アレク、師匠の思いを知る
明けましておめでとうございます。
今年も更新頑張りますので、引き続き読んで頂けると嬉しいです!
女王ティタニアとの会見の後、ボク達はエルフの里へと戻った。リリアナさんは話があると言う事で、ボクだけが別の巫女さんに案内された。
そして、案内された場所は里の一角。そこには三つ、土で作られたかまくらの様な建物が立っていた。
その建物は、大地の精霊の力で作られた物で、中には五つのベッドが並んでいた。更にそのベッド上には、草で編まれた布団。これは樹の妖精の力を借りて作られた物らしい。
ボク達が会見を行っている間に、巫女さん数名が作ったらしい。来客用の宿泊施設が無い為、即席の家を用意したとの事だ。
……意外と造りはしっかりしている。そして、一時間程度で作ったと考えれば、コスパは最高だね!
とまあ、純粋に精霊魔法に関心しつつ、ボク達は部屋割りを決めて休憩を取る事にした。
ボクと同室なのは、ギリー、ギル、ハティ、ルージュといつものメンバー。アンナとロレーヌは、他の女性団員三人と同室。残りの小屋には五名の男性団員となっている。
「さて、休憩ついでに、状況の説明を行うかな?」
「ああ、頼む……」
ボクの呟きに、ギリーが反応する。それと同時に、残り三人も視線をボクへ向ける。
彼等も状況は気になっていたのだろう。真剣な表情で、ボクをジッと見つめていた。
「まず、帝国の目的がわかった。彼等は世界樹を手に入れ……」
「――待て……」
ボクの話を遮ったのはギリーだった。彼はボクに向けて、そっと手を掲げる。
そして、ギリーの視線は、小屋の出入口へと向いていた。気休め程度に草のカーテンが掛かる、非常に開放的な出入口である……。
ボクが首を傾げていると、そんな出入口から人の陰が見えた。外の人物は躊躇う素振りを見せ、それからチラリと中を覗いて来た。
「……リリーさん?」
「話したい事がある……」
リリーさんは、探る様な視線でボクを見つめる。ケトル村に居た時の、自由奔放な態度とは真逆だな……。
それに、今のリリーさんは白い巫女装束のままだ。強く違和感を感じるが、それは過去の記憶とのギャップのせいなんだろうね。
「えっと……。とりあえず、入って貰えますか?」
「では、邪魔する……」
リリーさんは、借りて来た猫みたいに、しずしずと大人しく入室する。その姿に対して、ボクはやはり眉を顰めてしまう。
どことなく、余所余所しく感じる態度に、ボクの中では疑念が沸き上がる。
……これ、別人って訳じゃないよね?
不審に思って見つめていると、リリーさんはギル達に視線を向ける。そして、申し訳なさそうに彼等に告げた。
「出来れば……。アレクとギリーの二人に……」
「し、承知しました……! 我々は席を外させて頂きます……!」
「あ、えっと……。それじゃあ、三人でごゆっくりどうぞ……!」
「ええ、アレク殿、ギリー殿と積もる話もあるでしょうしね……!」
ギル、ハティ、ルージュは、慌てた様子で部屋を飛び出す。逃げる様に飛び出す三人に、残されたボクとギリーは目を丸くする。
そして、少しして理解が追い付く。そういや、リリーさんは生きた伝説なんだっけ?
伝説のクラン『ホワイト・オウル』のメンバーは、爺ちゃんとその恋人、カイン=ハワードの三人が故人となっている。
生き残っているのは暗殺者ヴェインさんと、精霊術士リリーさんの二人だけだ。
ヴェインさんとの初対面で、メリッサも似た状況だった。そう考えると、これが一般的な反応なのだろう。
「まあ、三人の事は置いとくとして、改まってどうしたの?」
ボクは苦笑を浮かべ、リリーさんへと問い掛ける。以前の様な、気軽な態度で。
――しかし、リリーさんは唐突に、くしゃりと顔を歪めた。
「済まなかった……。会いに行けなくて……」
「え……?」
謝るリリーさんの瞳からは、ポロポロと涙が溢れ出す。
ボクが茫然と眺めていると、リリーさんはこちらへ歩み寄る。そのまま、ボクの事を強く抱きしめた。
「リリアナの手紙で知った……。ケトル村と……ミーアの事を……」
「あ……」
そうだ……。リリーさんの弟子は、ボクとギリーだけでは無い……。
リリーさんが鍛えていたメンバーには、ミーアも含まれていた……。
「ゲイルから託されたのに……。私はアレク達の師匠なのに……」
「いや……そんな……」
リリーさんとは、ボクが六歳の時に出会った。それから数か月鍛えて貰い、七歳頃にワイバーンの討伐何て事も一緒にやった。
それから更に一年、リリーさんはボクを鍛えてくれた。ボクが八歳になる頃に、ボクは上級職へと転職する事が出来た。
そして、リリーさんはその一月後に、ケトル村から去って行ったのだ……。
「ゲイルが亡くなった時……。側に居なくてゴメン……」
「あ……」
――あの日、ボクは家族を失った。血は繋がって無いけど、唯一の家族と思う爺ちゃんを。
ビリー村長や、ギリー、ミーアの両親からは誘いがあった。まだ十歳のボクには、家族が必要だろうと。
だけど、ボクはその誘いを断った。爺ちゃんの意思を継ぎ、この家を守って行きたいからと。
……だけど、本当はそうでは無い。家を離れ、爺ちゃん以外と家族になるのが嫌だったのだ。
爺ちゃんと過ごした思い出が消えてしまい、大切な何かを無くしそうで怖かったのだ……。
「寂しい思いをさせた……。アレクを一人にしてしまった……」
だけど、もし……。あの時、リリーさんが家に残っていたら……?
きっと、ボクはリリーさんと共に暮らしただろう。彼女の事を家族として接したはずである。
爺ちゃんの様な保護者では無く、不出来な姉としてかもしれないけど……。
「ケトル村が襲われた時……。助けてあげられなかった……」
もし、あの時、村にリリーさんが居たとしたら……?
ボクが蹴散らした集団に、リリーさんが敵わないはずが無い。村は無傷だったかもしれない。
――いや、それ以前に襲撃を受ける事すら無かっただろう。
「ミーアが倒れた時……。村を出る時も側にいなかった……」
ミーアが亡くなり、アンナを発見した。ボクはアンナを抱きしめ、強く決心する事になる。
これからは誰にも頼らない。アンナやギリーを、ボクが守っていくのだと。
……そうやって、歯を食いしばり、前に進むしか無かったからだ。
「ヴォルクスでも……。私は何の力にもなれなかった……」
住処を得るために、クランを結成した。活動の拠点を得るには、他に選択肢は無かった。
皆の生活を守る為、仲間を集めて鍛えた。生計の為に、アイテム作成等も一人で続けた。
そうしなければ、皆の生活を守れるか……。その時のボクは、不安で仕方が無かった……。
「王侯貴族も……。帝国も……。私が側にいれたら……」
ペンドラゴン王国の王侯貴族――いや、国民は、未だ『ホワイト・オウル』を語り継いでいる。
カーズ帝国も爺ちゃん達を脅威と感じ、ずっと手を出せずに水面下で活動していた。
もし、リリーさんが近くに居れば、誰もが迂闊に手出し出来なかった事だろう……。
「私が側にいれば……。アレクはこんなに、苦労しなかったのに……」
リリーさんが、村に残っていれば……。クランでの活動に参加してくれていれば……。
どれだけ助けになっただろうか……? どれだけ、心強かっただろうか……?
少なくとも、これまでの苦労の大半が、大幅に軽減された事は間違いなかっただろう……。
「ゴメン……。何もしてあげられなく……ゴメン……」
リリーさんは、ボクをギュッと抱きしめる。それと同時に、彼女の体温が伝わって来る……。
リリーさんは、ボクの肩に顔を押し付ける。ボクの肩が、冷たく濡れて行くのを感じる……。
リリーさんの言葉は正しい。側にいてくれたら、きっとボクにとって、大きな助けになった。
――けれど。そうじゃない。
「違う……。リリーさんが謝る事なんて、何にも無いんだ……」
「え……?」
ボクの呟きに、リリーさんの顔が僅かに上がる。ボクは彼女の肩に手を置き、そっとその抱擁を解く。
そして、リリーさんの瞳を見つめ、力強く言い切った。
「ボクは守られるだけの、ただの子供じゃない。そんな事は、リリーさんも良く知ってますよね?」
「アレ……ク……?」
リリーさんは、ボクをぼんやりと見つめる。そして、彼女の涙は静かに止まる。
ボクは二ッと笑い、リリーさんへと語り掛けた。
「それに、聞いてませんか? ワトソンさんや、ヴェインさんの事は?」
「リリアナの手紙には何も……」
旧友の名に、リリーさんは目を丸くする。どうやら、貰った手紙には、何も書かれてなかったらしい。
……という事は、リリアナさんも知らなかったのか。ヴォルクスでは皆が知る事実だけど、王都では別と言う事だろうね。
「それに、先日亡くなりましたが、ヴォルクス領主のユリウスさん。それと、その二人の子供、アンリエッタとポルク。元ヴォルクスのトップクラン『黄金の剣』の皆さん。クラン事務局や、商人ギルド、盗賊ギルドなんかもそうですかね……?」
「えっと……。何の話をしている……?」
思いつく名を上げるボクに、リリーさんは不思議そうに訊ねる。その名が何を意味するか、彼女にはピンと来ていないみたいだった。
だから、ボクはハッキリと告げる。
「ヴォルクスで、ボクを助けてくれた人達。そして、リリーさん達の伝説に、憧れる人達ですよ」
「私達の……伝説……?」
その説明でも、まだ理解出来ないみたいだった。リリーさんは、不思議そうに首を傾げている。
ボクはその態度に苦笑を浮かべる。きっと、ボクに対する周囲の人達も、今のボクと同じ気持ちなんだろうな……。
「ヴォルクス--いや、ペンドラゴン王国では、リリーさん達の活躍が、今でも語り継がれています。国民の中では、英雄譚として今でも生きていますからね」
「英雄譚……?」
胡散臭そうに眉を寄せるリリーさん。何故か、ボクの言葉を疑っている様子だ……。
リリーさん、ケトル村以外にも旅してたよね? ペンドラゴン王国内で、自分達の話を耳にしなかったのだろうか?
「その英雄譚のお陰で、ボクはとても助けられました。『ホワイト・オウル』リーダー、賢者ゲイルの後継者として、皆がボクの事を良く思い、助けてくれた訳です」
「賢者ゲイルの後継者……? 私の弟子なのに……」
え……? そこが不満なの……?
一応、リリーさんの弟子と言う話も、ヴォルクス内では広まっているけど……。
「えっと……。まあ、そういう訳で、それはリリーさんのお陰でもあるという事です。リリーさんの過去が、ボク達のヴォルクスでの助けになった言う話なんですけど……」
「……そう……か」
ボクはリリーさんの様子を伺う。何故かリリーさんは、ジッと目を閉じてしまった。
そして、何かを思い、リリーさんなりに納得したらしい。大きく頷き、再び目を開く。
「ならば……。師匠の、面目躍如……?」
「ええ、まあ……。そういう事ですかね」
ボクは苦笑しながら頷く。すると、リリーさんも嬉しそうに頷き返して来た。
師匠として助けられたという事で、リリーさんの中で折り合いが着いたらしい。
……本当に、こういう所は昔と変わらないんだな。
「なら、アレクは私の事を敬うべき……。具体的には、これまでの事を詳しく話すべき……」
「ええ、構いませんよ」
リリーさんの要求に、ボクは笑顔を返す。こちらとしても、リリーさんの話を聞きたい所だ。
……と、何故かリリーさんは、ボクの背後に回り込む。そして、ボクのお腹辺りに腕を回す。
「えっと……。何をしてるんですか……?」
「むう……。思ったより大きくなってる……」
後ろを振り向くと、リリーさんは不満そうな表情だった。そして、渋々と言う態度で、回した腕を解いた。
そして、リリーさんは奥のベッドへ進むと、そこにストンと腰を落とす。リリーさんは自分の隣をポフポフと叩き、ボクに対して要求を述べる。
「ここに座る……。自分で歩く様に……」
「は、はあ……」
……もしかして、ベッドまで抱きかかえるつもりだったの?
十年前ならともかく、体格を見ればもう無理ってわかるよね?
ボクは懐かしい疲れを感じる。そして、今でもリリーさんの中では、ボクが子供のままだと理解した。
くすぐったい感覚を覚えながら、ボクはリリーさんとの距離を詰める。そして、彼女の隣に腰掛けた。
「それじゃあ、ゲイルが亡くなった所から……」
「ほぼ、初めからって事ですね?」
満面の笑みで頷くリリーさん。そんな彼女に対し、ボクはかつての様に苦笑で返した。
リリーさんはとても頑固だ。一度言ったら、決して自分の言葉を曲げない。
……なので、ギル達には後で謝らないといけないな。きっと、皆が戻れるのは、ずっと後になるのだから。
そして、ボクはリリーさんに、これまでの出来事を話し始める。一つ一つ、ゆっくり丁寧に……。
そんなボク達を、ギリーは静かに見守っていた。何故か気配を消して、嬉しそうな笑みを浮かべながら……。




