プロローグ
家族か、それ以外か。
【あなた】は
″なに″を守る?
はじめまして。
昔から頭の中にあった話を、今回思い切って書いてみました。
全、19話の短編です。
ゾンビものですが、怖さよりも家族の話です。
ゆっくり読んでもらえたら嬉しいです。
男は、動かなくなっていた。
呼吸はしていない。
頭を下ろし、うなだれているような姿勢。
その少し離れたところで女は呼吸を整えていた。
震えた手には包丁が握りしめられていた。
ガチャ
女の後ろにある扉が開く音。
そこから小さな声が聞こえた。
「……パパ?」
目をこすりながら少女が、小さく呼ぶ。
女の肩がわずかに動く。
咄嗟に包丁を少女に見えない角度に持ち変える
「パパー!」
少女は走り出した。
「待って…!」
とっさに出た声は、思ったよりも弱かった。
女は手に持つ刃をどうするか一瞬戸惑う。
少女は女の横を駆け抜けていた。
その声で、男は
ゆっくりと顔を上げた。
生きているはずがないのに…
関節が、引っかかるように動く。
乾いた音が、首の奥で鳴った気がした。
目は濁っている。焦点も合っていない。
それでも確かに“何か”を捉えたように動きが止まる。
それに少女は一歩近づいた。
震えている。けれど止まらない。
女が包丁を強く握り直し
動き出そうとした時
掃き出し窓に、何かがぶつかる音がした。
次いで、ガラスが砕ける。
低いうめき声が、いくつも重なって
部屋の外から滲み込んでくる。
男の視線が、わずかに揺れた。
少女から、うめき声のする方へ
そしてまた戻る。
本能のようで、迷いのようでもある動き。
次の瞬間、ガラスが内側へ弾け飛んだ。
壊れた隙間から、腐った腕がいくつも伸びてくる。
皮膚は剥がれ、肉が覗き、骨が軋んでいる。
それでもその腕たちは動いていた。
まっすぐに、少女のほうへ。
「!!!」
少女の名前を呼ぶ
女の声が、今度は、はっきりと出る。
駆け出そうとした、その瞬間…
男が、一歩、前に出た。
少女と【それら】のあいだに立つ。
最初に飛び込んできた【それ】の首を
男は掴んだ。
指が、肉に沈む。骨ごと、ねじる。
鈍い音と一緒に、首があり得ない方向へ曲がった。
女は、動けなかった。
逃げるなら今しかない。
それでも目を逸らすことができなかった。
ただ見ている。
それが“何か”を確かめるように。
次の一体が男に食らいつく。
皮膚が裂ける音がした。
男は振り払わない。
ただ、少女の前から動かない。
やがて、部屋は静かになった。
複数の【それら】の残骸。
水滴が滴り落ちる音だけが小さく響く
男は、しばらくその場に立っていた。
やがて、ゆっくりと振り返る。
少女と、目が合った。
「……ありがとう、パパ」
小さな声だった。
男が、一歩
少女へ近付いた。
血を踏む音が、やけに大きく響く。
「……」
女が、低く少女の名を呼ぶ。
止めるつもりだった。
止めなければいけないと、分かっていた。
その手が、少女の頭へ伸びる。
途中で、一瞬だけ止まる。
噛みつくには、ちょうどいい距離だった。
女の喉が、ひくりと鳴る。
男の手はそのまま
少女の頭の上に落ちた。
撫でるような動きにはならない。
ただ、そこに置かれるだけだ。
重く、冷たい感触。
少女は、目を閉じた。
女は、その光景から目を離せなかった。
理解しようとしている。
これは何か。
あれは何なのか。
男の手が、わずかに震える。
理由は、分からない。
女の中に、言葉にならない問いが沈む。
それでも男のその手は
少女の頭の上にあった。
読んでいただきありがとうございました!駄文ですし、おそらくツッコミどころ満載ですが……
あたたかく見守っていただけると嬉しいです!




