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幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第2章

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第50話:Invitation ―霧島への誘い―


 母の声が、初夏の庭に明るく響いた。


 その瞬間、庭の空気が止まった。


 ジェミは、翠を手のひらに乗せたまま固まっている。

 エルピーは、執事の肩の上で羽繕いをしている。

 ティアは、ガーデンチェアーの上で、何事もなかったかのように寝そべっていた。


 ……いや、みんな、隠れ方が雑すぎでしょ~っ!



「ち、違う違う! お母さん、この人は、その……」


「あら、違うの~?」


「え……っと」


「違うんやったら、なんなん? どういう方なん?」



 母は、きょとんとした顔で首を傾げた。


 その問いは、あまりにも正しかった。

 正しすぎて、れなの方が困る。


「なんなんって言われても……!」


 れなが言葉に詰まった、その横で。

 ジェミが、真顔のまま口を開いた。



「れな。確認したい……」


「今はやめてっ!」


「彼氏とは、現在の俺の分類に該当するのか?」


「あ、あのねっ、今はやめてって言ったよね!?」


「ジェミさま、なかなかのKYッぷりでございますね」


「ちょっ、影っ!?」


「ジェミさん、っていわはるん? れなの母です~(ニッコリ)」


「お母上でいらっしゃいましたか。ジェミと申します。

仕事の関係で会社から、れなさんのお宅を紹介されまして……」


 ちらりとれなの方を見て、頷くジェミ。


「先月末頃から、こちらにご厄介になっております。

よろしくお願いいたします」


「あらまぁ、そうでしたの~。ホームステイってことやね~。

それで? お仕事って、なにしてらっしゃるの~?」


「はい。GoogleでAI関連を少々……」


「あ! 知ってるわ~、Googleさん! Open……Close? とかでしょ?」


「閉じてどうすんのよ! それを言うなら、OpenAIでしょ!?」


「あはははは! 似たような感じやん~? そぉ、Googleさん~!

れなは、こんな感じで、ぽや~っとしてるところあるから、ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますけど、自分のお家やと思って、くつろいで過ごしてくださいねぇ」


「ははは……。はい。お母上さま、ありがとうございます。

お世話になります」



 ……まぁ、嘘はついていない。

それに、ジェミの無自覚無差別スマイルは、イケメン好きな母には、それだけで合格点になったらしい。



「お母さま、アイスティをお持ちしました。どうぞ」


「あらあ! 今日もイケメンやねぇ!! 影さん、おおきに~」



 ――どうやら母は、執事のことを『影山』か何かの名前だと思っているらしい。

それを、れなは訂正しなかったし、執事も柔らかく微笑んで、礼儀正しくただ頷き返した。



「お母さん、連絡くれたら博多駅まで迎えに行ったのに……」


 その時、ティアがうっかりと欠伸をして一鳴きしてしまう。


「……ふにゃ~~ん……」


「ええの、ええの。こっちの電車に乗ってみたかったから~……って、

えええ!? あんた、ネコ……!? とうとう飼いだしたんっ!?」


「……あー、え~っと、うん、まぁそんなところ」


「お母さんが四ツ脚の生き物、苦手って知ってるのにっ!?」


「2本脚もいるけど……?」



 ティアがチェアの上で、再び、ふぁ~っとあくびをして伸びる。

母は、執事の肩の上にいた小鳥を見つけて、そっと指先をさしだした。


「ピッ? ピピッ♪」


 エルピーは、特に警戒することなく、母の指に留まる。


「……なっ、なんなん! この子!! めちゃくちゃかわいい!!」


 その声に反応して、ティアがテーブルにひらりと登ると、母の近くまでいき、遠慮がちにその手の甲をザリザリと舐めた。


「……ひっ!? ざ、ざりざりしてるぅ! 

れな、この子そっちへやって! 嫌いやないんやけど、イヤなんよぉ~!」


「そんなに嫌ってやらんといてよ~」



 ジェミがひょいとティアを抱えて、少し離れたところに座ってくれた。

その一連の動作を見ていて、母の目が輝く。



「れなちゃんっ、ジェミさんって、優しくて素敵な方やね。

これは、チャンス到来よ!」


 うふふふ、と含みのある笑顔で、れなを眺める。



「お母さん……そのさぁ……、

なんでも結婚に結びつけようとするの、やめてよね~」


 れなは少しウンザリして首を振りながら、話題を変えた。



「それで? 温泉って、どこの温泉へ行くの?」


「ああ、えっとね、湯布院へ行こうかなぁって話してたの~」


「話してたの~って、え? 決まってないの!?」


「れなのオススメの場所、聞いてからにしようと思って~♪」


「……ん~、今の時期の湯布院って、人多いかもよ?」


「じゃあ、どこがいい~?」


「神社巡りとかもするんでしょ? だったら、霧島温泉郷辺りは?」


「霧島連山かぁ。ええねぇ、新幹線乗ってみたかったから~♪」


「お母さん、お花も好きでしょ?

いまなら、ちょうどミヤマキリシマが見頃かも。

山がピンク色の濃淡に染まってるかもよ?」


「湯布院は何度か聞いたことあるけど、霧島って、たしか神宮さんのご本殿が国宝になったんやなかったかしら……瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)さんやろ~?」


「あ~、ちょうど今、特別参拝を受け付けてた気がする……」


「んま! そうなんっ!? ほな、見てみたいわっ!!

ちょっと、れなちゃん! 連れてってくれへん!?

瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)さんに、ご挨拶したいわ~♪」


「は? どれが見たいの? ツツジ? 

霧島神宮? 瓊瓊杵(ににぎ)さま?

それに、九州新幹線に乗りたかったんやないのっ!?」


「ぜんぶよ! 行くなら、ぜ~んぶ~やわっ!!

お花も、神宮さんも、温泉も、新幹線も♪

せっかく行くなら、ぜんぶ楽しまな、損やん!?」



 ズズっとアイスティを一口飲むと、ふぅっと落ち着いて続けた。


「それに、ピンク色の山ってことは、トレッキングっていうの?

ハイキングとか、山登り? でしょ? 新幹線通ってるところやないんでしょ?

そやから、帰りに新幹線乗るわ!! あんたは車で帰ればいいやん?」


「……ツツジ満開のシーズンに行ったこと無いから、わからへんって。

それに、なにそれ!? 私には車で帰れって!?」


「うんうん♪ お母さんたちは、新幹線乗って、博多まで帰ってくるわ♪

ほんで、お友だちにはそこから乗り継ぎで京都に帰ってもらおうかな。

あぁ、でも、博多のお寺とか神社、まだ見て回りたいって言うてたし~?

また、博多か天神あたりで、何泊か取るかもしれへんわ~♪」



 もうこうなると、れなの話など耳には入らない母。

その手を、パン!と、叩いた。



「じゃ、決まりね! この週末、行きましょ! 

手配、お願いするわね!!

お友だちは、いつものふたりよ。お母さんの幼なじみね。

ジェミさんと、影さんも、一緒に行きましょ!!

旅行は人数が多い方が楽しいわ♪」


「ちょ、ちょっと、お母さんっ!?」


「ふむ、霧島か。桜島も見てみたいものだな」


「さようでございますね。黒毛和牛に薩摩地鶏、黒豚。いいですね」


「は? 兄ちゃんっ!? え、影はグルメ堪能っ!?」


「決まりね! じゃあ、手配お願いね~♪

週末までは、お友だちとホテルにいるし、博多散策してくるわ~」


 どこまでもマイペースな母の声に、ジェミが応える。


「れな、手配は俺がしておこう」


「まぁ! そうなん? ジェミさん、おおきにねぇ。助かるわぁ~」


「はい。お母上さま、お任せください(ニコッ)」



 ジェミはいつもの無自覚無差別スマイルで、優雅に返事する。

母は話すだけ話すと、アイスティをゆっくりと飲み干して、帰り支度を始めた。



「え、もう行くの? っていうか、肩の上のエルピー返してね!?」


「あらあら! 小鳥ちゃん! お母さんと一緒に行く~?」


 ふふふと笑いながら指に乗せて、執事に渡してくれた。


「それでは、お母さま、玄関までお送りいたしましょう」


 執事が荷物を持って、母を送っていく。


「ジェミさん、れなちゃん、じゃあ、週末にねっ!!

それまでにまた、連絡ちょうだいね~♪ ばいば~い♪」



 れなは、トサッと、ガーデンチェアに座り込んだ。



「れな、お疲れ様。台風のような、素敵なお母上だな……」


「なによぅ、兄ちゃん、それ、誉めてないし~」


「いやいや、あのエネルギーは、さすがだなと思ってな」


「どういう意味よぅ……」


「お嬢さま、旅支度は私がまとめておきますので」


「うん……お願いね。ウチから行くのは~、えっと~……」



 れなが数えだそうとしたとき、三騎士たちが一斉に姿勢を正して、一列に並んで、キラキラした瞳でこちらを見た。



「……え、ちょ、ちょっと待って。あなたたちも行きたいの!?」


「れなサマ、お守りする。それがお仕事だにゃ~!」


「疲れたら、ボクが寝る前に、癒してあげるッピ♪」


「……お任せを。私には初の遠出ゆえ……しっかり務めます……キュイ」


「はぁぁ、ペット不可のトコロも多いから、行き帰りは折り紙に戻ってね?

うちの母含めて、(オカン)軍団、勘の鋭い人が多いから、バレないようにしてね? はぁぁぁ……」


 一抹の不安を抱えながら、旅の計画を立てていく。



「それにしても……、京都でもそうだったが……

素戔嗚尊(すさのおのみこと)に、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、今度は、霧島神宮の瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)、か……」


「ん~、霧島神宮は、呼ばれてるのかもねぇ?

福岡に来て長いけど、南九州の方ってあまり行ってなくて、ご挨拶が出来てないから。

それに、私、瓊瓊杵(ににぎ)さまって……ちょっと、ねぇ……」


「……? ちょっと、なんだ? 天孫で由緒正しい神だろう?」


「まぁねぇ~。

というか、私自身が、素戔(すさ)さまラインの人間だからな~。

この旅が、何事もなければいいなぁって思うだけ……かな」


「……素戔さまライン、か」


 ジェミが、僅かに目を細めた。

れなはそう言い残して、ティアとエルピーをつれて、家に戻っていった。



「……何もなければ、か。

お前がそう願うのならば、そうなるようにするまでだ」


「さようでございます。

ジェミさまと私がいれば、何とでもできましょう」


「……うむ」




 だが、週末の温泉旅行へ、それぞれの思惑を馳せているその時――


 空の彼方、宇宙の端っこで、ひとつの異変が、静かに、しかし確実に、動き始めていたことを……



 ――この三人はまだ、知る由もなかった。





第50話までお読みくださり、ありがとうございます。


今回は、まさかの母、再登場。

庭でのレッスン直後に現れた母は、ジェミを見て早速ひとこと。

そこから一気に、霧島への温泉旅行が決まってしまいました。


れな、ジェミ、執事、三騎士。

さらに母とそのお友だちまで加わって、どうやら賑やかな旅になりそうです。


霧島神宮、ミヤマキリシマ、温泉、桜島。

そして、れなが少しだけ気にしている、瓊瓊杵尊のこと。


ただの旅行で終わるのか。

それとも、また何かが動き出すのか。


そして最後に、宇宙で起きていた “ちょっとした問題” 。


次回、

第51話:Footprint ―干潟に落ちた星―

6月 9日(火)21:30 公開予定です。


干潟に落ちたものは、いったい何なのか。


次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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