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魔力ゼロの無能判定を下された転生者、本物の身体操作で世界を凌駕する  作者: Y.K
第1章

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世も末なクソガキどもへの「ミリ単位の見切り」

「おい無能、無視してんじゃねえよ!」

 ガキ大将の拳が、僕の顔面めがけて真っ直ぐに突き出された。


 わずかにパチパチと青い火花のような光が散っている。この世界でいう『身体強化魔法』の初歩だ。魔力を拳にまとわせ、力任せにぶん殴る。子供の喧嘩としてはそれなりに脅威的な威力だろう。



 取り巻きのガキどもが「やっちまえ!」と下品な声を上げる。



 ──だけど、僕からすれば、その攻撃はあまりにもスローモーションだった。



(大振りが過ぎるな。予備動作が大きすぎて、どこに打ってくるか丸分かりだ。それに……筋肉をガチガチに固めて魔力を乗せている。本人は強くしているつもりなんだろうけど、それじゃあ自分で自分の動きにブレーキをかけているようなものだよ)



 僕は一歩も引かなかった。



 ただ、顎をわずかに引き、背骨を垂直に揃える『軸定』の姿勢を維持する。



 フッ、と風を切る音が鼓膜を揺らした。



 クソガキの拳が、僕の鼻先をかすめる。距離にして、わずか数ミリメートル。



 相手の攻撃の軌道を完全に読み切り、必要最小限の動きだけでかわす──前世の道場で磨き上げた『転位』の技術、ミリ単位の見切りだ。



「ぶっ……え!?」



 手応えのない空振りに、クソガキの目が驚愕に見開かれる。


 力任せに放った一撃が空を切ったのだ。ガチガチに力んでいた彼の身体は、当然、前方へと大きくバランスを崩す。



 そこに、僕はそっと手を添えた。



 本当に、触れるだけの優しい手。



 ──ここから筋肉のブレーキを一気に外す『緩解』を行う。



 自分の体重、位置エネルギー、そして体内に超高密度で圧縮されていた魔力の波を、添えた手のひらから一気に相手へと流し込む。ダムの決壊のような脱力のエネルギーだ。



 力で押し倒すのではない。相手が勝手に前のめりに倒れ込もうとする「ベクトルの向き」の先を、僕の手のひらでほんの少し誘導してあげただけ。



「う、わああああっ!?」



 クソガキの巨体が、まるで重力を失ったかのように宙を浮いた。



 次の瞬間、自分の突進の勢いをそのまま何倍にも増幅された彼は、勢いよく地面へと頭から叩きつけられた。



 ドガァン!! と、子供の喧嘩とは思えない鈍い衝撃音が広場に響き渡る。



「……あぶ、ぶっ」



 ガキ大将は白目を剥き、口から泡を吹いてその場に卒倒した。完全な失神だ。



 魔法の光は綺麗に消え失せ、地面の泥まみれになってピクリとも動かなくなった。



 静寂が、広場を支配する。



「ひ、ひいいいっ!?」

「ば、化け物……!」



 残された取り巻きのガキ二人が、腰を抜かして地面にへたり込んでいた。彼らの股間からは情けない液体が染み出し、強烈なアンモニア臭が漂ってくる。恐怖のあまり脱糞、放尿してしまったらしい。



 僕は買い物袋を律儀に持ち直すと、彼らを見下ろして爽やかに微笑みかけた。



「君たちの身体強化、魔力を固めすぎて速度も質量もロスしてるよ。もっとリラックスして、重心の移動を意識した方がいい。……あ、もう僕の両親のこと、バカにしないでね?」



「う、うわあああああん!!」



 取り巻きどもは泣き叫びながら、気絶したガキ大将を置き去りにして一目散に逃げ出していった。



(やれやれ。僕としてはただの親切なアドバイスのつもりだったんだけどな。まあ、これで少しは静かになるだろう)



 前世の屈強な大人の肉体と違って、この七歳の子供の身体は非常に繊細だ。だからこそ、力に頼らない純粋な『理』による一撃が、これ以上ないほど綺麗に決まる。



 ステータスや魔力量なんて、身体操作の極致の前にはただの飾りに過ぎない。



「さて、お母さんに頼まれたお使いの続きを──む?」



 広場を後にしようとしたその時、少し離れた路地裏から、また別の怒鳴り声と、何かを引きずるような不穏な音が聞こえてきた。



 そこには、さっき僕が撃退したクソガキの残党か、あるいは別のいじめっ子グループだろうか。数人の少年たちが、一人の子供を囲んで泥の中に押しつけていた。



「おい、嘘つきの無能! 『魔力瞬間爆発理論』だあ? そんなにすごい理論があるなら、今ここで魔法を使ってみせろよ!」



「できないだろ? やっぱり嘘つきじゃん! ヴァレンシュタイン家の恥晒しが!」



 いじめっ子たちが、容赦なくその子の背中を蹴りつける。



 泥まみれになりながら、地面に這いつくばっているのは──驚くほど整った顔立ちをした、同い年くらいの中性的な美少年だった。



 その少年は、悔しさに唇を噛み締め、大粒の涙をポロポロと流しながら、泥水の中で震えていた。

 僕は、静かに歩みを進めた。



 拳の関節を、パキパキと軽く鳴らす。



(……一日に二回も教育が必要な現場に遭遇するなんてね。本当に、世も末だな。よし──あの子も、きっちり助けてあげようか)



 それが、僕と『エル』──世界を塗り替えることになる、最高の相棒との運命の出会いだった。



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