綴屋
目の前に、ほかほかと湯気の立つお茶漬けがある。あられと刻みのりに囲まれて、真っ赤な梅干しが輝いている。お湯で溶かすだけの市販のお茶漬けとは違って、甘味のない爽やかな緑茶の香りが立ち上っている。
「とりあえず食えや」
テーブル席の斜向かいには彼岸花模様の刺繍が施された黒い羽織を纏う金髪の美丈夫がつまらなそうに座っていて、言いながらかちりとライターを鳴らして煙草に火を点けた。
そして正面には背筋をぴしりと立てた、これまた美しい男が座っていた。髪も肌も、身に纏うスーツも何もかも真っ白な、異様な感じのする男だ。柔らかい微笑みを浮かべているのに、何故か猫に威嚇されているような印象を受ける。きっと僕のことが気に入らないのだろう。
金と白。印象の違う美しい男たちを目の前にして、ただでさえ無い食欲が湧くはずもない。
「いや、あの…お腹、空いてなくて」
「へぇ、口答えする元気は残ってんだ」
馬鹿にしているというのとは違う、むしろどこか安心したような声色で金色の男が言った。
そもそもどうして僕がこんな男たちとテーブルを囲んでいるのかということを説明すべきだろうか。
『境界美術館』の最後の展示品の前で動けなくなっていた僕は、閉館時間を過ぎてもそこにうずくまっていた。
金髪の男が閉館時間を告げにきても動くことが出来なくて、華奢なその男が肩を貸してくれても結局二人でよろけて転んだりをしていたら、白い男が現れた。
「赤西」
金髪の男が心底ほっとしたような声を出した。少し意外に思って、体の力がふっと抜けたところを、白い男の腕によって担がれるようにしてこの場所に運ばれた。
「多分そいつ、しばらく何も食べてない。低血糖か脱水起こしてると思う。綴屋に連れてけ」
低血糖という言葉に、灯のことを思い出してまた体が強張った。
抵抗もしないままに連れてこられたのがこの場所。
綴屋という店だった。




