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第四話

マサルは後ろを確認しながら

ヒヨリとユリを支えるようにして走った。


このまま何もなくと願うマサル。

しかし、現実は甘くなかった。


追いかけてくる

足音が増えていく。後ろだけじゃない。

横からも、前からも。


「こっちだ!」


マサルは大通りへと進路を変えた。

見晴らしのいい方が2人を守れる。

咄嗟に出た判断がマサルを動かした。



今度はマサルが前方を走った。

絶対に離さないように2人の手を引いて


隠し切れない焦りがマサルの

足を早めた。


マサル自身も気付かないほどに。


先についていけなくなったのは

ヒヨリだった。


足がもつれて

ヒヨリは倒れてしまった。

その衝撃に引っ張られて

ユリも倒れ込んだ。




ーーー3人の手は離れていた。ーーー



「ユリ!ヒヨリ!」


マサルが2人の手の感触がないことに

気づいた時には少し距離ができていた。


焦りがそうさせたのか、

すぐに気付くことができなかった。




エンジンの唸りが、空気を裂いた。

その音は周りを気にしながら走っていた

何分か前よりもハッキリと聞こえた。


カーブにより死角になっていた後方から

徐々に大きくなってくる。


体勢を立て直そうとしている

2人の背後へ蛇行する車が

まるで獲物を捉えるかの如く向かってきた。

制御を失っているのが一目で分かる。


「――っ」


鉄の塊が

2人との距離を詰める。


ヒヨリは震えながら車の方を見て動けなかった。


マサルは動き出そうとしたが、

体が動かなかった。

視線だけが揺れ動いた。


ヒヨリ。


ユリ。




ユリはマサルの方を見ていた。



少し困ったような笑みを浮かべて…


ほんの一瞬。

時間が止まったみたいに、音が消える。


ふと朝の光景が、よぎった。


「ヒヨリをお願いね。」



マサルの体を動いた。


突然動いたことによるものなのか

ふくらはぎの筋肉が鋭い痛みを感じた。


気がついた時には

ヒヨリを抱き抱えて転がっていた。


風圧が、身体を叩く。

金属がぶつかる音が、遅れて響く。

視界が白くなる。

煙、焦げた匂い


肺に入る煙を逃すように

咳をしながら


ヒヨリに声をかけた。


「……ヒヨリ!」

「パパ!」


小さな手が

マサルの背中をギュッと包んでいた。


「よかった……よかった……」



そしてもう一つの心配


荒い呼吸が落ち着く前に

薄れていく煙の中に視線を移した。

うっすら倒れているような影を見つける。


「ユ……」





「ゲホ!ゲホ!」


その影はふらふらと

咳をしながら立ち上がった。


「ユリ……!」


ユリが顔を上げる。


「マサル…わたし…」


囲んでいた煙が晴れると

ヒヨリが最初に倒れていた所に

黒いタイヤ痕があった。


「ママ!」


ヒヨリがユリに駆け寄った。


ユリはヒヨリを強く抱きしめた。

そしてその2人をもっと強い力でマサルが抱きしめた。


「よかった!ユリ!ごめ…!!」

「違うよ!マサル!ありがとう!」


3人の緊張が緩んだ瞬間でもあった。


背後で、何かが擦れる音がした。


緩んだ緊張のせいなのか、強い安堵感からなのか

誰も、すぐには気づかなかった。



腕が伸びる。




腐った手。




「――っ!」


生暖かい息と突き刺すような痛みを肩に感じた。







「任せとけ!」

いつものあのふざけた顔がユリの頭をよぎる


ユリが振り返る。


「マサル!?」


マサルが、肩を掴む腕を

力任せに引き剥がし

その腕の持ち主を地面に叩きつけていた。



叫び声を上げながら

地面に横たわる顔を何度も踏みつける。


その叫び声は2人には聞こえないようだった。


横たわるソレは動かなくなっていた。

 

マサルの肩から、血が流れている。


ヒヨリが、小さく呟く。



「……パパ?」


マサルは、ゆっくりとヒヨリを見る。


“いつもの顔”に戻る。


「……大丈夫だ」


そう言ってマサルは笑った。


…つもりだった。

うまく、できていたかは分からない。



「……うそでしょ」


誰に向けた言葉か分からないまま、漏れる。

マサルは、何も言わない。


ヒヨリを見ているその視線だけが、

さっきと変わっていなかった。

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