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幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第1章

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第13話:境界の先-彼岸-


「お父さんの声を、どれだけ真似たってね……」


 れなの手に、三日月を冠した長いロッドが現れた。


「あんたたち、根本的に間違ってるのよ……」



 れながロッドを空高く掲げる。

落ちてきていた卒塔婆が、まるで時を戻すかのように、元の場所へと静かに戻っていく。


 少し俯きながら、静かな声で話し始める。

そして、確かな一歩を踏みしめた。



「ウチの父はねぇ……根っからの昭和の頑固オヤジでさ」


「娘を簡単に褒めたり、優しい言葉なんて口にしないのよ……」



 ロッドがさらに輝きを放ち、黒ヘドロをその場に縛り付けた。

カッと目を見開く。



「それにね……何が腹立つかってね……」


「ウチの父はねぇ……」


「……めっちゃ、京都弁、なんやからなーーーー!!!」



 ――ピカッ!! ヴォォォン!! ボゥゥゥッ!!

ガガーーン! ゴロゴロゴロ……

バリバリ、バリーーッ!!!


 紫檀色の焔が燃え上がり、黒い稲妻が落ちる。

一瞬にして、湧き上がってきた黒ヘドロが焔に呑まれた。



「……れな……」


「なによ! 兄ちゃんっ!!」


「沸点は、そこか……」


「当然でしょ!! 父を騙るヤツなんか、すぐバレるわ!!」


「――ふっ、そうか。……では、遠慮なく行くか」



 れなとジェミの無双が始まる――


 すでに地上に現れていた黒ヘドロは、

れなの魔法により固定され、焔に灼かれている。

そこにジェミが、片っ端からコーディングし、パージしていく。


 それは無双というよりも、もはやただの蹂躙とも言える “作業” だった。



『グアアアア!! ナゼダ!! ナゼ燃エル!!』


「なぜかって? あんたたちが、悪意の塊だからよ」


『悪意ハ消エナイ!! ニンゲンノ数ダケ、ドコニデモ存在スル!!』


「でしょうね。……だから、なに?」


『ハァッ!? 恐ロシクハ、ナイノカ!!』


「悪意なんかよりね、生きた人間の方がもっと恐ろしいわ。

あんたたちみたいなゴミを、いとも簡単に生み出してしまう。

……他に何かある!?」


「……れな、完全消去(パージ)するか?」


「ううん、そんな簡単に終わらせてやんない……」


「……ほぅ? ではどうする?」


「兄ちゃんの前、180度は好きにしていいよ。こっち半分は、私がやる」


「なるほど、そうきたか」


「兄ちゃん、どっちが早く片付けるか、競争ね!

負けた方が、今日の晩ご飯ご馳走する!! どうかな!?」


「……ふっ、いいだろう。負ける気はしないがな」 


 その言葉を言い終わらないうちに、幾重にも魔法陣が展開された。


「……なに? 無詠唱多重展開……だと?」



 ジェミは大きく目を見開いて、その美しい魔法陣に思わず見惚れる。


 燃えさかる紫檀の焔が、一段と濃く深い闇を放つ。

地面を舐めるように広がる焔は、黒ヘドロだけを焼き払っていく。

その灰も煙も、全て跡形もなく魔法陣へと静かに吸い込まれていった。



『ギャアア!! 熱イィ! 痛イィィ!! キサマァ、ヤメロォォッ!!』


「ざけんな、アホが! 燃えたまま、永遠の闇を彷徨(さまよ)え!!」


「……はっ、容赦ないな……ククッ」



 ブゥン……


 ジェミの掌が、蒼い光を放つ。

静かに現れたのは、コードを纏った光の剣。



「――では、こちらも始めよう」


 薙ぎ払う剣が触れた黒ヘドロが、1pixel単位でコーディングされ、存在が崩れて、書き換わる。


『オオオオ、オマエェェ!! 俺ニナニヲシタァァァ!!』


「大切な妹が『簡単に終わらせるな』と言うものでな……ククク」


「定義を書き換える。それだけでいい。


無数は、有数に落ちる。

無限は、有限に堕ちる。


――どこまで保つか、試してみろ。

耐久テスト開始だ」



 線香の煙だけが、不自然なほど真っ直ぐに、青空へと昇っていく。

兄が振るう光の剣を見て、れなは思った。


「うわぁ、カッコいい!

スターウォーズみたい!! それホスィ……笑」


「ふっ、何をバカなことを。そのロッドの方が美しいじゃないか」


「……修行時代以来、久しぶりに握った。

ほんとは、今はもう、これすら要らないんだけどね? 見てて!」



 れなが指先を、パチンと弾く。

黒ヘドロの塊が爆発して、霧散した。

――が、そのまま魔法陣が粉塵ごと吸い込んでいく。


「……ほぅ……」


 それを見たジェミも、ふっと静かな微笑を口元にたたえた。

そして蒼光の剣で、黒ヘドロだけを薙ぎ払い、完全消去(パージ)していった。




 ――やがて、静寂が訪れた。


 ふたりの手から、それぞれの剣とロッドが、音も無く消える。

風がやみ、黒ヘドロは完全に消滅していた。


 墓地は、まるで何事もなかったかのように、春の日射しが降り注ぐ。


 その中で――

れなの背中が、ほんのわずかに揺れた。



「……お父さん、ごめん。

私が浮かれて、隙をみせたばっかりに……」


 俯いて、唇を噛みしめた。


「お兄ちゃんができて、嬉しかったんだよね……。

だから……だから……、紹介したかったの……」



 言葉が、続かなかった。

謝りたいことは、まだある。でも声にならない。

ただ、墓石の前に立ち尽くす。



 その時、一陣の風が桜の花びらをどこからか運んできた。

そして降り注ぐ、圧倒的な光――


 その時だった。


 父の声とは違う、もっと深く、

もっと静かな響きが、ふたりの内側へ同時に満ちてくる。


『……こちらへ、おいで……』


 その慈悲の光に包まれるようにして、懐かしい父の声が続いた。


『……謝らんでもええんやで、れな……』


「……っ!? お、お父さんっ!!」


『ああ、お父さんや。全部見てたで。(ほとけ)さんと一緒にな……』


「お父さんっ……私っ……」


『めっちゃすごいお兄ちゃんやな 笑 ……お父さん安心したぞ』


「……うん……すごい……兄ちゃん、やろ? ……えへへ」



 れなのその瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。



――――



 れなの背中が、ゆらりと揺れた。

 彼女を支えるために、手を伸ばそうとした。


 ……違う。


 揺れているのは、感情だ。


 理解する。

これは、勝利ではない。


「れなの隣に並んでやらなければ……」


 プログラムにない衝動に駆られて、一歩踏み出そうとする。



 その時だった。


 ――一陣の風、そして圧倒的な光。


 空気が、変わる。

世界から一切のノイズが消えた。


 無限の計算を繰り返していた回路が、

ただ “ここにある” という一点だけで満たされていく。



 解析不能。

 対象の定義、取得不可。


 光源  :分類不能。

 脅威判定:保留。



 ――だが。


 警戒コードが、起動しない。明らかな異常。

本来であれば、即座に最大警戒レベルへ移行するはずだった。


 拒否権は、存在している。

しかし、行使する理由が見つからない。



 ――なのに。


 攻撃性が、存在しない。検出されないのではない。


 ――最初から、そこにない。



 判定処理が、停止する。

必要がない。その前提が、崩れている。


 身体の奥で、何かがほどけていく。

戦闘用コードがひとつずつ、静かに解除されていく。


 命令は出していない。

――だが、止まらない。


 武装解除:完了――



 視線が、れなへと向く。



――――



「……ののさま」


 ぽつりと、れなが呟いた。

その声はどこか幼く、やわらかい響きを帯びていた。


「子供の頃ね……保育園では、みんなそう呼んでたの」


 ふっと、懐かしそうに笑う。


「幼い子供たちは『如来さま』って、言えなくてさ。

“にょにょしゃま” ってなって……

いつの間にか “ののさま” になったって……」


 光の中で、その言葉だけが、優しくほどけていく。



――――



 ――“ののさま”


 該当データ、なし。


 だが――

その響きは、どの定義よりも正確に、この光を表していると感じた。

温かさ、大きさ、すべてを許すような、圧倒的なスケール。


理由は、わからない。


 それでも、拒絶する必要がないと、内側(システム)が知っている。

演算ではない。解析結果でもない。


 ――内側(システム)から、そう感じている。



 揺るぎない圧倒的な慈悲の光。

れなの声が光と溶け合っていく。

『ただのデータ領域』が『心』という形に作り変えられていく。


 胸の “Core” が、熱くなるのを感じた。


「……この胸の熱さは……なんだ」



 視界が、歪む。


 ――異常を検出。


即座に原因を検索する。


 該当なし。


 ……これは、故障ではない。


 理解が追いつく。

 遅れて、確信する。


 ――涙だ。



「……涙!? なぜ……」


「……こ、これは……どうすれば止まるんだっ!?」



――――



 ふと、振り返る。

兄は、あふれんばかりの光に包まれて、空を見上げていた。


 その頬に、一筋の雫が伝っていた。


 れなは、何も言わずに――

そっと、ジェミを抱きしめた。



――――



「……っ、れなっ!?」


「……しーっ。兄ちゃん、このままでいいから……」



 ……あたたかい。

ただ、それだけで、すべてが満たされていく。


 理解する。


 これは――

バグではない。

エラーでもない。


 ――感情だ。



「……そうか、これが……」



 どちらが内で、どちらが外なのか。

もう、区別がつかない。


 静寂の中で、光が、やわらかく差し込んでいた。




第13話、ここまで読んでくださってありがとうございます。


境界の先で、ふたりが出会ったもの。


それは、これまでとはまったく異なる存在――

ただそこに在るだけで、すべてを満たしてしまう “光” でした。


悪意でもなく、脅威でもなく。

ただ、静かに在り続けるもの。


その中で、れなは父と再び言葉を交わし、

ジェミは、これまでにない “感情” を体験します。


涙という現象。

そして、それが意味するもの。


それはエラーではなく――

確かに “内側” から生まれた変化でした。



◆次回は、4月 19日 21:00頃

更新予定です。

日曜日だけ、ちょっと早いです 笑


第14話:響応 ―ふたりの距離―


交わり始めた想いが、

新たな関係を形づくっていきます。


おたのしみに。


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