情報分析(フェリシア視点)
私の名前はフェリシア=ブラック。高貴なるブラック家の当主にして、現在はカーズ共和国の大統領を務める者です。
そんな私ですが、人生で最大のピンチが訪れています。それは目の前に鎮座されている、黄金の髪をたなびかせる美女によって……。
「うふふ、フェリシア。それで状況は如何かしら? そろそろ、何かわかったのではなくて?」
「はっ、はい! 集まった情報を精査した、現状のご報告なのですが……!」
問われて私は慌てて応える。例え大統領と言う身分だろうと、目の前の御方には関係の無いこと。
何せ相手は神なのだ。『愛と勝利』を司る神。女神フローラム様なのである。
――いや、どうしてここに居るの……?!
私は激しい動悸を隠しながら、何とか会話を継続する。一度、神となられたアレク様とお会いする機会があった。だからこそ多少の耐性が付いて、平伏せずに済んでいるけど……。
「つまり、混沌の神ケイオスは、神々の位置情報を正確に把握していると?」
「は、はい、その通りです! 勝てない可能性がある相手を、明確に避けているのです!」
何故か在る黄金の玉座に座り、組んだ足を入れ替える。妖艶に微笑むその美しいお姿は、見る者全てを魅了するだろう。
しかし、今の私には混乱の方が強かった。アレク様から神は簡単に地上へ降臨出来ない。白亜の塔に住まうアレク様は、例外中の例外だと言っていたのに……。
私は作戦会議室に広げた地図を示し、ケイオスの眷属が出現したポイントを示す。そして、それをフローラム様と同時に、その従者である戦乙女も見つめていた。
正直、戦乙女すら私には雲の上の存在である。だって、私のエクストラスキルで召喚した魔王と、同等のプレッシャーを放つ存在なのだ。地上に普通に居て良い存在では無い。
ただ、彼女はフローラム様の使いとして、私にケイオスの情報分析の依頼を伝えに来た。なので、彼女がここに来ることはまだ心の準備も出来ていた。
――けれど、ご本人が降臨しちゃ駄目でしょう……!!!
現在は溢れる神気の為か、この作戦会議室には誰も寄り付こうとしない。それが私にとって幸か不幸かはわからないが……。
ただ、ここは本来なら大統領の官邸。いつもは多くの人々が働く場所で、昨日までは軍事のトップは全員詰めかけていたのだ。
粗相がない様にと人払いをしたのは私です。けれど、マーガレットまで外させたのは失敗でした。彼女がいてくれたら、とても心強かったのですが……。
「ふ~む、そうですか~。――それで、ケイオスの居場所に目途は立ったのですか?」
ニコニコと笑顔のフローラム様だが、その目が微かに細くなる。依頼を受けて一月となるが、そろそろこの御方も焦れてきているのだろう。
放たれる神気が非常に重い。私は内心で泣きたい気持ちを我慢する。生まれてこの方、ここまでの重圧を感じた事はありません。
世界の危機であり、時間が無いのは理解している。私は確信が無いまま話して良いのかと迷いつつ、それでも予想を披露せぬ訳には行きませんでした。
「こ、これは私の勘なのですが……。ペンドラゴン王国が白過ぎます……。まるでそこに目が行かない様に、誘導されていると感じるのです……」
「誘導されている?」
私は地図のポイントを指さしながら、始めにペンドラゴン王国をぐるっとなぞる。
「始まりはペンドラゴン王国から。けれど直後に、周辺国へと均等に散らばり、それでいて疑われない程度にペンドラゴン王国でも眷属化を継続。その後は、数が一定になる様にバランスを取りつつ、ペンドラゴン王国以外で派手に眷属化が進んでいる。……一見ランダムに見えて、これは入念に計算された計画に思えます」
この感触には覚えがあります。かつてカーズ帝国がペンドラゴン王国を責めようとしていた時、黄金の姫――シャルロッテ王女に邪魔をされていた時と同じです。
巧妙に存在を隠して痕跡を残さず。けれど、痕跡が無さ過ぎると言う違和感。そして、一番目を向けられない場所にこそ何かあると私は感じる。
相手は情報が集まる場所に居て、それでいて誰にも疑わない人物。そういう人物の暗躍であると、私の勘が告げています。
「ふふふ、もしかして正確な居場所にも、当たりが付いてるかしら?」
フローラム様が身を乗り出す。その瞳は輝き、私に話せと目で語る。
予感でしか無いし、外れていたら外交問題になりかねない。それでも私は、女神の威圧に負けてその名を告げた。
「もし、私の予想通りであれば、この様な事が可能な人物は只一人……。転生神アレク様の第三婦人であらせられるメリッサ様のみ……。ケイオスは彼女の力を利用している可能性が……」
アレク様の妻を疑うなんて不敬である。そんな考えを持つ私に、どんな神罰が下されるのだろうか……。
私は罪人になった気持ちで沙汰を待つ。すると、フローラム様は満面の笑みでこう告げた。
「ねえ、フェリシア! 貴女、子供を一人産んでみない? そうすれば、貴女を私の眷属――戦乙女に出来るのだけど!」
「――はっ……?! 子供……? それに、眷属……?」
唐突な提案に私は唖然となる。しかし、そんな私を無視して、フローラム様は従者へと問い掛ける。
「ねえ、貴女はどう思う? 私はとっても素敵だと思うのだけれど?」
「はい、フローラム様。彼女であれば、御身のお役に立つでしょう!」
きゃっきゃと盛り上げるお二人。何やら勝手に進む話に、私は嫌な汗が止まらなかった。
「ああ、安心してね! 私の加護があれば、何歳でも、何人でも、安全に産めるから!」
「いや、楽しみですね! フェリシア、貴女の事は先輩として面倒を見てあげますよ!」
「――ちょっ、ちょっとお待ちください! お誘いは光栄ですが、私は眷属にはっ……!」
相手は神様ではありません。それでも私の信仰は、生れてから変わらずガウル様に向けられています。
ガウル様の教えに従い、その教えに従って死ぬ。それこそが私の生き方なのです。
私は女神とその従者からのプレッシャーにも負けず、必死にそのお誘いを断り続ける。
ケイオスの居場所を追跡するより、女神のお誘いを断る方が、神経をすり減らす事になるとは思ってもいませんでした……。
フェリシアさんはアラフィフ。
生涯独身を決めており、マーガレット(ゼロ)を養子&後継者に指定してます。




