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第一話

フライパンの上で、卵がはじける音がした。


「よし、今日は完璧だな」

マサルが妙に得意げな声を出す。


キッチンには、少しだけ焦げた匂いが漂っていた。

「それ、昨日も言ってたよね」


ユリがコーヒーを注ぎながら

ちらりとだけ視線を向ける。


「いや昨日は“ほぼ完璧”だから。今日は完全体」

「その完全体、ちょっと黒いけど?」

「焼き色だよ、焼き色。プロっぽいだろ」

「どこのプロ?」


ため息まじりの声だったけど、トゲはなかった。

マサルは気にせず皿にトーストと目玉焼きを乗せる。

ちょっと崩れている。

けど、見た目よりはちゃんとしている。


「ヒヨリ、起きてるかー?」


リビングのほうに向かって、大げさな声を出す。

トテトテと小さな足音と小さな影が現れた。


「起きてるー!」


まだ反抗期には早い小学五年生の娘、

ヒヨリが目をこすりながら歩いてくる


マサルは笑いながら、その頭に手を置いた。

くしゃっと、少し乱暴に撫でる。



「……ほら、やっぱり寝ぐせすごい」

ユリが近づいてきて、ヒヨリの髪を整える。

手つきは慣れている。


「パパのせいだよ」

「え、なんで俺?」

「昨日、変な寝方させたでしょ」

「あれは訓練だよ。どんな場所でも寝られるように」

「いらないからそのスキル」




テレビからは朝のニュースが流れていた。

いつもの番組がいつも通り流れているが、


ここ数日は、いつも通りではない

『原因不明の体調不良 各地で報告相次ぐ』

と言う画面端の小さなテロップが貼り付くようになっていた。



アナウンサーは明るい声のまま、次の話題へ移る。

『続いては、今日の天気です――』


「ヒヨリ、今日は学校どうする?」

ユリが何気なく聞く。


「普通に行くよ」

ヒヨリは迷いなく答えた。


「友達行くって言ってたし」

「そっか」


ユリはそれ以上何も言わない。

少しだけ、視線をテレビに向ける。

マサルは、その様子を横目で見ていた。


「大丈夫だって」

軽い調子で言う。


「いつもの“ちょっとしたやつ”だろ。騒ぎすぎ」

「……そうだといいけど」

「大丈夫大丈夫。もしなんかあったら――」


ヒヨリのほうを見て

にやっと笑って、胸を叩く。


「パパが守るから」


「またそれ」

ユリが呆れたように笑う。


「ヒヨリ、騙されちゃダメよ。こういうの一番信用ならないから」

「えー、かっこいいのに」

「今のどこが?」

「全部!」


ヒヨリが即答する。


マサルは、パァッと顔を明るくして

嬉しそうにしていた。

そして、わざとらしく咳払いをして、背筋を伸ばす。


「まあな。パパは家族守る係だからな」

「自分で言うんだ、それ」


ヒヨリが笑う。

ユリも、小さく笑う。


マサルの手が、無意識にヒヨリの頭に触れる。

さっきと同じ場所。同じ動き。


とても温かい手だった。




テレビの音は、もう誰も聞いていなかった。


『――現在、原因の特定には至っておらず』

『一部地域では、接触を避けるよう――』


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