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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十三章 世界樹防衛戦編

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アレク、帝国の脅威を知る

 青い空に亀裂が走り、禍々しい闇が溢れ出す。それは、死の気配を伴っていた。


 そして、闇は空を覆い、周囲一帯を夜の様に包み込む。エルフ達の住まう森は、瞬時に魔の支配下へに堕ちてしまう。


「――ルージュ! 全力でガードだ!」


 ボクは仲間のルージュへと指示を出す。この状況は非常に不味い……。


 見るとルージュは、茫然と空を見上げていた。しかし、ボクの言葉に反応し、すぐさまスキルを発動させる。


「オーラ・バースト! オーラ・バリア!」


 『守護者ガーディアン』の守りがパーティーを包む。元『白の叡智』メンバーは、ルージュのオーラ内へと収まった。


 それを確かめ、ボクは再び空を見る。やって来るであろう、驚異の正体を確かめる為に。


「――っ!?」


 そいつと目が合った。こちらを覗き込む、真っ赤な瞳と……。


 そして、そいつは腕を伸ばす。空の亀裂を広げ、この世に顕現する為に……。


「なんだ、アレは……!?」


 ジェラハムさんの叫びが聞こえる。しかし、ボクはそれに構っている余裕がない。


 ボクは仲間達に向かって指示を飛ばす。


「みんな、ルージュの側に集まれ! ルージュは三十秒毎にバリアを! アンナはヒール・オールを!」


 そして、ボクの指示と同時に、衝撃が皆を襲う。空から降り注ぐ、圧倒的な赤い熱波が。


「ぐうっ……! なんだ、この威力は……!?」


 ルージュの呻き声が聞こえる。その攻撃を全面で耐える彼は、最も大きな衝撃を身に浴びている事だろう。


 しかし、その余波はボク達にも及んでいる。光のバリアに包まれてなお、耐えがたい力に押しつぶされそうになる。


「オーラ・バリア……!」


「ヒール・オール……!」


 オーラ・バリアの耐久力が尽きる直前、ルージュはバリアを張り直す。それと同時に、アンナのヒール・オールがボク達の体力を回復させる。


「エナジー・インジェクション!」


 続けてボクは、ルージュへの支援を行う。オーラ・バリアは精神力の消耗が激しい。三十秒毎に使い続ければ、あっという間にガス欠となってしまう。しかし、賢者の支援があれば、それを防ぐ事が可能となる。


 この精神力支援があるからこそ、賢者は上級パーティーに必須とされる。ハイエンドのレイドバトルや、攻城戦では一人居るかで大きな差となるからである。


「アレク……。奴を打ち落とすか……?」


「無理だ……。倒せる相手じゃない……」


 ギリーの問いに首を振る。今のボク達では、奴を倒す事は出来ない。


 ボク達を見下ろし、膨大な魔力を叩きつける存在。アレは魔王イグニス。炎を司る魔王である。


 魔王と対峙するなら、最低でも伝説級レジェンドで装備を固める必要がある。更に勝利を求めるなら、最低でも三パーティー以上でレイドバトルを挑む必要がある。


 『ディスガルド戦記』における魔王とは、そういった存在なのである……。


「だから、三分だけ耐えてくれ……!」


 そう、この状況を三分だけ耐えれば良い。それが、エクストラスキル魔王召喚サモン・サタンの効果時間だからである。


 そして、強大な力を持つエクストラスキルは、それに見合うデメリットも合わせ持つ。それは、リキャストタイムが二十四時間に設定されている事だ。


 つまり、エクストラスキルは一日に一度しか使えない。それも、三分間しか効果を発揮できないスキルなのである。この三分間さえ耐えきれば、エクストラスキルは再発動出来ない。


 まあ、エクストラスキルの使い手が、複数居たらお手上げなんだけどね……。


「ぐぅ……。おぉぉ……!!」


 ――そして、三分が経過する。


 周囲を覆う赤い魔力は消え去った。バリア越しに余熱を感じるが、既に魔王の気配も感じられない。


 ボク達は何とか無事に、フェリシアの攻撃を耐え凌いだのだ……。


 最も、森の大半が焼き払われ、周囲は完全に荒野と化している。迷いの森は、ほぼ消失したと言える状態である。


 更に、わかっていた事ではあるが……。自警団のエルフ達は全滅した……。


 ジェラハムさんは辛うじて原型を留めている。しかし、その他の四人は跡形も無く、燃え尽きてしまった。


 こうなると、ジェラハムさん以外の蘇生は不可能と言える……。


「ん……?」


 フェリシアに視線を向けると、彼女はボクへと笑みを向けていた。ボク達が耐え切った事を、当然と言った態度で見つめているのだ。


 そして、右手を掲げ、口元へと近づける。手首に嵌められたリング。そのエメラルドの魔石に向かって話しかける。


「こちら、フェリシア。アーレウス皇子と合流済み。作戦を開始せよ」


『――ハッ! 承知致しました! これより、世界樹を制圧します!』


 その魔石から、声が返って来た。そして、その言葉がボクに最悪のシナリオを想像し、血の気が引くのを感じる。


 ボクは帝国の事を舐めていたのか……? その実力を、過小評価していたのではないだろうか……?


 そんなボクの思いが通じたのか、フェリシアはボクへと言葉を掛ける。


「実を言えば……。世界樹の制圧等は、造作も無い事なのです……」


「何だって……?」


 誇るでもなく、淡々と呟くフェリシア。その態度から、彼女の言葉が本心だと感じられる。


 嫌な予感に苛まれながら、ボクはフェリシアの言葉に耳を傾けた。


「もっと言えば、ヴォルクスやヴァーム砦の攻略も、本気で挑めば容易に成し遂げられたでしょう……」


「…………」


 フェリシアは静かにボクを見つめる。口元に微かな笑みを浮かべ。


 そして、ボクはフェリシアの眼力に威圧される。その計り知れない実力に、恐怖を感じてしまっていた……。


「しかし、天竜祭で持ち帰られた、悪魔封じの結界……。あれは、紛れも無く、我々とは異なる理論ロジックで組まれていました……」


「あ……」


 ボクはそれに心当たりがあった。天竜祭当日に、ゼロによって壊された結界の事である。


 まさか、その情報が持ち帰られているとは思っていなかった……。


「そして、ヴァーム砦で出現したアンデッド……。彼等は聖属性の魔法を弾いたと、報告にあったのです……」


「魔法を……弾いた……?」


 それは、ボクも知らない情報だ。帝国側は撤退の際に、思った以上の情報収集を行っていたらしい。


 そして、この世界でも当然ながら、聖属性はアンデッドの弱点である。普通のアンデッドは、ヒールに傷付き、ターンアンデッドで滅びる。


 それを弾くアンデッドとなると、一部のレイドボス位しか思い当たらないが……。


「これらの不確定要素……。そして、アーレウス皇子と思われる影……。これらが結び付き、我々は様子を見る事にしたのです……。我等が神の加護を得た、アーレウス皇子が存命なのかを探る為に……」


「そういう、事だったのか……」


 ユリウスさんの葬儀の日。ゼロが姿を現した。そして、ボクへと情報を漏らした。


 ゼロの憎しみが、暴走した結果だと考えていた。しかし、本当はそうでは無かったのだ……。


 帝国にとって、ヴォルクスの支配は二の次。ボクを刺激し、情報を引き出す事を優先したのだ。


 そうでなければ、実験動物モルモットと呼ばれるゼロが、自由に行動出来るはずもない……。


「そして、我々は確信を得た……。アーレウス皇子が存命だと……」


 フェリシアの瞳が涙で潤む。ボクの事を見つめ、畏敬の念をボクへと伝える。


 そして、一歩を踏み出し、その想いをボクへとぶつける。


「そして、神より与えられた力を、使いこなしているのだと……!」


 フェリシアは感情が高ぶり、とても興奮した状態に見えた。


 息を荒くし、自らの思いを爆発させる。


「光と生命の神が、支配者の様に君臨し……! 黄金の一族が、その使者の様に振舞う世界……!」


 フェリシアは拳を握り締める。そして、憎々し気に虚空を睨む。


「そして、我々の神は力を落とし……。黒の一族は長年、虐待の歴史を歩んで来た……」


 フェリシアはそっと目を閉じる。自らの同胞を思ってか、一筋の涙すら流していた。


「神は我々を見捨てたのか……? ――否! そんな事は決して無い! その証として、皇帝の一族に一人の赤子が生まれた! 我らが神の祝福を受けし、神子とも呼べる皇子が……!」


 フェリシアは瞳を見開き、熱弁を振るう。世界の全てに聞かせる様に、声を張り上げ語り続ける。


「そう、アーレウス皇子……。我等がアーレウス皇子こそが、この世界の真なる支配者なのだ! 黄金の一族を根絶やしにし、我らに祝福を与える存在なのだ!」


 ――フェリシアの言葉に飲まれ、注意が散漫になっていた。


 気が付くと、ボク達の周囲は帝国兵が包囲を狭めていた。決してボク達――いや、ボクを逃がすまいと神経を張り巡らせているのだ。


「ああ、我等が救世主、アーレウス皇子……! どうか、我々の元へとお戻り下さい! そして、この世界を正しき方向へと導いて下さい! 既に帝国内で、その実力を疑う者はおりませんとも! 臣民全てがもろ手を挙げて喜び、アーレウス皇子を喝采する事でしょう!」


 ジリジリと迫る帝国兵。百名にも及ぶ、最上級の兵士達である。


 そして、ボクを熱く見つめるフェリシア。その瞳には、ゼロとは違った狂気が宿っていた。


「さあ、帝国へお戻りください……。そして、世界を黒で塗りつぶしましょう……」


 フェリシアは再び腕を伸ばす。ボクがその手を取ると信じて……。


 そして、ボクは胸内で呻く。打開策の無い、この状況を苦々しく思い……。

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