届いたかもしれない声
六枚目はまた、たくさんのシャボン玉が川のように空に連なっている絵だ。
『私、間違ってるよね。学校でも家でも一人じゃないのに。みんな優しいのに寂しいなんて変だよね…。
一人でシャボン玉を吹いてる時間が一番落ち着くなんて、誰にも言えない。
一人になりたいわけじゃないのに、一人でいるのが一番落ち着くなんて。
誰に言ったらいいのかな。
誰なら笑わないで聞いてくれるのかな』
灯の切実な声に、胸が詰まる。
間違ってないよ。僕も一人が落ち着くよ。
一人で部屋にいる時、一人で本を読む時、一人で道を歩く時。一人が好きだよ。
僕もそうだよ。
僕は心の中で、もうここにはいない灯に声をかける。すると六枚目の絵からもう一つ声が聞こえてきた。
『え?宿題?やってないやってない』
ヘラヘラしたニヤケ声の主は僕だ。
でも、こんなこと灯に言った覚えはない。
そもそも変声期を終えた僕が灯と話すことなんて一度もなかったのだから。
そこまで考えて僕には一つの可能性に気付いた。いや、そうであって欲しいという僕自身の願いに行き着いた。
『誰なら笑わないで聞いてくれるのかな』と逡巡した灯は、その時僕を思い浮かべてくれたんじゃないだろうか。
きっとクラスメイトか誰かに軽いノリで返した「え?宿題?やってないやってない」なんていうくだらない声が灯に届いていたんだ。そんなどうでもいいことを灯はこの時思い出してくれたのか。
これは僕の望みだ。切実に悩む灯の中に、僕がまだいたのかもしれないという希望だ。
実際は、この時期の僕はすでに灯を避けていたのに、灯の中には僕がいたのだと、そう僕が思いたいだけの下衆な自己満足だ。
目の端から涙がこぼれ落ちていくのを、もう止められなかった。
僕がそばにいて気付いていれば良かったのに。せめて、くだらない話を交わすことくらいすれば良かったのに。
「止まるな」
絵から目を上げると、聞こえていないはずの真珠もどこか辛そうに目を細めていた。
「止まるな。止まると…知るのがもっと怖くなる」
真珠は次の絵を指し示した。七枚目だ。




