表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

200/354

埋もれた心

 アンリエッタが去った部屋。残されたボクは、一人で途方に暮れていた。


 すると、ノックも無しに、部屋の扉が開いた。


「アレク、何事だ……? アンリエッタが、泣きながら走っていったぞ……」


「ギリー……」


 部屋に踏み込んできたのはギリーだ。警護中の彼は、何事かと様子を見に来たのだろう。


 ボクは何と言って良いかわからず、曖昧に言葉を濁す。


「いや、どうも言葉が悪かったみたいでね……。怒らせてしまったみたいなんだ……」


 ギリーは、ボクの言葉を静かに聞く。ジッとボクの瞳を見つめながら。


 そして、何故か彼は扉を閉め、部屋の中に留まった。


「アンリエッタが、アレクに対して怒る……? それ程の事を言ったのか……?」


「あ、えっと……」


 ギリーが一歩前に出る。彼が踏み込んで来るなんて珍しい。


 いつもなら、常に一歩引いた位置で構えているのに……。


「忙しくて、時間を取れなくてね……。アンリエッタを優先出来ないってのが、事の発端かな……?」


「馬鹿な……。アンリエッタは元々、公爵令嬢の身……。公私の区別が出来ないはずが無い……」


 痛い所を突いて来る……。


 というか、ギリーの言う通りだ。アンリエッタが、そんな事で怒るはずが無かった。


 ボクは頭を捻り、先程の出来事を思い出す。


「それから、結婚式の話をしようとして、話を遮られたんだ。その前に、何か気になる事は無いかって」


「ふむ……」


 ギリーはボクの言葉に耳を傾ける。続きを話せと言う事らしい。


 ボクとしても理由は気になっている。何かの手掛かりが得られるなら、話してみるのも有りか……。


「見た目の話かと思ってね。似合ってるよって返したんだ。ただ、そうしたら、もっと良く見ろって食い下がって来てさ。そこで、ボクもイラっと来てしまって……」


「もっと良く見ろ、だと……?」


 何故かギリーが眉を寄せる。その言葉の、何が引っ掛かるのだろうか?


 そして、ボクはふと思い出した言葉を口にする。


「ああ、その時にこうも言ったね。そのネックレスは、もう少し高価な物が良いだろうって……」


 ――言葉の途中で、衝撃に襲われる。


 一瞬、何が起こったかわからなかった。ただ、気が付くと、ボクは床に倒れていた。


 そして、顔を上げて、状況を理解する。拳を振り切った、ギリーの姿を見て……。


「アレク……。貴様、気付いていなかったのか……?」


「っ……。何に、気付いて無かったって言うんだ……」


 ボクはギリーの怒気に飲まれる。その圧倒的な迫力に、思わず冷や汗が噴き出す


 エルフのジェラハムさんは、こんな物を向けられていたのか……。これは流石に、ボクでもキツイな……。


「あのネックレス……。お前が贈った物だろう……? 水神祭で手に入れた、水神のネックレスだったろう……?」


「え……?」


 その言葉に、アンリエッタの姿が蘇る。先程の彼女は、確かにやや武骨なネックレスを付けていた。青い石の付いた……。


 余りに自然で気付かなかった……。ドレスやイヤリングと違和感無く、普通の宝石と思っていた……。


 ――いや、違う。


 そうじゃない。逆なのだ。あの恰好は、『水神のネックレス』の為のコーディネートだったのだ。


 貴族の娘として。ボクの婚約者として。あのネックレスを身に付ける為に、考えられたコーディネートだったのだろう。


 それを考えると、相当頑張ったと言える。本来の『水神のネックレス』は冒険者用。社交界で通じるデザインでは無いのだから……。


「その顔……。まだ、理解していないな……?」


「あ、いや……。ようやく理解出来たよ……。アンリエッタが凄く考えて、今日の再会に挑んだんだって……」


 しかし、ボクの言葉に、ギリーは首を振る。そうでは無いと、その態度が物語っていた。


「確かに、傷付きはしただろう……。しかし、そうでは無い……。アンリエッタが、その程度で怒るはずが無いだろう……?」


「じゃあ、彼女は何に怒ったって言うんだ……?」


 ボクはギリーへ問い掛ける。どうも彼は、答えに気付いたみたいだからね。


 そんなボクの問いに、ギリーは悲しそうに目を伏せた。


「アレク……。お前、ミーアへの誓いを忘れたな……?」


「ミーアへの……誓い……?」


 唐突な言葉に、ボクはポカンと口を開く。どうしてここで、ミーアの名前が出るんだ……?


 するとギリーは、ギュッと手を握る。ボクに対し、ゆっくりと言い聞かせる様に語り出した。


「あの日、お前はミーアを召喚したな……。アンナや、皆が見ている前で……」


 ネクロマンサーに転職した直後。レベル上げの修行をしていた時の事か。


 あの時は、ミーアの思いを知る為に、レベル上げの特訓を行っていた。


 アンナや仲間達には、とても迷惑を掛けた出来事だったな……。


「そして、アンナの言葉を聞き、お前は涙を流した……。ミーアの気持ちを理解し、彼女に誓いを立てたはずだな……?」


 あの時のミーアは、ボクの事を心配していた。その為に、成仏出来ずにいたのだ。


 だからこそ、ボクはミーアに誓った。彼女が安心し、その世へと旅立てる様にと。


「『もう、無茶はしない』……。そして、『ミーアの心配する事はしない』と……。確かに、そう誓ったはずだな……?」


「いや、それは……」


 ギリーの言葉に、ボクの胸が軋む。胸の奥に、棘が刺さった様な痛みを感じる。


 ボク自身が発した言葉。ボクが決めたはずのルールが、ボクの心を締め付ける。


 今のボクの姿を見れば、ミーアは何と思うのだろう……。


「なあ、アレク……。オレは知っている……。お前が決して、完璧な男で無いと……」


 ギリーはその場で膝を着く。そして、視線をボクに合わせ、静かに語り掛ける。


「お前は手探りで前に進んだ……。何度も失敗し、何度も反省して来たな……?」


 その言葉は、決して責める言葉では無い。ギリーの言葉には、優しさが感じられた。


 口元に笑みさえ浮かべ、懐かしむ様にギリーは語る。


「何度もやり方を変え、結果を出して来た……。どんな時も、諦めなかった……」


 ボクは世に語られる様な天才では無い。本当は、皆が思う様な英雄でも無いのだ。


 ――ただ、諦められなかった。


 ギリーやアンナ。そして、仲間を守る為に、諦められなかっただけなのだ。


「お前の双肩には、重責が圧し掛かった……。決して、楽な事では無かった……」


 クランの維持にはお金が掛かる。それは、仲間の生活を守る為にも必要な事だ。


 しかも、それだけでは済まなかった。悪魔公復活なんて強制イベントが発生したからだ。


 その後も、ヴォルクスへ流れて来た、王都からの冒険者対策も行った。ヴァーム砦の防衛戦にも参加した。


 王都でのクラン交流戦。ユリウスさんの暗殺。ヴォルクスでは、本当に色々な事があった……。


「だが、それだけでは無かっただろう……?」


「え……?」


 ギリーは右手を握る。そして、その拳を、そっとボクの胸へと押し当てる。


「楽しかったな……。仲間達と乗り越える苦難は……」


「あ……」


 その言葉が、ボクの胸にストンと落ちた。閉じていた瞳が、開いた様な気がした……。


 そんなボクに、ギリーは嬉しそうに語り掛ける。


「悪魔公は強かった……。だからこそ、倒した後は仲間で祝い合った……」


 そうだ……。皆で打ち上げを行ったんだ……。


 悪魔公対策に関わった、全ての人々が集まり、お互いを讃え合ったのだ……。


「クランの講習会も、忙しなかったな……。オレも、新人育成は大変だったのだぞ……?」


 チームを分けて、皆が自分のやれる事をやった。ギリーにも、クラン事務局の新人を任せた。


 アンナが賢者となったのも、あの時だったな……。


「他にも色々やったな……。オレ達、『白の叡智』の仲間達は……」


 ああ、そうだ。皆で沢山の事をやって来た。


 ヴォルクスに移りたった二年。その間に、本当に沢山の事を……。


「オレは楽しかった……。仲間達と過ごした、あの日々が……。『白の叡智』の思い出は……。オレにとって、黄金の様に価値有る日々だった……」


 それは、ボクにとっても同じ事だ。あの日々は、何より楽しい時間だった。


 ベッドの上で憧れた『ディスガルド戦記』の世界。その世界を、ボクは本気で楽しんだのだ。


 忘れていた気持ちを思い出す。ボクが茫然としていると、ギリーは拳に力を込めて来た。


「なあ、アレク……。お前の心は、まだここにあるのか……? 仲間達との思い出は、まだ生きているのか……?」


「あ、ああ……」


 その問い掛けに、ボクの心は衝撃を受ける。それは、先程殴られた、ギリーの拳を超える程の衝撃だった。


 そして、ボクの瞳からは、自然と涙が溢れ出して来た。


「残っている……。ボクの心も……。仲間達との思い出も……!」


 仲間達と過ごした二年間。苦しい時もあったが、楽しい日々であった。


 それに対し、王都での一年間。ボクは責任に動かされ、決して楽しい等と感じられなかった。


 ……本来、それは仕方の無い事なのだろう。


 しかし、ボクはミーアに誓いを立てた。無理をしない。自分を大切にすると。


 ボクの事を大切に思う、最愛の人を心配させない為に誓ったのだ。


 なのに、ボクは再び過ちを犯した。アンリエッタに、同じ悲しみを与えてしまったのだ……。


 ボクは自らの愚かさに顔を伏せる。しかし、ギリーがボクの肩を掴んだ。


「オレは知っているぞ……。お前は、決して諦めない男だと……」


「ギリー……?」


 その言葉には、信頼が感じられた。勇気が湧いて来る、力の在る言葉だった。


 そして、ボクは顔を上げる。ギリーはボクに、二っと笑って見せた。


「アンリエッタの事、ここで終わりにするのか……? まだ、諦める場面じゃないだろう……?」


「そう、だった……」


 ボクは過ちを犯した。それは、反省しなければならない。


 だが、それは今やるべき事では無い。ボクにはもっと先に、やるべき事があるのだから。


「――ギリー。しばらく、城を空けるよ」


「ああ、行ってこい……!」


 ボクは立ち上がり、扉へと向かう。勿論、アンリエッタを迎えに行く為だ。


 そして、扉を開き、チラリと振り返る。最後にギリーへと視線を向ける。


 ボクの視線に気付いたギリーは、サムズアップして見せる。この場面なら、健闘を祈るって意味だろうか?


 ボクはギリーへ苦笑を返す。そして、サムズアップも返して部屋を出る。


 そう、ここで終わりに何てしてはいけない。最後はやはり、皆が笑顔で終わるべきなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いや、殴るほどのこと?笑笑 おそろしい茶番劇。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ