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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十三章 世界樹防衛戦編

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英雄の条件

 あれよあれよと言う間に、決闘ムードになってしまう。エルフの里の門前で、ギリーとジェラハムさんが睨み合っていた。


 更に、ギリーの言葉は、ジェラハムさんの仲間にも火を付けた。彼を取り巻くエルフの戦士達は、いずれも怒りの眼でギリーを睨みつけている。


「ア、アレク君……。どうしたら良いでしょうか……?」


「そうですね……」


 おろおろと慌てるリリアナさん。どうしたものかと悩み、ボクは状況を観察する。


 ジェラハムさんは先程、精霊騎士エレメンタル・ナイトを極めたと言っていた。恐らくは上級職のLv50に達しているという事だろう。


 そして、身に纏う防具は、竜の鱗で作られているみたいだ。色が緑なので、恐らくは風属性のドラゴン・メイル。その等級はユニーク級である。


 そして、ジェラハムさんの態度から、手にした剣は伝説級と思われる。作成不能と思われる神級を除けば、最上級の装備品という事になるのだが……。


「まあ、ギリーに任せてみましょうか」


「え……? 良いのですか……?」


 あっけらかんと言い放つボクに、リリアナさんが不安そうな視線を送る。とはいえ、ボクの態度に思う所があったのか、それで何も言わなくなった。


 そして、ボクは再びギリーに視線を向ける。彼の落ち着いた様子から、最悪の状況は起きないと予感出来ていた。


 それに何より、ギリーもLv50の狙撃手スナイパー。防具は『狙撃手スナイパー・シリーズ』のユニーク級で固めている。


 武器には伝説級の『魔神の弓』まで存在する。装備やジョブが同条件なら、ギリーの負ける姿はイメージ出来ない。


 ……などと、楽観的に考えてる時期が、ボクにもありました。


「――って、おいおい……」


 ギリーは何故か、弓と防具を外し出した。そして、外した装備はと言うと、近くにいたロレーヌに預けている。


 皆がその状況に唖然とする。しかし、当のギリーは拳を構え、ジェラハムさんへと言い放つ。


「待たせたな……。いつでも掛かって来い……」


「貴様……。何の真似だ……?」


 流石にジェラハムさんも、額に青筋を浮かべていた。虚仮にされたと感じたのだろう。


 それも当然で、ギリーが弓使いなのは一目瞭然。それが防具まで外し、素手で戦おうと言うのである。これでは怒らない方がおかしい位だ……。


 しかし、ギリーはふっと鼻で笑う。そして、冷たい視線をジェラハムさんへ向ける。


「身の程を教えてやろう……。この方が、わかりやすいだろう……?」


「……ただの馬鹿だったか」


 ジェラハムさんは表情から感情を消す。そして、手にした剣を鞘から抜いた。


「さっさと終わらせてやる……」


「ふっ、やってみるが良い……」


 ギリーは自然体で構え、再び挑発の手招きを行う。相手を怒らせる作戦だろうか……?


 しかし、ジェラハムさんも歴戦の戦士なのだろう。冷静に剣を構え、鋭い踏み込みで斬り掛った。


「はっ……!」


「ふっ……」


 ジェラハムさんの斬撃を、ギリーは紙一重で躱す。それに合わせ、右フックをボディに突き刺す。鎧の隙間を縫う様に放った、精密な一撃である。


「ぐうっ……!?」


 ジェラハムさんは痛みに耐え、振り下ろした剣を横薙ぎに払う。しかし、ギリーは身を屈め、彼の剣をやり過ごす。更には屈んだ勢いで、アッパーを顎にヒットさせる。


「がっ……!?」


 これにはたまらず、ジェラハムさんは後ろへ引く。剣を盾にしてのバックステップである。


 ギリーはそれを追わず、静かにジェラハムさんを見つめる。そして、挑発気味に彼へと問いかける。


「どうした……? その程度か……?」


「小賢しい……。だが、その程度の攻撃は効かん……!」


 見ればジェラハムさんの体が、ぼんやりと光っていた。その光が消えると、彼の顎から赤みが引いて行く。


 ……あれって、ジョブ固有の自然治癒とかかな?


 ボクが首を捻っていると、リリアナさんが近づいて来た。そして、ボクにそっと教えてくれる。


精霊騎士エレメンタル・ナイトは、森の中では自然治癒の能力を持つ……。素手のギリー君では、分が悪いかもしれない……」


「なるほど……」


 どうやら、ボクの予想は当たっていたらしい。小さなダメージであれば、すぐに回復してしまうと言う事のようだ。


 しかし、ギリーは構わず再び手招き。ギリーに限って、自然治癒に気付かないとは思えないけど……?


「どうした……? もう、疲れたのか……?」


「チッ……。口の減らない餓鬼だ……!」


 ジェラハムさんは、苛立った様子で再び斬り掛る。そして、先程同様に回避とカウンターが決まる。


 しかし、ジェラハムさんは、ダメージを無視して攻撃を繰り返す。自然回復に任せて、勢いで押し切るつもりなのだろう。


 ……しかし、どれ程の攻撃を繰り返しても、ギリーはその全てを回避する。それと同時に、彼のパンチは必ずヒットしていた。


 その光景は、大人が子供稽古を着けているかにも見えた。ギリーの攻撃は、そのままジェラハムさんの隙を示してもいるからだ。


 そして、周囲のギャラリー全員が、ギリーの意図に気付き始める。ギリーは本当に、『身の程を教える』つもりなのだと……。


「ふざけるなっ……!?」


 ジェラハムさんは距離を取る。そして、剣での攻撃を諦めたのだろう。魔法を使用しようと、呪文のキャストを開始する。


「ファイア――ぷべっ……!?」


 しかし、魔法による攻撃は許す気が無いらしい。ギリーはジェラハムさんの顔面を殴り、強制的にキャストをキャンセルさせてしまう。


 無様な悲鳴を上げたジェラハムさんは、顔を真っ赤に染める。そして、がむしゃらにギリーへと斬り掛る。


「強い武器を手にし……。強くなった気がしたか……?」


「黙れ……!」


 振り下ろそうが、薙ぎ払おうが、その攻撃は回避される。それに合わせて、必ず一撃加えられる。


「ジョブを極め……。自分が頂点だと感じたか……?」


「黙れ、黙れ……!」


 隙を見て魔法の使用も試みる。しかし、どれだけ守ろうとも、呪文を唱えると顔面を殴られる。


「周りから賞賛を受け……。自分は特別と驕ったか……?」


「うるさい、うるさい、うるさい……!!」


 斬っても、斬っても殴られる……。魔法を使っても殴られる……。


 確かにダメージは自然治癒し、肉体的には何ら問題が無さそうに見えた。しかし、ダメージが癒えても、痛みと言う感覚は繰り返される。


 それは傍から見ていると、こう思えてしまう。



 ――これは終わりの無い、拷問と同じではないかと……。



 そして、どれ程の時間、そのやり取りが繰り返されただろう?


 気が付くと、ジェラハムさんは地に膝を付き、手の剣を放り出していた。そう、彼は心が折れてしまったのだ。


「…………」


「これで終わりか……」


 地面をじっと見つめ、ジェラハムさんは何も喋らない。今の彼の瞳には、何も映ってはいなかった。


 そんなジェラハムさんに対し、ギリーは静かに言葉を投げる。


「英雄とは……強い武具を持つ者では無い……」


 その言葉に、周囲が耳を傾ける。静かだが、何故か心を引く声色だった……。


「英雄とは……武勇に優れた者でも無い……」


 その言葉には、ギリーの心が込められていた。彼は本心から、ジェラハムさんに語り掛けていた……。


「英雄とは……多くの人を助け……その結果として贈られる言葉……」


 その言葉が、ジェラハムさんに届いたかはわからない。彼は変わらず、俯いたままであった……。


「決して……自分から名乗る物では無いのだ……」


 ギリーはスッと視線を移す。そして、ボクと彼の視線が交差した。


 ……って、ここでボクを見るの!?


 ギリーの視線に釣られたのだろう。その場の視線が、全てボクへと集中する。エルフ達の視線からは、畏敬の念すら感じられた……。


「あはは……。英雄って、奥が深いものですね……?」


 ボクは誤魔化す様に笑ってみる。しかし、周囲は誰も笑ってくれなかった……。


 そして、ボクは重たい視線に晒されながら、嫌な汗が背中を流れるのを感じるのだった……。

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ギリーかっこよすぎる
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