012 勝利と敗北と
AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 山田颯太
鳩尾の痛みで意識を取り戻した俺が、状況を確認すべく左右をを見回すと一緒に宮代伊織と戦った奴等が倒れている。
その惨状を見て、自分たちが4人掛かりで宮代伊織一人に敗北したのだと改めて思い知った。
あんなチビに相手に俺たちは何も出来ずに一撃を受けただけで気を失っていたのか・・・クソッ
試合場に顔を向けると、そこでは阿波根さんと対決中の宮代伊織の姿が目に入った。
時折苦痛に顔を歪ませながらも、阿波根さんの猛攻を裁きながら反撃を入れている。
はた目には完全な手打ちにしか見えず、阿波根さんに何ら痛痒を与えるものでは無さそうで、阿波根さんは苛立たし気な顔をしつつ平然と正拳や蹴りの連続技で猛攻を続けていた。
幾ら宮代がイキっていようが、ガチンコで阿波根さんに勝てる分けは無いのだ。
俺は宮代がボコられる姿を期待しつつ試合を見守っていた、その時だった。
イラついたような阿波根さんの大振りの正拳に対し、奴は完璧なカウンターで阿波根さんの顎を掌打で打ち抜くと、阿波根さんはその場で膝をついた。
「嘘だろ・・・」
道場内で無敵を誇っていた阿波根さんが、あんなチビの掌打で片膝をつくなんてあり得ない光景だった。寸止めでの稽古では1本とられる事はあっても、フルコンの殴り合いでは大人の師範代さえ物ともせず圧倒していた阿波根さんが。
だが、次の瞬間俺は更に信じられない光景を見る事となる。
一瞬過ぎて何が起こったのか全く理解出来なかったが、阿波根さんの途轍もなく早い突進による頭突きを、寸前で後ろ倒しに躱した宮代は、そのまま全身のバネを使った蹴り上げで阿波根さんの軌道を変え、阿波根さんは突進の勢いそのままに畳に頭から突っ込んで物凄い地響きを立てた。それでもふら付きながらも立ち上がった阿波根さんに対し、宮代が静かに手を添えて立ち、宮代の体が少しブレたと思った瞬間に阿波根さんの巨体が崩れ落ち、二度と起き上がっては来なかった。
「えっ?今何をしたんだ??」
何が何だか分からない、ただ一つ理解出来たのは、無敵を誇った阿波根さんが、あんなチビに負けたと言う事だけだ。
阿波根さんから宮代に視線を移すと、限界を迎えたらしき宮代もその場に崩れ落ちる所だったが、いつの間にか傍に来た秋月がそのまま抱き留めて支えたかと思ったら、今度はその場でキスを始めた。
・・・え?ナニ・・・この・・・??
その衝撃映像を見せられた俺達武骸流の面々は一斉にざわつき始め、阿波根さんの敗北と目の前で繰り広げられるキスシーンのショックで軽い騒動が起こっていた。
いつまでも続くかと思われたバカップルのラブシーンは、犬上くんに止められると今度はお姫様抱っこで秋月が宮代を運んで行った。
===============
AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 阿波根達己
気が付くと視界に入ってきたのはあまりマジマジと見た事の無かった道場内の天井だ。
「俺は負けたのか・・・・」
前世で俺を倒したのは勇者一行だったが、俺は今でも一対一だったら勇者に遅れを取る事は無かったと思っている。そして勇者達と戦うまで、俺は負け知らずだった。常に命懸けの戦いばかりだった事もあり、一時的に撤退する事はあってもそれはあくまで最終的な勝利の為で、敗走なんぞの経験は無い。
転生後の今生においても、俺はここまで一度たりとも敗北を経験した事が無い。稽古をつけてやると偉そうにのたまった大人の師範代にも負けはしなかった。
それが・・・・
自分より遥かに体格の劣る、こんなチビ助に一対一で負けたとは。
頑丈が取り柄の俺の身体だが、内臓に負ったダメージはまだ抜けきっていないようで、身体の内側がぐわんぐわんと回転してるような気持ち悪さを感じている。
「わけがわからん・・・」
「お、目が覚めたか」
犬神亮人がこちらを覗き込んできた。
「なぁ・・?」
「あん?」
「アイツ・・本当に『ゼンモン』無しの勇者でも無い唯の人間なのか?」
「さあな?俺にはそんな事を見分ける能力はねーよ」
最後の瞬間、俺の『雷纏角突撃』は確実に奴を捉えた筈だった。
それなのに次の瞬間腹に衝撃を受けたと思ったら頭から地面に突っ込んでいた、本当に何が何だか分からなかった。
「まぁ伊織は強かったろ、俺も負けた事があるからな」
「はっ、お前もかよ」
鼻で笑った俺に対し、犬神亮人は手を伸ばして来たので、その手を取って立ち上がった。
「よし、立ち上がれるようなら大丈夫だな?次の相手が待っているぞ」
「へ?次の相手・・・?」
「おう、伊織を痛めつけた事に大層ご立腹の様子だから、せいぜい命を落とさないよう気を付けるんだな」
「何を・・・・」
と、立ち上がった俺の前には、凄烈な銀光を放つ美しい獣が立っていた。
「気が変わった」
「へ?」
「望み通り相手をしてあげる」
「良かったな、お前は伊織に負けたけど、秋月姉がその気になってくれたからお相手してくれるってよ」
「え?」
===============
AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 山田颯太
目の前で起こった事を飲み込めず、誰一人倒れている阿波根さんに近付く事すらしようとしない中、阿波根さんは自力で意識を取り戻した様子で、犬上さんの手を借りて立ち上がった。
阿波根さんが立ち上がった姿を見てホッとしたのも束の間、試合場の対面には今度は秋月玲が立って阿波根さんに向けて構えを取っていた。
犬上さんの説明によると、秋月が阿波根さんとの立ち合いに応じると言う事らしい。
秋月は明らかに普段とは違うやる気に満ちた顔つきをしており、普段の表情をあまり見せない人形のような姿とも、先ほどまで宮代相手にしていた情熱的な表情とも違う、獲物を捉えた猛獣のような美しくも猛々しい表情で佇んでいた。その姿に先日秋月から受けた恐ろしい殺気を思い出し、俺は背筋が寒々しく感じるような恐怖を再び感じていた。
やがて犬上さんの掛け声で始まった二人の戦いは、その直後に結末を見る事となった。
ズドンッ
その光景は一見するとまるでギャグ漫画のようなシュールな様相を示していた。
一瞬で間合いを詰めた秋月玲の中段付きは、早すぎて俺の目には出来の悪いストップモーションのように途切れ途切れでしか認識出来なかったが。その結果は劇的で、まるでダンプカーにでも跳ねられたかのように阿波根さんの巨体が吹き飛ばされていた。
秋月の3倍は質量がありそうな阿波根さんが、その1/3程度しか無さそうな体格をした女の中段突きで吹き飛んだのだ、重量比から言ってもその結果はあり得ないし。その結果をもたらす程の衝撃は、殴った側だって反動でただで済むはずがないのだが、秋月は平然とその場で隙の無い残心の構えだ。
そして吹き飛ばされた阿波根さんは、一撃で、ただの一撃で再び意識を失っていたのだった。
武骸流に通う俺達にとって、畏怖と憧憬の対象だったあの阿波根さんが。成す術もなく一方的に吹き飛ばされて、一撃で気絶した。
なんなんだ?なんなんだコイツは?
俺は今までこんな化け物と同じ教室にいたのか?こんな化け物を怒らせてしまったのか!??
恐怖に戦き身動きが取れなくなった俺を、振り返った秋月の碧い瞳が捉えていた。
「あなた」
「ひっ!?」
「負けたのだから約束通り風香に謝罪を」
そう言って栫を俺達の前まで連れてくる秋月。
恐怖に捕えられた俺達4人はその場で土下座して栫に謝罪した。
「悪かったから謝るから、お願いだから許してくれ、いや許して下さい」
「二年間の暴言の数々申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした、二度とあのような事は申しません」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
二年間嘲り、馬鹿にし、嘲笑してきた相手に、恥も外聞も無く命惜しさに、恐怖から逃れる為に謝り倒した。
「・・・わかりました、黒布くんにもちゃんと謝って下さい」
しばしの沈黙の後、栫から発せられた言葉に一も二も無く頷く俺達だった。
そしてもう二度とコイツ等には関わるまいと心に決めたのだった。
「いいねいいねー撮れ高十分♪」
・・・今の土下座は秋月妹に動画として保存されてしまったようだ・・・SNSで拡散されたら一生モノの恥だろコレ・・・改めて先程の自分達の惨めさを思い知らされた気がした俺達だった。
===============
AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 阿波根達己
気が付くと視界に入ってきたのは本日二度目となる風景、道場内の天井だ先程の目覚めよりは意識は大分クリアな気がする。
「なんだあの出鱈目な強さはよ・・・くっくっくっく」
全く相手にならなかった、ただの一撃で成す術無く吹っ飛ばされて気を失った。
一対一でなら負けた事が無い?勇者にだって一対一なら負ける気はしなかった?一体何時から俺は自分が絶対的な強者だと勘違いしてたのだろう。
何が牛頭簒奪王だ、何が穢土を覆せし迷宮の王だ、滑稽過ぎて笑うしか無い。
「あーっはっはっはっはっ!!あーっはっはっはっはっ!!」
確かに俺は迷宮の王の地位を得る為に戦い続けた、勝ち続けた、負け知らずだった、だが勝ち目が無い相手とはそもそも戦いを避けていたのだ、卑怯な手段であっても勝ち目が見えた時だけ勝負に出たのだ、力でどうしても敵わなければ別の手段で力を削ぎ、技でどうしても敵わなければその技を使えない戦場におびき寄せ。不用心な敗北は死に繋がる事を知っていた俺は、誰よりも慎重に戦いを、戦場を、戦機を、選びに選んで少しずつ力を蓄え続けたのだ。
思えば迷宮の王の称号を得てからの俺は、自陣たる迷宮内でのみしか戦って来なかった。
それは即ち俺には常に地勢や女神の加護による援助が掛かり、戦闘相手には妨害が掛かった状態で戦っていた訳だ。常に自分に有利な状況で戦う事に慣れ切ってた俺は、いつの間にかそれすら自分の実力の内であるかの如く錯覚していたのか。
詰まるところ自らの手が届く極狭い範囲で無敗を誇っていた俺は、井の中の蛙も良いところだったって事だ、なんとも無様が過ぎて笑えるってもんだぜ。
ひとしきり笑った後、身体を起こして周りを見回すが、あいつ等の姿は既に無かった。
「奴らはもう帰った後か・・・」
「阿波根さん・・・」
「達己くん・・だっ大丈夫で?」
遠巻きにこちらの様子を伺っていた奴らが恐る恐る聞いてくる。
「ん?あぁ・・身体はもう何ともねーよ」
「きょっ、今日はちょっと身体の調子が悪かったんですかね?」
「なんか動き悪かったですよね?ヘンな物でも食べたんじゃないですか?」
「誰だって調子の悪い日くらいありますよー」
「ちげぇよ、そんなんじゃねー・・・あいつ等は俺より強かった、それだけだ」
「・・・・」
俺が事実を告げると、そいつ等も全員黙りこくっちまった。ちっ、通夜じゃねーんだからよ。
「山田達はどうした?」
「あの後、あいつ等の連れのデブ女に土下座させられてましたよ」
「んで、バツが悪かったのか殴られた所が痛いから先に帰らせて貰うと」
「ふー・・そうか、今日は悪かったな、俺も身体は何ともないしお前らも解散していいぞ」
俺が告げると、皆それぞれ帰ろうかという空気になったが、そんな中一人気炎を吐く奴がいた。
「へっ!なんだってんだよあんた!!あんな散々偉そうな事言っといて、あんなチビに負けやがって情けねぇな!!俺はもうお前みたいな情けない奴の言う事は聞かねーぞ!!皆もそう思うだろ!?」
おっ、いいねぇ・・・王が弱みを見せたんだからそらそうよ、下剋上のチャンスだもんな、機を見るに敏な奴なら今動かねーと。尤も俺が失神してる間にこそ動いておくべきだったと思うがな。
「そっそうだっ!!」
「こんな情けない奴の言う事なんかもう聞く必要ないぜ!」
俺は嬉しくなっちまって笑みを隠せないまま立ち上がった。
「いいぜぇ・・・俺に不満のある奴はかかって来な!手負いの今なら今までの不満をぶつけて借りを返すチャンスだぜぇ!!」
まぁ幾ら機を見るったてよ、残念ながらどんだけ手負いだろうがお前ら如きじゃ束になっても相手にならねーんだがな!!!
===============
AMI歴12年4月20日 帰り道 宮代伊織
色々あったけど、一応目的は達したので武骸流の道場を後にして僕たちは帰途についた。
「亮人くん今日は色々助かったよ、奏ちゃんも付き合ってくれてありがとう」
「へっ、いーって事よ、面白ぇもんが見れたしな!」
「うん、私も自分の目で見てみたかっただけだから、礼を言うのはこっちだし」
「私なんかの為に・・・ありがとうね伊織くん、玲ちゃん」
「ううん、風香ちゃんが気にする事無いよ、僕達が勝手に腹を立てて決めた事だから」
「悪いのはアイツ等だから風香が責任を感じるのは筋違い」
「うん、ありがとう」
僅かに頬を染めながら頷く風香ちゃん、まぁこれだけで2年間の心の傷が癒える訳じゃ無いだろうけれど、気持ちを切り替える切っ掛け位にはなってくれるといいな。
「ねぇ、そう言えば一くんと羽依ちゃんの姿が見えないんだけど二人で先に帰ったの?」
「あー、あの二人にはお願いをしてちょっと先に出て貰ったんだけど・・・玲ちゃんどうかな?」
「もう良いと思う」
「そう?じゃあ始めようか」
「はーん、そういう事かよ」
「えっ?ナニ?何か始めるの?」
「ちょっと出歯亀の捕獲作戦をね」
そう言うと僕と玲ちゃんは向きを変えて後方へ向かって縮地からのダッシュを開始する。
「え?どうしたの二人とも」
すると電信柱の後ろに突如人影が浮かび上がって僕達と反対方向へ走り出した。
その人影は僕達に見つかった事を察知して逃走を開始したのだ。
「へっへーん、通さないよー!」
「っ!!」
と、その先には隠れていた羽依が立ち塞がる。
一瞬怯んだ男だが、立ち塞がったのが小さな少女だと認識するとそのまま強行突破する事に決めたようで、スピードを上げて羽依の横を駆け抜けるそぶりを見せた。
「甘ぁ~いっ♪」
しかし羽依が正面に回り、避けられなくなった二人が正面衝突するかに見えたその瞬間、衝突に備えて身構えた男に対し、羽依が体捌きで回り込んで、怯んだ男の腕を捉えて身を回転させると四方投げを決めた。
スダンッ
アスファルトに対する投げ技のダメージは、例え受け身をとったとしても畳上で受ける時の比では無い。全身を打ち付けた衝撃で男は動きが取れなくなっている上に、腕関節を決めた羽依が伸し掛かって取り押さえてしまった。
「ふふーん!可憐な美少女と侮ったがうぬが不覚よ~」
容姿に関しては否定する気も無いけど図々しい乳妹である。
===============
AMI歴12年4月20日 日本 白銀楼市 路上 ミハエル・カースティン
「なっ!?」
まさか、尾行に気付かれていたとは!?一体何時から悟られていたのか分からないが、彼の隠蔽スキルが看破されていたと言うなら、道場に潜入した時点で気付かれた上で泳がされていた可能性が高い。
彼らの情報を少しでも集めるチャンスだと思い、少々深入りさせ過ぎてしまったか。ここ数日の尾行で気付かれた気配が無かった為に彼らを侮ってしまったが、それすらこちらを油断させて様子を見ていた可能性があるな、能力だけでなく判断力も高そうだ。
彼には悪いが、ここは私だけでも離脱させて貰おう、彼だけならば幾らでも言い逃れようがあるが、私まで捉えられてはこちらの素性を誤魔化すにも一苦労だからな。
そう思い身を翻そうとした瞬間。
「動かないで下さい」
背後から折り畳み式の警棒を眼前に差し出された。
「逃走を図るようでしたら昏倒させます」
この声は確か・・・
「十一君か・・」
「やはりご存じでしたね、師匠の言ってた通りです」
どうやらこちらの監視体制は完全に気取られていたようだ。
多少の訓練をしてるとは言え、私には何の能力を持っているか不明のDMC相手に一人で戦闘を仕掛ける程の無謀さは無い。
はてさて、これから一体どうした物か。ある程度は真実を語らざるを得ないか・・・
やはりどう考えても外国人の勧誘など私向きの仕事では無かったと言う事だ、今回ばかりは室長の無茶振りを恨むしかない。
かくして1話から続いた武骸流の方々、阿波根達己との戦いはこれにて一区切りとなります。
そして最後には今まで海外視点で顔を出していた人物が日本の話に絡んでまいりました。ここから日本の『ゼンモン』持ち達とどのような関係性になってゆくのでしょう?
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
この作品を読んで少しでも
『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
などと思って頂けたのでしたら、感想やブックマークをお何卒よろしくお願い致します。
ページ下の評価システム【☆☆☆☆☆】をご活用いただければと思います。
ご評価頂けますと作者の励みになり、モチベーションの持続にも繋がりますので、
どうかよろしくお願いいたします!




