第六話
定期的に流れるテレビのアラート音
遠くで聞こえる悲鳴
花火のような破裂音
何かがぶつかる音
そんな音たちが部屋には
小さく響いていた。
そして時折静寂。
その静寂の間に
壁にもたれかかったマサルが言葉を投げる
「……なあ」
ユリが、顔を上げる。
ヒヨリも、同じように見る。
マサルは、言葉を選ぶのに少しだけ迷った。
そして無理に笑顔を使り
「……俺、ちょっとコンビニ行ってくるわ」
と一言。
「だめ!」
ユリが言葉を被せてきた。
今の現状を無視するかのようなマサルの一言
その意味をユリは知っていたからだ。
騒音と静寂が
3人の間を何度も行き来した。
「……これ、ダメなやつだな」
軽く言ったつもりだった。
でも、声が震えていた。
ヒヨリが、首を振る。
「そんなことない!」
ヒヨリはすぐに否定した。その言葉は
思いやりや優しさではなく。本当にそう思って発した言葉だろう。
マサルは、その顔を見て
ほんの少しだけ。目を細めて
「……そっか」
と優しく返した。
マサルはもう一度、テレビを見る。
そして、ポケットからスマートフォンを出して
何か打ち込んでいた。
♪♪♪
ユリのスマートフォンが
音を立てる
ユリがすかさずスマートフォンに
目を向けると
「キツイと思うけど横になるから俺が動かなくなったら首に包丁刺してくれ」
自分良よがりな言葉。
2人のことを考えていないような自己中心的な言葉。
ただ、今のマサルが考えられる最善策は
それしかなった。
ヒヨリに何かあったかバレないように
ユリは涙を堪えた。
そんなユリをマサルは真剣な顔で見ていた
その視線に合わせることができなかった。
マサルの肩が、わずかに揺れる。
最初は、小さく。
そして呼吸が、乱れる。
マサルはそれを抑えようとしていた。
「……くそ」
誰にも聞こえないように呟いた。
肩の揺れが
増えていくのがわかる。
抑えが効かないほどに…
マサルは絞り出すように声を漏らした。
「……何してんだよ」
誰が悪いわけでもない。
だからこそ苛立ちを自分に向けるしかできなかった。
拳を握り
床に、膝から崩れ落ちる。
その音にヒヨリがびくっと肩を動かした。
それを見たマサルは、慌てて顔をヒヨリに向けた。
「……ごめん」
そのあとが続かなかった。
ヒヨリにかける言葉が出てこない。
「……守るって、言ったのに」
「……約束したのに」
それからマサルは
小さな声で独り言のように呟いた。
マサルに駆け寄ろうとしたヒヨリの肩に
反射的にユリが手をかけた。
ヒヨリがユリに振り返る。
その顔を見たユリはゆっくりとその手を外した。
迷いはあった。
それでもユリは、マサルに近づくヒヨリを
傍観することしかできなかった。
「……パパ」
ヒヨリの声かけにマサルは顔を上げない。
ヒヨリが手を伸ばしそっと
マサルの腕に触れた。
びくっと、マサルの体が揺れた。
「大丈夫だよ」
ヒヨリが優しくマサルに伝えた。
「パパだもん」
マサルは込み上げてくるものを必死で押し込めた。
自分でいられる時間がほとんどない事は
自分が1番分かっている。
この愛しい声がもうすぐ聞けなくなることも
それを壊してしまうかもしれないことも…
それでも……時間が許す限り
話したい、伝えたいことがあることも…
マサルは答えを渡さずにいた。
ヒヨリはもう一度
その愛しい声でマサルに投げかける。
「ヒヨリのパパだもん!」
その声が耳を通ると
マサルは
周りの雑音と張り合うかのように
子供みたいに泣いていた。
この残された時間、
3人の時間を進めながら…




