010 立ち合いor果し合い
AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 宮代伊織
「立ち合い」とは「双方が向かい合って勝負を争うこと」で、相撲の勝負開始時の所作を指す事もあるけど、普通に試合とかの勝負と言う意味ですが。
「果し合い」だと、「果たす」と言う言葉に「命を終わらせる」「殺す」と言う意味を含む所から、もう一歩踏み込んだ場合によっては命がけの勝負になっちゃうんだね。
いや命がけでの勝負とか何言ってるの貴方って感じなんですが、『ゼンモン』持ちはその辺が前世の異世界での崩壊している倫理観とか死生観に影響を受けているヤバイ考えがあると思います。
いやー、野蛮だなぁ・・・怖い怖い。
「と言う訳でなんでもありの果し合いで異論は無いな?」
「いやいやいや、そう聞かれたら勿論異論はアリアリですよ?」
唐突な無茶ぶりに突っ込みを入れる僕に逆切れする阿波根さん。
「あぁん!?この期に及んで逃げ腰かよ情けねぇなぁオイ!」
「そもそも立ち会い役の武骸流の師範代の方は何処へ行ったの??」
「あー、病欠だ」
「いやいやいやいや、病欠ってそれなら大人の代理を立てて下さいよ!」
「代理はそいつだ」
て見覚えのあるその顔は確か中学2年の橘慎吾さん。
以前に河原で僕と玲ちゃんに絡んできて栫棟梁に補導された人だね。
思いっきり阿波根さんの手下臭がしてるんですが言うだけ無駄だろうねー
今更ですが、ここは隣町にある武骸流空手道の道場で、今日は約束してた立ち合いの日です。
道場で待ち受けていたのは阿波根さんはじめ見覚えのある面々他いかにも阿波根さんの手下臭を漂わせている強面な人々ばかりで、大人が一人もいなかった、うーんこの、まぁいいや深入りしないでおこう。
こちら側の参加者は僕と玲ちゃん、羽依と一くん、おまけに亮人くんと奏ちゃんおまけに風香ちゃんまでが見学に来ています。
風香ちゃんの同行には反対だったんだけどね、最悪の事態になった時自衛能力に欠ける風香ちゃんを連れて行くのはリスクに成りかねないとの判断から諦めて貰おうとしたんだけど、風香ちゃん本人がどうしても見届けたいと言われて折れてしまいました。
まぁ勝利の暁には山田達には風香ちゃんに謝罪してもらう条件もあるしね。
自衛と言う意味では奏ちゃんもどうかと思うんだけど、そこらの相手には後れを取ったりしないと主張されて説得は諦めました。まぁ最悪亮人くんが命がけで守ってくれるでしょう。
「はぁ良いです分かりましたよ、なら決着は降参するか、気絶などで試合続行不可能になった方が負けって事でいいですかね」
「おう、それでいいな」
「待ちな、それなら立ち会い人は俺がやってやるよ」
と亮人くんが立会人役を買って出ます。
そんな亮人くんを睨みつけながら阿波根さんは。
「ふんっ、まぁお前ならいいだろう」
と認めてくれました。
まぁ果し合い自体に小細工を入れるようなセコイ事する人では無いと思ってるけども。
友人の亮人くんが立会人をしてくれるという事はありがたいね。
「では伊織と山田達からだな」
「先ずは佐津川行け」
「押忍」
最初の相手は佐津川と言うらしい、一応クラスメイトなのにまだ名前を覚えて無かった。
「お互いに礼」
「はじめっ!」
「えいっ!!」
開始と同時に間合いを詰めて躊躇なく顔面を狙って正拳突きをしてくる佐津川。
様子見など無いいきなりの顔面攻撃に僕は少し驚く。
いやー素手で顔面に殴り掛かる事に全く躊躇が無いとはねー普段からどんな稽古してるのやら。
と、その正拳を頭一つ分避けてカウンターの掌打を脇腹に決める。
「がっ」
カウンターが綺麗に決まり、その場にうずくまる佐津川。
「終わんな佐津川ぁ!!」
阿波根さんの怒号を受け、嫌そうな顔をしながらも立ち上がって再び構えを取る佐津川。
「おい宮代ぉ何でもありつったよな!」
とそう言うと山田達残りの3人が一斉に立ち上がってこちらに構えてにじり寄ってくる。
あー、なんでもありってそう言うのもありなのね?
「立ち合いで4対1なんてそんな!」
「伊織くんっ!」
奏ちゃんと風香ちゃんは僕を心配してくれているようだけど。
「おーいいねー!撮れ高撮れ高~♪」
スマフォのカメラを向けて嬉しそうな羽依、あーうん、この乳妹はブレないなぁ。
しかしさすがに4人相手だと手加減してる余裕は無いなー、一人ずつ確実に倒して行こう。
じりじりと間合いを詰めながら四方を囲む山田達に対し、僕は正面の佐津川に向かって縮地で間合いを詰めると相手が反射的に殴り掛かってきた腕を絡めとって投げを極め、仰向けになった顔面に掌打を決める。
一撃で決める為、鼻の下にある急所の人中を剛の気を込めて痛打すると、佐津川はそのまま気を失った。
「先ず一人」
「くそっ!!」
「てめぇ!」
「やってやる!」
佐津川を倒してる間に残りの3人が駆け寄ってくる。
反応速度の差か、こちらに向かってくるのも同時とは行かずに僅かながら差がついている。
一番間合いが詰まってる向かって左の男と距離を詰める。男が走って来た勢いのまま殴りかかって来るが、足裁きで体を躱し空振りした男の足を引っかけて転倒させる。
うつ伏せに倒れた男に対し、すかさず踵に剛の気を込めて肝臓を踏み抜いた。
「があっ」
激痛の為ピクピクとして動かなくなった男をそのままに、向かって来る残り二人と対峙する。
さすがに警戒してか、正面に位置取りした山田は間合いに入らないままこちらを牽制、その間にもう一人が背後に回る。
僕の前後に位置どった二人は、同時に間合いを詰めて来た。前方の山田が殴り掛かってくるのに対し、背後の男はこちらを拘束しようと両手を広げて掴みかかって来ている。
背後の男がこちらに到達する直前、こちらから背後に向かって背中から体当たりをぶつける。
体当たりを受けて体制を崩しながらも、背後の男は両手を閉じてこちらを抱きすくめると、それと同時に山田が正面から殴り掛かってくる。しかし僕は抱きすくめられた状態から一気に脱力し重心を急激に落とす事で拘束を解くと同時に腕の下から抜け出し、掴んでいた右手を捻って背後の男を向かって来る山田に投げつけた。
もつれ合って転倒した男に対し、柔の気を込めて延髄を叩き脳震盪を起こさせ無力化すると、起き上がった山田の水月を剛の気を込めた拳で打ち抜いた。
急所を打ち抜かれた4人がもう立ち上がれない事を確認して、僕は残心を解いた。
「ふぅ」
「伊織くん凄い、あっと言う間に4人を倒しちゃった!」
「いやーんお兄ちゃんカッコいいー!」
「さすがです師匠!」
パチパチパチと阿波根さんが手を叩く。
「はっ、見事なもんだな宮代伊織!幾らそいつらが雑魚モンだとは言えほぼ全員一撃とは恐れ入った、正直お前の事を舐めてたぜぇ」
阿波根さんが顎をで指図すると、周りの男達が山田達を隅へ移動させた。
「休憩なんぞいらねーだろ?このまま始めようか」
そう言うと阿波根さんは立ち上がって僕と対峙した。
「このままでいいんだな伊織?では双方準備はいいか?」
頷き合う僕と阿波根さん。
道場にある五間四方の試合場の中央まで進む。
向かい合う僕達はお互いに睨み合ったままそれぞれ構えを取って亮人くんの掛け声を待つ。
「お互いに礼」
「はじめっ!」
「はあっ!!」
開始と同時に勢い込んでこちらへ突撃してくる阿波根さん。
大柄な体躯もあって迫力は十分だ。
「ぐぉらぁあああっ!!!」
間合いを詰めると同時にお手本通りの右正拳突きを繰り出してくる阿波根さん。
確実にこちらの正中線を狙った真っすぐな拳、焦る事無く右へ受け流して向かって左側面に回り込んだ。
うん、特に受け流した右腕に痺れが走るような事も無く想定内の剛拳具合だね。
スピードに関しても玲ちゃんより余程遅いし、間合いをしっかり掴めればそんなに問題は無さそうかなー
間合いを取り直すと、少し怪訝そうな表情を見せた阿波根さんは、改めてこちらに向かい直す。
「セイッ!」
と、再び踏み込みながら右正拳突きを繰り出すが、先ほどと比べると構えがコンパクトになってスピードが増している。やや間合いが遠い事もあり、今度は足裁きだけで再び左側面に回り込む。
しかし先ほどと比べてコンパクトでスピード重視だった拳はこちらの動きを誘導する誘いだったのか今度はノータイムで中段の左回し蹴りに繋げて追撃をしてくる。
しかし今度は逆に姿勢を低くして間合いを詰めながら中段蹴りの足を上段に受け流して阿波根さんの体制を崩す。
「ぬっ!?」
僕の方から間合いを詰めてくる事は想定して無かったのか、体制を崩されて驚く阿波根さんに近づき間合いが無くなった状態で左脇腹に掌底打ちを叩き込む。
・・・が、ダメだこれ全然効いてないな。
阿波根さんの剛の気の充実っぷりを感じ取り、僕の力で普通に掌打を当てても有効打たりえない事を実感した。
毛ほどもダメージを感じさせない動きで体制を整えた阿波根さんは左側面で密着している僕に向かって今度は左裏拳打ちで攻撃してくる。丸太のような腕の振り回しに対し身を屈めてかわしてバックステップで再び間合いを取る。
「ち、思ったよりすばしっこいな」
「最初の寸止め立ち合いルールならさっきの掌底で1本だったぞ」
「うっせえわっ!!」
茶々を入れた亮人くんに怒鳴り返す阿波根さん。
先ずはお互い様子見の攻防を終え、距離を取ったまま再び対峙する僕達。
とりあえず想定通りのパワーファイターで『剛の気』は大分強め、普通の僕の打撃では効果無しと。攻撃も間合いの長さに力強さと打撃面の大きさはあるものの、スピードはそこまででも無く十分対処は可能。
とは言っても一発有効打を受けたら即決着が付きかねない威力は十分で、とても油断出来るような相手ではないよねぇ。
「非力そうな腕でよく俺の突きを受け流せるもんだ、感心したぜ」
「それはどうも」
「ここからは手加減無しだ、ギアを上げていくから覚悟しな」
宣言通りに阿波根さんの纏う『剛の気』が更に密度を増したように感じた。
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AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 砂金奏
正直開始前はこの体格差で本当にまともな勝負になるのかと不安だったけど、そんな私の不安をよそに伊織くんは阿波根とここまでは互角にやりあっているように見えるわね。
『精霊眼』で見ると、阿波根の幽体より伊織くんの幽体の方が遥かに力強さを感じる。勝負が始まる前に何時もの如く玲さんと二人気を練っていたのもあり、確実に阿波根より幽体が充実しているのは見て取れる。
伊織くんは『柔の気』をオーラの如く身に纏っている。それを相手の攻撃の察知に使っているらしく、傍目でも阿波根の攻撃が始まる前から伊織くんが防御の体制に入っているのが分かる。
少しの会話を挟んで本気を出した阿波根は、先ほどまでとは違い攻撃にフェイントを織り交ぜはじめた。一当して伊織くんの防御力の高さを実感し、本気を出し始めているのでしょうね。
しかし伊織くんには阿波根のフェイントは全く通じて無いみたい。私が見ても分からないけど、攻撃の虚実すらも『柔の気』で感じ取っているという事かしらね。
度重なる伊織くんの防御に、とうとう業を煮やした阿波根が大振りの正拳突きを繰り出す。しかしそれも伊織くん完璧に受け流された上に腕を掴まれて引っ張られ体制が崩された、伊織くんが少し溜めを作った上で脇腹に掌打・・・と見せかけて更に一歩踏み込んだ上で阿波根の顎を掌底で突き上げた!
今のは・・・『剛の気』を使ったの?
『柔の気』で攻撃を受け流すと同時に『剛の気』に切り替えて腕を取って強く引く。
体制を崩した上で更に『剛の気』を本格的に練り上げ、今までしてこなかった攻撃時のフェイントも混ぜた掌底は完璧なタイミングで『剛の気』を込めて阿波根の顎を打ち抜いた。
さすがにダメージが通ったようで、崩れ落ちて片膝をつく阿波根に対し、更なる追撃を仕掛けようとした伊織くんだけど、その瞬間私は阿波根の身体が爆発したような幽子の放出を感じ取った。
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AMI歴12年4月20日 武骸流空手道道場 宮代伊織
大振りの攻撃が来たタイミングで、予め考えていた流れで剛の気を使い体制を崩す。
ここぞのタイミングで使うべく使用を控えていたフェイントも織り交ぜて、自分としては十分に練れた『剛の気』を込めて人体の弱点でもある顎を掌底で真下から打ち抜く事に成功した。
さすがにこれを受けてはすぐには動けないだろうと、今度こそとって置きの攻撃を繰り出すべく再び『柔の気』を練り上げるが、崩れた阿波根さんから爆発的な気の予兆を感じ取り、練り上げていた『柔の気』を防御の為に腕に込め直す。
なんだ!?何が来る!!?刹那の思考で、今まで以上に激しい攻撃が来る事を予想した僕の脳裏に一くんの忠告が蘇る。
『奴の角を使った突進スキルに警戒して下さい!!』
阿波根の『剛の気』がかつてない強さと密度で全身を満たし、頭部に集まっているのを感じた瞬間、何も無いはずの側頭部に集まった『気』がそこに存在しないはずの角を僕に幻視させた。
追撃を仕掛けようとしていた体制から慌てて切り替えて全力で後方に飛ぶと同時に、腕に回した柔の気で来る衝撃にに備えた。
怒豪!
阿波根に充満した『剛の気』が爆ぜ、その巨体が信じられない勢いでこちらに迫って来る。
信じがたい事に先ほどまでの正拳よりも勝る速度で迫る頭部から恐ろしい程の気を感じる。
とても避け切れないと判じた僕は、腕に込めた柔の気で全力で防御するが、後方に飛んだにも関わらず勢いを殺しきれず、その規格外の頭突きは僕の全力の防御でも防ぎきれずに胴体にまで達して僕を吹き飛ばした。
文字通りに吹っ飛ばされた僕は、なんとか後ろ受け身をとって床に打ち据えられるダメージを回避して素早く体制を整えた。
ズキッ
何とか起き上がって構えを取ったけど、胴に達していた阿波根さんの攻撃で、腹部にかなりの痛みを感じる。何とか表情に出なさないよう気を使いながら、無言で対峙を続ける僕に対して阿波根さんが首を振りながら語り掛けてきた。
「おーいてて、まさかここまでダメージを受けるとは思わなかったわ、評価を修正したつもりだったが、まだどこかで舐めてたようだぜ」
「それはどうも」
駄目だ、痛みで気の利いた返事も返せない、痛みを表に出さないだけで精一杯だ。
「しかしお前みたいなチビが俺の虎の子『雷纏角突撃』を食らっても立っていられるとはなぁ・・・正直自信無くすぜ」
「そうですね、多分今の攻撃が貴方が僕に勝てる最後の機会だったと思いますよ」
「あ”?」
想定以上のダメージを受けて、自分で思っているより余裕を無くしている僕は、感情に任せて煽るような物言いをしてしまっている。いや、本当に、痛いんだけどコレ。
とりあえず会話を続けながらも柔の気を全力で体内に巡らせて、少しでもダメージの回復を図る。
「初見だったので驚きましたが、今の攻撃はもう見切りました」
「ふんっ、やせ我慢してるのは分かっているぞ、お前今の攻撃で胴体にダメージを負ったんだろう?」
「だがまぁ、俺の攻撃を受けた上でのそのイキりっぷり、気に入ったぜぇ・・悪くねぇぞ宮代伊織ぃ・・」
舌なめずりせんばかりの表情を見せる阿波根さん、こっちが手負いになった事で、勝利を確信しているようだ。阿波根さんは知らないのかな?勝利を確信した状態で舌なめずりするような行為は負けフラグだという事を。
「まぁ思ったよりは楽しめたぜ!!いい加減終わりにしようかっ!!」
叫びながら再び正拳でのラッシュを開始する阿波根さん、回避に専念すれば捌けるけど、動くたびに胴体に痛みが走る為、僕の額には先ほどまで無かった冷や汗が流れ落ちている。
「さっきの頭突きと比べたら欠伸が出るようなスピードですよ?」
反撃の恐れがほぼ無くなった事を確信している阿波根さんは突き突き蹴りとコンビネーションを繰り出して一方的な攻撃を続けている。大した猛攻ではあるけど、この攻撃をいくら続けても僕には当てられないと判断して欲しい所なんだけど・・・と、上段蹴りが来たので身を屈めて回避したら、今まで以上の激痛が胴を襲った。
「ぐっ」
あ、我慢出来ずに声が出ちゃったよ、これはいかんですよ・・・
漏れ出てしまった僕の声を聴いた阿波根さんは、追撃の手を止め間合いを取り直した。
「へっ、さすがに限界みたいだな、降参するなら今の内だぞ?」
だから貴方甘いよっ!!
その余裕ぶった態度が命取りだって教えてあげるよ。
身長や顔の事もあって、正直他人に舐められる事には慣れっこだったハズの僕だと言うのに。
何故かこの時は阿波根さんの態度に心底闘志が掻き立てられていたのだった。
ようやく阿波根VS伊織くん戦開始です、少し前菜が添えられておりますが。
二人の決闘は次回で決着します。
現状地球での魔力濃度状態で『雷纏角突撃』(サンダーホーンラッシュ)を使用した場合の破壊力は乗用車をクラッシュさせる位の威力はあります。装甲車だと凹ませられる程度かな。
二回も連続でスキルを使用したら魔力切れでエンストを起こしますが。
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『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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