アレク、ライバル宣言を受ける
クランの運営は順調だ。ほぼ計画通りに動いていると言える。
昨日まではシルバーバックという、ゴリラ型のボスを倒した。始めは苦戦したが、三日続けたお陰で最後は皆も慣れていた。
流石にボスを毎日探すのは大変だったけどね。
まあ、その苦労もあって、全員がLv30を越えた。この調子で行けば、半年程で全員の上級職も狙えそうだ。
クランの貢献度も、それまでには十分貯まるだろう。そうすれば、メンバーの転職に合わせて、クランをゴールド級に昇級させる事が出来る。
……後の問題は、装備の充実だけだ。現状は赤字なので、収入面の改善が必要である。
「ハンスさん、収入を増やしたいです。ポーションの需要は、どんな感じでしょうか?」
今のボクはハンスさんと、クランハウスのリビングで相談中である。
ボクの隣にはアンナが無言で座り、背後には当然の様にメリッサが控えていた。
ハンスさんは紅茶を口にしながら、難しい顔をしている。そして、申し訳無さそうに口を開く。
「需要はあるけど難しいね。薬師ギルドからの反発があると思うんだ」
「薬師ギルドからの……?」
予想外の回答に目を丸くする。薬師ギルドの存在自体は知っている。薬師へ転職する為の場所である。
ただし、ボクが関わる事は無いと考えていた。ボクは爺ちゃんから薬師の極意を教わった。今更、訪問する理由が無いからね。
ハンスさんは疲れた様子で首を振った。
「ポーションの販売は、全て薬師ギルドが管理しているんだよ。賢者様のポーションは、特別枠として少量だけ見逃されてたけどね……」
「そうだったんですか……?」
ボクが薬師になってからは、練習も兼ねてボクが作っていた。そして、ボクの作ったポーションを、ハンスさんに販売して貰っていたのだ。
実際に作ったのはボクだけど、ハンスさんは爺ちゃんの名前で売ってたのか。
まあ、それは別に良いけど、薬師ギルドが販売管理をしてるってのがね……。
「薬師ギルドの許可が無いと、何が問題になるんですか?」
「商人ギルドへのポーション納品に、制限を掛けて来ると思うよ。商人ギルドとしては、とても困った状態になるだろうね……」
ハンスさんが困った表情で息を吐く。すると、後ろからメリッサが補足説明を行う。
「ヴォルクスの薬師ギルドは、非常に力を持っています。街の薬師を全て所属させ、製造・販売を全て押さえていますので。……そして、流通量を減らせば、冒険者の不満が吹き出す事を知っているのです」
「この街って、そんな事になってるの?」
ボクは薬師ギルドのやり方に呆れる。ゲームと違って、こういう所にはリアルな生活を感じさせるね。
ボク達はポーションを購入する必要が無いから良い。しかし、白魔術師のいないパーティーは困るだろう。
とはいえ、そんな状況が長く続くのだろうか……?
「ポーションが手に入らないなら、白魔術師の需要が増えるだけですよね? 白魔術師の数は足りないんですか?」
メリッサに向けて質問する。メリッサは真面目な顔でコクリと頷いた。
「この国は他国より、白魔術師が少ないのです。白魔術師自体はいますが、彼等の多くは冒険者になりません。聖教会に所属し、町人からの治療費で生活しています」
「聖教会に所属……?」
白魔術師は、魔術師ギルドの管理だよね?
……どうして、聖教会が出て来るんだ?
「はい。白魔術師は基本的に、聖教会が管理しています。そして、ペンドラゴン王国では聖教会の力が弱いのです。スルラン法国と仲が悪い為ですね」
「あ~……」
スルラン法国の設定に、確かそんなのがあったな。白魔術師と、その先のクレリックは自分達の管轄だってのが。
スルラン法国は光と生命の神スルランを信仰している。そして、回復魔法はスルランの力を借りる物という主張だ。本当かどうかは疑わしい所だけど。
……けど、とりあえずの状況はわかった。
白魔術師が冒険者に少なく、ポーションの需要が高い。ポーションの需要が高いから、薬師ギルドの力が強いという事か。
さて、どうしたものかな……。
「ん……?」
ボクが腕を組んで考えている、外が少し騒がしい事に気付く。
そして、こちらへと近づいて来る足音と、喧噪が聞こえて来た。
「ですから、取次しますので、それまでお待ちを……!」
「ワタクシが待つ必要など御座いません。ここにいますのね?」
何事かと思い、全員の視線が扉に集まる。
そして、扉が勢い良く開かれる。何か少し前にも同じ状況があったけど……。
「お邪魔しますわ! 貴方がアレクですわね!」
入って来たのは、金髪ポニーテールの美少女だった。銀の鎧に身を包み、腰には剣を吊るしている。
今は鋭い視線をこちらに向け、ビシリとボクを指差していた。
ボクは混乱しつつも立ち上がる。そして、相手に対して答える。
「ええ、ボクがアレクで合ってますよ。それで、そちらはどちら様でしょうか?」
失礼な来客ではあるが、いきなり喧嘩腰になる訳にはいかない。身に着けた装備品は豪華であるし、彼女の態度は実に堂々とした物だ。
恐らくは、人の上に立つのに慣れた人間だろう。相手が貴族関係だった場合、揉め事になるのは面倒だ。
ボクが丁寧に対応したのが良かったのか、彼女は満足そうに笑みを浮かべる。そして、両腕を組み、その笑みを深めた。
「ホーッホッホ! ワタクシの事をご存じ無いとは、賢者様のお孫も大した事がありませんね? ……宜しいでしょう。ワタクシの名前を教えて差し上げます!」
彼女は両腕を腰に当てる。そして、胸を張って堂々と名乗りを上げる。
「ワタクシの名前はアンリエッタ=ペンドラゴン! ヴォルクス領主の娘にして、ゴールド級クラン『銀の翼竜』のリーダーですわ! ……そして、貴方の最大のライバルとなる存在です!」
「ペンドラゴン……」
嫌な汗が背中を流れる。こんなにも早く、王家関係の人間が出て来るとは思っていなかった。
しかも、突然の訪問で、こちらは何の準備も出来ていない……。
ボクは苦り切った表情となる。相手の出方がわからないと、どう切り抜けて良いかもわからない……。
しかし、背後から更なる来客が現れる。黒いローブを纏った、ノンビリした感じの青年である。
その青年は、執事と思われる初老の紳士と共に部屋へと入って来た。
「ああ、すみません。姉さんが迷惑をお掛けして」
「お嬢様、アレク様が困惑しておいでです。まずは、席に着いてお話しませんか?」
青年と紳士の言葉に、アンリエッタはぶすっとした表情となる。
そして、腕を組んで背後のメアリーに声を掛けた。
「そこのあなた。ワタクシとポルクのお茶を用意なさい。当然ながら、安物では口に合わなくってよ?」
「しょ、承知致しました……。少々お待ち下さい……」
メアリーは慌てて部屋を飛び出して行く。来客用のお茶を準備しに行ったのだろう。
良くわからない状況だけど、彼女なら任せていて問題無いだろう。
……にしても、この状況は何なんだ?
彼女の目的は一体何なのだろう? 何故かサラッと、ライバル宣言もされてたよな?
ボクが混乱していると、ポルクと呼ばれた青年が動き出す。ニコニコと腰の低い態度で、皆の中心に移動して来た。
「あはは、皆さん混乱されてますよね? 私から説明しますので、まずは皆でお茶でも飲みましょうか?」
ポルクの言葉にボクはハンスさんと顔を見合わせる。
そして、アンリエッタは当然と言わんばかりに、空いているソファーへと移動し始めた。
老紳士は彼女の背後に立ち、ポルクは全員が見渡せる位置に移動する。ビックリする程に、自然な流れで話し合いの場が整っていた。
「では、お茶が来るまで少しお待ち下さい」
何故かポルクが完全に仕切っていた。ここはボクのクランハウスのはずなのに……。
そして、ボクは何となく思う。ポルクの慣れた動きを見て、彼の事を営業マンみたいだなと。




