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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十三章 世界樹防衛戦編

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残酷な現実

 フェリシア=ブラック。彼女は自身の説明として、「一軍を預かる身」と言った。


 全軍では無い為、元帥では無く将官だろう。一軍と言った以上、士官クラスでは無いだろうしね。


 恐らく、フェリシアは王国騎士団の団長相当。ペンドラゴン王国では将軍の直下に存在する、五名の騎士団長と同じ立ち位置と推測される。


 カーズ帝国の上級軍人。そんな彼女が、ゆっくりとボクの元へと歩み寄っていた。


「さあ、アーレウス皇子……。私と共に、帝国へと戻りましょう……」


 母親が子供に向ける様な、愛情の籠った眼差し。そんな視線を浴びながら、ボクは小さく眉を顰める。


 まともな説明も無く、伸ばされたその手を掴む事は出来ない……。


「アーレウス皇子……?」


 ボクが右手を掲げて見せた事で、フェリシアは足を止める。その表情は不思議そうで、こちらの反応が予想外だったらしい。


 その一瞬の隙に、ボクは周囲を観察する。そして、事態が非常に不味い事を理解する。


「上級職……。それも、ユニーク級の装備……」


 ボク達は百名近い帝国軍に包囲されている。しかも、その敵兵は全て呪術師系の上級職で構成されている。


 そして、それがわかるのは、彼等が身に付けた装備だ。全員が『悪魔術死デビル・サマナー』、『奈落童子スポーン』、『怨霊騎士カーズド・ナイト』の専用装備を身に付けているのだ。


 その戦力に対抗可能なのは、元『白の叡智』メンバー。そして、エルフの自警団では、ジェラハムさんだけ。


 目の前の帝国軍なら、この少数でもエルフの里が攻略可能。そう思えるだけの兵力が、相手側には確かにあった……。


「その前に……。確認させて頂けませんか?」


「確認ですか? どうぞ、仰って下さいませ」


 ボクの問い掛けに、フェリシアは微笑んで返す。今の所は、まだ対話が可能な状況らしい。


 なので、まずは純粋に気になっていた疑問を確認する。


「ボクの前に現れたゼロ。彼女達は、フェリシアさんの仲間なのでしょうか?」


 そう、ボク達を包囲する兵士達は、ゼロ達のパーティーと同じ構成。そして、同じ装備を身に纏っている。


 ならば、フェリシアとゼロ達は、繋がっている可能性が高い。そうであるなら、彼女達もここに来ているかもしれない。


 ボクの従妹でもあるゼロ――もとい、マーガレット。彼女がここに居るのなら、クリステルさんとの約束を果たす必要がある。娘を救って欲しいと言う、彼女の母からの願いを……。


「ゼロですか……?」


 しかし、フェリシアは小首を傾げる。彼女は何かを思い出す様に、虚空に視線を彷徨わせる。


 そして、すぐにハッとした表情を浮かべる。フェリシアは視線を戻し、ボクへと想定外の返事をする。


「ああ、実験動物モルモットゼロ番の事ですね。確かアーレウス皇子と接触し、情報を持ち帰ったと報告にありましたね」


実験動物モルモット……ゼロ番……?」


 ――その意味が、すぐには理解出来なかった。ボクにとって、余りにも馴染みが無い言葉だった為に。


 そして、徐々に思考が追い付く。ゼロが犯罪奴隷であると、ユリウスさんから聞いた記憶が蘇り……。


「それって、どういう……?」


 ボクは喘ぐ様に声を出す。聞きたくは無いが、聞かない訳にはいかない。


 そんなボクの内心も知らず、フェリシアは綺麗な笑みをボクへと向ける。


「犯罪奴隷である彼女を引き取り、我々の部隊で有効活用させて頂いております。ゼロ番はどんな環境でも必ず生き残ります。我々にとっても、実に有用な実験動物モルモットですね」


「有用な……」


 人の好さそうな笑みを浮かべ、フェリシアは何気ない口調で伝えて来る。


 しかし、その内容は表情と真逆。人を人とも思わない発言に、ボクは意味もわからず吐き気を感じていた……。


「ふふふ、ゼロ番の戦闘データを元に、我々の部隊は短期育成が可能となりました。また、ユニーク級装備に必要な魔物の素材も、彼女のお陰で楽に入手する事が可能となったのです」


 プレゼンテーションの如く、澱み無く説明を続けるフェリシア。彼女にとって、ゼロは手駒の一つでしかないのだろう。


 ――そして、恐らくは、ボクとゼロの繋がりを、フェリシアは理解していない。


「我々の部隊には、他にも有力な兵が多数存在しています。まあ、無能な兵士は生き残れないとも言えますが……。いずれにしても、アーレウス皇子が帝国に戻りましたら……」


「――おい」


 機嫌良く話すフェリシアの言葉に、唐突に横槍を入れる者がいた。彼女は説明を止め、視線を動かす。


 ボク達も同様に、声の主へと視線を向ける。フェリシアの言葉を遮ったのは、不機嫌な表情を浮かべたジェラハムさんだった。


「お前らは何の話をしている? まさかとは思うが、アレクは帝国と繋がっていたのか……?」


 ジェラハムさんは、ボクへと疑いの眼差しを向ける。話の内容だけを聞けば、そういう疑惑が出るのは当然か……。


 そして、ボクは誤解を解くべきか判断に迷う。下手な否定をすれば、フェリシアの反応が読めないからだ。


 しかし、ボクが逡巡した事で、状況はより悪い方向へと流れる。


「――ゴミが。煩わしい……!」


 一瞬にして、フェリシアの表情が切り替わる。先程の笑みが嘘の様に、悪鬼羅刹の様な怒りを示したのだ。


 フェリシアは烈火を思わせる視線で、ジェラハムさんを睨みつける。


「このワタクシが、アーレウス皇子と会話しているのだぞ……! 貴様如きが、会話に割って入って良いと、本気で思っているのか……!?」


「何だと……!」


 怯みながらも、ジェラハムさんは反発する。フェリシアの威圧に耐え、その場に何とか踏み止まっている。


 ……周囲の自警団メンバーは、完全に及び腰となっているが。


「身の程知らずの劣等種が……! 黒の一族に対して、口答えだと……!」


「黒の一族……?」


 初めて聞くフレーズだな。だが、フェリシアにとっては、特別な意味を持っているみたいに見える。


 そして、それはボクとフリーシアの持つ、髪の色に関わる内容と思われる。帝国の皇族や貴族は、黒い髪を持つと聞いた記憶がある為だ。


「ああ、不愉快だ……! 徹底的な教育が必要みたいだな……!」


 フェリシアの癇癪に、ボク達は眉を顰める。彼女の言葉は、聞いているだけ不快になる。


 しかし、帝国側に兵士達は、顔色一つ変えていない。彼等にとっては、これが普通の反応なのだろう……。


 ――と、不意にフェリシアと目が合う。


「アーレウス皇子、少々お待ちください。すぐにゴミを片付けますので」


「え……?」


 ボクへと言葉を投げる一瞬。その一瞬だけは、優しそうな笑みを浮かべた。


 そして、再び視線をジェラハムさんへと戻す。その瞬間に、再び修羅の表情へ切り替わる。


「見せてやろう……。カーズ帝国の、大将が持つ力を……!」


 フェリシアは、ゆっくり、優雅に手を伸ばす。天に向かって、何かを招く様に……。


 そして、ボク背筋を震わせた。嫌な予感に、寒気を感じた為だ……。


「これこそが……。我々を勝利へと導く力……」


 フェリシアは嗤う。勝利を確信し、周囲を見下した表情で。


 そして、帝国兵が距離を取り始める。召喚していた悪魔は姿を消し、怨霊騎士カースド・ナイトが盾を構える。


「――エクストラスキル・魔王召喚サモン・サタン


 その言葉により、エクストラスキルが発動する。


 あらゆるジョブの終着点。如何なる状況をも覆す、必殺のスキルが。


 そして、エルフ達が治める森は一変する。阿鼻叫喚の地獄絵図へと……。

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