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エピローグ

フライパンの上で、油が小さく跳ねる。

白身がじわりと広がっていく。


静かな朝。

窓の外では遠くで聞こえる子ども達の声や

車の音が行き交っていた。



″あの日″から

しばらくの時が立っていた。


この国の対応はとても素晴らしく

事態収束、復興というものは驚くほどに早く

進み続けていた。



真偽も定かでない感染原因を識者たちが

声高に論じていたテレビや

追悼の特別番組、

残された家族のドキュメンタリー、


そういったメディアも少しずつ

少なくなっていた。



ただ、一つ、

大きく変わったのは


″すべての新生児は出生直後に

特別予防接種を受けなければならない″



という新しい法律が増えた。




それに対しての非難の声、不満なども

法律改正した直後に比べて

今は少しずつ落ち着いてきているようだった。







「トウヤー!ごはんできたよ」


キッチンから女の声が飛ぶ。


「はーい!」


それに返すように元気な返事が聞こえ

リビングを、小さな足音が駆け回る。

手に飛行機のおもちゃを持ちながら


「ぶーん!」


「こら、危ないから走らないの」


「だいじょーぶ!」


そのやりとりに、思わず女の笑みがこぼれた。


「パパも起こしてきてくれる?」

「うん!ぶーん!!」


トウヤと呼ばれる小さな男の子が

おもちゃの飛行機と共に奥の部屋へ走っていく。


「パパー!ごはんできたー!!」


少しして。

寝ぼけた声と、足音が戻ってきた。

そして、三人が、テーブルについた。


「いただきます」


重なる声。

トーストの上に、目玉焼きを乗せようとするトウヤ。



「こうやるんだよなー」


小さな手がつるり、と滑り

黄身が崩れた。



「……あっ」


ぐちゃぐちゃになった目玉焼き。




女の手が、止まり

視線が、そこに吸い寄せられた。



不格好な、目玉焼き。




ふいに記憶が重なった。





笑いながら作っていた顔。

得意げに出してきた、同じような失敗作。

今日と同じようないつも通りの朝。

 


気づいたときには女の目から

涙が落ちていた。



「……ヒヨリ?」


隣の男が、少し驚いたように覗き込み


「どうした?」

と心配の声をかけた。



「……ごめんね!なんでもない!」


「ママ、泣いてるの?」



トウヤが、椅子から身を乗り出し、

ヒヨリを心配そうに見ていた。


「ちがうよ、大丈夫」


そう言いながらヒヨリは目元を拭った。




小さな手がヒヨリに伸びてきた。

それは頭にそっと触れた。


「ママ、僕が泣いている時

いつもこうやってくれるから」


「トウヤも、ママのことなでなでするね!」



無邪気な声でトウヤはそう言った。



その手の温もりをヒヨリは知っていた。




父の残響   完

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



もともとはもう少し長い物語を想定していて、マサルの視点では、彼がどんな思いで家族を守り続けたのか、その他にもさまざまな出会いや葛藤など…前半はパンデミック系。 

その後のユリの視点では、家族と世界の間で揺れる選択や、政府から逃げる?マサルを諦める?みたいな葛藤のパンデミックと人間同志の悩み的なことをより深く描きたいと思っていました。



ですが、小説を書くのは今回が初めてで、思うように表現しきれなかった部分も多くあります。


どこかで見たことがあるように感じる部分や、文章の拙さ、矛盾や至らない点もあったかもしれません。

それでも、ここまで読み進めてくださったことに、心から感謝しています。

この物語のどこか一つでも、あなたの中に残るものがあれば嬉しいです。

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