第八話
まだ日は完全に落ちていないのに
家の中は暗かった。
正確に言うと
明るく感じない。
マサルは、壁にもたれて座っていた。
呼吸が重いのが自分でもよく分かっていた。
ユリは少し離れた場所にいる。
ヒヨリを後ろにかばうように。
その行為が今のマサルにどれほど辛いことなのか
ユリもわかっていた。
「……ごめんな」
マサルが、ぽつりと呟いた。
ユリが、マサルに聞き返した。
「何が?」
「全部」
ユリは首を横に張り、少しだけ強い声でいった。
「謝らないで!あなたは、守ったでしょ」
「……守れてないだろ」
短い間の後にマサルが、苦笑しながら
呟いた。
体を一瞬ビクンと動かし
マサルはユリの後ろに″ゆっくり″目を向けた。
その視線の違和感はユリも気づいていた。
「パパ、寝るの?」
ヒヨリが小さく発した。
マサルはいつもの顔に戻り少しだけ目を細める。
「……そんな感じだな」
「そっか」
ヒヨリはマサルに笑いかけた。
「じゃあさ」
少し間をおいてから
「起きたら目玉焼き作ってね」
マサルの呼吸が、一瞬止まる。
何も言えずにユリが、目を閉じた。
マサルは、ゆっくりと頷く。
「任せとけ!!」
いつものあの顔
ふざけたような作った顔。
ヒヨリがユリの後ろから動こうとした。
ユリは咄嗟に止めていた。
ヒヨリはユリの手を優しく下ろして
もう一度マサルに向かって歩いていった。
「ヒヨリ、ストップ」
マサルの手が届かないギリギリの距離まで
きたヒヨリに
少しだけ強い、でも優しい声でマサルは言った。
ヒヨリは足を止めた。
外のオレンジは
消えかかっていた。
「いい子でいろよ」
ヒヨリを見るいつもの優しい父の顔をしていた。
同じ顔でユリに視線を変えた。
「ちょっと寝るわ……後は頼んだ」
ユリは肩を振るわせながら
声を出さずに何度も頷いた。
2人を目に焼き付けたマサルは
下を向いて
ゆっくりと目を閉じた




