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第二話

靴を揃えるヒヨリの背中を見ながら

ユリが声をかける。


「マスクちゃんと持った?」

「持ったー!」

「ランドセルのポケット?」

「うん!入ってる!」


マサルが、その横で靴を履いている。

「よぉし!今日もパパと一緒に

学校へ行くぞ!お楽しみの登校デートだな!!」 


ヒヨリが笑う。


それでもユリは今日も心配そうにマサルに

声をかけた。


「ほんとに大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。ちょっと体調悪い人が増えてるんでしょ?」

「“ちょっと”じゃない地域もあるって書いてあった」

「でも“原因不明”ってだけでしょ?」

「それが一番怖いんだけど」


マサルは軽く肩をすくめる。


「まあでもさ、どこも“通常通り”って言ってるし」

「“通常通り”が一番信用できないやつでしょ」

「俺も心配だけど変に学校休ませられないだろ?

この俺様が一緒に付き添って学校行ってるから大丈夫だよ!」 


マサルはいつものおちゃらけた調子で答える。


「校内にはマサル行けないでしょ…」


マサルはウッと苦い顔をした。


「マサル……ヒヨリをお願いね。」


ユリは少し困ったような笑みを浮かべて

マサルに伝えた。


「任せとけ!」


作った顔をしてふざけているように見えるが

芯のある声。


ユリはそれが何を意味するかわかっていた。



「パパ行くよ!!ママ!いってきます!」


いつも通りの弾んだヒヨリの声がした。


「いってらっしゃい」


といつも通りにユリが返した。


「帰り、気をつけてね」

「うん!」


ヒヨリが笑う。


マサルは笑いながらユリを安心させるように

軽く手を振る。

それから真面目な顔で

「なんかあったら、すぐ連絡する」と伝えた。


ほんの少しだけ、間を置いてから。

その言葉に、ユリは頷いた


玄関のドアが閉まる音が家に響いた。

家の中はさっきと打って変わって静かだ。

ユリはしばらく、その場に立っていた。

何かを考えているような、考えていないような顔。


静寂の中にふと

テレビの音だけが、流れ込んでくる


『――本日未明、複数の地域で同様の症状が確認されており』


『現在、専門機関が原因の特定を急いでいます』


リビングに戻り、リモコンの電源ボタンを押そうとするが、なんとなくテレビを見てみた。


画面の中には救急車に担架で人が運ばれている映像と

コメンテーター達の感染に対する憶測的な話が繰り返し映し出されていた。


気がつけばユリはテレビから視線を外していた。


「……大丈夫」


小さく、独り言のように呟く。

誰に言っているのか、自分でも分かっていない。


いつも通りに

朝食の片付けを済まそうとしたそのときだった。

スマートフォンが震えた。


画面にはマサルの名前。

少しだけ、安心した顔になる。


「もしもし?」


返事はなかった。


「マサル?」


通話中の画面の奥から

風の音。遠くで、何かが倒れる音。

それとともにマサルの声が聞こえた。


「……ユリ」


ユリの表情が変わる。


「どうしたの?どこにいるの?」


短い沈黙がユリには何よりも長く感じた。





「家から出るな!」

「え?」

「……ヒヨリを…連れ…帰…か…」


言葉が途切れる。何かにぶつかる音。

ユリは息が荒くなる。


「マサル!?ねえ、どうしたの!」


マサルからの答えはなかった。

ただ、電話口の奥からマサルのではない

“うめき声のようなもの”が、聞こえてきた。

それが何か確認する前に通話が途切れてしまった。


ユリは

スマートフォンを握ったまましばらく動けなかった。


呼吸が荒くなったのを自分でも感じていた。



テレビの音はまだ流れている。





『――接触による感染の可能性も指摘されており――』


ユリは、顔を上げる。

確かに変わらない

さっきまでと同じ部屋。同じ朝。

それでも何かが、決定的に違っていた。


もう戻れないと、どこかで分かっていた。

さっき食べた朝ごはんの皿があるテーブルの脇を通り



玄関のドアを開けた。

どこか、変な匂いのする外の空気が流れ込んできた。


遠くで、誰かが叫んでいる声が聞こえた気がした。

ユリは鍵もかけずに外へ駆け出した。







♪♪♪





『速報:原因不明の感染症患者、各地で暴力行動を伴う事案が発生しています。危険ですので外出は絶対に避けて自宅待機して下さい。』




誰もいない部屋のテレビから

アラーム音だけが何度も鳴り響いていた

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