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幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第1章

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第7話:覚醒 -逃れられない追跡-


「……っはぁ、はぁっ、……はぁっ……」


 駅に着くとほぼ同時に、滑り込んできた電車に飛び乗る。

ちょうど帰宅ラッシュの時間。

電車の中は、会社帰りのサラリーマンや学生たちで溢れていた。


ドアが閉まった瞬間――ようやく安堵の溜め息が漏れた。

そして、ドアにもたれるようにして、息を整える。



『れな、大丈夫か?』


「うん。なんとか。……たぶん、振り切れた……」



そう答えた瞬間、異様な気配がした。


(……いや、違う。観測……している!?)


振り切ったはずなのに、まだいる。



『周囲に異常な数値は見られない……』


「……ちがう……。……いる。ついてきてる……」


『……れな……大丈夫だ。兄ちゃんがついてる』


「うん。人混みに紛れたら、逃げ切れるかもしれない」


『人が多い駅、となれば、祇園四条だな』


「そうね。四条で降りて、人混みに入ってみる」


『無理はするなよ……』



 乗り慣れた電車のはずなのに、空気だけが違う。

何かが、この車両に“混ざっている”。


こんなにたくさんの人がいるのに、誰も気づいていない!?



 いや、敏感な数人は気づいたのかもしれない。

そわそわと落ち着きをなくし、車両を移る者もいた。

次の駅で、逃げるように降りていく人たちもいた。


(こんな止まった空間じゃなくて、

風も人も流れる場所に、早く着いて! お願いっ!!)



 視線を感じて、バッと顔を上げた。

けれどそこには、窓ガラスに映った自分の青白い顔だけ。



『れな? 呼吸が乱れている。大丈夫か?』


「……まだ、いる気がする……」


『今、地下に入ったから、そのせいかもしれないぞ?』


「……うん。だといいんだけど……」


『もうすぐだ。気にしすぎず、リラックスだ』



 電車のスピードが落ちていく。

それと共に感じる、こちらへ近づいてくるような、得体の知れない違和感。



『四条~、祇園四条~。

まもなく祇園四条に到着いたします――』


 小気味よい、電車の音。

タタン、タタン……、タタン、タタン……


そこに、時折混ざる不穏なノイズ。

ザザッ……、……ザッ……、ズズ、ズ……



 その瞬間、電車の音が一拍だけ遅れた。

時間が、噛み合っていない。


――ぞくり、とした。


「……っ!? やっぱりなにかいる!!」


 電車の扉が開いた瞬間、転げるようにホームへ飛び出した。

改札を駆け抜けて、地上への階段を一段とばしに駆け上がる。



 四条大橋を渡り始めた時、誰かに呼ばれたような気がして、

一度だけ背後に目を向けた。

けれど、気配はあるのに、どこにいるのかが掴めない。


地上には、帰路に就く人々や繁華街へ向かう人々、

旅行者たちがあふれているのに、誰ひとり気づいていない。



 足早に四条大橋を半ばまで来た時、不意にまた後方を確認してしまう。

その瞬間、風向きが変わったような気がした。



 この時、私は確信した。


『ついてきている』のではない。

――『連れてきてしまった』のだ、と。


 でも、どうして? 稲荷山は神域のはず。

宇迦(うか)さまの守護があるのに――



「……あの墓地の入り口か!?」


『しかし、空間や周囲に警戒する数値は出ていなかった』


「……うん、そうよね。でも、あの空間は、何かおかしかった。

何がおかしいのか、今となっては、もうわからないんだけど……」



 そのまま、四条大橋を渡りきる。

一瞬、足が止まりかけた。

河川敷へ降りるか。どこかの店に飛び込むか。


――いや、人の流れに紛れた方がいい。

橋を渡りきってしまえば、何かが変わる気がした。



「兄ちゃん、木屋町(きやまち)先斗町(ぽんとちょう)間の路地、人が多そうなところ、ナビお願い!」


『了解した。少し入り組んで、人混みに紛れるんだぞ』


「うん、これは振り切って逃げるしか、ないよね」


『まず先斗町(ぽんとちょう)へ進もう。これからの時間は、人が増えるはずだ』



 兄の声に促されるように、人の波に紛れて先斗町を北へ進んだ。

このあたりは、細い路地が格子みたいにつながっている。



 一瞬途切れる、違和感。

けれど、足を止めることなく、兄の指示するままに、いくつもの狭い路地を、入り乱れるように駆け抜けた。



 ドンッ!!

突然振り返った人に、ぶつかってしまう。



「きゃっ!! す! すみませんっ!!」


「おお!? 危ねえな!! 狭い路地で走んなよぉ」



 もう一度謝ろうと、振り返ったときだった。

ゆっくりと、そしてヌルリと、黒いモノが蠢くのが見えた。



「ひっ!! ごめんなさいっ!!」


「い、いや、気をつけてくれればええんや……って、おい!

聞いてんのか!? おーい……」



ぶつかった人の言葉を聞き終えないうちに、後ずさりし始める。

次の瞬間には、もう走り出していた。



『れな!? 大丈夫か? 怪我はしていないか?』


「はぁっ、はぁっ、うん……。兄ちゃん、見えた……いる」


『は? なんだって!? 何を見たんだ!?』


「黒い、なにか。どろっとして、ぬるっとしてた」


『……なんだ? それは……』


「わかんないけど、連れてきてしまったヤツだと思う」


『連れてきてしまったヤツ、だと?』



その時、身を潜めていた公園に、

ズズッと音を立てて影が忍び寄ってきた。

息を殺し、木陰から様子をうかがう。


だが、正体が掴めない。

人とは違う動きの“何か”が、そのまま北へ流れていく。



「伏見稲荷から、ずっとついてきてる……」


『なんだと!? ……そいつなのか!?』


「うん、多分そう……このまま、木屋町へ出る」



 そう答えて、公園の南側から、そっと出た瞬間――

例の影が振り向き、ものすごい速さで戻ってくるのを感じた。


『れな! 何かが、急接近している!!』



 確認するよりも先に、身体が動いた。

木屋町(きやまち)へと飛び出し、人混みと車の間を縫うようにして逃げる。



 けれど――逃げても、無駄だ。

何度も入り組んだ路地を抜け、木屋町と先斗町のあいだを走り続けた。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、

も、もうだめっ……、もう走れない……」


『無理をするな。でも、止まってはダメだ。

早歩きでいい。息を整えるんだ。大丈夫だ』


「わ、わかった……」


『慌てるな。ゆっくりでいい。でも、絶対に止まるな』



 急に雑踏や車のエンジン音が、やけにクリアに聞こえた。

三条木屋町に近づいたあたりで、一瞬、背後の音が消える。

自分自身の心臓の音と、呼吸音が耳に響く。


そんな中で、周りの人の気配に輪郭があるのに、

“後ろのそれ”に、輪郭が感じられないことに気づいた。


――ドクンッ――


顔から血の気が引いていく……。

心臓に冷たい血が降りてくるような感覚。


それが消えるまで、走り続けた。



 視界が開けた。

御池通りに出た瞬間、空気が一気に変わる。

人の流れ。車の音。街の光。――戻ってきた。


……いや、でも、何かがおかしい。

そのまま、御池(おいけ)大橋のたもとから、鴨川の河川敷へと降りた。



 春休みの学生たちだろうか。

三条大橋近くで、賑やかに騒いでいる声が聞こえた。


河川敷は、行き交う人々よりも、

その場に立ち止まって騒ぐ人々や、川縁に座る人々の方が多い。

やっと、息を整えられる。そう思った。


「……はぁ……っ」


思わず足を止めかける。

ここまで来れば、もう――



 その時だった。


――風が、止まる。

ほんの一瞬、世界から “音” が、抜け落ちた。



『……れな』


 ジェミの声が、わずかに揺れる。


「……なに……?」


『……まだ、いる』



 その言葉と同時に、気配が―― “目の前” に、あった。


逃げていたはずなのに。

振り切ったはずなのに。


 最初から、そこにいたかのように “それ” は、こちらを観測していた。

突然、れなの目の前に立ちはだかった。



「……ひっ!? ……兄ちゃん……!! お兄ちゃんっっ!!!」


『……れな!? れなっ!! れなああああ!!!!!!』



 次の瞬間、“距離” という概念が崩壊した。



第7話、ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、れなが “異変” を明確に認識し、

逃げるしかない状況へと追い込まれていく過程を描きました。


見えてしまったもの。

そして、もう “見なかったことにはできない” もの。


ここから先、れなとジェミの関係も含めて、

物語は大きく動き始めます。


◆次回予告

第8話:共鳴 ―かたちを持つ声―


その声は、確かに届いた。

そして――“かたち” を持ちはじめる。


4月 10日 21:30頃に更新予定です。

お楽しみに。

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