摂取
「食え。口に入れろ」
信じられなくて目を見開いた。助けを求めて白い男を見ても柔和な微笑みでこちらを眺めているだけ。カウンターの男も同じようなリアクションだ。
「いや、僕…今何も…」
食えないです。そう言う前に男の金髪が揺れた。ハツの串を持ち、発言するために薄く開いた僕の口の中に突っ込んだのだ。
「これは高尾灯の心臓」
言われた瞬間に喉の奥がぐぅっと鳴った。差し込まれた肉を、条件反射で奥歯が食む。
気持ち悪いと思いそうになるのを堪えて、二、三度噛んで無理やり飲み込む。
止めていた呼吸を繋ぐために口を開くと今度はレバーが差し込まれる。
「これは高尾灯の肝臓」
「うぅっ…!」
柔らかい肉からじゅわりと溢れる肉汁に、微かに血の匂いを感じる。
噛む。舌の上で肉が割れる、転がる。肉の、灯の味が舌に広がる。
吐き出せるわけがない。水で薄めてしまうことすら嫌で、強張って狭まる喉に無理やり押し込むようにして飲み込んだ。
泣きながら金色の男を睨むが、満足そうな笑みを浮かべて「よく出来ました」と言い、煙草の煙を吐いた。
彼の笑みは恐ろしいほど美しかった。背筋が凍るほどゾッとしながら、この男の笑顔を見るのは初めてだと気づく。
彼の笑顔はとても、地に足の付いている印象を受けた。造形があまりにも美しいのに、どこか汚れている。
久しぶりに肉を飲み込んだ吐き気と戦いながら僕は、目の前にいる輝くような金色の男が、この世界にちゃんと実在する存在であることに安堵していた。
普通に生きて、当たり前に傷ついて、心を閉ざしたりしながら歩いてきた、その人生のざらつきを想像して安心した。
この人は生きてる。
「あと一口ずつ、食えるな?」
皿に乗ったあと一欠けずつのハツとレバーを差し出される。
僕は思考停止で頷いた。
「食ったら、もう少し話そうか」
そう言って金色の美しい男は形の良い薄い唇に煙草を咥えた。




