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魔力ゼロの無能判定を下された転生者、本物の身体操作で世界を凌駕する  作者: Y.K
第1章

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新世代の術理、|魔導騎士の脳を破壊する

「な、何が起きた……!? 我が精鋭のナイフを、生身の脇腹で弾いた、だと……!? そんな馬鹿なことがあってたまるか!」


 馬上の黒甲冑──ヴァレンシュタイン公爵家・魔導騎士団の隊長が、現実を受け入れられないといった様子で、引きつった悲鳴を上げた。


 元騎士である父親のガルクも、涙に暮れていた母親のセリアも、開いた口が塞がらないという顔で僕を見つめている。


 それもそのはずだ。この世界における絶対の力──ステータス強化を極限まで高めた大男の本気の突きを、魔力ゼロ判定の、わずか七歳の子供が、防具も魔法障壁もなしに、薄皮一枚の掠り傷だけで完全に無力化してしまったのだから。


 僕の脇腹にナイフを押し当てたまま硬直している巨漢の騎士は、まるで得体の知れない怪物を目の当たりにしたかのように、恐怖でガタガタと手甲を震わせていた。


「お、お前……一体どんな『物理無効』(ノン・フィジカル)の固有スキルを使っているんだ……! 魔力ゼロの無能に、そんな規格外のチートスキルが発現するはずが……!」


「スキルなんかじゃないよ。ただの『緩解』さ。君たちの言葉で言えば、体内の魔力抵抗を一時的にゼロにした効率的なリラックス……要するに、突き刺さる瞬間に極限まで肉体の力を抜いただけだよ。身体をガチガチに固めて力むから、刃のエネルギーが一点に集中して突き刺さるんだ。固めずにエネルギーを地面に逃がしてしまえば、君たちの誇る魔力強化なんて、僕のこの柔らかい皮膚すら貫通できないんだよ」


 僕は、ナイフが脇腹に触れたままの状態で、驚愕に顔を歪める巨漢の騎士を見上げ、爽やかに微笑みかけた。


「ば、化け物……っ!! な、なんだお前のその気味の悪い身体はぁああっ!?」


 騎士が恐怖に狂ったように叫び、慌ててナイフを引き抜いて距離を取ろうとする。


 しかし、現代の論理派武術家が、そんな絶好の『死に体』──体勢を崩して隙だらけになった状態を見逃すはずがなかった。


「力に頼った攻撃の後には、必ず大きな隙ができる。──さあ、お返しだよ」


 僕は自然体のまま構えることもせず、右手をスッと、本当にただ上から『放り投げる』ようにして、巨漢の胸元へ落とした。


(──『軸定・反発伝播』(ベクトル・リンク)

 先ほど秘密基地の廃屋で、エルを相手に実験したばかりの身体操作だ。


 腕の筋肉で力任せに押し出すのではない。僕の足の裏がしっかりと地面を捉え、その地面からの反発力が、僕の骨盤、垂直にミリ単位の狂いもなく立った背骨の軸、そしてリラックスした肩を通り、一切のブレーキなしで相手の肉体に流れ込む。


「が、はぁっ!?」


 ボフッ、とまたしても布団を叩いたような、軽くて地味な音が響く。


 衣服の表面には、何の傷もついていない。しかし、次の瞬間、巨漢の騎士の身体は、まるで大型の攻城兵器の砲弾でも直撃したかのように真後ろへと吹き飛んだ。


 鈍重なプレートアーマーを激しく金属音とともに鳴らしながら、ハルバート家の庭の生垣を凄まじい勢いで突き破り、そのまま裏の泥土へと頭から突っ込んでピクリとも動かなくなる。


 一撃──いや、ただ優しく手を触れただけで、完全な失神だった。


「……え? あ、足の裏からの……反発力だけで、あの巨体を……?」


 地面に膝をつかされていたガルクが、信じられないものを見たというように、間抜けた声を漏らした。


 元騎士として前線で戦ってきた彼だからこそ、今の僕の動きに『魔力の予備動作』──発動時の輝きや、魔力の強引な収束が一切なかったことに、誰よりも戦慄し、そして理解が追いつかずにいた。


「お、のれぇええ! 総員、構えろ! そいつはただのガキではない! 新手の特異個体か、どこかの組織が育てた暗殺者の化け物だ! 馬の質量を乗せて、四方から囲んで叩き潰せ!」


 パニックを怒号で覆い隠すように、隊長が命令を下す。

 残された三騎の魔導騎士たちが、一斉に巨大な軍馬の手綱を引き、僕を取り囲むようにして突撃を開始した。


 彼らが手にするのは、馬上の質量と速度を乗せた、凶悪なまでの大剣と突撃槍。それぞれが宮廷魔導師直系の、強力な身体強化魔法のオーラを全身にまとわせている。庭の木々が突風のような圧力で激しく揺れ、凄まじい風圧が僕の小さな身体へと殺到した。


 さすがに、多勢に無勢。おまけに相手は訓練された馬に乗ったプロの集団だ。


 純粋な物理的質量と、四方からの同時攻撃。一方向への絶対的な強さを誇る『軸定』の打撃だけでは、この全方位からの物量を捌き切るには、現在の僕の子供の身体では少しだけ手数が足りないのも事実だった。

(……やれやれ。これだから、一方向の最適解だけじゃ万能じゃないんだよね。やっぱり多対一の状況はリアルに厳しいな)


 僕は冷静に『転位』の歩法を脳内でトレースし、大剣の軌道からわずか数ミリだけ軸をずらして離脱する準備を始める。

 防戦一方の泥仕合になるかと思われた、その刹那──。


「──ジンの両親から、その汚い剣を引き下げろ、この脳筋無能(ステータス・オタク)ども!!」

 夕闇が迫る路地裏から、凛とした、しかし怒りに激しく震える少女の声が響き渡った。


 エルだ。


 彼女は秘密基地から息を切らせてここまで駆けつけ、泥だらけになったシャツのまま、僕のすぐ後ろへと滑り込んできた。その手には、あの魔術数式が書き殴られたノートが固く握られている。


「エル!? 来るなって言ったのに……! ここは僕一人でどうにでも──」


「相棒を置いて一人で格好つけるなんて、僕が許さないよ、ジン! それに、僕の作った数式はね……君の身体と繋がって初めて、世界をひっくり返す『最強』になるんだから!」


 エルが僕の左手を、下から力強く、ぎゅっと握りしめた。


 その瞬間、彼女の冷たい手のひらから、凄まじい密度でありながらも、驚くほど僕の魔力波形に整えられたエネルギーの奔流が、僕の体内の経絡へと流れ込んできた。


(──『圏境・共鳴軸』コスモ・シンクロニシティ、接続!)


 脳内で、2人のパズルが完全に、そして完璧に融合した。


 僕が意識を空間全体──この庭、突撃してくる騎士たち、そして背後の森へと拡大させる『圏境』を展開する。その僕の広大な空間認識データに、エルの天才的な魔法演算がダイレクトにプラグインされる。


 その瞬間、エルの身体をこれまで苛んでいた『病弱の拒絶反応』が、僕の『圏境』の調和によって完全に消失した。エルの目から涙が消え、その中性的な美しい顔に、圧倒的な不敵の笑みが浮かぶ。


 僕の身体操作のデータが、共鳴によってエルの魔力回路を上書き駆動し、2人の肉体と魔力の波形が完全にシンクロする。


「いくよ、ジン! 敵の魔力ベクトル、最適化演算完了──全波形、反転中和する!」


「了解。──『転位』、開始」


 僕とエルは、しっかりと手を繋いだまま、同時に地を蹴った。


 突撃してくる三騎の魔導騎士。彼らの大剣が振り下ろされる直前、僕たちの身体は、まるで陽炎のように揺らめいて、騎士たちの視界から完全に『消失』した。


 エルの演算によって、騎士たちの視線と魔力感知の死角──零コンマ秒の隙間を完璧に割り出した、極限の『転位』の足捌きだ。


「なっ……消え──どこへ行った!?」

「ここだよ、おじさん」


 次の瞬間、僕とエルは、右側の騎士の軍馬の真横へと、滑り込むように位置していた。


 手を繋いだまま、僕の右拳と、エルの左拳が、同時に騎士の甲冑の脇腹へと添えられる。

(──|『軸定・共鳴浸透打撃』《テクス・バースト》)


 2人の揃った『軸定』の姿勢から、全く同じタイミング、同じベクトルで、筋肉のブレーキを外した拳が放たれた。

 

 ──ド(ごう)んっ!!!


 それは、先ほどの僕一人の打撃とは、明らかに次元の違う破壊音だった。


 エルの精密な魔力制御によって、打撃の衝撃波が騎士の頑強なプレートアーマーの分子隙間を完全に透過。外側の鎧には一切傷をつけないまま、内部の魔力経絡(マナ・サーキット)そのものを、文字通り『内側から爆破』したのだ。


「ぶふぁっ!?」


 鎧に包まれたまま、馬上の騎士が真横に数メートル吹き飛び、地面に激突して一瞬で気絶する。乗っていた軍馬は、主を失い、何が起きたか分からず嘶きながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。


「ば、バカな……! 我が精鋭が、子供の、ただの小突くだけの動きで……! 防御魔法すら意味を成さないというのか!?」


 隊長が恐怖に顔を引きつらせる。

 残る二騎が慌てて距離を取ろうとしたが、僕たちの新世代の武術魔法の前には、距離など何の意味もなさなかった。


「エル、次はあの2人。重心のバランスが左に寄ってる。馬の歩調が乱れた」


「うん、解析完了! ベクトルの支点、今から奪うよ!」


 手を繋いだまま、僕とエルはダンスを踊るような滑らかな『転位』で、残る騎士たちの懐へと同時に肉薄した。

 

 ステータス最底辺の無能と、病弱な落ちこぼれ。

 そんな2人が創り上げた、チートに頼らない本物の『技術』が、今、異世界の絶対的な暴力であったはずの魔導騎士たちを、文字通り赤子の手をひねるように蹂躙し始めていた。

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