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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十一章 レクイエム編

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アレク、真の陰謀を知る

 ゼロの背中を追い、ボクはヴォルクスの街を駆ける。更に背後からは、ギリーとギルの気配を感じる。


 恐らくこれは、帝国側の罠だと思う。ボク達を誘き出し、何かをしようと企んでいるのだろう。


 だが、それを理解していても、彼女を見逃す訳にはいかない。そんな事をすれば、より酷い未来を迎える事が想像出来る。そうなる位なら、危険は覚悟の上で、相手の舞台に飛び込むしかないのだ。


 ……それに、ポルク達が、増援の手配もしてくれている。アンナ達にも声を掛け、しばらくすれば、合流してくれるはずだ。


 それまでの間であれば、ボク達だけでも何とかなるはず。ボク達だって、以前のままでは無いのだから……。


「ん……? ここは……」


 ゼロを追って、辿り着いたのは共同墓地。平民街にある、人気の無い場所である。


 とはいえ、街中である事に変わりは無い。下手な横槍は入らないだろうし、時間を稼ぐにはこちらにとっても好都合だ。


「くっくっく……。やっぱ、追って来るよな……?」


 共同墓地の中央。そこでゼロは足を止め、ボクの方へと振り向いた。その顔には、心底嬉しそうな、酷薄な笑みが浮かんでいた。


 ボク達は一定の距離を保ち、ゼロと対峙する。ギリーとギルも、ボクと並んで臨戦態勢を取っている。


「何故、君がここに……?」


 まともな答えは期待していなかった。これまでの対応が、まっとうでは無かったからね……。


 しかし、ゼロは初めてボクを真っすぐ見つめた。そして、悪戯が成功した、子供の様な表情を浮かべる。


「お前に、面白い事を教えてやろうと思ってな……」


「面白い事……?」


 ゼロにとっての面白い事が、ボクにとって面白いとは思えない。しかし、彼女が対話する気になっているのだ。十分に時間を稼がせて貰おう……。


 ゼロは大きく頷くと、笑いを堪えながら、ニタニタと説明を始める。


「あのジジイの介入……。あれは、帝国軍にとっての誤算だった。あいつはこの二十年、どれだけ領主が望んでも、ヴォルクスに戻らなかったからな……」


「ヴェインさんの事を言っているのか……?」


 ボクの問いにゼロは頷く。不気味な位に、素直に反応を返すな……。


「そして、ジジイの介入で、帝国の企ては失敗……。領主の息子を傀儡にする、長年の計画は頓挫って訳だ……」


「……それは、アベルさんの事を言っているのか?」


 ゼロは大きく頷いて見せる。その事が、嬉しくて仕方が無いみたいに。


 その反応に、ボクの内心は穏やかでは無かった。それはつまり、今回の暗殺事件は、帝国の計画だという事になるからだ。


 隣のギルを見れば、彼の表情にも怒りが滲んでいる。普段は感情を見せない彼が、可視化しそうな程の怒気を纏っていた。


「まだ、気付いてねえんだろ……? 帝国の計画は、十数年前から始まっていたんだぜ……? 領主の妻である、シルヴィ=ペンドラゴンの暗殺からな……」


「なん……ですって……?」


 ギルが茫然と呟く。先程の怒気が吹き飛ぶ程に、その真実は衝撃だったのだろう。


 そして、ボクも改めて内心で畏怖する……。


 シルヴィ=ペンドラゴンとは、恐らくはユリウスさんの妻で、アンリエッタとポルクの母親だ。その死が十年前と聞いていたが、それすらも計画の一部だったと言うのだ。


 しかも、先程の口ぶりからすると、それ自体は準備でしかない。ユリウスさんを暗殺し、その息子のアベルさんを傀儡とする。そこまでを、十年以上のスパンで計画していたと言う事である。


 恐らくは、爺ちゃんが無くなり、王都が混乱している、今がチャンスと見たのだろう。そして、実際にヴェインさんが戻っていなければ、帝国軍の計画は成功していたのだ……。


「領主の息子にゆっくり吹き込んで……。領主は家族より仕事が大切なんだと……。妻の事を、愛していなかったんだと信じ込ませ……。少しずつ、復讐心を育てて行ったんだとよ……」


「そ、んな……。アベル様は……。その計画の為に……」


 ギルがガクッと姿勢を崩す。しかし、自らの膝に手を付き、何とか身体を支える。


 ただし、顔は蒼白になっており、立っているのもやっとという状態である……。


 ボクはゼロを睨み付ける。彼女に対し、怒りを叩きつける。


「ゼロ……! 何故、そこまでする……!? そこまでして、帝国は王国に勝ちたいのか……!?」


「ハッ……! そんな事は知らねえよ……! 帝国のジジイ共は、復讐で頭が一杯みたいだがな!」


 ゼロはその事を、他人事みたいに鼻で笑う。まるで、自分には関係ないとばかりに。


 なので、ボクは新たに問う。彼女の真意を探る為に。


「なら、どうして君は、ボクにそれを教える! そこに何の意味があると言うんだ!」


 その問いに、ゼロは満面の笑みを浮かべた。その質問こそ、待っていたと言わんばかりに。


 そして、両手を広げて、ゆっくりと語り出した。


「――そんな事は決まってんだろ? お前の苦しむ顔が見てえ……。それ以外に、何があるってんだ?」


「なっ……?」


 こいつは狂っている……。何が彼女をそうさせた……?


 そして、どこまでボクを恨んでいる? ボクはその事を、訊ねるべきか躊躇する……。


『――マギー……』


「え……?」


 いつの間にか、ボクのすぐ隣に女性の姿があった。腰まで伸ばした長い髪の、二十歳程の女性である。


 ……ただし、その姿は半透明。その体は霊体――つまり、彼女は死した魂であった。


『私の、愛しいマギー……』


 彼女は真っ直ぐに、ゼロの事を見つめている。そして、ただその名を呟いていた。


 勿論、その声はボクにしか届かず、ゼロは怪訝そうにボクを見つめている。


「マギー……?」


 ボクもその名を呟く。彼女が反応を示す事を期待して。


 しかし、反応を返したのは、彼女では無かった……。


「――おい。何故、その名を口にした? お前は何を知っている……!?」


 ボクの呟きに、ゼロが態度を豹変させる。先程の余裕が嘘の様に、必死の形相でボクを睨んでいた。


 霊体の女性と焦るゼロ。その二人の存在に、ボクはただ混乱するだけだった……。

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