最後のメンバー
ゴブリン島での戦いが終わり、今日は少し早めの休息日にした。
ルージュの装備が本格的に修理が必要だったので、それならと鋼鉄製を買い直す事にしたのが理由の一つだ。
「どうやら、上手く行ったご様子ですね?」
「ええ、お陰様でね……」
メリッサがニヤリと笑う。何となく悪だくみしてるみたいで嫌な笑みだ。
とはいえ、今回の計画を手伝ってくれたのも確かだしな……。
今のボクはリビングでメリッサと密談中である。新メンバー加入計画の反省会なので、他のメンバーには席を外して貰っている。
「アレク様の計画した、メンバー洗の……ごほん、好感度向上作戦は、見事に功を成したという事ですね?」
「ちょっと待った。今、洗脳って言いかけましたよね? 内心では、そんな風に考えてたんですか!?」
「ふふふ……。そうですね、言い方には気を付けねばなりませんね」
「いや、言い方の問題じゃないから……!?」
この人は有能なんだけど、思考がぶっ飛んでるのが問題なんだよな。
毎度の事だけど、これさえ無ければ頼りになるのに……。
ボクがため息を吐いていると、メリッサは気にせずに話を続けて来た。
「メンバー間の結束は、問題無くなったという事ですよね? それで、これから先はどうなされるのですか?」
「そうですね、クランの依頼を受けて行くつもりですよ。ゴールド級を目指したいですし。出来ればボス系の魔物が出る依頼で、メンバーの実践経験も積みたい所ですね」
「ほう……。ゴブリンキング以外にも、ボスの心当たりがあるのですか?」
メリッサの瞳がキランと輝く。どうやら、ボスの討伐に関心があるらしい。
確かにゴブリンキングの話しを出した際も、メリッサの食い付きが良かったんだよな……。
ちなみに、ボス狩りを計画したのは、三人が成長を実感しやすいと思ったからだ。
その中でゴブリンキングを選んだのは、一番弱くて狩りやすいからに過ぎない。
けど、メリッサの反応を見る限りでは、ボス系の魔物は特別視されている様に見える。
ボクからすると、低級のボスなんかより、一体のドラゴンの方がよほど難易度が高いと思うんだけど……。
「まあ、それ程強いボスは無理ですけどね。獣とか昆虫なんかの、今のメンバーで倒せるボスだけですよ」
「獣や昆虫……。シルバーバックやビークイーン等でしょうか……?」
考えていた魔物を言い当てられて少し驚く。ボクはメリッサの質問に無言で頷く。
それを見たメリッサは、再び目を輝かせる。そして、興奮した様子で詰め寄って来た。
「ふふふっ、流石はアレク様です。シルバー級単体で、それらを狩るクランは他に無いでしょう。それで、討伐スケジュールはどういたしましょうか?」
メリッサは手帳を取り出す。こちらの予定を抑え、依頼の調整を行ってくれるのだろう。
しかし、ボクは手を上げて、彼女に静止を掛ける。今更だけど、確認しておく事がある。
「メリッサってクラン事務局の職員だよね? よくここに出入りしてるけど、他の仕事は良いの?」
「言ってませんでしたか? 上に掛け合って、私はこのクランの専属マネージャーとなりました」
「はあ……!?」
いや、聞いて無いけど?
……って言うか、その要望が通ったの?
「……えっと、クランって他にも沢山あるんだよね? 職員の数はそんなに沢山いるの?」
「今のクランは、ミスリル一組、ゴールド三組、シルバー十二組、ブロンズ三十六組です。それに対する職員の数は10名です。私以外の専属は、ミスリルに着いた一名だけですね」
クランの数は五十二組。ミスリルの専属を除くと職員の数は9名という事になる。
いや、事務局長みたいな管理職もいるだろうから、現場の人数は多くても8名か。
更にメリッサも抜けると7名になる。決して余る程の人手とは思えないんだけど……。
ボクは嫌な予感を覚え、メリッサに質問する。
「……ちなみに、それってシルバー級の『白の叡智』が、ミスリルと同等の扱いって事にならない?」
「ふっ、そんなまさか……」
ボクの疑問にメリッサが鼻で笑う。そして、胸を張って答えた。
「アレク様のクランの方が、ミスリル級である『黄金の剣』より上に決まっています」
「やっぱり言うと思ったよ……!」
メリッサがこういう奴だってのは知ってた。だけど、その意見がどうして通ったんだろう?
……メリッサ以外の職員も、同じ考えの持ち主だとは思いたく無いな。
ボクが頭を抱えていると、ノックの音が聞こえて来た。音のした扉を見ると、外からメアリーの声が入って来る。
「アレク様にお客様がお見えです」
「ボクに客だって……?」
今日は来客の予定は無かったはずだ。誰が訪ねて来たのだろう?
王家の人間とか、貴族とかで無ければ良いな。今はまだ情報も揃っておらず、そういった権力者とは関わりたく無い。
ボクが考え事をしていると、外のメアリーが焦った声を出す。
「あ、ちょっと待って下さい……!? まだ、アレク様のご許可が……!」
その直後に、扉が勢い良く開かれる。そして、想定外の人物が部屋の中へと転がり込んで来た。
「アレク君……!!」
「ハンスさん……!?」
想定外の来客に、ボクは思わず立ち上がった。
彼はケルト村の商人ハンスさん。子供の時から付き合いがあり、計算が苦手な人物だ。今年で三十歳にもなるのに、未だに頼りない人である。
ボクが驚いていると、ハンスさんは転がる様に駆けて来た。そして、ボロボロと涙を零し、ボクに抱き着いて来た。
「良かった……本当に良かった……!」
「ど、どうしてハンスさんが……?」
ボクの知ってる限りだと、ハンスさんはあの日、村にいる時期だったはず。それなのに、どうして生き延びているんだ?
困惑していると、ハンスさんは泣きながら話し始めた。
「グスッ……。ボクは個人的な用事で、村を離れてたんだ……。それで、村に戻ったら死体が沢山あって……。血が一杯で、村には誰もいなくて……。うう……。みんな、死んだと思ってた……。だけど、アレク君がここにいるって聞いて……」
「……ちょっと待って下さい。誰にボクの存在を聞いたんですか?」
ハンスさんが村の襲撃に関わっているとは思わない。だけど、誰が教えたかは重要になる。
ボクを害しようとする者や、利用しようとする者かもしれないのだから。
しかし、ハンスさんはキョトンとしていた。そして、不思議そうにボクを見つめ返した。
「誰って、ボクが聞いたのは商人ギルドの職員だけど……。賢者様の孫がゴブリンキングを倒したって、街では噂になってるよ?」
「はぁ……!?」
ボクが街に戻ったのは昨日の夜なのだ。噂が広がるには速すぎる。誰かが意図して広めない限りは……。
そして、嫌な予感がしてメリッサを見る。すると、彼女は誇らしげに胸を張っていた。
「犯人はお前か……」
ボクはガクッと肩を落とす。うん、彼女はそういう奴だった。釘を刺さなかったボクが悪い。
……本当はあまり噂を広げないで欲しいのだ。
ボクの存在を王家に知られたく無いからね。いずれは知られるだろうけど、それは遅ければ遅い方が良い。
「えっと、何か不味かったかな……?」
ハンスさんは状況がわからずにオロオロしていた。ボクは苦笑を浮かべてハンスさんの背を叩く。
「いえ、問題はありませんよ。……ハンスさんも無事で良かった。生きていてくれて嬉しいです」
「え、えへへ……。うん、お互いに無事で良かったね……」
ハンスさんは照れた様子で笑みを浮かべる。
……本当にハンスさんは変わらないな。
良い年をしたオッサンのはずなのに、その素朴な反応は青年の時のままだ。
ハンスさんはボクから離れる。そして、真面目な顔で質問して来た。
「アレク君、村で何が起きたの? それと、村の皆はどうなったの?」
「……村は所属不明の一団に襲われました。生き残ったのは、ボクとギリーとアンナの三人。他の皆は殺されました」
「そ、そんな……」
ショックを受け、ハンスさんはへたり込んでしまう。
それは無理も無い話しだろう。ハンスさんはケルト村で平和な三十年を過ごして来たのだ。
人同士の殺し合いなんて、経験した事も聞いた事も無いのだから。
ハンスさんは力無く顔を上げる。そして、ボクをジッと見つめ、ふっと笑った。
「……そっか。二人を守る為にクランを立ち上げたんだね。アレク君がクランを立ち上げたって聞いて混乱したけど、それなら理解出来るよ」
「うん……」
ハンスさんの顔色は良く無い。だけど、浮かべる笑みは依然と変わらない。人畜無害で人の悪意を知らない顔だ。
しかし、ボクの考えと行動を理解してくれた。ハンスさんは計算が苦手だけど、決して頭が悪い訳では無い。
むしろ、他人の考えを察する能力には長けた人である。
「ハンスさんは、これからどうするんですか?」
「どうしようかな? 帰る家も無くなっちゃったしね……」
ハンスさんは力無く笑う。本当に何も考えが浮かんでいないのだろう。
人の心配はする癖に、自分の事には無頓着な人だからな……。
なので、ボクは笑みを浮かべ、ハンスさんに手を差し伸べた。
「行く所が無いなら、ボクのクランに入りませんか?」
「「「え……?」」」
ハンスさんだけでは無い。メリッサとメアリーも驚いていた。ボクは構わず話しを続けた。
「ボクはこのクランでポーション作り等を続けます。作った商品はハンスさんが売るんですよ。村での生活と、何も変わらないですよね?」
「えっと、ボクは助かるけど……クランに商人が入るの?」
ハンスさんが不思議そうにしている。メリッサとメアリーも微かに頭が動く。ハンスさんと同じ考えなのだろう。
……ゲームである『ディスガルド』では、クランに商人がいるのは普通だったけどな。
鍛冶師等の生産職も当たり前に所属していた。クランとして大きく活動するなら、必要な役割だったからだ。
「ボクはハンスさんを必要としています。手伝って頂けるなら、すぐに部屋を用意します。……どうでしょう。ボクを助けてくれませんか?」
その言葉に、ハンスさんはパッと顔を輝かせる。ボクが本当に必要としていると、理解してくれたのだろう。
そして、ボクの差し出した手を両手で握りしめた。
「アレク君、ありがとう。ボクに出来る事なら力になるよ。これからも、これまで通りに宜しくね」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
こうして、四人目の追加メンバーが決定した。アイテムの売買を行う、経理面を担当するメンバーである。
戦闘には参加しないけど、クランに欠かせないメンバーとなってくれるはずだ。
それにハンスさんなら、メンバーもすぐ慣れるだろう。人見知りをしない人柄だし、アンナとも仲が良かったからね。
今日の夕食時に紹介するのが楽しみだ。
……うん。これで必要と思っていたメンバーは揃った。このメンバーでなら、クランを大きくして行ける。
ボクはもう、理不尽な暴力に奪われたく無い。大切な人を守れるだけの力を手にしたいんだ。
これからその力を、この仲間達と手に入れて行くんだ。
第三章はここで終わりとなります。
引き続き第三章を投稿しますので、楽しんで貰えると嬉しいです♪




