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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十一章 レクイエム編

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アレク、自らの出自を知る

 ヴァンパイア姿のクリステルさん。彼女はポツポツと語り始めた。


『……まず、アーレウス皇子の母親は、ジュノー第三王妃。カーズ帝国の皇帝、アレクサンドロス三世の妻となります』


「ボクの母親が、第三王妃……?」


 いや、それも重要だけど、父親の方がもっと不味く無いかな?


 カーズ帝国の皇帝が父親。ボクはその子供で、皇子って事でしょ?


 継承権の有無は不明だけど、とんでもない過去が暴露されたな……。


『そして、ジュノーは私の妹でもあります。つまり、私はアーレウス皇子の叔母となります』


「ん……?」


 んん……? クリステルさんが、ボクの叔母だって……?


 あれ……? それって、流れ的には、ゼロはボクの……?


『ええ、想像された通りです。マギー――いえ、マーガレット=パドリックは、アーレウス皇子の従妹となります』


「はあぁっ……!?」


 ゼロがボクの従妹……? あの、ボクをこの世で、一番憎んでいる彼女が……?


 あ、いや……。ゼロでは無く、マーガレットと呼ぶべきなのか……?


「あ~、えっと……。それで、彼女はどうして、ボクをあそこまで憎んでいるのですか?」


 まあ、呼び方については、改めて考えれば良い。今は他に聞くべき事があるのだから……。


 そして、ボクの質問に、クリステルさんが目を伏せる。悲痛な表情で説明を始める。


『マギーの話の前に、まずはアーレウス皇子の出自を話すべきでしょう。その特殊な生い立ちについて……』


「特殊な生い立ち?」


 ボクは首を傾げて尋ねる。それに対し、クリステルさんは、ゆっくりと頷いて見せた。


『妹のジュノーは、類まれな魔術の才能を持っていました。そして、その資質を皇帝に見込まれ、王妃として迎え入れられたのです。もっとも、政治とは程遠い、子供を生む為の道具としてですが……』


「はあ……」


 王族や皇族の考えはわからない。ただ、そういう事もあるのだろうとは思う。


 自らの出自ではあるが、母の顔も知らないボクは、それを他人事にしか受け止められなかった。


『そして、ジュノーは懐妊し、お腹が大きくなります。その頃から、不思議な現象が起きる様になりました』


「不思議な現象ですか?」


 ボクの問いに、クリステルさんが頷く。ボクをジッと見つめ、説明を続ける。


『ジュノーには、悪意有る者が近寄れないのです。また、ケガや病気もしなくなり、あらゆる厄災から身を守られていました』


「んん……?」


 あらゆる厄災から身を守られる? それも、懐妊してお腹が大きくなってから?


 ……それって、まさか?


『宮廷魔術師が調査した所、お腹の子供には、神の加護が宿っていました。闇と死を司る、スルラン様の大いなる加護が……』


「マジか……」


 ボクはユニーク・スキルを持っていた。『死者との交信』という、「死」に関わるスキルを。


 なので、何となく納得が行く部分もある。闇と死を司る、スルラン神の加護を得ていても。


『それを知った皇帝は、自分の跡継ぎはアーレウス皇子だと宣言しました』


「まあ、そうなるよね……」


 あの国は、武力を最も重んじる国である。神の加護なんて持ってたら、そりゃあ跡継ぎの、第一候補になってもおかしくない。


 ……ただ、そうなると、どうしてボクはここに居るんだって話だけど?


『しかし、アーレウス皇子の出産を目前に、ジュノーへスルラン様からのお告げがあったのです。「アーレウス皇子を、賢者ゲイルの元へ届けよ。それがこの国を救う唯一の道である」と……』


「なんだって……?」


 スルラン神のお告げで、ボクが爺ちゃんの元へ……? 爺ちゃんに拾われたのは、神の意思による物だって言う事なのか……?


『如何に神のお告げとはいえ、それを実行するのは容易ではありません。そこで、私がジュノーに呼ばれたのです。生まれたばかりの、マギーを連れて来る様にと……』


「え……? それって、まさか……」


 クリステルさんの言葉に、ボクは血の気が引くのを感じた。彼女達が取った、最悪の手段を想像出来てしまったのだ……。


『私とジュノーは、子供を取り替えました。私はアーレウス皇子を連れ、供の者とペンドラゴン王国を目指したのです……』


「うそ……でしょ……?」


 そんな事をすれば、どうなるか知ってたはず……。


 加護を持たないゼロが、その身代わりになるはずが無い。原因を調査する為の、時間稼ぎ程度にしかならなかったはずだ……。


 そして、残された者達は皇帝の怒りに触れ、犯罪者として扱われる事になる……。


 つまり、ゼロ達はこの事が原因で、ケルベロス特殊部隊に入れられたのだ……。


『しばらくは、順調に旅を続けました。しかし、国境付近で、追っ手に追いつかれる事に……。護衛の者達は、そこで命を失いました……』


 ヴァーム砦に向かったとは思えない。恐らく場所は、ヴァーム砦と迷いの森の間。ケトル村の近くだと思われる。


 今でこそ跡地に砦が建設されているけど、当時は爺ちゃんのいるだけの村だったしね……。


『私はアーレウス皇子を抱え、森の中を走りました。しかし、力及ばず、途中で魔物に襲われ、命を落としました……』


「…………」


 ケトル村から帝国側。そこには、ウルフ系やオーク系の魔物がいる。余程の実力が無ければ、女性一人で踏破出来ると思えない。


 それに、赤子を抱え、追っ手に追われた状況である。クリステルさんも、ただ必死に走り続けたのだろう……。


『幸いな事に、アーレウス皇子は無事でした。スレイン様の加護により、魔物が襲わなかったのです。そして、一人の狩人が通り掛かり、アーレウス皇子を連れ帰りました……』


「む……?」


 クリステルさんの瞳が、ボクの背後に向いていた。その先に居るのはギリーだ。


 つまり、ギリーの父親であるウィリアムさん。彼がボクを、村に連れ帰ったのだろう。


『私はその後、アーレウス皇子とマギーの身を案じ、思念のみの存在となっていました。しかし、こうしてアーレウス皇子へ過去を伝える事が出来た。私の存在はこの為にあったのだと、今では運命を感じています……』


 クリステルさんの瞳が、ボクを見つめている。その瞳は、どこか満足そうな色が滲んでいた。


 そして、クリステルさんは頭を下げる。ボクに対して、その願いを口にする。


『私の役目は、ここで終わりなのでしょう……。ですが、願わくば……。あの子の事を、どうかお願い出来ないでしょうか……?』


「――約束は出来ません。ですが、可能ならば……」


 ボクの答えに、クリステルさんは顔を跳ね上げる。そして、ニコリと微笑んだ。


『ありがとう御座います……。どうか、アーレウス皇子に、神のご加護があります様に……』


 クリステルさんはそう呟くと、すうっとその姿を消してしまう。ボクの返事が、彼女にとっては望みを叶えた事になるらしい……。


「…………」


 そして、共同墓地に残された三人。ボク達は無言で、消えた者達を思い出す。


 帝国の企て……。ゼロの過去……。そして、ボクの出自……。


 この短時間に、色々な事が判明した。その情報の多さに、ボク達はただ戸惑っていた。


 振り返ると、遠くにアンナ達の姿が見える。ボクの仲間達は、心配そうにこちらへ声を送っていた。


 しかし、今のボクは、一人の時間が欲しかった。ただ静かに、情報を整理する事を望んだ……。

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