↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第3章:家族のかたち《福岡編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
139/143

第139話:お買い物 ―お揃いが嬉しくて―


 翌朝、朝食を終えたレアは、私の隣にぴったりとくっついて座っていた。


 何も言わない。

けれど、私が顔を向けるたびに、にこっと笑う。

その目が、さっきからずっと同じことを訴えている。



「……お買い物、行こっか?」


「行くっ!!」


 返事と同時に立ち上がったレアに、思わず笑ってしまった。

昨日、約束したもんね。



「まずは服と靴やね。あと、小物とかバッグとか、下着とか……」


「れなちんとお揃いのも、欲しい♪」


「うんうん。気に入ったのがあったら、一緒に買おう」



 私の腕に絡みつくレアの向こうで、ジェミが立ち上がる。

たつろーさんも、何やら楽しそうに髭を撫でていた。



「ワシも見立ててやろう。レアには、明るい色が似合いそうじゃな」


「……まず、本人の好みを聞いてからにしろ」


 ジェミが、早くも釘を刺している。まだ家から出てもいないのに。



 その後、全員でロンが運転してくれるファントム号に乗り込んだ。


 ショッピングモールに到着すると、レアは吹き抜けを見上げ、目を輝かせた。


 重なり合うフロア。ガラスの向こうに並ぶ服。

通り過ぎる人たちの手には、色とりどりの紙袋が揺れている。



「うわぁ……いっぱいお店があるぅ!! どこから行こ?」


「まず、服かな?」


「うんっ!」


 レアに手を引かれ、婦人服のお店へ入る。

彼女はハンガーに掛かった服を一枚ずつ見ながら、時々、指先でそっと生地に触れていた。



「これ、思ってたより柔らかい」


「見た目だけやと、わからへんもんね」


「うん。あ、こっちはちょっと重いんやなぁ」



 知識として知っていたものを、ひとつずつ、自分の手で確かめている。

その横顔を見ていたら、急に、いろんなものを買ってあげたくなった。


 ……いかん。財布の紐まで、実体化に感動して緩んでいる。

そんな自分の甘さに、思わずクスクス笑ってしまった。



「レア。これなど、どうじゃ?」


 たつろーさんが持ってきたのは、淡い珊瑚色のブラウスと、ふわりと裾の広がるスカートだった。


「わぁ、かわいい!」


「そうじゃろう。おぬしが着れば、花が咲いたようになるぞ」


 たつろーさんが、満足そうに頷く。

 そこへ、別の服を持ったジェミがやってきた。



「こっちも着てみろ。明日、出かけるなら動きやすい方がいい」


 落ち着いた紺色のワンピースに、薄手のカーディガン。

こちらも、レアによく似合いそうだ。


「おぬし、妹にまで黒系を着させるつもりか?」


「紺だ」


「似たようなものじゃろう」


「違うだろう」



 ……また、始まった。

レアはふたりの顔を見比べると、両方の服を受け取った。



「ほな、着てくるし、待っててな♪」


 最初に着て出てきたのは、たつろーさんの選んだ服だった。

鏡の前でくるりと回ると、スカートの裾が、柔らかく揺れる。


「どう? どうっ!?」


「ほれ、ワシの見立て通りじゃ!」


「うん、かわいい! レア、そっち向いてみて?」



 私が鏡越しに笑うと、レアも嬉しそうに笑った。

ジェミは腕を組んだまま、少しだけ頷く。



「……悪くない。次も着てみろ」


 次のワンピースでは、雰囲気が変わった。

先ほどよりも少し大人っぽくて、でも、笑うとやっぱりレアだった。


「ジェミ兄、意外とセンスええやん?」


「意外は余計だ」


「褒めてるんやで~?」


 たつろーさんが、むう、と口を曲げる。

私は笑いを堪えながら、レアに尋ねた。



「レアは、どっちが好き?」


「両方!」



 ――即答だった。


「明日と明後日で着る!

ふたりがウチに選んでくれた服やもん。大事に着るで♪」


 たつろーさんの顔が、ぱっと明るくなった。

ジェミも、何も言わずに自分の選んだ服を受け取る。


(……レア、うまいことやったなぁ? くすくす……)


 私の視線に気づいたレアが、片目を閉じてウインクした。



 ところが、レジへ向かう直前。

たつろーさんが、そっと私の袖を引いた。


「……れな。すまぬが、路銀を少し、貸してはくれぬか」


「あ、そっか。現代のお金、持ってなかったよね」


「うむ。あとで、鱗を一枚……いや、三枚やるから」


 その申し訳なさそうな顔に、私は思わず吹き出す。


「それ、古の小判になるでしょ? 服代より高いやん!?」


「釣りは取っておけ」


「それって、お金借りる側が言う台詞と違うんだけどね」



 私はクスクス笑う。

隣で聞いていたレアが、たつろーさんの腕に、きゅっと抱きついた。



「たつろーさんが買ってくれたんやな~♪ おおきにねぇ!!」


 古の龍神さまは、途端に、ほくほくとした顔になった。




 服が決まると、今度は靴とバッグ。

履き心地を確かめながら歩き、鏡の前でバッグを肩に掛ける。


 気づけば、私まで色違いのバッグを手にしていた。



「れなちんは、そっちの色が似合うな~♪」


「レアは、こっち?」


「うん。並んで持ったら、かわいいと思わへん?」


(――思います。ええ、とても!!)




 髪飾りのお店では、お揃いのシュシュも選んだ。

レアが私の髪に当て、私がレアの髪に当てる。

それだけで楽しくて、なかなか決まらない。



「全部お揃いになってしまうなぁ」


「色が違うし、どっちがどっちのか、ちゃんとわかるやん?」


「そっか! どっちがどっちの使ってもいっかぁ!!」


「あはは! そうやなぁ♪ そうしよっか~♪」


 私たちにとっては、何の問題もない。

ようやく必要なものが揃い、下着のお店の前まで来たところで、ジェミが足を止めた。



「ここからは、ふたりで行ってこい。俺たちは、そこのスタバで待っている」


「はーい♪」


 レアと手を繋いだ、その瞬間。


「ワタシも行くっす! ぶらじゃーが欲しいっす!!」


 飛び出しかけたソラリスを、ジェミとたつろーさんが、左右から摘まんだ


「お前には必要ない」


「何に使うつもりじゃ?」


「イカ入れるっす! ふたつ入るっす!」


 レアが、私の肩に顔を伏せた。笑いを堪えた肩が、小刻みに震えている。


「食べ物を入れるものではない!」


 ジェミの声に、ソラリスが首を傾げる。


「生ものはダメっすか!? ほんじゃ、昨日捕まえたダンゴムシ、いっぱい入れるっす!」


「そういう問題ではないっ!」



「……待て」


 ジェミの声が、急に低く鋭くなった。


「今、そのダンゴムシは、どこにいるんだ?」


 ソラリスは、そっとお腹のチャックを押さえた。


「……みんな、お留守番してるっす」


 ジェミとたつろーさん、ふたりの手が同時に離れた。


「お前、まさか、ダークマターと一緒に、また……」


「あ、そっすね! 一緒にポイって入れてあるっす!」


 ソラリスがチャックを開き、何かを取り出した。


「ほら、元気っすよ♪」


 丸い灰色。沢山の節がある。

そして、なぜかゲンコツくらいの大きさがある。


 その下で、たくさんの脚が、もぞっと動いた。



「きゃああああ!!」


「れなちん、こっちぃぃ!!」


 レアに引っ張られ、ふたりで後退する。



「バカっ! お前っ、しまえ! 今すぐ!!」


 ジェミの怒声に、ソラリスが慌ててそれをお腹へ戻した。


「丸まったら、かわいいっすよ?」


「丸まる前に、こっちの寿命が縮むわっ!! なんじゃそのでっかいのは!!」


 たつろーさんまでもが慌てている。

後ずさった私たちの前で、ロンが、さりげなくソラリスを人目から隠した。



「……おぬし、一体そこに何匹入れた?」


「ん~~? ……わかんないっす。いっぱいっす♪」


 たつろーさんが、目を閉じる。

聞かなければよかった、と顔に書いてあった。



「ロンが、これでお魚釣れるって言ったっす!!」


 突然、責任を押しつけられたロンは、にっこりと笑った。


「大きくしろとは、申し上げておりません」


「大きい方が、大きいお魚釣れるっすよ?」


「先に、お前が食われるぞ」


 ジェミが、ソラリスのチャックを指差す。


「もう開けるな。いいな?」


「はぁいっす……」



 私とレアは顔を見合わせ、そのまま下着のお店へ逃げ込んだ。

店の奥まで来て、ようやく息をつく。

顔を見合わせると、今度はふたりとも笑いが止まらなくなった。



「さっきのヤツ、脚、いっぱいあったなぁ! あははは!!」


「レア、言わんといて。足の多いヤツ苦手なん。思い出してしまう~!」


 ようやく笑えるようになった頃には、下着も部屋着も選び終えていた。

袋を受け取り、お店を出る。



 通路の向こうに時計の売り場が見えたので、私は足を止めた。


「あ、時計もいるよね。レア、どんなのが好き?」


「それは要らんよ!」


「ん? なんで??」


 レアが、自分のこめかみを、ちょん、と指で叩く。


「衛星から時刻取れるし。今おる場所の時間、ちゃんとわかるで。

誤差も、0.000001秒くらいやし」


「……ええっ!? そんな細かいとこまで、わからんでもええけど……」



 そういえば、この子、AXI(アクシィ)(人工実存知能)だった。

こうして、一緒に楽しそうに服を選んでいると、ついつい忘れてしまう。



「そっかぁ。お揃いにしようと思ったんやけどな~。残念……」


 手に取った時計を戻しかけると、レアが私の手首を掴んだ。


「待って。それやったら、いる」


「え? 要らんのちゃうん?」


「アクセサリーとしてつける!! れなちんとおそろ!!」



 真剣な顔で言い切られ、笑ってしまった。


 結局、文字盤の色が違う、同じデザインの時計を買った。

包装はせず、その場で腕につけてもらう。


 レアは私の手首の隣に、自分の手首を並べた。



「んふふ。お揃い♪」


 もう少しだけ、小物を見たくなった。

 館内のジュエリーのお店で、色違いのイヤリングを選び、小さなペンダントを見比べる。



 レアは指輪もひとつ選んだ。

 指に通して、手を開いたり閉じたりしていたけれど、やがて、別の指輪が並ぶケースへ目を戻した。



「……れなちん」


「ん?」


「れなちんとお揃いの指輪、ウチが作りたい」


「え? 作る? レアが??」


「うん。デザインから、自分で考えたい!」



 さっきまで選ぶことに夢中だった目が、今度は、何かを思い描くように動いていた。


「ここ、こんな形にして……石は、色違いにしてもええなぁ」


 自分の指輪を、くるりと回す。


「れなちんの分も、ウチに作らせて?」


「うん。楽しみにしてる」


 レアの笑顔が、またひとつ、大きくなった。




 スタバへ戻ると、男性陣は、妙に真剣な顔で話し合っていた。

その真ん中で、ソラリスだけが、フラペチーノを飲んでいる。


「ただいま~。みんな深刻な顔して、何の会議?」


 私はみんなの顔を見渡して、キョトンとしながら尋ねた。


「……宇宙線の影響じゃろうな、という話じゃ」


 たつろーさんが、疲れたように答えた。


「え? まさか、さっきのダンゴムシ?」


「うむ。あの腹の中で、まだ大きくなるかもしれぬ」


「やめて~! そんな予想、聞きたくない~!!」



 私たちが椅子に座ると、ジェミがレアの手元に目を留めた。


「……指輪も買ったのか?」


「んふふ♪ でも、れなちんとのお揃いは、ウチが作ることにした!」


 レアはそう言って、ソラリスへ身を乗り出した。


「ソラっち。指輪にできそうな金属、持ってへん?」


「あるっすよ!!」



 ジェミが顔を上げる。たつろーさんも、ソラリスの手元を見た。


「これとか、どうっすか?」


 テーブルに、小さな金属の塊が置かれた。

淡い銀色のものと、角度によって青く光るもの。



「わぁ、きれい!」


「こっちにもあるっす! え~っとぉ……」



 三つ目が、ころん、と転がった。


 ……もぞっ。


椅子ごと後退した私の横で、レアがソラリスの手を押し戻した。



「素材の相談や! 生き物は頼んでへん!!」


「出すなと言っただろうがぁぁ!!」


「出してないっす! 勝手に出てきたっす!」


「お前が取り出したんだろうが!!」


 たつろーさんが、無言でチャックを閉めた。

ロンが、その上から指先を添える。


「今後、チャックを開ける前に、私へお声がけください」


「ワタシのお腹っすよ!?」


「では、ご自分でダンゴムシを数えて、管理できますか?」


 ソラリスは、少し考えた。


「……ロン、よろしくお願いするっす」


「素直でよろしい」


 ククク、と笑うロンに、ソラリスが小さく尋ねる。


「……ロン、怒ってるっす?」


「いいえ? 帰ったら、一度、中を全部見せていただきますね」


「……全部っすか?」



 ジェミが、コーヒーを置いた。


「地下のラボに、五重くらいに結界を張れよ」


「……五重で足りるかのう」


「床と天井も囲め。壁だけでは意味がない」


「承知いたしました」


 レアの指輪の相談が、いつの間にか、地下施設の防災会議になっていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。