14 ヴィンセント
俺は騎士団長の応接室に呼ばれて、ミレシアとリュートと同じソファに座っている。
契約結婚だった二人が、最初から好き合っていて、本当の結婚だと確かめ合ってる。
俺は何のために呼ばれたんだ……。
ミレシアがメイドとして騎士団の寮で働けなくなったから、俺のフェルスター侯爵家に行くことになった。
親父は、ミレシアを俺に屋敷に送らせるために呼んだだろうな。
話し合いが終わってからでいいのに。
ミレシアとリュートは屋敷に行く準備のために騎士団長の部屋を出て行った。
「顔色が悪いぞヴィンセント」
死んだようにソファに座っていると、親父に言われる。
「騎士団長はミレシアの気持ちを尊重してリュートとくっつけるためにメイドとして働かせていたんですか?」
「ミレシアのたっての希望だったからなぁ。お前の方とくっついてくれればと思ったんだが……」
「は?」
何言ってんだこの人?
今の見てただろう。
完全に俺の入り込む隙間なんてないのに。
だから親父には会いたくなかったんだ……。
俺が、ミレシアが居なくなった三年前から、ずっと探しているのを見て、『他に女はいる』とか、散々言われた。俺にとってはミレシアは幼なじみだから心配なだけだったのに……。
でも——。
今になったら分かる……。
俺は、ずっとミレシアが好きだったんだ——。
『自分の気持ちを自覚してから、ちゃんと振られないとスッキリしないだろう。好きだって自覚したら抱きしめただって変わるし、僕へのミレシアの見方も変わって好きになってくれるかもしれないし……』
ジュリアン王太子が言っていた事だ。
自分にも当てはまると思った。
『ジュリアン様の見方は少し変わりましたけど……』
ミレシアがそう答えているのを聞いて、胸の中で何かがうずいた。
『だからって、リュート様より好きになんてなれません。三年分の重みがありますから』
——俺とミレシアになら、もっと長い十年以上の重みがある。
メイドの部屋がある別棟の裏口に馬といると、ミレシアとリュートが出てきた。
ミレシアの荷物はあまりないようだったが、リュートがしっかり運んでいた。
ミレシアを馬に載せると、
「ミレシアをよろしく、ヴィンセント」
リュートが言う。
お前に言われなくても、ミレシアは何よりも大事に扱うつもりだ。
そんな怒りが湧いてきて、ハッとする。
リュートはミレシアの夫なんだから、俺に妻のことを頼むのは当然だ。
「ああ、俺の家に行く道だ。慣れてるし、そんなに遠くないから、心配するな、リュート」
俺は理不尽な怒りを、リュートを気遣う事でなかった事にしようとする。
「今度行く時はリュートも連れていくから、騎士団での仕事を済ませておけよ」
「分かった」
ここまで、リュートの世話を焼く必要はなかっただろう……。
リュートは気にしてないが……。
馬に一人で乗っていたミレシアにリュートが近づいてキスする——。
「——っ!」
騎士団長の応接室での二人は抱き合っていただろう……。
数日前に、リュートが酔っ払ってキスしたのが初めてだったくせに……何回キスしてるんだ……!
俺は馬に飛び乗って、ミレシアの後ろに座って、ミレシアの身体を引き寄せた。
「ミレシアが馬から落ちる!」
「あ、ごめん……」
そこまで緊急でミレシアが危ないことは無かったが、リュートはキスに夢中でミレシアの危険にも気を配れてなかったな……。
ただ、ミレシアが落ちてもリュートなら抱き止められただろう……危険はなかった……。
「リュート様! 待っていますから!」
馬を走らせると、ミレシアがリュートに叫んだ。
「ミレシア……!」
リュートの方も叫ぶ。
……こうなると、俺が二人の仲を引き裂いているようだな……。
しばらく馬を走らせるとすぐに俺のフェルスター侯爵家が見えてくる。
フェルスター侯爵家は、代々騎士団に関わる重役を務めてきた家系だから、騎士団の本部に比較的近い場所に屋敷がある。
屋敷につくとカタリナが待っていた。
「ミレシア! どこに行っていたの!? ずっと、お兄様と私であなたを探していたんだから……!」
わーっとカタリナがミレシアに抱きついて泣いている……。
しまった!
ミレシアが騎士団の寮でメイドになって現れたと、カタリナに報告するのを忘れてた——!
俺の方はミレシアとは数週間前から会っているから、行方不明の幼なじみにやっと再会出来た感がなくなっているが、カタリナは数週間前の俺だ。
休日の度に、何処の誰と結婚したかも分からないミレシアと、どこかで会えないかと街を彷徨っていた俺だ。
街のどこかで再会したら、俺もカタリナのように泣いていたかもしれない。
カタリナに泣きつかれたミレシアも、ジワジワと自分が三年間も音信不通だったことを思い出していく。
「ご、ごめんなさい! カタリナ……私、自分が大変だったから、あなたが私を心配してるなんて考えられなくて……」
ポロポロとミレシアの目からも涙が溢れ出していた。
「うん、きっとそうだと思う。大変だったのね。お兄様があなたの部屋を整える間に何があったのか話して」
カタリナはミレシアを自分の部屋に連れて行ってしまう。
「……三年間も探していてくれたんですか? カタリナとヴィンセントも……」
去り際に、ミレシアの声が聞こえてきた。
ドキッとした。
幼なじみを妹と探していただけだ……知られていけない事なんてない……と思っていたが……。
それは、ただの幼なじみに向けるだけの気持ちだったのだろうか?
自分の気持ちを自覚してしまってからは、おかしな行動にしか映らない……。
ミレシアの部屋を用意して、カタリナのところに行く。
「ミレシア、部屋が用意できた……」
ビクッとミレシアの肩が動く。
俺を見るミレシアの顔が怯えを含んでいる。
この短時間に何があった——。
「ヴィンセント……」
ミレシアが口を開く。




