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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第三章 クラン結成編

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ロレーヌ、ゴブリン島の戦い(後編)

クラン加入メンバー視点終了。

次回からは更新が水曜、土曜に戻ります。

「……なんてね!」


 あたしに振られた剣を回避し、ゴブリンリーダーの横をすり抜ける。


 そして、遅れて駆けて来たノーマルゴブリンに、あたしはダガーを一刺しした。


「ギャギャ……!?」


 ノーマルゴブリンは、驚いた様子で力尽きる。あの状況で、自分が攻撃されるとは考えていなかったのだろう。


「ギャギャギャ……!!」


 仲間をやられたリーダー二匹が怒っている。たった一人の人間に、ここまでやられると思ってなかったのだろう。


 二匹は怒りに燃える瞳でこちらに向かって来た。しかし、その攻撃は連携が取れており、完全に怒り任せという訳ではなかった。


「くっ……! やっかいな……!?」


 回避スキルのお陰で直撃を受ける事は無い。しかし、完全に回避し切れずに、かすり傷は増えて行く。


 ボスがいれば、この程度の傷はすぐに治してくれるのにな……。


 ボスのありがたみを感じつつ、あたしは何とか隙を作ろうと苦慮する。そして、茂みの濃い場所へとリーダー達を誘導する。


 森の中での戦いにも慣れてるらしく、リーダー達は上手く剣を振っていた。


 しかし、茂みや木がすごく密集している場所でも、いつも通りに剣がふれるかな?


「ギャギャ……!?」


 リーダーの一匹が、うっかりと剣を木に叩きつけてしまう。


 そして、剣が木に食い込み、引き抜くのに手間取ってしまう。


「チャンス……!」


 あたしはそのリーダーの喉に向けて、ダガーを真っすぐに突き刺した。炎の力を宿したダガーは、ゴブリンリーダの喉を貫いてくれた。


「クヒュ……」


 空気が抜ける音を出して、ゴブリンリーダーは白目を剥く。


 しかし、倒れるゴブリンリーダーの陰から、もう一体のリーダーが攻撃を繰り出していた。


「あ、やば……」


 身を捻るも回避する事は出来なかった。リーダーの剣は、しっかりとあたしの右肩に食い込んだ。


「んんっ……!」


 あたしは転がって距離を取る。そして、起き上がりがてらに傷口を確認する。


 そこには僅かに裂けたレザージャケットと、うっすらと血の滲む傷口が見えた。


「くぅぅ……! 愛してるよ、ボス……!」


 ワイバーン製のレザージャケットは、ボスの言う通りに丈夫だった。


 ゴブリンリーダーの一撃をまともに受けて、この程度で済んだのだから大した物である。


 とはいえ、裂傷は大した事が無いが、打撲としてはかなり痛い。服を脱げば、肩はきっと紫に染まっている事だろう。


「けど、何とかダガーは振るえるよ……!」


 あたしは二本のダガーを再び構える。リーダーは驚いた様子でこちらを警戒していた。彼にとっても、ダメージの少なさは予想外だったのだろう。


 しかし、リーダーは警戒しつつも、こちらへと再び攻め始めた。あたしは回避しながらも、何とか隙を作ろうと考える。


「あの剣術がやっかいなんだよね……」


 大きく剣を振るう事が無く、反撃の隙を作らないのだ。きっと、ゴブリンだけど彼も、剣修練スキルなんかを覚えてるんだろうね。


 あたしは再び茂みに入ろうとするが、リーダーはそれを牽制して許してくれない。同じ手は通用しないらしい……。


「何とか……何とか、隙を作らないと……」


 あたしは痛む肩に意識を取られそうになる。長期戦になれば、こちらの方が不利になりそうだ。何とかして短期決戦で終らせないと……。


 そこであたしの脳裏に、仲間の姿が思い浮かぶ。もしかしたら、あたしにもアレが出来るのではないだろうか……?


「一か八かだけど……!」


 あたしはダガーを構え、思い付きを実行に移す。相手の剣を良く見て、その攻撃にあたしのダガーを添える。


「このぉ……!」


 あたしはその剣を強引に薙ぎ払った。


 ルージュの様な綺麗な受け流しでは無いし、切り払いと呼べる物でも無い。だけど、相手の剣を大きく弾く事が出来た。


 ゴブリンリーダーの目が驚愕に大きく開く。あたしはニヤリと笑い、もう一本のダガーを振るった。


 そして、リーダーの右目にしっかりとダガーを突き刺した。


「グギャアア……!?」


 リーダーは身体を大きく仰け反らせ、そのまま地面に倒れてしまう。


 しばらくはビクビクと身体を震わせていたが、それも短い時間ですぐに力尽きてしまった。


「ははっ……。やったね……」


 勝利に対する喜びは無かった。こんなギリギリの戦いをした事への恐怖の方が強かった。こんな命を懸けた戦いなんてまっぴらだ。


 ……だけど、そんなあたしが思い出したは、アンナちゃんから聞いた言葉である


『けど、私には力が無い事の方が怖い……』


 右手は徐々に力が入らなくなっている。なので、あたしは左手を強く握りしめた。


 あたしが怖い思いをしたのは、あたしが弱かったからなのかな……?


 あたしが強くなれば、こんな怖い思いをしなくて良くなるのかな……?


 そして、力が有れば皆を守る事が出来るのかな……?


 あたしは左手のダガーに視線を落とす。あたしの左手はしっかりとダガーを握っていた。あたしにはまだ戦う力が残っているのだ。


「行かないと……。ボスを手伝わないと……」


 あたしは使命感に突き動かされ、村へ向かって駆けだした。


 右肩は痛むけど、今はそれに構っていられない。傷ならボスが癒してくれる。ボスが無事でさえいてくれれば……。


 あたしは村まで走り続けた。程なくして、ボスのいる村へと到着した。そして、村には当然の如く、ゴブリンの王様もいた。


「ルージュ……?」


 村の中央では、ルージュがゴブリン達の足止めを行っている。一人で数十のゴブリンを留めていた。


 あたしが一人で戦っている間も、ずっと一人で戦い続けていたのだ。


「オオオォォォォ!! まだだ……! まだ、倒れはしない……!!」


 ルージュの体はボロボロだった。剣も鎧も盾も、全てが傷付き歪んでいた。


 それでもルージュは、一人でゴブリン達に立ち向かっていた。


「すごい……」


 あたしはたった六匹のゴブリンを相手に死闘を繰り広げていた。なのに、ルージュはその何倍もの数を相手に一歩も引いていない。


 ここまでルージュが強くなってる何て知らなかった……。


 ゴブリンの王様はまだ悠長に見ているだけだった。ゴブリン達が優勢だからだろう。


 だけど、王様が加勢したら、いくらルージュでも耐える事は出来ないだろう……。


「加勢しないと……」


 あたしは左手を握りしめる。そして、油断しているアーチャーやシャーマンを探そうとする。


 ――しかし、それは唐突に吹き上がった。


「「ファイア・ウォール!!」」


 ボスとアンナちゃんの魔法が発動する。そして、ゴブリン達の真ん中に、炎の道が出来上がった。


「ボスは何を……?」


 突然の事にあたしは戸惑う。見ればゴブリン達も、同様に戸惑っている様子だ。


 そして、ボスの方に目を向けると、ハスティールの姿が目に映った。


「あ……」


 ハスティールのあの構えは、例の必殺技である。どうやらアレで、王様を倒すつもりなのだろう。


 あたしは王様の様子を観察する。どうやらボス達の動きに警戒しているらしい。


 取り巻きのリーダーに指示を出して、彼らをやや前面に移動させていた。


「おや……?」


 そこであたしは気付く。王様の背中がガラ空きになっている事に……。


 流石に隙が有るといっても、今のあたしが攻撃するのは無謀だ。鉄の鎧を着た王様に、致命傷を与えられるとは思えない。


 でも、このチャンスに出来る事は無いだろうか……?


 あたしは考えていると、ふとその存在に気が付いた。


「あの王冠って、金じゃないかな……?」


 鎧もマントもボロボロで価値がの有る物では無い。だけど、王冠は飾り気が無いけど綺麗な物だった。


 そして、あたしはこの場所が金の鉱山である事を思い出した。


「じゃあ、アレって値打ち物だよね……?」


 あたしはニンマリと笑う。アレを盗んでしまおうと決心する。


 ハスティールの攻撃が決まれば、きっと王冠も吹き飛んでボロボロになる。そうなれば、回収出来ても値打ちは下がるだろう。


 それに、王様には先ほどの仕返しもしておきたい。あたしが痛い思いをしたのは、王様が指示を出したからだしね。


「じゃあ、やってみますか……」


 炎が消えるまで、残された時間は数十秒しか無い。その間に、王様の元へと辿り着かないといけない。


 あたしは気配を消しながらも、急いで移動を開始した。


 そして、あたしはアッサリと王様の背後まで移動する。全てのゴブリンが、立ち上がる炎に気を取られてくれたお陰だ。


 あたしは音も立てずにジャンプする。そして、一瞬にして王冠を手にすると、バックステップでその場から離れた。


「ギャギャ……!?」


 王様はすぐに王冠が奪われた事に気付く。左手を頭に置き、続いて顔だけをこちらに向ける。その目は、怒りによって染まっていた。


 あたしはそんな王様にクスリと笑う。そして、左手の王冠を見せつけながら、ニッコリと微笑んだ。


「あれれ、よそ見をして良いのかな~? 戦闘中のよそ見は危ないよ~?」


 あたしの忠告が王様に届いたかはわからない。


 何故なら、次の瞬間に王様の姿が消えたからだ。銀色の流星が駆け抜け、その場には誰もいなくなってしまった。


 あたしは流星の姿を追う。するとそこには、あたしの予想通りハスティールの姿があった。


 彼は拳を振り抜いた姿勢で、じっと動きを止めていた。


「さっすが……」


 ハスティールの足元には、鎧らしき金属片が散らばっている。


 そして、彼が拳を振り抜いた遥か先には、真っ二つになった王様の姿があった。


 鎧を着たゴブリンの王様を真っ二つとか、ハスティールの必殺技はシャレになってないね……。


「……オレの……勝ちだ!!」


 珍しい事に、ハスティールが興奮しているみたい。拳を掲げて、勝利に酔ってる感じだった。


 続けて大声で笑い出してるし、これまで活躍出来ずに鬱憤が溜まってたのかね?


 ただ、その行動の結果、ゴブリン達が慌てて逃げ出してくれた。残りのゴブリンと戦わずに済んだのは、あたしとしても助かる所だよ。


「ヒール」


「あ……」


 気が付くと、ボスがあたしの傷を治してくれた。


 しかし、あたしのお礼を聞くより先に、ボスはハスティールの元へと行ってしまう。


「ハスティールさん、おめでとうございます。今日のMVPは貴方で間違い無いですね!」


 ボスが嬉しそうに微笑んでいる。しかし、微笑まれたハスティールは不満そうな表情をしている。


 そして、とんでもない発言を始める。


「ハティだ……」


「え……?」


 予想外の発言にボスが戸惑う。その姿を見たハスティールは、ニヤリと笑って見せた。


「親しい奴は、オレをハティと呼ぶ。リーダーには、そう呼んで欲しい」


「……わかった。ハティ、これからも宜しく!」


「ああ、こちらこそ!」


 そして、二人は拳を差し出し、お互いにぶつけ合った。急な男の友情に、あたしはポカンと口を開く。


 ……って、茫然としている場合じゃない! これはハスティールの抜け駆けじゃないの!?


「ねえ、ボス……!」


「はい……?」


 あたしは慌ててボスに駆け寄る。ボスは不思議そうに首を傾げていた。


 あたしは構わずにボスの前にビシっと敬礼して見せる。


 そして、両手で王冠を包み込み、ボスに対して差し出した。


「王様から金の王冠を盗んでおきました! これって、それなりの値打ち物ですよね?」


「え、あの一瞬の間に……? えっと、ゴブリンキングの王冠は二万Gだったかな……?」


 戸惑うボスにあたしはニンマリと笑う。そして、すかさずハティに便乗する。


「なら、ハティだけ特別扱いはズルいと思います! あたしの事も、これからは『さん』付け禁止でお願いします!」


「えっ……!? ……うん、別に構わないけど?」


 ボスが不思議そうに首を傾げている。あたしの要求の意味が、ボスには理解出来なかったらしい。


 けど、ハティは理解した様に苦笑し、ルージュは出遅れた事にショックを受けた表情をしていた。


 アンナちゃんに至っては、苦々し気な表情を作っている。


「ふふっ……。これであたしも、本当の意味で身内って事ですね!」


「ん……? いや、これまでも身内だったけど……?」


 やはり、ボスはやはりわかっていない。ボス自身は、あたし達を公平に扱っているつもりなのだろう。


 けど、アンナちゃんへの態度と、あたし達三人への扱いはハッキリと違う。


 きっと、今はいないギリーに対しても、あたし達とは違った態度を取っているはずだ。


 ボス自身が気付いていないだけで、ボスにとって家族同然という線引きがあるのだ。


 ずっと一緒にいるから感じる事だけど、そこに入れるかどうかは大きく違って来る。


 あたしはボスに特別扱いをして欲しい。それは恋人になりたいとか、恋愛対象としてでは無く、凄い人に認められたいという感情である。


 ボスの事を凄いと認めるからこそ、あたしはボスからも凄いと認められたいのだ。


「まあ、いっか……。それじゃあ、帰ろうか。そのレザージャケットも修理しないとね」


「うん! 帰ったら宜しくね!」


 メンバーを見回し、歩き出すボス。あたしはニコニコと笑顔でボスに続く。


 しかし、少し距離が近かったらしく、アンナちゃんが間に割り込んで来た。


 でも、そんなやり取りも今は楽しい。きっとアンナちゃんも、あたしを本当の意味で攻撃する事は無いだろう。


 ボスが前に言った言葉が、今なら心から信じられる。


 ボスもアンナちゃんも、家族を失ったからこそ、家族の絆を大切にしている。


 命を懸けて家族を助ける事はあっても、大切な家族に怪我をさせたりはしない。


 ……あたしも少しだけ、そんな家族として認めて貰えたと思う。


 ボスとアンナちゃんとギリーの三人は特別だろう。けど、三人はあたしを、その次くらいには大切にしてくれるはずだ。


 新しく出来た家族の絆に、あたしの顔が緩む。ボスが不思議そうに笑っていたけど、今は喜びを隠せそうにない。


 この絆を守る為なら、あたしも少しは強くなれそうな気がしていた。

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