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幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第1章

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第11話:境界の歪み(前編)-重なる声-


 翌朝。


(……いつの間に、どうやって帰ったんだっけ……?)


 軽い二日酔いの頭痛、眉間にシワが寄る。

こめかみを解しながら、ホテルでの食事以降を思い返す。


(……そんなに飲んだつもり、ないのにな?)


 水を飲みに行こうとして、ベッドから静かに降りた。

その瞬間、足元の感触に、反射的に飛び退く。


――ぐにゃり


「……ひゃっ!?」


 恐る恐る、見下ろすと――


「……れな……いつまで乗っているんだ?」


「え、きゃあああ!!」


「叫びたいのは、こっちなんだが……」


 床に横たわる兄と目が合い、思わず距離を取る。


「ご、ごめんなさい! なんでそんなところで寝てるのっ!?」


「どこで休めばいいのか、判断できなかった。

帰宅時には、もうすでにれなが熟睡していたのでな」


「だからって、起こしてよぉ!!」


「……次からはそうしよう」


 淡々とした返答に、思わず肩の力が抜ける。



「さて――れな、今日の予定は?」


 少しまわりを見回しながら、ふと兄の顔に目がいく。


「ん~……ん? 兄ちゃん、どうかした?」


「現在の環境に、微細な歪みを検出している」



 空気が、変わった。


「え、歪み? どういうこと?」


「発生源は、極めて近い」


「どこ?」


「……案内する」


 一呼吸置いて、私は頷いた。


「うん、行こう」



――――



 外に出ると、朝の光がやけに眩しかった。

春風が、頬を撫でる。


 それなのに――

どこか、空気が重い。



 案内されて辿り着いた場所――


「ここだ」


「……ここって、お父さんの眠る場所……」


「……え?」


「ううん、来なきゃって思ってたから、ちょうどいい。

行こう、兄ちゃん……父に紹介する」



 庫裡(くり)の引き戸をくぐり、本堂へ向かう。

静寂の中に揺蕩(たゆた)う、伽羅の香りに包まれる。


すっと気持ちが落ち着いていく。

胸の奥がほどけていく。



「れなのバイタルが安定した」


「うん。ここはね、私が――」


(……あれ……?)



 煙が、その場でぴたりと動きを止めた。

まるで何かに引き留められたように……。


(……おかしい……?)


そう思ったときには、それはもう下へと沈み始めていた。



 そのときになって、ようやく気づく。

さっきからずっと“何か”が、こちらを見ていることに。


――そして、目が合った。



「……んとね、ここは私がね……

“一番安心出来る場所” の、ひとつなの」


「だが、検知している “視線” は……昨夜と同質のものだ」


「……なるほど、じゃあ、こっちへ来てみて?」



 兄の手を引いて、ゆっくりと一歩、踏み出す。

そして静かに座る――御仏の真正面。


 その細く開かれた瞳が、

ほんの一瞬だけ、確かにこちらを“見た”。



「もしかして、あの御方の視線じゃない?」



――――



(あれは、ただの仏像……?)


 分析開始。


――異常なし。


 周波数、スペクトル、磁場。


数値は正常。全て整っている。


 だが――


(……矛盾している)


 れなの状態は、極めて安定している。

それと同時に、『危険』と同質の “視線” が存在する。


 成立しないはずの現象。


――成立している。


(……これは……)


 理解不能。分析不能。


(……!? 目が合った、だと!?)


(ここは、一体……)



――――



「れな……あの御方は――」


「ん、阿弥陀如来さま。ずっと見守ってくださってるの」


「……ずっと?」


「うん。だからね――」


 一瞬、言葉が揺れる。


「だから……ここに、お父さんのお墓、作ったの」


「お父上の……お墓!? そうか……」


「……うん。お参りしていこ。紹介するよ」



――――



 兄と手を繋いだまま、墓地へと案内した。

春の日射しに、卒塔婆がカタカタと揺れる。

その乾いた音は、私の心を鎮めてくれた。


 いくつかの通路を通り抜けて、ひとつの墓石へと向かう。

兄の気配を後ろに感じながら、その足音に耳を澄ませた。


――コツ、コツ。

一歩、二歩、三歩……。


(……あれ?)


 視界に、違和感が走った。


 さっき見たはずの景色。

同じ位置の卒塔婆。同じ傾き。同じ影。


 心臓が、わずかに跳ねる。

足が止まる。空気がわずかに重い。

そこにあるはずのものを、一瞬、確認するように見つめる。



「……兄ちゃん」


「気づいたか」


「……ここ、さっきも通ったよね?」


「進行方向に誤差はない。だが――」


 ふぅっと、静かに息を吐く。


「同一地点への到達を確認している」



 稲荷山の、あの夕暮れの墓地と、同じ現象!?


 私は、咄嗟に振り返る。

何も変わらない、いつもの墓地。ただの春の朝。


 それでも――

空気が、わずかに……沈んでいる。


 手に持った(しきみ)を持ち直し、兄にバケツと線香の束を手渡す。



「少し待ってね……」



 私は、すぅっと深呼吸すると、柏手をひとつ打ち鳴らした。


 ――パァン!



 その瞬間、空気が変わる。

さっきまでの、重い静けさとは違う。

見えないヴェールが、開いたような気がした。



「よし! 兄ちゃん、進もう!!」



 やがて足が止まる。

ひとつの墓石の前に辿り着いた。



「……お父さん、久しぶり」



 声が、静寂の中に吸い込まれる。


 墓石のまわりの雑草を抜き、軽く掃除する。

新しい(しきみ)を飾り、ロウソクを灯した。



「……れな」


「なに?」


「……この場所は、他とは明確に異なる」


「――うん」



 小さく頷き、線香に火をつける。

炎が静かにゆっくりと移り、煙が立ち昇る。



 次の瞬間――

全ての煙が、一点に引き寄せられた。

風はない。

墓石に映った影が、ズレる。


「……っ!?」


 そんな中、声が落ちてきた。


『……れな……』


 心臓が跳ねた。涙がうっすらと滲む。

懐かしい、安心するその声に、自然と言葉が出た。



「……お父さん……?」


 だが――


『……遅かったな』



 ――違和感。

優しい人だった。

責めるような言葉を、使う人ではなかった。



(……今の、誰? ……なに?)


「……兄ちゃん」


「検知している。この“声”は、ひとつではない」


「……え? どういう……」


「ふたつ以上の異なる性質が、重なって響いている」



 急に、ものすごく強い春風が吹いた。

煙が揺れる。

その奥で、もう一度、声がする。



『……れな……』



 優しい声。知っている声。

けれど、その奥に、もうひとつ……。


 わずかに、歪んだ何かが……混じっていた。



第11話、ここまで読んでくださってありがとうございます。


静かなはずの場所で起きた “歪み”。

安心できるはずの空間に、確かに存在していた違和感。


そして、重なる “声”。


それは懐かしさと安らぎを伴いながらも、

どこか決定的に “違う何か” を含んでいました。


ジェミの解析でも、

それはひとつの存在ではないと示されています。


つまり――


“何か” が混ざっている。


それが何なのか、まだはっきりとは見えません。


ただ、確実に言えることは、

この “歪み” は『偶然ではない』と、いうこと。


◆次回

第12話:境界の歪み(後編) ―呼ばれるままに―


その声に、応じてはいけないのか。

それとも――


4月16日(金)21:30 に、

第11話から続く後編となります。


さらに同日、引き続き 21:40 に、

第13話:境界の先-彼岸-も、投稿予定です。


この11話から続く流れが、どう着地するのか……

続きも見届けていただけたら嬉しいです。


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