弾けても、きれい
真珠が並べ直した灯の走馬灯を一つ目から順番に聞いていく。
様々な大きさのシャボン玉が空を舞う絵。川のように連なって風に吹かれるシャボン玉の虹色の向こうに青い空が透けて美しい絵。
『ママー!もっともっと!シャボン玉たくさんしてー!』
楽しそうな灯の声と、その後ろで笑っている僕の声が聞こえる。浮かんできた幼い頃の情景は痛いくらいに鮮明だ。
春の公園。足元の芝生がくすぐったくて、繋いだ灯の手は温かかった。
『どっちが大きいの作れるか競争!』
言い出したのは僕だった。灯は満面の笑みで「いいよ!」と言って、付き合ってくれた。
そうだ、この時僕は大きなシャボン玉を作ってみせたんだ。
「ひさちゃんすごーい!」
勝負に勝って胸を張る僕に灯はそう言って手を叩いた。
走馬灯の声だけじゃない。記憶の中の灯の声まで同時に再生されていく。
絵には描かれていない幼い灯の笑顔までちゃんと思い出せる。
小さい頃からこんなに、こんなに大切な女の子だったのに。
「おい、次だ」
真珠が次の絵を指し示す。
次も同じような構図のシャボン玉の絵だった。けれど空の色が違う。夕方のオレンジ色の空にシャボン玉が浮かんでいる。
『シャボン玉っていいよな。一つでも綺麗だし、弾けても綺麗だし』
聞こえてきたのは変声期を迎えた頃の僕のしゃがれ声だった。小学校の高学年くらいの頃だろうか。
「そうかな、弾けちゃったら寂しくない?」記憶の中の灯が言う。
その次に僕が言った言葉は絵から聞こえた。
『寂しくないよ。綺麗だったなーって優しい気持ちが残るだけじゃん』
小学生の自分がこんなことを言っていたのかと、少しだけ驚く。きっと何気なく口にした軽い言葉だったんだろう。僕はそんなに思慮深い方じゃないし、小学生の頃なら尚更だ。僕のこの言葉の後に灯はなんて言ったんだっけ。
シャボン玉を見上げているふりをしながら、横目で夕日に照らされる灯の横顔を盗み見た記憶が蘇っていく。
オレンジ色の光の中で、灯の頬がマシュマロのようにふわりと柔らかな笑顔になる。その瞬間まで鮮やかに思い出して、そう。
「いいね。ひさちゃんのそういう考え方好きだなぁ」
灯はそう言ったんだ。




