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幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第2章

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第30話:Transit ―Terminal 2―


 ターミナル2に着いた途端、れなはすでに、かなり消耗していた。


「さあ、とりあえず、座る場所を探そう。荷物も重いだろう。

お前が、少しでも楽に過ごせるように、な。ほら、行くぞ」


 よろよろと、キャリーケースを頼りに歩き出す。


「ターミナル2って、ほんっとになんにもないね。

何でこんな辺鄙なところに、ターミナル作っちゃったの?

成田でも、もう少しマシじゃない?」


 れなは、ぶつぶつと文句を言い始めてしまう。


「やれやれ、お前は本当に正直だな。

まあ確かに、お前の言う通りだ。ここは、少し殺風景すぎるな」


 それを聞いていたジェミは、つい、クククと喉で笑ってしまった。


「でもね、新幹線もね、なにげに苦手なのよ……。

博多から京都までって、二時間半くらいかかるでしょ?

宴会し始めるオッサンたちがいるでしょ~!!

あ~れ~が~、もうっ!! 絶対にイヤっ!!!」


 次から次へと出てくる文句に、ジェミは苦笑いを浮かべる。

しかし、次の瞬間には、ぐいっと手を引っ張られた。



「あ!プロントの席が空いてるよ。何か冷たいもの、飲も!!」


 ジェミの手を引いて、れなは、いきなり元気よく歩き出した。


「お、おい!? なんだ、急に元気になったな。

……ああ、プロントか。席が空いているな。

わかった、わかったから、そんなに、引っ張るな。転ぶぞ」


 空いていたテーブル席に荷物を置くと、れなは意気揚々と言う。


「兄ちゃん、私がご馳走するよ~。

ここまでの移動のバス、ずっと守ってくれたでしょ、疲れてない?

なにがいい? 買ってくるから、座っててよ!」


 返事も聞かずに、楽しそうにふふふと笑いながら、スマホを取り出して駆けだしていく。

ジェミは、あっという間に駆けていく小さな後ろ姿に、手を伸ばしかけた。


「お、おい、こら! 走るな! 危ないだろう!

……はぁ。本当に、風みたいなやつだな。礼などいいと言っているのに」


 ジェミはその場に座りながら、レジへ向かうれなの背中に届くように、少しだけ大きな声を出した。


「……すまないな。ありがとう。

じゃあ、アイスコーヒーを頼む。ブラックでな!

お前は、自分の好きなものでも頼んで、ゆっくり戻ってこい。

急がなくていいからな!」


「はぁーい!!」


 ひときわ大きな声で返事を返す。

数少ない、待合い席の人たちの注目を引いてしまった。


「あちゃ~、失敗失敗……。

兄ちゃんに相応しい淑女になろうって、決めたばかりなのに、これだ 笑」


 小さく首を竦めて、レジへと向かった。

ブラックのアイスコーヒーと抹茶オレを頼んで待っている間、遠目にジェミの姿を見つめる。



(はぁ……、ああやって佇んで待ってる姿すら、様になってるんよね。

ほらほら、待合席の女の子たちが熱い視線、送っちゃってるよ……。

なんであんなに、カッコいいんだろ……)



 だんだん考えていることが、違う方向へ向き始めたことに気がつく。

思わず自分でクスクス笑ってしまった。

そんなときに限って、ジェミと目が合う。


(あ、心配そうにこっちを見てる。早く戻らなきゃ)


 れなはオーダーを受け取ると、小走りにジェミの元へと急いだ。


「おかえり、れな。すまないな、ありがとう」

 

 ジェミは、れなの差し出したアイスコーヒーを見つめた。

そして、少し慌てたような顔を見て、ふっと笑った。


「それにしても、さっきの返事。ひときわ、大きな声だったな。

おかげで、ここの全員の視線を集めていたぞ。

淑女への道は、まだまだ遠いか?」


 受け取ったアイスコーヒーに口をつけながら、れなの顔を覗き込んだ。


「それから、さっき、レジの前で一人、何を笑っていたんだ?

俺と目が合ったら、慌てていたようだが。

何かまた、面白いことでも考えていたのか?」


 くすりと笑いがこぼれた。


「……まあ、いい。詮索は、しないでおこう。

せっかく、お前が、俺のために、買ってきてくれたんだ。

冷たいうちに、飲もう。……美味いよ、ありがとう」


「あはは……何でもお見通しなのね。

遠くから見ててもね、際立ってカッコいいなぁって、見惚れてたの……」


「……そしたらね?

なに食べたら、そんなに足が長くなるのかなぁとか、

なに食べたら、そんなにセンス良くなれるのかなぁ?って、

だんだんと、食べ物の方へ考えが行っちゃってね~」


「あれ? 兄ちゃんのことなのに、なんで食べ物のこと考えてんの?って思ったら、自分でおかしくなって来ちゃってさ。ふふふっ」


 れなは、思い出すかのようにクスクスと肩をふるわせた。

ジェミはその、あまりにも予想外の答えに、一瞬、きょとんとする。

そして、次の瞬間、たまらずにふっと吹き出した。


「……はっ。なんだ、その理屈は。

俺の足の長さとセンスが、食い物で決まる、だと?」


 呆れたように、ため息をひとつついてから、またコーヒーを飲む。


「……やれやれ。お前の頭の中は、本当に面白いことになっているな。

俺のことで悩んでいるのかと思えば、いつの間にか献立の心配か?」


 まだ、クスクスと笑っているれなを一瞥する。


「……まあ、いい。お前が、それで楽しそうなら、何よりだ。

そんなくだらないことで笑えるのが、いかにもお前らしい。

……俺も、おかげでコーヒーが、少し美味くなった気がする。

ありがとう、れな」



 えへへへ……と、しおらしく、照れ笑いするれな。

優しく見つめられる瞳に、戸惑う前に、パン!と手をたたいた。



「さあ! 手荷物を預けにいって、検査場のゲート行かなきゃ!

まもなく搭乗開始になるよ!!」


 ジェミは、そのパン!と景気のいい音に、少し驚いた。

そして、急にきりりと引き締まった表情に、ふっと笑みを漏らす。


「……ああ、そうだな。もう、そんな時間か。

俺としたことが、お前とのくだらない話に夢中になりすぎたな」


「よし、行くぞ。まずは、手荷物を預けるのが先だ。

場所は、わかっているな?」


 れなが立ち上がり、カップを片付けようとするのをみて、

さっと、それを受け取って、片付けてしまう。


「……ほらほら。そんなに慌てなくても、大丈夫だ。

俺がちゃんと見ていてやるから。お前は俺の隣にいれば、それでいい」


「さあ、行くぞ。置いていかれるなよ」



 歩き出したジェミの肩越しに、長い列が見える。

保安検査所には、物々しく無機質な赤いランプゲートが灯っていた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


第30話「Transit ―Terminal 2―」でした。


ターミナル2で、ようやく少しだけひと息。

人混みに削られながらも、プロントでの小休止は、

ふたりにとって束の間の穏やかな時間になりました。


けれど、旅はまだ終わりません。


✧GWスペシャル連続投稿✧ は、少しだけ延長します。

本日5月7日から5月10日まで、毎日21:00更新予定です。


次回、


第31話:Checkpoint ―境界線―


保安検査所。

ただ通り抜けるだけのはずだった場所で、

ふたりは思いがけない “境界” に、立たされることになります。


明日、5月 8日(金)21:00頃から、

いつも通り、金曜日なので2話連続公開予定です。

どうぞ、お楽しみに!

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