アレク、ゼロの過去に触れる
ゼロと謎の霊体。その二人の関係に、ボクは状況を理解出来ずにいた。
すると、謎の霊体は、ボクへと視線を移す。そして、スッと頭を下げて来た。
『アレク様……。どうか、彼女と話をさせて下さい……』
――その声を聞き、ボクとは咄嗟に理解した。
ボクは彼女の事を知っている。その気配は、ずっとボクの背後にあった。ボクが生まれた時からずっとである……。
だからこそ、悪意ある存在とは思えなかった。ボクはすぐさま、彼女の願いを叶える事にする。
「召喚ヴァンパイア」
「なっ……!?」
咄嗟の召喚に、ゼロが焦った様子を見せる。この流れで、すぐ戦闘に突入するとは、考えていなかったのだろう。
そして、物陰から飛び出す二つの陰。その姿は、怨霊騎士と奈落童子。やはり、ゼロの仲間も控えていたみたいだ。
『マギー……。貴女は、マギーなのですね……?』
「は……?」
真っ白な顔に、二本の牙。真っ黒なマントとタキシードに身を包んだ姿。彼女の姿は、紛れもないヴァンパイアだった。
そして、召喚した魔物が話し出した。その状況に、ゼロ達が動きを止める。
『私の名はクリステル……。貴女の母です……。私が、わかりますか……?』
「クリス……テル……」
その名を聞いて、ゼロの表情が豹変する。
――その感情は憤怒。
クリステルと名乗るヴァンパイアに向かい、ゼロはヒステリックに叫び出した。
「クリ……ステル……クリステル……! 貴様が、オレを捨てた女か……!? その顔……。忌々しい程に似た顔……! 間違いねぇ……! テメェはオレの母親だな……!」
『マギー……』
クリステルさんは、悲痛な表情を浮かべる。ゼロの姿に、悲しそうな眼差しを向ける。
そこで、ボクは気付く。確かにゼロの言う通りだ。クリステルさんとゼロは、良く似た顔立ちをしている……。
しかし、ゼロは大きく手を振り払った。そして、クリステルさんへと吐き捨てる。
「気安く、その名で呼ぶな……! オレを捨てておいて……! オレ達がどれ程苦しんだかも知らず……! 今更、母親面してんじゃねぇよ……!」
ゼロ自身、気付いていないのかもしれない。彼女の瞳から、止めどなく溢れる涙に……。
そして、ゼロの仲間は、そんな彼女を心配そうに見つめる。今にも暴発しそうな、余裕の無い彼女の姿を……。
「なあ、わかってるのか……? わかってたよな……!? オレを置いて、そいつを連れて行った……! その結果、オレ達がどうなるかって……!」
『仕方が無かったのです……。それは、必要な事だったのです……』
クリステルさんは、顔を伏せて地面を見つめる。ゼロの視線に耐えかねたかの様に……。
しかし、その反応が、ゼロに更なる火を点ける。
「仕方無かっただと……!? オレ達が地獄に落ちるのが、仕方無かったって言うのか……! お前のせいで、何人が死んだか知ってんのか……!? 知った上で、そんな事を口にしているのかよ……!?」
『あの国を救うには……。それしか無かったのです……』
ゼロの激昂に、クリステルさんは耐える。その怒りを受け止め、それでも言葉を届けようとする。
しかし、今のゼロの状態では、その思いが届くはずもない……。
「ふざけるな……! テメェだけは許さねえ……! オレのこの手で、もう一度殺してやる……! 二度とこの世に、戻って来れねぇようにな……!」
腰を落とし、戦闘態勢を取ろうとするゼロ。しかし、ボク達が動くより先に、彼女の仲間が動いた。
「なっ……!? 離せ……!」
怨霊騎士がゼロを羽交い絞めにする。そして、奈落童子の女が前に出る。彼女は帰還のスクロール片手に、クリステルさんを指差していた。
「後は、彼女に聞けと……?」
奈落童子の女は静かに頷く。そして、手のスクロールを発動させた。
その様子に、ギリーがスッと身を寄せ、訊ねて来た。
「良いのか……? このまま行かせて……?」
「うん……。多分、そうした方が良い気がする……。ボクの勘なんだけど……」
ボクの返事にギリーが頷く。そして、構えた弓を下へと下ろす。
ギリーならきっと、あのスクロールを狙えた。発動を阻害し、帰還を阻む事も出来たのだろう。
しかし、ボクはクリステルさんに視線を向ける。彼女は静かに、ゼロの事を見つめていた。彼女を止める気が無さそうだった……。
「くそっ……! くそったれがぁ……!」
叫び声を残し、ゼロ達が光に消えて行く。共同墓地には、静寂だけが残された。
そして、ふっとクリステルさんが、ボクの方へと振り向いた。そのまま頭を垂れ、ボクに対して恭順の意を示す。
『全てを、お話しさせて頂きます。アレク様――いえ、アーレウス皇子……』
「アーレウス……皇子……?」
クリステルさんが、その顔を上げる。彼女の瞳が、真っ直ぐにボクを見つめていた。
そして、更なる混乱に追い込まれたボクは、ただ彼女の言葉を待つだけだった……。




