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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十三章 世界樹防衛戦編

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アレク、師匠の思いを知る

明けましておめでとうございます。

今年も更新頑張りますので、引き続き読んで頂けると嬉しいです!

 女王ティタニアとの会見の後、ボク達はエルフの里へと戻った。リリアナさんは話があると言う事で、ボクだけが別の巫女さんに案内された。


 そして、案内された場所は里の一角。そこには三つ、土で作られたかまくらの様な建物が立っていた。


 その建物は、大地の精霊(ノーム)の力で作られた物で、中には五つのベッドが並んでいた。更にそのベッド上には、草で編まれた布団。これは樹の妖精(ドライアド)の力を借りて作られた物らしい。


 ボク達が会見を行っている間に、巫女さん数名が作ったらしい。来客用の宿泊施設が無い為、即席の家を用意したとの事だ。


 ……意外と造りはしっかりしている。そして、一時間程度で作ったと考えれば、コスパは最高だね!


 とまあ、純粋に精霊魔法に関心しつつ、ボク達は部屋割りを決めて休憩を取る事にした。


 ボクと同室なのは、ギリー、ギル、ハティ、ルージュといつものメンバー。アンナとロレーヌは、他の女性団員三人と同室。残りの小屋には五名の男性団員となっている。


「さて、休憩ついでに、状況の説明を行うかな?」


「ああ、頼む……」


 ボクの呟きに、ギリーが反応する。それと同時に、残り三人も視線をボクへ向ける。


 彼等も状況は気になっていたのだろう。真剣な表情で、ボクをジッと見つめていた。


「まず、帝国の目的がわかった。彼等は世界樹を手に入れ……」


「――待て……」


 ボクの話を遮ったのはギリーだった。彼はボクに向けて、そっと手を掲げる。


 そして、ギリーの視線は、小屋の出入口へと向いていた。気休め程度に草のカーテンが掛かる、非常に開放的な出入口である……。


 ボクが首を傾げていると、そんな出入口から人の陰が見えた。外の人物は躊躇う素振りを見せ、それからチラリと中を覗いて来た。


「……リリーさん?」


「話したい事がある……」


 リリーさんは、探る様な視線でボクを見つめる。ケトル村に居た時の、自由奔放な態度とは真逆だな……。


 それに、今のリリーさんは白い巫女装束のままだ。強く違和感を感じるが、それは過去の記憶とのギャップのせいなんだろうね。


「えっと……。とりあえず、入って貰えますか?」


「では、邪魔する……」


 リリーさんは、借りて来た猫みたいに、しずしずと大人しく入室する。その姿に対して、ボクはやはり眉を顰めてしまう。


 どことなく、余所余所しく感じる態度に、ボクの中では疑念が沸き上がる。


 ……これ、別人って訳じゃないよね?


 不審に思って見つめていると、リリーさんはギル達に視線を向ける。そして、申し訳なさそうに彼等に告げた。


「出来れば……。アレクとギリーの二人に……」


「し、承知しました……! 我々は席を外させて頂きます……!」


「あ、えっと……。それじゃあ、三人でごゆっくりどうぞ……!」


「ええ、アレク殿、ギリー殿と積もる話もあるでしょうしね……!」


 ギル、ハティ、ルージュは、慌てた様子で部屋を飛び出す。逃げる様に飛び出す三人に、残されたボクとギリーは目を丸くする。


 そして、少しして理解が追い付く。そういや、リリーさんは生きた伝説なんだっけ?


 伝説のクラン『ホワイト・オウル』のメンバーは、爺ちゃんとその恋人、カイン=ハワードの三人が故人となっている。


 生き残っているのは暗殺者アサシンヴェインさんと、精霊術士エレメンタラーリリーさんの二人だけだ。


 ヴェインさんとの初対面で、メリッサも似た状況だった。そう考えると、これが一般的な反応なのだろう。


「まあ、三人の事は置いとくとして、改まってどうしたの?」


 ボクは苦笑を浮かべ、リリーさんへと問い掛ける。以前の様な、気軽な態度で。



 ――しかし、リリーさんは唐突に、くしゃりと顔を歪めた。



「済まなかった……。会いに行けなくて……」


「え……?」


 謝るリリーさんの瞳からは、ポロポロと涙が溢れ出す。


 ボクが茫然と眺めていると、リリーさんはこちらへ歩み寄る。そのまま、ボクの事を強く抱きしめた。


「リリアナの手紙で知った……。ケトル村と……ミーアの事を……」


「あ……」


 そうだ……。リリーさんの弟子は、ボクとギリーだけでは無い……。


 リリーさんが鍛えていたメンバーには、ミーアも含まれていた……。


「ゲイルから託されたのに……。私はアレク達の師匠なのに……」


「いや……そんな……」


 リリーさんとは、ボクが六歳の時に出会った。それから数か月鍛えて貰い、七歳頃にワイバーンの討伐何て事も一緒にやった。


 それから更に一年、リリーさんはボクを鍛えてくれた。ボクが八歳になる頃に、ボクは上級職へと転職する事が出来た。


 そして、リリーさんはその一月後に、ケトル村から去って行ったのだ……。


「ゲイルが亡くなった時……。側に居なくてゴメン……」


「あ……」


 ――あの日、ボクは家族を失った。血は繋がって無いけど、唯一の家族と思う爺ちゃんを。


 ビリー村長や、ギリー、ミーアの両親からは誘いがあった。まだ十歳のボクには、家族が必要だろうと。


 だけど、ボクはその誘いを断った。爺ちゃんの意思を継ぎ、この家を守って行きたいからと。


 ……だけど、本当はそうでは無い。家を離れ、爺ちゃん以外と家族になるのが嫌だったのだ。


 爺ちゃんと過ごした思い出が消えてしまい、大切な何かを無くしそうで怖かったのだ……。


「寂しい思いをさせた……。アレクを一人にしてしまった……」


 だけど、もし……。あの時、リリーさんが家に残っていたら……?


 きっと、ボクはリリーさんと共に暮らしただろう。彼女の事を家族として接したはずである。


 爺ちゃんの様な保護者では無く、不出来な姉としてかもしれないけど……。


「ケトル村が襲われた時……。助けてあげられなかった……」


 もし、あの時、村にリリーさんが居たとしたら……?


 ボクが蹴散らした集団に、リリーさんが敵わないはずが無い。村は無傷だったかもしれない。


 ――いや、それ以前に襲撃を受ける事すら無かっただろう。


「ミーアが倒れた時……。村を出る時も側にいなかった……」


 ミーアが亡くなり、アンナを発見した。ボクはアンナを抱きしめ、強く決心する事になる。


 これからは誰にも頼らない。アンナやギリーを、ボクが守っていくのだと。


 ……そうやって、歯を食いしばり、前に進むしか無かったからだ。


「ヴォルクスでも……。私は何の力にもなれなかった……」


 住処を得るために、クランを結成した。活動の拠点を得るには、他に選択肢は無かった。


 皆の生活を守る為、仲間を集めて鍛えた。生計の為に、アイテム作成等も一人で続けた。


 そうしなければ、皆の生活を守れるか……。その時のボクは、不安で仕方が無かった……。


「王侯貴族も……。帝国も……。私が側にいれたら……」


 ペンドラゴン王国の王侯貴族――いや、国民は、未だ『ホワイト・オウル』を語り継いでいる。


 カーズ帝国も爺ちゃん達を脅威と感じ、ずっと手を出せずに水面下で活動していた。


 もし、リリーさんが近くに居れば、誰もが迂闊に手出し出来なかった事だろう……。


「私が側にいれば……。アレクはこんなに、苦労しなかったのに……」


 リリーさんが、村に残っていれば……。クランでの活動に参加してくれていれば……。


 どれだけ助けになっただろうか……? どれだけ、心強かっただろうか……?


 少なくとも、これまでの苦労の大半が、大幅に軽減された事は間違いなかっただろう……。


「ゴメン……。何もしてあげられなく……ゴメン……」


 リリーさんは、ボクをギュッと抱きしめる。それと同時に、彼女の体温が伝わって来る……。


 リリーさんは、ボクの肩に顔を押し付ける。ボクの肩が、冷たく濡れて行くのを感じる……。


 リリーさんの言葉は正しい。側にいてくれたら、きっとボクにとって、大きな助けになった。



 ――けれど。そうじゃない。



「違う……。リリーさんが謝る事なんて、何にも無いんだ……」


「え……?」


 ボクの呟きに、リリーさんの顔が僅かに上がる。ボクは彼女の肩に手を置き、そっとその抱擁を解く。


 そして、リリーさんの瞳を見つめ、力強く言い切った。


「ボクは守られるだけの、ただの子供じゃない。そんな事は、リリーさんも良く知ってますよね?」


「アレ……ク……?」


 リリーさんは、ボクをぼんやりと見つめる。そして、彼女の涙は静かに止まる。


 ボクは二ッと笑い、リリーさんへと語り掛けた。


「それに、聞いてませんか? ワトソンさんや、ヴェインさんの事は?」


「リリアナの手紙には何も……」


 旧友の名に、リリーさんは目を丸くする。どうやら、貰った手紙には、何も書かれてなかったらしい。


 ……という事は、リリアナさんも知らなかったのか。ヴォルクスでは皆が知る事実だけど、王都では別と言う事だろうね。


「それに、先日亡くなりましたが、ヴォルクス領主のユリウスさん。それと、その二人の子供、アンリエッタとポルク。元ヴォルクスのトップクラン『黄金の剣』の皆さん。クラン事務局や、商人ギルド、盗賊ギルドなんかもそうですかね……?」


「えっと……。何の話をしている……?」


 思いつく名を上げるボクに、リリーさんは不思議そうに訊ねる。その名が何を意味するか、彼女にはピンと来ていないみたいだった。


 だから、ボクはハッキリと告げる。


「ヴォルクスで、ボクを助けてくれた人達。そして、リリーさん達の伝説に、憧れる人達ですよ」


「私達の……伝説……?」


 その説明でも、まだ理解出来ないみたいだった。リリーさんは、不思議そうに首を傾げている。


 ボクはその態度に苦笑を浮かべる。きっと、ボクに対する周囲の人達も、今のボクと同じ気持ちなんだろうな……。


「ヴォルクス--いや、ペンドラゴン王国では、リリーさん達の活躍が、今でも語り継がれています。国民の中では、英雄譚として今でも生きていますからね」


「英雄譚……?」


 胡散臭そうに眉を寄せるリリーさん。何故か、ボクの言葉を疑っている様子だ……。


 リリーさん、ケトル村以外にも旅してたよね? ペンドラゴン王国内で、自分達の話を耳にしなかったのだろうか?


「その英雄譚のお陰で、ボクはとても助けられました。『ホワイト・オウル』リーダー、賢者ゲイルの後継者として、皆がボクの事を良く思い、助けてくれた訳です」


「賢者ゲイルの後継者……? 私の弟子なのに……」


 え……? そこが不満なの……?


 一応、リリーさんの弟子と言う話も、ヴォルクス内では広まっているけど……。


「えっと……。まあ、そういう訳で、それはリリーさんのお陰でもあるという事です。リリーさんの過去が、ボク達のヴォルクスでの助けになった言う話なんですけど……」


「……そう……か」


 ボクはリリーさんの様子を伺う。何故かリリーさんは、ジッと目を閉じてしまった。


 そして、何かを思い、リリーさんなりに納得したらしい。大きく頷き、再び目を開く。


「ならば……。師匠の、面目躍如……?」


「ええ、まあ……。そういう事ですかね」


 ボクは苦笑しながら頷く。すると、リリーさんも嬉しそうに頷き返して来た。


 師匠として助けられたという事で、リリーさんの中で折り合いが着いたらしい。


 ……本当に、こういう所は昔と変わらないんだな。


「なら、アレクは私の事を敬うべき……。具体的には、これまでの事を詳しく話すべき……」


「ええ、構いませんよ」


 リリーさんの要求に、ボクは笑顔を返す。こちらとしても、リリーさんの話を聞きたい所だ。


 ……と、何故かリリーさんは、ボクの背後に回り込む。そして、ボクのお腹辺りに腕を回す。


「えっと……。何をしてるんですか……?」


「むう……。思ったより大きくなってる……」


 後ろを振り向くと、リリーさんは不満そうな表情だった。そして、渋々と言う態度で、回した腕を解いた。


 そして、リリーさんは奥のベッドへ進むと、そこにストンと腰を落とす。リリーさんは自分の隣をポフポフと叩き、ボクに対して要求を述べる。


「ここに座る……。自分で歩く様に……」


「は、はあ……」


 ……もしかして、ベッドまで抱きかかえるつもりだったの?


 十年前ならともかく、体格を見ればもう無理ってわかるよね?


 ボクは懐かしい疲れを感じる。そして、今でもリリーさんの中では、ボクが子供のままだと理解した。


 くすぐったい感覚を覚えながら、ボクはリリーさんとの距離を詰める。そして、彼女の隣に腰掛けた。


「それじゃあ、ゲイルが亡くなった所から……」


「ほぼ、初めからって事ですね?」


 満面の笑みで頷くリリーさん。そんな彼女に対し、ボクはかつての様に苦笑で返した。


 リリーさんはとても頑固だ。一度言ったら、決して自分の言葉を曲げない。


 ……なので、ギル達には後で謝らないといけないな。きっと、皆が戻れるのは、ずっと後になるのだから。


 そして、ボクはリリーさんに、これまでの出来事を話し始める。一つ一つ、ゆっくり丁寧に……。


 そんなボク達を、ギリーは静かに見守っていた。何故か気配を消して、嬉しそうな笑みを浮かべながら……。

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