ロレーヌ、ゴブリン島の戦い(後編)
クラン加入メンバー視点終了。
次回からは更新が水曜、土曜に戻ります。
「……なんてね!」
あたしに振られた剣を回避し、ゴブリンリーダーの横をすり抜ける。
そして、遅れて駆けて来たノーマルゴブリンに、あたしはダガーを一刺しした。
「ギャギャ……!?」
ノーマルゴブリンは、驚いた様子で力尽きる。あの状況で、自分が攻撃されるとは考えていなかったのだろう。
「ギャギャギャ……!!」
仲間をやられたリーダー二匹が怒っている。たった一人の人間に、ここまでやられると思ってなかったのだろう。
二匹は怒りに燃える瞳でこちらに向かって来た。しかし、その攻撃は連携が取れており、完全に怒り任せという訳ではなかった。
「くっ……! やっかいな……!?」
回避スキルのお陰で直撃を受ける事は無い。しかし、完全に回避し切れずに、かすり傷は増えて行く。
ボスがいれば、この程度の傷はすぐに治してくれるのにな……。
ボスのありがたみを感じつつ、あたしは何とか隙を作ろうと苦慮する。そして、茂みの濃い場所へとリーダー達を誘導する。
森の中での戦いにも慣れてるらしく、リーダー達は上手く剣を振っていた。
しかし、茂みや木がすごく密集している場所でも、いつも通りに剣がふれるかな?
「ギャギャ……!?」
リーダーの一匹が、うっかりと剣を木に叩きつけてしまう。
そして、剣が木に食い込み、引き抜くのに手間取ってしまう。
「チャンス……!」
あたしはそのリーダーの喉に向けて、ダガーを真っすぐに突き刺した。炎の力を宿したダガーは、ゴブリンリーダの喉を貫いてくれた。
「クヒュ……」
空気が抜ける音を出して、ゴブリンリーダーは白目を剥く。
しかし、倒れるゴブリンリーダーの陰から、もう一体のリーダーが攻撃を繰り出していた。
「あ、やば……」
身を捻るも回避する事は出来なかった。リーダーの剣は、しっかりとあたしの右肩に食い込んだ。
「んんっ……!」
あたしは転がって距離を取る。そして、起き上がりがてらに傷口を確認する。
そこには僅かに裂けたレザージャケットと、うっすらと血の滲む傷口が見えた。
「くぅぅ……! 愛してるよ、ボス……!」
ワイバーン製のレザージャケットは、ボスの言う通りに丈夫だった。
ゴブリンリーダーの一撃をまともに受けて、この程度で済んだのだから大した物である。
とはいえ、裂傷は大した事が無いが、打撲としてはかなり痛い。服を脱げば、肩はきっと紫に染まっている事だろう。
「けど、何とかダガーは振るえるよ……!」
あたしは二本のダガーを再び構える。リーダーは驚いた様子でこちらを警戒していた。彼にとっても、ダメージの少なさは予想外だったのだろう。
しかし、リーダーは警戒しつつも、こちらへと再び攻め始めた。あたしは回避しながらも、何とか隙を作ろうと考える。
「あの剣術がやっかいなんだよね……」
大きく剣を振るう事が無く、反撃の隙を作らないのだ。きっと、ゴブリンだけど彼も、剣修練スキルなんかを覚えてるんだろうね。
あたしは再び茂みに入ろうとするが、リーダーはそれを牽制して許してくれない。同じ手は通用しないらしい……。
「何とか……何とか、隙を作らないと……」
あたしは痛む肩に意識を取られそうになる。長期戦になれば、こちらの方が不利になりそうだ。何とかして短期決戦で終らせないと……。
そこであたしの脳裏に、仲間の姿が思い浮かぶ。もしかしたら、あたしにもアレが出来るのではないだろうか……?
「一か八かだけど……!」
あたしはダガーを構え、思い付きを実行に移す。相手の剣を良く見て、その攻撃にあたしのダガーを添える。
「このぉ……!」
あたしはその剣を強引に薙ぎ払った。
ルージュの様な綺麗な受け流しでは無いし、切り払いと呼べる物でも無い。だけど、相手の剣を大きく弾く事が出来た。
ゴブリンリーダーの目が驚愕に大きく開く。あたしはニヤリと笑い、もう一本のダガーを振るった。
そして、リーダーの右目にしっかりとダガーを突き刺した。
「グギャアア……!?」
リーダーは身体を大きく仰け反らせ、そのまま地面に倒れてしまう。
しばらくはビクビクと身体を震わせていたが、それも短い時間ですぐに力尽きてしまった。
「ははっ……。やったね……」
勝利に対する喜びは無かった。こんなギリギリの戦いをした事への恐怖の方が強かった。こんな命を懸けた戦いなんてまっぴらだ。
……だけど、そんなあたしが思い出したは、アンナちゃんから聞いた言葉である
『けど、私には力が無い事の方が怖い……』
右手は徐々に力が入らなくなっている。なので、あたしは左手を強く握りしめた。
あたしが怖い思いをしたのは、あたしが弱かったからなのかな……?
あたしが強くなれば、こんな怖い思いをしなくて良くなるのかな……?
そして、力が有れば皆を守る事が出来るのかな……?
あたしは左手のダガーに視線を落とす。あたしの左手はしっかりとダガーを握っていた。あたしにはまだ戦う力が残っているのだ。
「行かないと……。ボスを手伝わないと……」
あたしは使命感に突き動かされ、村へ向かって駆けだした。
右肩は痛むけど、今はそれに構っていられない。傷ならボスが癒してくれる。ボスが無事でさえいてくれれば……。
あたしは村まで走り続けた。程なくして、ボスのいる村へと到着した。そして、村には当然の如く、ゴブリンの王様もいた。
「ルージュ……?」
村の中央では、ルージュがゴブリン達の足止めを行っている。一人で数十のゴブリンを留めていた。
あたしが一人で戦っている間も、ずっと一人で戦い続けていたのだ。
「オオオォォォォ!! まだだ……! まだ、倒れはしない……!!」
ルージュの体はボロボロだった。剣も鎧も盾も、全てが傷付き歪んでいた。
それでもルージュは、一人でゴブリン達に立ち向かっていた。
「すごい……」
あたしはたった六匹のゴブリンを相手に死闘を繰り広げていた。なのに、ルージュはその何倍もの数を相手に一歩も引いていない。
ここまでルージュが強くなってる何て知らなかった……。
ゴブリンの王様はまだ悠長に見ているだけだった。ゴブリン達が優勢だからだろう。
だけど、王様が加勢したら、いくらルージュでも耐える事は出来ないだろう……。
「加勢しないと……」
あたしは左手を握りしめる。そして、油断しているアーチャーやシャーマンを探そうとする。
――しかし、それは唐突に吹き上がった。
「「ファイア・ウォール!!」」
ボスとアンナちゃんの魔法が発動する。そして、ゴブリン達の真ん中に、炎の道が出来上がった。
「ボスは何を……?」
突然の事にあたしは戸惑う。見ればゴブリン達も、同様に戸惑っている様子だ。
そして、ボスの方に目を向けると、ハスティールの姿が目に映った。
「あ……」
ハスティールのあの構えは、例の必殺技である。どうやらアレで、王様を倒すつもりなのだろう。
あたしは王様の様子を観察する。どうやらボス達の動きに警戒しているらしい。
取り巻きのリーダーに指示を出して、彼らをやや前面に移動させていた。
「おや……?」
そこであたしは気付く。王様の背中がガラ空きになっている事に……。
流石に隙が有るといっても、今のあたしが攻撃するのは無謀だ。鉄の鎧を着た王様に、致命傷を与えられるとは思えない。
でも、このチャンスに出来る事は無いだろうか……?
あたしは考えていると、ふとその存在に気が付いた。
「あの王冠って、金じゃないかな……?」
鎧もマントもボロボロで価値がの有る物では無い。だけど、王冠は飾り気が無いけど綺麗な物だった。
そして、あたしはこの場所が金の鉱山である事を思い出した。
「じゃあ、アレって値打ち物だよね……?」
あたしはニンマリと笑う。アレを盗んでしまおうと決心する。
ハスティールの攻撃が決まれば、きっと王冠も吹き飛んでボロボロになる。そうなれば、回収出来ても値打ちは下がるだろう。
それに、王様には先ほどの仕返しもしておきたい。あたしが痛い思いをしたのは、王様が指示を出したからだしね。
「じゃあ、やってみますか……」
炎が消えるまで、残された時間は数十秒しか無い。その間に、王様の元へと辿り着かないといけない。
あたしは気配を消しながらも、急いで移動を開始した。
そして、あたしはアッサリと王様の背後まで移動する。全てのゴブリンが、立ち上がる炎に気を取られてくれたお陰だ。
あたしは音も立てずにジャンプする。そして、一瞬にして王冠を手にすると、バックステップでその場から離れた。
「ギャギャ……!?」
王様はすぐに王冠が奪われた事に気付く。左手を頭に置き、続いて顔だけをこちらに向ける。その目は、怒りによって染まっていた。
あたしはそんな王様にクスリと笑う。そして、左手の王冠を見せつけながら、ニッコリと微笑んだ。
「あれれ、よそ見をして良いのかな~? 戦闘中のよそ見は危ないよ~?」
あたしの忠告が王様に届いたかはわからない。
何故なら、次の瞬間に王様の姿が消えたからだ。銀色の流星が駆け抜け、その場には誰もいなくなってしまった。
あたしは流星の姿を追う。するとそこには、あたしの予想通りハスティールの姿があった。
彼は拳を振り抜いた姿勢で、じっと動きを止めていた。
「さっすが……」
ハスティールの足元には、鎧らしき金属片が散らばっている。
そして、彼が拳を振り抜いた遥か先には、真っ二つになった王様の姿があった。
鎧を着たゴブリンの王様を真っ二つとか、ハスティールの必殺技はシャレになってないね……。
「……オレの……勝ちだ!!」
珍しい事に、ハスティールが興奮しているみたい。拳を掲げて、勝利に酔ってる感じだった。
続けて大声で笑い出してるし、これまで活躍出来ずに鬱憤が溜まってたのかね?
ただ、その行動の結果、ゴブリン達が慌てて逃げ出してくれた。残りのゴブリンと戦わずに済んだのは、あたしとしても助かる所だよ。
「ヒール」
「あ……」
気が付くと、ボスがあたしの傷を治してくれた。
しかし、あたしのお礼を聞くより先に、ボスはハスティールの元へと行ってしまう。
「ハスティールさん、おめでとうございます。今日のMVPは貴方で間違い無いですね!」
ボスが嬉しそうに微笑んでいる。しかし、微笑まれたハスティールは不満そうな表情をしている。
そして、とんでもない発言を始める。
「ハティだ……」
「え……?」
予想外の発言にボスが戸惑う。その姿を見たハスティールは、ニヤリと笑って見せた。
「親しい奴は、オレをハティと呼ぶ。リーダーには、そう呼んで欲しい」
「……わかった。ハティ、これからも宜しく!」
「ああ、こちらこそ!」
そして、二人は拳を差し出し、お互いにぶつけ合った。急な男の友情に、あたしはポカンと口を開く。
……って、茫然としている場合じゃない! これはハスティールの抜け駆けじゃないの!?
「ねえ、ボス……!」
「はい……?」
あたしは慌ててボスに駆け寄る。ボスは不思議そうに首を傾げていた。
あたしは構わずにボスの前にビシっと敬礼して見せる。
そして、両手で王冠を包み込み、ボスに対して差し出した。
「王様から金の王冠を盗んでおきました! これって、それなりの値打ち物ですよね?」
「え、あの一瞬の間に……? えっと、ゴブリンキングの王冠は二万Gだったかな……?」
戸惑うボスにあたしはニンマリと笑う。そして、すかさずハティに便乗する。
「なら、ハティだけ特別扱いはズルいと思います! あたしの事も、これからは『さん』付け禁止でお願いします!」
「えっ……!? ……うん、別に構わないけど?」
ボスが不思議そうに首を傾げている。あたしの要求の意味が、ボスには理解出来なかったらしい。
けど、ハティは理解した様に苦笑し、ルージュは出遅れた事にショックを受けた表情をしていた。
アンナちゃんに至っては、苦々し気な表情を作っている。
「ふふっ……。これであたしも、本当の意味で身内って事ですね!」
「ん……? いや、これまでも身内だったけど……?」
やはり、ボスはやはりわかっていない。ボス自身は、あたし達を公平に扱っているつもりなのだろう。
けど、アンナちゃんへの態度と、あたし達三人への扱いはハッキリと違う。
きっと、今はいないギリーに対しても、あたし達とは違った態度を取っているはずだ。
ボス自身が気付いていないだけで、ボスにとって家族同然という線引きがあるのだ。
ずっと一緒にいるから感じる事だけど、そこに入れるかどうかは大きく違って来る。
あたしはボスに特別扱いをして欲しい。それは恋人になりたいとか、恋愛対象としてでは無く、凄い人に認められたいという感情である。
ボスの事を凄いと認めるからこそ、あたしはボスからも凄いと認められたいのだ。
「まあ、いっか……。それじゃあ、帰ろうか。そのレザージャケットも修理しないとね」
「うん! 帰ったら宜しくね!」
メンバーを見回し、歩き出すボス。あたしはニコニコと笑顔でボスに続く。
しかし、少し距離が近かったらしく、アンナちゃんが間に割り込んで来た。
でも、そんなやり取りも今は楽しい。きっとアンナちゃんも、あたしを本当の意味で攻撃する事は無いだろう。
ボスが前に言った言葉が、今なら心から信じられる。
ボスもアンナちゃんも、家族を失ったからこそ、家族の絆を大切にしている。
命を懸けて家族を助ける事はあっても、大切な家族に怪我をさせたりはしない。
……あたしも少しだけ、そんな家族として認めて貰えたと思う。
ボスとアンナちゃんとギリーの三人は特別だろう。けど、三人はあたしを、その次くらいには大切にしてくれるはずだ。
新しく出来た家族の絆に、あたしの顔が緩む。ボスが不思議そうに笑っていたけど、今は喜びを隠せそうにない。
この絆を守る為なら、あたしも少しは強くなれそうな気がしていた。
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