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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

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アレク、アンリエッタと再会する

 ペンドラゴン城の自室。今のボクは、そこで一時の休息を取っていた。


 ソファーに背を預け、ボクは大きく息を吐く。


「これで、準備は整った……」


 あの会合から三週間が経つ。その間にボクと仲間達は、伝説級レジェンダリーの装備を三つ入手した。


 一つ目は『天竜の鎧』。光属性を持つ鎧で、全属性ダメージを軽減する効果がある。これで、ルージュの防御力が大きく上昇する。


 二つ目は『風竜のブーツ』。俊敏性に大きな補正が掛かり、風属性の加護も得られる。これで、ギリーの攻撃、回避、防御能力がバランス良く上昇する。


 三つめは『土竜の爪拳』。高い攻撃補正を持ち、土属性の追加ダメージも付く。これで、ハティの攻撃能力が大きく上昇する。


「後は、ボスの攻略か……」


 準備は万全と言えない。本来なら、伝説級レジェンダリーで装備を固め、挑むべき相手なのだ。


 しかし、万全を期すなら、半年以上の時間が必要となる。帝国の脅威を前に、それだけの時間は悠長過ぎる。


 なので、今の装備、メンバーでボスへと挑むのだ。この世界で伝説を残す、強大な存在へと……。


 ――と、不意にノックの音が響く。


「アレク様、アンリエッタ様がお見えです。お通しして宜しいでしょうか?」


 声の主はギルだ。彼はボクへと、入室の許可を求めていた。


 ……そういえば、忘れていた。今日はアンリエッタが来る日だったな。


「問題無いよ。入って貰って」


 ボクは平静を装い、ギルへと返事を返す。流石に忘れていたとは言えないしね……。


 そして、ボクの返事によって扉が開かれる。ギルが爽やかな笑みをボクへと向ける。


「それでは、私はしばらく席を外させて頂きます。ギリー様が外で警護をされてますので、何かあればそちらへ……」


「うん、わかった。案内ありがとう」


 ボクの返事を聞き、ギルは静かに頷く。そして、アンリエッタを入室させ、自分は扉を閉めて去っていく。


 久々の再会なので、ギルなりの気遣いかな? 彼なら同席しても問題無かったけどね。


 ボクは苦笑を浮かべる。そして、部屋に残ったアンリエッタへと視線を移す。


「やあ、顔を合わせるのは一年ぶりだね?」


「はい。一年ぶりの再会になりますね……」


 ボクを見つめるアンリエッタ。今の彼女は、清楚な白のドレス姿だった。


 腰まで伸びるブロンドヘアー。おっとりした表情。それでいて、強い意志を感じさせる瞳。


 一年ぶりに会うアンリエッタは、ボクの記憶にある姿のまま……。


「――いや」


 ボクの知るアンリエッタは十九歳の姿だ。そして、今のアンリエッタは二十歳。少し大人っぽくなった気がする。


 まあ、だからといって、何かが大きく変わった訳ではないんだけど。


「さあ、馬車での移動で疲れただろう? 座って話をしようか」


「……ええ、それでは」


 ボクは小さなテーブルを挟み、向かいのソファーを勧める。


 何故かアンリエッタは、僅かに顔を顰める。しかし、気のせいだったのか、そのまま笑顔でソファーに座った。


「それで、早速で悪いんだけど、すぐに式の段取りを話したいんだ。午後からまた打ち合わせでね」


「え……。その……とても、お忙しいのですね……?」


 アンリエッタは眉を下げ、寂しげな笑みを浮かべる。ゆっくりと、話せると考えていた為だろう。


 そして、ボクとしても余裕があれば時間を作った。アンリエッタとゆっくり話がしたかった。


 ……ただ、今は私情で時間を裂ける状況でも無いのだ。


「うん、とても厳しい状況でね。皆が一丸になって帝国の脅威に備えている。ボクが引っ張って行かないと、本気で王国は滅ぶかもしれないんだ」


「そう……。その様な状況ですの……」


 ボクの答えに、アンリエッタは俯いてしまう。どうやら、状況を察してくれたらしい。


 ボクは内心で胸を撫で下ろし、話を進める事にした。


「それで、一週間後の結婚式の段取りだけど……」


「ア、アレク……。その前に、少し……」


 ボクの話をアンリエッタが遮る。強い意志を宿した瞳が、ボクを真っすぐ見つめていた。


 そして、アンリエッタは僅かに胸を反らし、ボクへと問い掛けて来た。


「何か……。気になる事はありませんか……?」


「え……?」


 アンリエッタは姿勢を正し、ボクからの答えを待つ。その表情から、何かを期待しているとわかる。


 その為、ボクはアンリエッタを改めて観察する。雰囲気から察するに、服装に関する事だろう。


 アンリエッタの恰好は白のドレス。ほんのりと青みがかっており、上品な仕立てになっている。


 それに、青い石の付いたイヤリング。無骨なデザインのネックレス。アクセサリは控えめである。


 ……うん、上品で似合っている。だけど、それだけである。


 ボクは内心で嘆息する。今はそんなやり取りをしている時では無いと言うのに……。


「うん、とても似合っているね。そのネックレスは、もう少し高価な物が良いだろうけど」


「え……? ア、アレク……。もっと、良く見て下さい……!」


 何故かアンリエッタは、焦った様子で食い下がる。ボクの答えは、お気に召さなかったらしい。


 そして、そんなアンリエッタの態度に、ボクは苛立ちが募る。


「アンリエッタ……。そんなくだらない事は止めるんだ。今はそんな時じゃ無いって、わかっているだろう?」


 ボクは強い口調で、アンリエッタを窘める。この位は強く言わないと、マイペースな彼女には通じないだろうからね。


 ……しかし、アンリエッタの反応は、ボクの予想した物では無かった。


「……りません」


「え……?」


 絞り出す様なアンリエッタの言葉。しかし、掠れたその声は、良く聞こえなかった。


 聞き返すボクに、アンリエッタは拳を握る。そして、憤怒の瞳でボクを睨み付ける。


「くだらなく、ありません……! これは、とても大切な事です……!」


 アンリエッタは叫ぶと同時に立ち上がる。ボクを見下ろすその視線には、はっきりとした非難が含まれていた。


 茫然とするボクに、アンリエッタは怒りをぶつける。


「知っていました……! アレクが、自分を犠牲にする人だって……! 周囲の期待に応え様とする人だって……!」


 パッと聞けば、肯定の言葉にも聞こえる。しかし、そうで無い事位はボクにもわかる。


 その瞳には大粒の涙を溜め、握った拳は振るえているのだから……。


「けど、身内を大切にする人でした……! 私の事を――私達の思い出を、大切にしてくれる人だって……。ずっと、そう思っていました……!」


 自分の事を大切に……? アンリエッタを優先しないから、彼女は怒っているのか?


 ――そう思うと、ボクの中にも怒りが込み上げて来た。


「何を勝手な事を……。ボクがやってるのは、この国を守る行為だぞ! なのに、自分の事を、もっと大切にしろだって……!?」


 ボクも同じく立ち上がる。苛立ちを乗せて、アンリエッタへ反論した。


 すると、アンリエッタは目を丸くする。ゆっくり首を振り、小さく否定を行う。


「ち、違います……。私が言いたい事は、そういう事では……」


「だったら、何だって言うんだ……! ボクが毎日、どれだけ悩んでるか知ってるのか……! 皆に無理を言ってるか、知って言っているのか……!」


 それは、アンナやマルコ副団長だけでは無い。ザナック侯爵やポルク。国王のエドに対しても。


 それだけでは無い。メリッサに命じて、王都ギルドにも無理をさせている。騎士団にも半ば脅して、強制的な訓練を行わせている。


 王都ブラウン……。そして、ペンドラゴン王国に所属する、全ての人々に負担を掛けている。


 なのに、今のボクが私情を優先させられると、本気で思っているのだろうか……?


「王国が滅びれば、結婚なんて悠長な事を言える状況じゃないんだぞ! 本当なら、結婚式なんて挙げている場合じゃないんだ! それなのに……少しは自分の立場を考えてくれよ!」


 ボクの叫びに、アンリエッタは肩を震わせる。どうやら、少しは堪えたらしい。


 その証拠に、アンリエッタはポロポロと涙を零す。俯きながら、小声で弁解を始める。


「違います……。そうじゃないんです……。私の伝えたかったのは……」


「じゃあ、何だって言うんだよ……」


 アンリエッタの涙に、ボクの興奮も少し収まる。むしろ、少々の後ろめたすら感じていた……。


 ジッと待つボクに、アンリエッタはゆっくり呟く。


「アレクは……この国に必要な人……。私が独占出来るなんて……して良いなんて……思っていません……」


「…………」


 アンリエッタは、そっと両手を持ち上げる。そして、胸元のペンダントを掴む。


 何かに縋る様に、ネックレスに付いた青い石を握りしめる。


「でも、アレクが……苦しそうだから……。私の知るアレクは……そんな顔をしないから……」


「苦しそう……?」


 アンリエッタは何を言っているのだろう……?


 ボクはいつも通りだ。責任の重さで疲れる事もある。


 だが、それだってヴォルクスに居た時から何も変わっていない。


 ボクはこれまで通り、やるべき事をやっているだけなのだが……。


「アレクは、いつも……皆を導いて来ました……。どんな苦境でも……笑顔で導いて来ました……」


「笑顔……?」


 ボクはそんなに笑っていただろうか? 苦笑は多かったと思うけど……。


 それに、今はそんな状況じゃないんだ。笑っていられる状況では……。


「アンナや、ギリーと……会話をしていますか……? あの二人なら……アレクの心を、守ってくれるって……思ってましたのに……」


「何を言ってるんだ……?」


 アンナとギリーなら、毎日顔を合わせている。午前中にミーティングを行い、その日の行動を指示している。


 ……いや、あれを会話と言うのだろうか?


 多分、会話とは言わない気がするな……。


「ごめんなさい……。見ていられない……。今のアレクを……見ているのが、辛いのです……」


 アンリエッタは伏せていた顔を上げる。そして、一瞬だけ視線が交差する。


 その瞳は涙で濡れていた。悲しみに染まっていた。


 そんなアンリエッタに、ボクは何と声を掛けて良いかわからなかった…‥。


「ごめんなさい……。支えて、あげられなくて……ごめんなさい……」


 アンリエッタはそのまま扉へと向かう。涙を零しながら、ゆっくりと歩き出す。


「あ……」


 止めようと思えば止められただろう。今の弱々しいアンリエッタであれば。


 しかし、何と呼び止めれば良いのだろう? この場に相応しい言葉は何なのだろうか?


 アンリエッタの考えが理解出来なかった。ボクはただ、その背中を見送るしか出来なかった……。

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― 新着の感想 ―
以前から王都の名前がブランだったりブラウンだったりするの、どっちが正式名称か分からないからハッキリしてほしいな 多分ブランなんだろうけど、ブラウンだったのは1つや2つじゃないんだよね
やっぱり精神面成長してないな。亡くなった幼なじみの子に誓ったんじゃなかったのかよ
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