悪趣味
「荒療治が過ぎるね。真珠」
二本の串焼きをなんとか咀嚼して飲み込み、ぐったりとしている僕の前に、薄く濁った水の入ったグラスを置きながら、さっきまでカウンターの中にいた男が言った。
身長が高くて、身体が逆三角形に引き締まっているのがわかる。欧米人のような体つきなのに、顔立ちは狐のような純和風だ。一重の目を三日月の形にして柔らかく笑っているのに、身に纏う漆黒の着物が周り全ての光を吸収してしまうような不気味な存在感がある。
なのに、脳が思考を止めているままの僕は(また綺麗な男が増えた)という簡単な感想しか抱けない。
「これ、取り急ぎで作った経口補水液だけど、飲んだ方がいいよ」
薄濁りのグラスを指さしてその狐顔の男は言った。
「経口補水液って…作れるんですね」
脳を通さず脊髄反射で出た言葉の馬鹿馬鹿しさに自分でも驚いた。急激に恥ずかしさが湧いてきて、誤魔化すようにそのグラスの中身を半分ほど飲む。嚥下が上手くいかずに盛大にむせた。
じわじわと『生活』が戻ってきたのを感じる。
「そんなに急いで飲まなくていいよ。経口補水液は一口ずつゆっくりと飲んだ方が効果的だから」
狐顔の男が僕の背中をさすりながら、染み込んでいくような低音で囁く。
大きな手のひらの感触が心地いい。誰かに触れられたのはいつ以来だろう。
昔、僕がむせたり咳き込んだ時は、いつだって灯が背中を撫でてくれた。あの手は紅葉のように小さかったけど、柔らかくて温かかった。
またじわりと眼球の表面に涙の幕が張られていくのを感じて、奥歯を噛み締めた。
「大丈夫だよ。わかってると思うけど、君が食べたのはただの鶏肉。君は、君の愛しい人の肉を食べてなんていないから安心してね。…全く、真珠は悪趣味だな」
愛しい人。愛しい人って言ったか?僕はこの人たちに灯について一言も、ましてや僕が灯に抱いていた仄暗い恋情なんて話していないのに。
「モモセ!真珠を愚弄することは許さないからな!」
僕の思考を遮るように、立ち上がったのは白い男だ。真珠と呼ばれた金色の男は、そんな会話など聞こえていないかのように素知らぬ顔をして細い指先に挟んだ煙草の紫煙を燻らせている。




