強力だよ?」
えぇ・・・本当に?そうなの??
そんな事言われても実際に試す事なんて出来ないし実感わかないよ。
「でもいつの間にか銃を奪い返されてたって、アンタ銃を取られて気付かなかったの?」
「あぁ、それなんだよ・・全く気付かなかったんだ、銃をズボンにつっこむなんて当然馴れてないくて違和感がある状態だったんだが、それが無くなってる事に気付けないなんて普通あり得ないんだがなぁ・・気が付いたら奴の手に収まっていやがった」
「何だろう、盗み(スティール)とか引き寄せみたいなスキルかしら?幻影神の加護持ちとかで認識を阻害するようなスキルだったのかも知れないけれど、ゼンモンは分からなかったのよね?」
「あぁどっちも決定打に欠けて分からなかったなぁ、お前が居れば一発で分かるのになぁ・・・やっぱチートだよなお前の能力も」
「銃撃を避けたせいで女の拘束が解けちゃって、自由になった女が絶叫系のスキルを放ったのね、私は咄嗟に防御出来たけど」
「俺は耳を塞ぎ損なって瞬間的に頭を掻き回され酔っ払ったみたいになっちまった」
「で、催涙ガスを使われ視界と嗅覚を奪われて逃走を許しちゃったの」
「後に残されたのは気絶したおっさん二人と銃が一丁で、そこにどこかから様子を見てたんだろう、アメリアの諜報員がやって来たので、秋月妹の提案でおっさんと銃の処遇はそいつら任せちまったよ」
「多分何も知らない下っ端戦闘員だと思うけど、一応後で質問する機会はくれるって話はミシェル(仮)さんと付けておいたよ!」
「まぁなんにせよ二人とも無事で良かったわね」
「随分と手慣れた様子だが、君達はそんなにしょっちゅうゼンモン同士で戦闘をしているのかい?」
改めて五十棲くんに疑問を呈されて自らの行いを顧みる僕達・・・
「いや・・・そんなハズは・・・無いとも言い切れないような・・・」
「亮人くんと一くんはしょっちゅうガチっぽい戦いしてるしね」
「あれは一の野郎が一方的に絡んで来るせいだっつーの」
まぁ亮人くんと一くんのバトルは日常茶飯事だし、僕も一くんとはしょっちゅう組手で手を合わせている。
何よりつい先日ミノタウロスのゼンモン持ちとかなりガチめの試合もしたばかりだしなぁ。
「奏お姉ちゃん!師匠ーただ今戻りましたーー!」
「おっと噂をすれば」
声を聞く限り一くんも無事そうでよかった。
引き続き一くんが活躍します。
一くんの前に立ち塞がったのは一体何者なんでしょう!?(すっとぼけ
前世の記憶があると、普通に命懸けで争ってきた記憶があるのである意味それらは日常になってますが、前世の記憶を思い出せない伊織くんのメンタルは現代人寄りですね。まぁ潜在的にはごにょごにょ・・
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
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