4.切片篇・経済・社会・首相の肖像入り高額紙幣と地熱温泉区
切片篇・経済・社会・首相の肖像入り高額紙幣と地熱温泉区
謎の声1:「日本の住民は風呂好きで知られているが、都市部の入浴コストがこれほど異常に高騰すると、どんな影響が生じるのだろうか。」
謎の声2:「大移動が起きたんだ。」
後2040時代の日本、外資が経営するある浴場の入口には、こんな看板が立てられていた。「外貨でのお支払いをお願いします。当店では円はお受けできません——ボイラーを沸かせるだけの量をご持参いただける場合を除いて。」
際限のない官僚、永遠に膨張し続ける支出、衰退する産業、流出する人口、暴落する為替——経済崩壊のもと、通貨が紙くず同然になることは必然だった。
「紙幣の肖像には、できる限り近現代の人物を避けるべきだ! そうしてこそ政治的中立性が保たれる!」
「今は中立性を語っている場合か!? 今こそ日本の団結を示し、大和魂を体現すべき時だろう!」
通貨下落のもとで住民が取引のために大量の紙幣を持ち歩き使用しなければならないという問題に対応すべく、日本政府は新たな高額紙幣の発行を決定した。だが肖像の選定をめぐって議論が紛糾した。与党は、単に普通に新紙幣を発表するだけでは、野党の格好の攻撃材料にされかねないと気づいた。それならばいっそ先手を打って、危機を好機に変えてしまおうというわけだ。こうして現職首相を肖像に起用する案が浮上し、「首相ご本人の毅然とした面持ちが国民に信頼を与え、国民のための強固な精神的防衛線を築く」と喧伝された——現職首相を支持する「世論」の波を巻き起こそうという目論見である。
この案は与党の操作のもと、「怪獣」「ヴァーチャル歌姫」——観光客に紙幣をコレクションとして持ち帰らせ、通貨の流通量を減らそうという現実的な案を、次々と退けていった。
「このような恥知らずな案は、与党が経済政策を反省するどころか、宣伝によって国民を欺こうとする証左に他ならない! 本来責任を取るべき首相自身が、この宣伝の受益者になるなど——断じて容認できん!」野党党首が怒号を上げた。
「おや、受益者とおっしゃいましたか? もともとあなたは、通貨を野放図に発行すべきではない、発行するなら皮肉として私自身の顔を新紙幣に刷るべきだ、とおっしゃっていませんでしたかな?……それとも、世論が私の毅然とした顔立ちを称賛しているのを見て、嫉妬でもなさいましたか?」与党の首相が狡猾に応じた。
「毅然?! それのどこが毅然なものか、ただの奸計だろう!」
「ならば、肖像の機会をあなたに譲りましょうか?」
「私は貴様のような恥知らずとは違う!」
最終的に、首相肖像案は可決された。10万円、100万円……と、次々に新たな額面が登場するにつれ、円は首相個人の写真集と化していった。
街角の将棋台で、二人の老人が激しい将棋の勝負を繰り広げていた。この対局の賭け金は、拾ってきた薪の束だった。安物のダンピング品の外骨格を身にまとった老人が、肘をつきながら相手の王将を見つめ、思案に耽っていた。いや違う、あれは王将ではない。首相の肖像が刷られた高額紙幣だ——この時代の人々は、駒が足りない時、特に王将が足りない時には、首相の肖像入りの紙くず、いや紙幣を取り出し、何度か折り畳んで王将の位置に置くのだった。そして相手を詰ませる時には、こう叫ぶ——「首相、御用だ!」
老人の読み筋では、相手のカエルの形に折り畳まれた紙幣は、すでに何度も「逮捕」されていた。
老人が攻勢に打って出た——
激しい応酬の末——
「首相、御用だあああ!!!」——老人とは思えないほどの大音声が、喉から迸り出た。
「読み抜けたか——!」対戦相手の老人が悔しそうな声を上げ、勢いよく立ち上がった。動作が激しすぎてエネルギーを消耗しすぎたせいで、外骨格が「ピピピ」という低電力警告音を発した。「警告! 電力不足! 緊急モードに移行します! 至急充電してください。」相手の老人は首を振り、日の当たる場所へと苦労しながら移動していく——低電力の緊急モードでは、外骨格は危険が生じた時にしか作動せず、普段の動作を補助してはくれないのだ。老人は陽光が直接差し込む草地を狙い、うつ伏せのまま、まっすぐに倒れ込んだ——誤解のないように言っておくと、何か体調に異状をきたしたわけではない。表側はもう半日太陽光で充電し終えたので、裏側に日を当てたくなった、というだけのことだ。この状況なら、誰だって面を変えたくなるものだろう。
薪を勝ち取った老人は家に帰った。庭には楕円形の浴槽が置かれている。「そろそろ風呂に入るか——」老人は孫を呼び出し、薪をいじり始めた。薪は一本また一本と炉にくべられ、熱へと変わっていく。浴槽の上には、もうもうと湯気が立ち上り始めた。「まだちょっと足りないな。」老人は家の中に戻ると、首相の肖像入りの燃料——いや、紙幣の束を取り出してきた。紙幣は煙と化し、ゆらゆらと熱をもたらす——その効果は、まるでかつてのエネルギー取引そのもののようだった。ただ、実現の仕方が変わっただけのことだ。
「言われてみれば、なかなかの発熱量だな。」老人がしみじみと呟いた。
後2040の日本はエネルギー不足にあえいでいた。エネルギーの欠乏は給水にも連鎖的な影響を及ぼし、住民の生活に大きな不便をもたらした——高層住宅が立ち並ぶ都市部では、とりわけ深刻だった。仕事帰りに帰宅し、マンションのエントランスが真っ暗なのを見れば、まだ電気が来ていないとわかる。歯を食いしばって「登山」を始め、何十階分もの階段を上りきる頃には、全身汗まみれになっている。汗で濡れた服を脱ぎ、思い切って金を使って風呂に入ろうと決意するも、最上階の予備水槽はとうに干上がっており、風呂どころか洗濯用の水すら足りない。——これが都市住民の直面する日常の苦境だった。常態化した停電、途切れがちな給水・ガス供給、それに見合うのは高騰した料金。夏はまだましだった。水道代は高いが、少なくとももう高額なエネルギー料金を払う必要はなく、歯を食いしばって出費すれば、たまには水風呂に入ることもできた。ただ服は頻繁に汗で濡れるのに、頻繁に洗うことはできない——これがなかなかに堪えた。冬はもっと辛かった。骨まで凍るような冷水では体を拭くことすら苦痛で、冷水での洗濯も効果が薄い。住民たちの習慣は、かつての毎日風呂に入り洗濯をするというものから、一月に一度洗えればいい方、というものへと変わっていった。
これは社会の流行する服装にも直接的な変化をもたらした。かつての日本では、人々の服装は美観や個性を主な追求点としていたが、後2040時代には実用性への要求が絶対的な主導権を握るようになった。汚れに強く、洗濯の間隔を長く空けられること——これが庶民の衣服選びにおける最優先事項となった。純綿素材はかつて、肌触りの良さと快適さから、日本の住民の衣服の大部分を占めていた。しかし純綿の衣服は快適で通気性が良い反面、汚れが非常につきやすく、こまめな洗濯が必要だった。2040年の環境下では、この欠点が大きく増幅されることとなった。後2040時代に主流となったのは、汚れに強く洗いやすいことを売りにした各種化学繊維の混紡素材——例えばリヨセル麻混紡や、日本に安売りされてきた、洗濯いらずを謳う各種ハイテク素材だった。——これらの素材で作られた衣服は、通常、汚れを隠せる濃い色調を中心としており、グレーや黒といった汚れの目立ちにくい色が絶対的な主流となった。同時に、利用者の長い洗濯間隔を見越した、様々な工夫も凝らされていた。
典型的な後2040時代の衣服は、こんな具合だ:
グレー基調——汚れを目立たせないため
ローブ型——外部の塵や埃が内側の衣服を汚すのを防ぐため
防汚インサート——袖口や襟元など汚れやすい箇所にインサート用のスロットが設けられており、利用者は防汚インサートだけを頻繁に洗う、あるいはいっそ紙片で済ませることもできる。
長い洗濯間隔——「推奨洗濯間隔:二ヶ月」各種耐汚染素材の混紡が、この大げさな表示ラベルを実現させた。
ナノ銀溶液——利用者は月一回の洗濯の後、衣服をナノ銀溶液に浸し、手作業で『抗菌後処理』という工程を仕上げることができる。もっとも効果はほぼ使い捨てに近く——次の洗濯で銀イオンはほぼ流れ落ちてしまう。注意:淡い色の衣服への使用は推奨されない。また、時間の経過とともにナノ単体銀が凝集し、比較的大きな粒子となって、一部の箇所に銀色の光沢を生じさせることがある。
こうした対応策があってもなお、大衆の衛生状態は芳しくなかった。夏は川辺が人で埋め尽くされ、ようやく手持ちの衣服を洗い終えたかと思えば、体はまた汗でびっしょりになる。人混みから漂ってくる熱気にはあらゆる臭いが入り混じり、一刻も早く逃げ出したくなるほどだった。冬は、骨まで凍るような水温が洗濯をする人々の大半を遠ざけたが、それでも郊外まで薪を拾いに行き、湯を沸かさねばならなかった。
こうした苦難の末、清潔を愛する人々はついに大規模な移住を始めた。たびたび風呂に入るために、たびたび洗濯をするために、自分が臭くならないために——彼らは都市での過去を捨て、交通路や川を遡っていった。——最終目的地は、地熱温泉区だった。
電車が止まれば自転車に乗り、バスが燃料切れなら歩けばいい——人々は温かい湯への渇望を胸に、「冷水の都市」に背を向け、まるでクロスカントリー選手のように、長い道のりをキャンプを重ねながら進んでいった。かつてなら到底耐えられなかっただろうが、都市で階段を上り続けて鍛えられた体力と、何十日も風呂や洗濯なしの都市生活で培われた悪臭への耐性が、人々を支えた。人々は、都市で毎日湯に浸かれるのはごく一部の人間だけだと理解していた。もし残りの人生で自由に風呂に入りたいと願うなら、唯一の望みは中央山脈のような地熱の豊富な場所へ向かうことだと。
ついに地熱の郷へとたどり着いた人々は、山麓の噴気孔、地熱地帯、そして天然の温泉川の周辺にテントを張り、「テント温泉村」を築き上げた。この「冷水難民」たちが建てたテントや簡易な家屋が、「地熱自治体」の基礎となった。
『東京脱出記——ある女の子の温もりを求める旅』
「硫黄の匂いがきついと言う人もいるけれど、私にとっては、これはお湯の自由の匂いなんだ。」
東京は寒い。骨まで凍えるほどに。師走の東京で冷水を使って洗濯をしたことがあれば、きっとそう思うはずだ。
「刺すように冷たい水と、饐えた臭いとの間で選ばされるのは、もう嫌だ」——彼女はそう心に決めると、東京でのすべてを手放し、荷物をまとめて温もりを求める旅へと踏み出した。
旅の道中、同じような境遇の者たちは少なくなかった——誰もが、都市のあの途切れがちな冷水に耐えられなくなっていた。
「前に大金はたいて風呂に入ったらさ、途中で水が止まったのよ——」金髪の巻き髪をしたギャルがそう言った。「最悪だったわ、入らない方がマシってくらい——」
「それは本当に災難だったな。」フード付きのマントをまとった離網遊民がそう応じた。
幾日もの道のりを経て、この東京出身の女の子は、ついに地熱温泉区にたどり着いた。村は幾重もの山に囲まれ、一年中霧に包まれており、入口もまた、もうもうと立ち込める湯気の中に隠れていた。——「まさに脱税隠遁の聖地だな」と、離網遊民はそう評した。
村に落ち着くとすぐ、彼女は待ちきれずに服を脱ぎ捨て、東京の人間なら夢の中でしか抱けないような温泉へと駆け寄った。
道中の埃を洗い流し、たっぷりの心地よい湯を頭から浴びる——これほどの爽快感があるだろうか。
硫黄の匂いを含んだ空気は、自然が贈ってくれた無料のアロマのようで、流れる温水は最高のジャグジーバスだった。体を泉に沈めた瞬間、彼女は思わず長いため息にも似た声を漏らした。肌は温水に洗われて、久しぶりの薄紅色を取り戻し、体の内に溜まった冷えと関節の軋みが、温かな泉の湯によって少しずつ外へと押し出されていく。
この瞬間、彼女は自分が泥人形から、生身の女の子へと生まれ変わったような気がした。
ここには、数字が刻々と動く料金メーターなどない。道端の水路からは白い湯気が立ち上り、マンホールの蓋の隙間からは熱気が漏れ、温水の流れる導水管はほのかな余熱を放っていた。
ここで最も不足しないのが、湯と洗濯場だった。人々は温かな小川のほとりで、竹の板やさまざまな道具を使って衣服を洗っている。ほどなくして衣服は清潔でさっぱりとしたものになり、地熱乾燥室に吊るせば、すぐにふんわりと乾き、陽光と硫黄が入り混じった独特の香りを漂わせるようになる。
ここの衣服は色とりどりだった。人々は「東京グレー」を脱ぎ捨て、再び純綿と色彩を取り戻していた。ピンク、空色、明るい黄色……様々な鮮やかな色があふれ、多少継ぎ当てがあっても、生き生きとして見えた。
地熱の炊煙は食事時になると決まって立ち上る。人々は地熱の噴気孔を利用して地熱蒸籠をいくつも設え、食材を入れた竹籠に麻布をかぶせ、蒸籠の中へと入れる。しばらくすると、香ばしいサツマイモやゆで卵、その他もろもろが出来上がる。ねっとりと甘いサツマイモ、弾力のあるゆで卵を、人々はのんびりとおしゃべりをしながら味わっていた。
「税のかからない食べ物って、本当に美味いな〜」離網遊民はサツマイモを一口飲み込んでからそう言った。
ギャルは温泉卵の殻を剥きながら尋ねた。「税がかからないって、なんで?」
「へへ〜 ここの良いところは湯だけじゃないんだよ、」離網遊民の声音からは、フードの下の笑顔が見て取れるようだった。「ここは霧が濃いから、衛星スキャンの精度が落ちるし、地熱の影響で赤外線センサーもうまく機能しない。税務AIは低コストでここに何人いるか判断するのが難しくてね、せいぜいたまに追徴ロボットをぽつぽつ派遣してくるくらいさ。」
「で、それが来たらこれで対処するってわけさ。」傍らにいた村人が、手にした竹の棒を振ってみせた。
「ドローンも、水蒸気と硫黄はすごく苦手なのよね。」東京から来た女の子が、ふいに口を挟んだ。
「そのとおり。水蒸気がレンズに入り込んだり、硫化物のせいで腐食が早まったりしたら、回収できる税収で得られる分を差し引いても、下手すりゃ赤字になるだろうな。」離網遊民は「見込みがあるな」とでも言いたげな口調で応じた。
地熱自治体——日本政府とは無関係の、真の自治体。湯を愛する人々がここに集い、新たな未来を切り開いていく。私、凛(Rin)、東京から来た女の子は、ここで生きていくことを決意した。
流亡姫避難所
高麗姫:「あはははは〜 紙幣を薪にして燃やすなんて、紙くず化しただけじゃなくて写真集化までしちゃって〜 笑えるよね〜」
ツァーリ姫:「熱量への転換とは、金から商品への転換だ。後2040の日本でも、この転換は依然として行われている。ただ、その手段が取引から直接燃焼へと変わっただけのことだ。」
「温泉村のみんなを見ていると、心が温かくなります。」日本姫は、村人たちが地熱蒸籠を囲んで食事をする光景を見つめながら、瞳にわずかな温もりを浮かべた。「国全体の経済はもう崩壊してしまいましたが、それでもこうして、みんなが安らげる片隅が残っていてくれて、本当に良かった。」




