アレク、協力を拒まれる
王都ブランから出発して翌日。リリアナさんの案内により、ボク達は迷いの森をアッサリと抜ける。本来なら、精霊の助力無しに抜けれない、迷宮と化した森なんだけどね……。
ちなみに、引き連れた戦力は、ギリー、ギル、アンナ、ハティ、ルージュ、ロレーヌといういつものメンバー。それに、宮廷魔術師団の二個小隊、八名である。
勿論、これは先発隊に過ぎない。防衛状況を確認する事が第一の目的。場合によっては、本体が到着するまでの時間稼ぎも目的となる。
そして、本体は二日遅れで到着予定。宮廷魔術師団の八個小隊及び、王国騎士団の団員五百名が増援に駆け付ける手はずとなっている。
リリアナさんが知る限りでは、帝国軍の兵数は千人には達しないとか。元々のエルフの戦士も五百名を超える為、防衛線としては十分な戦力だと言えるだろう。
とまあ、そんな感じで、ボク達はエルフの里へと到着した。そして、里の入り口で困った状況となってしまう……。
「彼等を受け入れないとは、どういう事ですか……!?」
「人間は里に入れない。そんな掟も忘れたか、リリアナ?」
エルフの里の入り口。リリアナさんと、エルフの戦士代表が問答を繰り返している。
睨みつけるリリアナさん。それに対し、相手の男は涼しい表情である。
「今は非常時だ……! 世界樹の危機を救う為なら、例外が認められるだろう……!」
「確かに、由々しき事態ではある。――が、人間の力を借りずとも、我々だけで解決可能な問題でもある」
リリアナさんは、顔を真っ赤に憤慨する。しかし、相手は冷たい視線を向けるだけ。
……これは、ダメだな。相手には初めから、こちらの話を聞く気が無い。
「しかし、私に精霊を寄こしたのはリリーお姉様だ! リリーお姉様を、ここへ呼んで下さい!」
「リリーエンタル様は、選定の儀の最中。本来ならば、この様な些事にお手を煩わせるべきでは無いのだ……。お前達の事は伝えておくので、さっさと人の領域へと帰るが良い」
ちなみに、リリーさんとリリアナさんは、共に精霊術士と言うジョブを習得している。その関係もあって、風の精霊を使ってメッセージのやり取りを頻繁に行っている。
まあ、風の精霊では、多くのメッセージを伝える事が出来ない。その為、多くの情報を送る際は、手紙を送るとも言ってたけどね。
「さて、どうした物かな……?」
二人のやり取りを横目に、ボクはエルフの里に視線を向ける。入り口に立ち塞がるのは、高圧そうなエルフの戦士。その背後にも、十名程の戦士が睨みを利かせていた。
ちなみに、眼前には巨大な樹が聳え立ち、これが世界樹という事は一目瞭然。そして、その周囲に広がる集落。木造の建築物もあれば、樹上に蔦が絡まって出来た家まである。
すぐ手が届く距離に里があるのに、ボク達はそこに立ち入る事が出来ない。何とももどかしい状況である……。
後々を考えると、強行突破は現実的な手段とは言えない。帝国との防衛線において、協力関係を築くのが難しくなる為だ。
かといって、ここで押し問答をするのも時間の無駄である。いっそ出直す振りをして、風の精霊でリリーさんにメッセージを送るべきかな……?
そんな風に考えていると、ふいに高圧なエルフの視線が移動する。ボク達を視界に収め、軽く鼻で笑って見せた。
「それに、その程度の戦力で、何になると言うのだ? こちらには、五百名の強靭な戦士が揃っている。少数の人間等が加わった所で、足手まといになるだけだろう?」
「何を言う! 代表のアレク君と相棒のギリー君は、リリーお姉様の教え子だぞ! それに彼等は、数多くのドラゴンを討伐した実績も持っている!」
リリアナさんの視線を追い、高圧なエルフがボク達を物色する。しかし、すぐに眉を寄せ、肩を竦めたて見せた。
「まだ若い人間ではないか……。恐らくは二十年も生きていまい。それで、ドラゴン討伐と言われても、信じる事が出来ると思うか?」
「それこそ、リリーお姉様に聞けばわかる! 彼等が本物である事を、リリーお姉様が保証して下さる!」
リリアナさんは必死に食い下がる。しかし、高圧なエルフも引かない。
そして、彼は腰に下げた剣を手にし、リリアナさんへと掲げて見せる。
「仮に本物だとして、それが何だ? 私は精霊騎士を極めし者。そして、この手には精霊王より賜った剣がある。……大英雄たるこの私――ジェラハムがいる限り、人間如きに後れを取るはずがなかろう!」
「くっ……。この、分からず屋が……!」
どうやら、高圧エルフのジェラハムさんは、エルフの中でも強者に位置するみたいだ。背後の戦士達も、彼の掲げる剣に羨望の眼差しを向け、彼に対する憧憬が見て取れた。
ジェラハムさんの見た目は三十過ぎの男性エルフ。しかし、エルフにしては、やや体格がガッチリしている。視線も鋭く、その声にも十分な圧が込められていた。
「お兄ちゃん……。どうするの……?」
「あはは……。こりゃ、無理っぽいかな……?」
ボクの背後に立つ、アンナとロレーヌが声を掛けて来た。その表情には、不安と諦めが見て取れる。
そして、ボクが一旦引き返そうと、提案し掛けた所で――小さな声が響く。
「大……英雄だと……?」
「え……?」
それは静かで、小さな声であった。微かな風ですら、かき消えてしまいそうな程の……。
しかし、不思議と皆の耳に届いた。全員が驚いた表情で、その声の主に視線を向ける。
「その程度の器で……。英雄を名乗るのか……?」
その声には、色濃く怒気が込められていた。空気が質量を持ったかの様だった。
ボクは全身に重圧を感じる。そして、彼の近くにいるだけで、肌が泡立った……。
「笑わせてくれる……」
そして、彼は一歩前に出る。敵を前にした獣の様に、相手へと殺意を向けながら……。
彼の視線にたじろぎ、ジェラハムさんは一歩引いてしまう……。
「な、何なんだ……。貴様は……?」
殺意を向ける相手に、ジェラハムさんが訊ねる。その目には、理解出来ないと、不気味さが滲んでいた。
相手の問いに対し、彼は静かに答える。
「オレの名はギリー……。誰よりも、英雄を知る男だ……」
ギリーは右手を掲げて手招きをする。掛かって来いという、挑発の意思表示であった。
ここまで感情的なギリーは、初めて見た気がする……。
というか、この状況……。どうすれば良いんだろう……?
状況について行けないボク達は、ただ状況を見守る事しか出来無かった……。




