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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十三章 世界樹防衛戦編

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アレク、等級の意味を知る

 ボク達を囲む帝国兵。その数は百名程。いずれも、レベル、装備が整った精鋭である。


 そして、ボクへと歩み寄る、帝国軍大将のフェリシア。エクストラスキルを習得し、ボク達を超える実力は疑い様も無い。


 ……これは、既に積んでいると言えるかもしれないな。


「仕方が無い……。一旦、相手に従うか……」


 仲間達を守るには、それが最善の選択肢だろう。ボク達が大人しく従えば、アンナ達の命は保証して貰えるはず。さて、後はどの様に交渉を切り出すかだが……。


 ――と、そこへ想定外の声が届く。


『――世界樹を守らねば……』


『――女王をお守りせねば……』


「……え?」


 その声には、聞き覚えがあった。音声では無く、直接頭へと届く声。強い思いが、その言葉には宿っている。


 そして、過去に聞いたのはヴァーム砦。同じく、帝国兵に蹂躙され、無念を内に死んでいった兵士達の声である。


「まさか……」


 ボクはゆっくりと振り返る。ジェラハムさんの遺体の方へと。


 ……そこには、ボクの想定通りの存在が立っていた。


『エルフ族の誇りに掛けて……』


『世界樹の危機を救う為に……』


 半透明となったエルフの亡霊。その数は四人である。


 いずれも、魔王イグニスに焼き尽くされ、肉体を失った存在。彼等は強い意志を宿し、ボクの事をジッと見つめていた。


 ちなみに、ジェラハムさんの亡霊は存在しない。それは彼の感情故に、ボクへ助けを求められなかったからだろうか……。


「戦う力が欲しいのか……?」


 ボクの言葉に、亡霊達は一斉に頷く。彼等は何故か、ボクが持つ力を知っているらしい。


 当然ながら、ボクのユニーク・スキル『死者との取引』は、エルフの誰にも話していない。それは、リリーさんを含めてである。


 つまり、この力は亡霊となった者には、何らかの形で知る事が出来るという事なのだろう……。


「けど、使うべきか……?」


 百名の敵兵相手に、たった四人のアンデッド。逆転の可能性は非常に低い。


 しかし、現状は打つ手が無いのも確か。失敗すれば、この後の交渉に響く。それを考慮してでも、博打を打つべきだろうか……?


「…………」


 ボクは視線をフェリシアへ向ける。彼女は足を止め、ジッとボクの事を見つめていた。その瞳は、とても興味深そうに見えた。


 恐らく、フェリシアはボクの様子から、今の状況を理解しているのだろう。彼女はボクの力を知っているしね。


 ……ならば、ここは一芝居打ってみるのもありか。


「フェリシアさん、少し宜しいでしょうか?」


「何でしょうか? アーレウス皇子……」


 ボクの呼び掛けに、フェリシアは優しく微笑む。表情だけを見れば、平常を装えていると言えるだろう。


 しかし、その感情は隠しきれていない。その瞳を見れば、溢れんばかりの好奇心が疼いているとわかる。


 ……ああ、やはりフェリシアは、ガウルと同じ穴の狢か。


「今から性能試験を行いたいと思います。申し訳ありませんが、お付き合い頂けないでしょうか?」


「ええ、承知致しました。いつでも、そのお力をお振るいになって下さい」


 ボクのやる事を理解し、それでもなお乗って来る。試験と言われ、断れる性格では無いのだ。


 当然ながら、帝国軍の大将としては失格だ。軍事行動において、その選択にはデメリットしか存在しない。


 しかし、フェリシアは大将であると同時に研究者でもある。魔術の深淵を極めんと、日々研鑽を積んでいる者でもあるのだ。


 ならば、次が存在するか不明な試験。研究者としては、決して逃す事など出来るはずが無い……。


 ボクは彼女の気が変わらぬ内に、早速ユニーク・スキルの発動を試みる。


召喚サモンヴァンパイア」


 ボクの身体から、有り得ない程の魔力が抜け出す。通常、四体のヴァンパイア召喚に、ここまでの精神力消費は無いはずだ……。


 それはつまり、ユニーク・スキルの発動を意味する。眼前で跪く四体のヴァンパイア。彼等は紛れも無く、通常とは異なるユニークな存在のはずだ。


「帝国兵を蹴散らして下さい」


「一班から四班まで前へ! ヴァンパイア一体に対し、一班で対応を行いなさい!」


 帝国兵の中から、四つのチームが前へ出る。それぞれ、悪魔術士デビル・サマナー奈落童子スポーン怨霊騎士カーズド・ナイトで構成されたパーティーである。


 召喚されたヴァンパイアは状況を理解したらしい。それぞれ散らばりながら、各チームとの戦闘に突入する。


「ほう……。これは、これは……」


 フェリシアは、いつの間にか手帳を取り出していた。そして、激しい勢いでペンを走らせている。


 生き生きとしたその表情は、先程とは違った雰囲気を纏う。もしかしたら、こちらがフェリシアの、本当の素顔なのかもしれない。


 ボクは視線を移し、各チームの戦闘状況を確認する。見れば、状況は拮抗していた


 中級アンデッドのはずのヴァンパイア。それが、上級パーティーと同等の戦闘力を持っているのだ。


 そして、その理由も戦闘を見ればわかる。ヴァンパイアの能力に、エルフの戦士が持っていた力が、上乗せされているのだ。


 明らかに、ヴァンパイアを上回る身体能力。その上で、エルフのスキルや戦闘技能が使用されている。


 ユニーク級で固めたパーティー相手なのに、出鱈目な戦闘能力だな……。まあ、多彩なスキルを使用しているのもあるのだが……。


「さて、これはどうでしょうか?」


 とはいえ、今の状況は何の打開策にもなっていない。四人のヴァンパイアが、帝国兵の一割を相手可能と言うだけなのだから。


 なので、もう一工夫を加えてみる。この程度で、状況が変わるとも思えないけど……。


死の祝福(デッド・ブレス)


 このスキル効果は、召喚したアンデッドの強化。ステータスを35%アップさせる物である。


 元々のステータスが高いユニーク・ヴァンパイア達だ。この能力アップで、相当な効果を見せてくれるとは思うが……。


「ほう! 五班から八班まで加勢せよ!」


 流石は帝国軍の大将だろう。能力の強化具合を確認し、瞬時に配下へ指示を出す。


 そして、一瞬は押し込んだ勢いが、再び拮抗状態へと戻る。能力強化したユニーク・ヴァンパイアは、下級のレイドボス相当の能力と言った所みたいだ。


 ……うん、レイドボス召喚とか、かなりヤバいスキルになって来たね。


 とはいえ、やはり状況の打開には至らない。これは本当に、性能試験だけで終わりになりそうかな……。


「ん……?」


 気が付くと、フェリシアの手には、一冊の本が握られていた。先程の手帳と違い、古く、黒い表紙の本である。


 そして、その本からは禍々しい気配が漂っていた。寒気すら感じさせる、触れてはいけない雰囲気を感じるのだが……。


「アーレウス皇子。死者を操る伝説の禁書。その存在に心当たりは?」


「まさか、ネクロノミコンですか……?」


 死霊術士ネクロマンサーが装備可能な、伝説級レジェンダリーの魔導書。召喚したアンデッドの能力を大幅に強化する能力がある。


 フェリシアの手にした本が、そのネクロノミコンなのだろうか? しかし、このタイミングで出す理由とは? まさか、彼女もアンデッド召喚で対応するつもりなのか?


 しかし、フェリシアはボクの疑問に答えを返さない。それどころか、まったく関係の無い話を始め出す。


「ブラック家の秘文書の中に、この世界には『等級』が存在するとあります。下は『一般級コモン』、次いで『特殊級ユニーク』、『伝説級レジェンド』。最後に『神級ゴッズ』となります」


「なんの、話ですか……?」


 突然の話に狼狽えながら、ボクはフェリシアに問う。しかし、彼女は楽し気に笑うだけだ。


「私は衝撃を受けました……。普段から我々の使う魔法は、全て『一般級コモン』だからです。それは、一般職の黒魔術等のみで無く、上級職の儀式魔法すら含めてです……」


 全て『一般級コモン』……? 上級職を含めて……?


 それは、何を前提とした話なのだろう……? そして、今の状況と、どう繋がるのだろうか……?


「そして、ブラック家の初代当主は、『一般級コモン』を解析し、新たな魔法を生み出しました……。そう、その等級は『特殊級ユニーク』……。完全にオリジナルの魔法を完成させたのです……!」


 フェリシアの言葉に、再び熱が帯びる。興奮した様子で、彼女の思いを語る。


「更に、秘文書にはこう有ります。『同じ等級同士は打ち消す事が可能。しかし、上の等級を、下の等級が打ち消す事は出来ない』と……。これは、ディスペルやターンアンデッド等の、相手の魔法を打ち消す際の話となります」


「ふむ……」


 いやまあ、ボクは知ってる知識なんだけどね。『ディスガルド戦記』内では、基本常識だったし。


 とはいえ、この世界では知られていないだろうな。レイドボスや攻城戦が、一般的では無い世界だからね……。


「そして、ヴァーム砦の一件で、ターンアンデッドを弾いたと報告を聞いた時……。私はすぐに理解しました。アーレウス皇子のアンデッド召喚は『一般級コモン』では無いのだと」


 ああ、そこに話が繋がるのか。


 ……って、違うな。まだ、ネクロノミコンにの話には繋がっていない。


「そして、私はすぐに疑問を抱きました。では、その等級はいずれなのかと。果たして、『特殊級ユニーク』なのか、『伝説級レジェンダリー』なのかと……」


 ユニーク・スキルらしいし、『特殊級ユニーク』なのでは?


 ……とはいえ、『死者との交信』はともかく、『死者との取引』は強力過ぎる。


 恐らく、能力的にはエクストラ・スキルにも匹敵している。そして、エクストラスキルは『伝説級レジェンダリー』に分類されていた。


 ならば、ボクのユニーク・スキルは成長し、『伝説級レジェンダリー』に達したという事だろうか?


「ですので、次は私の実験にお付き合い下さい。アーレウス皇子のスキルは、果たして支配可能なのかどうかを……」


「なんだって……?」


 ボクのスキルを支配……? それは、どういう意味だ……?


「私はアンデッド召喚の魔法を解析し、アンデッド支配の魔法を生み出しました。その等級は『特殊級ユニーク』。通常の死霊術士ネクロマンサーでは、私にアンデッドの支配権を奪われる事になります」


「アンデッドの……支配……?」


 ――その言葉に、ボクは息を飲む。


 相手の魔法を打ち消すのでは無く、奪う事が出来る。なんて、凶悪な魔法なんだ……。


 そして、ボクは眼前で続く戦闘に目をやる。そこには、レイドボス級のヴァンパイア達が存在していた。


「さらに私は、今回の件で研究を進めました。この支配魔法を、『伝説級レジェンダリー』へと昇格出来ないかと。そして、その鍵となるのが、このネクロノミコンです」


「まさか、完成したのか……」


 フェリシアの手に視線を向ける。そこには、一冊の魔導書が開かれていた。


 支配したアンデッドを、大幅に強化可能な『伝説級レジェンダリー』の魔導書が……。


「支配魔法の媒体に、『伝説級レジェンダリー』を組み込む。これで、理論上は等級が『伝説級レジェンダリー』へと昇格されるはずです。アーレウス皇子の能力は、まず間違いなく『伝説級レジェンダリー』。この試験には、これ以上の研究材料は存在しないでしょう……」


 フェリシアは笑う。とても綺麗で、残酷な笑みを浮かべる。


 そして、ネクロノミコンから力が溢れる。それは、フェリシアが支配魔法を発動した事を意味する。


「『伝説級レジェンダリー』の魔法を支配する……。実に甘美な響きだと思いませんか?」


 同意を求める様に、フェイリシアは言葉を掛ける。どうやら、彼女はボクの事を、同類だと思っているみたいだ。


 しかし、ボクは決して同類では無い。ましてや、フェリシアとは敵対する立場と考えている。


 この実験が成功しない事を、ただ一心に祈り続けていた……。


「さて、それでは実験開始です」


 フェリシアの嬉しそうな声が響く。彼女は本当に楽しそうに、両手を広げて魔法を放つ。


死者の支配ドミネート・アンデッド!」


 その言葉に従い、魔導書が呼応する。


 四人のヴァンパイアに向けて、闇の触手を解き放ったのだった……。

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