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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十三章 世界樹防衛戦編

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アレク、世界樹の秘密を知る

 女王ティタニアは、ゆったりと語り出した。


「――この世界には、マナと呼ばれる力が満ちています。マナとは、魔力等へ変換可能な無色のエネルギーです」


 この辺りは、この世界の住人なら、当然知っている知識だ。『ディスガルド戦記』の設定にも記載があった。


 ちなみに、戦闘系スキルも、マナを変換して気の力に変えているらしい。その為、この世界で超常の力が使えるのは、マナが理由と言っても過言では無い。


「消費され、力を失ったマナは大地へ沈み、やがて世界樹へと帰ります。そして、世界樹の役割とは、マナへ力を与え、再び世界へ送り出す事なのです」


「……なるほど」


 植物が二酸化炭素を、酸素へ変えるみたいな物なんだろうね。この世界ではそうやって、エネルギーが循環してる訳だ。


 しかし、一人頷くボクに、リリーさんとリリアナさんは驚きの表情を浮かべる。動揺した様子で、リリアナさんが訊ねて来る。


「こ、これは一部のエルフしか知らない秘密なのだぞ? アレク君は、どうしてアッサリ理解してしまえるのかな……?」


「えっと……。似たような法則を、知っているから……ですかね?」


 ボクの返答に、リリアナさんは渋い顔をする。そして、リリーさんは呆れた表情となる。


 しかし、女王ティタニアは、クスリと笑うと話を再開させた。


「つまり、この世界で魔法が使えるのは、世界樹がマナの循環を行っているからです。世界樹の機能が止まれば、いずれは世界からマナが消える事となります」


「まあ、そうなるでしょうね……」


 世界から植物が消えれば、地上から酸素が消える。そうなれば、多くの生物は死滅するだろう……。


 そして、世界樹の場合はマナだ。マナが消えると、魔法やスキルが使えなくなる。人々の文明も大きく後退する事だろう。


 ――けれど、殆どの生物は死滅する事は無い。


 酸素に比べれば影響は少ないとも言える。むしろ、魔物は獣に変わり、元居た世界と似た環境になるかも。


 ……それを考えると、無いなら無いで、何とかなるんじゃないだろうか?


 しかし、そんなボクの考えを読んだかの様に、リリーさんがジト目を向けて来る。


「何故……アレクは、落ち着いていられる……」


「皆が同じ条件なら、マナが無くても何とかなるかと……」


 リリーさんの呆れた問いに、ボクは肩を竦めて答える。彼女はやれやれと首を振る。


 そんなやり取りに、リリアナさんが慌てた様子で詰め寄って来る。


「世界からマナが消えるという話だぞ! 人類の生活の基盤たる、魔力が使えなくなるのだぞ!? 何とかなる訳が無いだろう……!!」


「え、えぇ……?」


 苛立たし気に睨むリリアナさん。そして、それを肯定する様に頷くリリーさん。


 ……どうやら、この世界の住人にとっては、由々しき事態としか受け取れないみたいだね。


 まあ、以前の世界でも、電気が無くなると言われたら、世界中でパニックが起きるだろう。


 それを考えると、これが普通の反応。代替案を持っているボクが、異端という事なのだろう。


「えっと……。とりあえず、話を続けて貰えますか?」


 認識の差があり過ぎる為、話し合っても平行線だろう。ならば、ここはスルーするに限る。


 女王ティタニアも同じ考えなのか、同意するかの様に頷き、話の続きを語り出した。


「そして、私達エルフの女王や巫女とは、世界樹の管理者の事です。――いえ、より正確に言うならば、我々は世界樹の部品と言うべきでしょうか?」


「世界樹の……部品……?」


 それは一体、どういう意味だろう? 管理者から言い直した意図とは……?


 ボクは首を傾げながら、ふと異変に気付く。リリーさんの表情が強張っているのだ。


 見れば、リリアナさんも気不味そうに、視線を逸らしていた。


「エルフの巫女とは、世界樹が作り出した生命体。そして、ハイエルフと呼ばれ、エルフとは別種の存在となります」


「ハイエルフ……?」


 ハイエルフとは、エルフの上位種って事だろうか? ぼんやりとした意味はわかる……。


 ただ、この世界で、その名を聞いた記憶が無い。『ディスガルド戦記』の設定にも無かったはずだ。


 ならば、ボクの知らない存在なのだろうか……?


「エルフとは、マナの扱いに長けた亜人種です。彼等は人に近い種である為、人との間に子を成す事も可能です」


「ハーフ・エルフが存在しえるって事か……」


 それはファンタジー物なら、良く聞く設定でもある。特に驚く事でも無いだろう。


 ……まあ、実際にこの世界で見た事は無いんだけど。


「しかし、ハイエルフは世界樹から作られ、世界樹へと還る存在……。生物とは根本から異なり、魔法生物や精霊に近い存在と言えます」


「……え?」


 その説明に驚き、ボクはリリーさんを見つめる。彼女は無表情だった。


 しかし、何故かその瞳からは、悲しそうな気配が感じられた……。


「十年に一度、世界樹は数人の巫女を作り出します。巫女達は世界を見て回り、成長して世界樹へと帰って来ます。そして、その中で最も優秀な者が、次代の女王となるのです」


「最も優秀な者が……」


 ボクはリリーさんを見つめる。彼女は何も言わず、ただ地面を見つめていた。


 ……やはり、リリーさんが次の女王に決まっているのか。


 そして、リリーさんの態度から、彼女自身が本心から望んでいると思えなかった。それがボクには、とてももどかしく感じられた……。


「そして、これが最も重要な秘密です……。世界樹とは、伝説級レジェンドのマジック・アイテムという性質も持っています」


「世界樹が……マジック・アイテム……?」


 余りにも現実離れした説明に、ボクの思考が一瞬だけ固まる……。


 こんな巨大な樹木が、マジック・アイテム? こんな物を、どうやって使うって言うんだ?


 世界樹がマジック・アイテムとして、それがどういった意味を持つ? アイテム破壊の影響を受けるとか?


 その本質に辿り着けぬまま、ボクはじっと考え込む。しかし、その答えはすぐに教えられる事となる。


「ある条件をクリアすれば、世界樹の所有権を得る事が出来ます。そして、世界樹を支配すれば、世界のマナの流れを操る事が出来る様になるのです」


「何だって……?」


 先程ボクは、『皆が同じ条件なら、マナが無くても何とかなる』と言った。


 しかし、こちらだけが封じられるなら、話は大きく変わって来る。世界樹の支配者だけが、超常の力を使い放題なのだから……。


 現状でそんな事になれば、もはや誰にも止められなくなる。今になって帝国が進軍して来たのは、そういう背景があるからなのか……。


「……ちなみに、ある条件とは?」


 帝国の思惑を挫くには、帝国の目的と手段を知る必要がある。


 先程の話から、目的は世界樹の支配で間違い無い。ならば、その為に取る手段とは?


 ボクの質問に対し、女王ティタニアは手を掲げる。そして、その手を自らの胸元へ移動させる。


「女王の命を奪う事……。現状でしたら、私を殺した者が、世界樹の支配者となります」


「「「…………」」」


 場が沈黙で支配される。ボクは返す言葉が見つからなかった為である。


 リリーさんとリリアナさんは、女王への配慮による物だろう。ハイエルフである彼女達は、既にその事実を知っているのだろうから……。


 そんなボク達に対し、女王ティタニアは微笑んで見せた。


「命を惜しいとは思いません……。ですが、世界樹を帝国の手に渡す事は、世界の破滅を意味するでしょう」


 女王ティタニアは、椅子からゆっくり立ち上がる。


 そして、テーブル越しに座るボクへと、ゆっくりと頭を下げて見せた。


「この世界を守る為、どうかご助力をお願いします。勇者アレクの力が必要である……。それが、世界樹の判断となります」


「世界樹の判断……」


 世界樹にも意思や思考が存在するのだろうか?


 ……そんなくだらない事を考えながら、ボクはゆっくり頷くしか無かった。

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