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第十八話

ユリは、ヒヨリの前にしゃがみ込み

涙で滲んだ顔に目線を合わせた。


「ヒヨリ……聞いて」


できるだけ、ゆっくりと

言葉を紡いだ。



「パパね……今、ちょっと特別な体になってるの」


言葉を選びながら

ユリはヒヨリに伝えていった。



「だから……お医者さんたちに、

ちゃんと見てもらわないといけないの」


「やだ!」


ヒヨリは首を横に振る。


「やだやだやだ!パパいっしょにいるの!」


ヒヨリはその後自分の父親がどうなるのか…

本能で感じているのだろう。


ユリの胸が、強く締めつけられる。


「ヒヨリ……」

「いやだ!!」


ヒヨリの声が大きくなった。


「パパおいてかない!!」


ユリは、言葉を探した。

優しく。でもちゃんと伝わるように。


「ね、ヒヨリ」

「パパね、ずっと守ってくれてたでしょ?」


少しだけ、ヒヨリの動きが止まった。


「おうちでも、外でも……ずっと」

「……うん」

ヒヨリはユリの言葉に耳を貸し小さく、頷いた。


「だからね………」


喉が、詰まる。


「今度は、ママたちが頑張る番なの……」



そうなってはダメなのは分かっている。

それでもユリの声は震えてしまっていた。


ヒヨリがユリの顔に視線をずらした。

ユリの目から涙がこぼれるのを静かに見ていた。




「……ママだって、嫌だよ」


ユリは揺れる声で続けた。


「パパと一緒にいたいよ」


抑えていたものが、溢れていた。


「ずっと一緒にいたいよ……!」


「でも、パパ1人じゃ疲れちゃうでしょ……」


「だから今度は……ママがヒヨリを守りたいの」



ヒヨリの顔が、崩れた。

一度、堪えていたものが、また溢れた。



小さく、弱く。

ユリはヒヨリを抱きしめた。


その感覚は

いつか、マサルがヒヨリの頭に手を乗せた時の…

あの感覚に似ていた……



二人の泣き声が重なる。



その様子を

少し離れた場所で

ユリと言葉を交わした男が見ていた。



「おい、″彼″の網…とってやれ。」

「し…しかし!」

「大丈夫だ…」


男は部下にそう伝えた。

その後、男は静かに天井に顔を向けた。









ユリが、ヒヨリの手を取る。


その小さな手をぎゅっと握り

マサルの方へ向きを直す。


「……パパ」


ヒヨリの震えた声が小さく響いた。



「ありがとう」



それから少しの間、時間が止まる。




そして、ヒヨリはユリの手を握り直した。

今度は少し明るい声で



「ヒヨリね……」

「もう、大丈夫だよ!」



ヒヨリはここ数日見ることのなかった

満面の笑顔をマサルに向けた。



ヒヨリが頑張っている。

ユリも耐えようとするが、

涙を止めることが出来なかった。







マサルの腕がゆっくりと動いた。




その腕は二人へ、伸びる。





「――!」



周囲の隊員が、反応する。



銃が、一斉に向く。




再び、緊張が、張り詰める。




「やめろ」




低い声。




「下げろ」




わずかにマサルに向く銃口が下がる。




マサルの手が。



二人に、届いた。



頭に。




ゆっくりと。




なでるような不器用な動き。




ヒヨリは込み上げてくるものを耐えながら

マサルに笑顔を向け続ける。



ユリはマサルと視線があったような気がした。



その顔は




″少し困ったような笑顔″をしていた気がした。

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