アレク、陰謀を明かされる
迎えの馬車に乗り、ボクはヴォルクス城へと向かう。同行者はギルのみだ。話の内容が不明な為、皆には残って貰う事にした。
ヴォルクス城へと到着したボク達は、セスさんが出迎えられる。彼はボク達を連れて、応接間へと案内してくれた。
そして、応接間には一人の紳士が待っていた。年は恐らく五十前後。濃い青髪には白い物が混ざっている。その青髪を、後ろで軽く縛っている。
理知そうな眼鏡を掛け、スーツ姿という恰好。恐らくは彼が、ユリウスさんの秘書を務める、フューズさんなのだろう。
「ご足労頂き、感謝致します。さあ、そちらへお座り下さい」
彼はソファーに座り、向かいの席をボクに勧める。ちなみに、彼の隣にはポルクが座り、その向かいにはアンリエッタが座っていた。
……まあ、状況が状況なので、作為あっての配席では無いだろう。それは、ポルクとアンリエッタの、悲痛な表情からもわかる。
ボクは大人しく、勧められた席に着く。すると、フューズさんが進行役を務めてくれる。
「改めまして。アレク様、私はユリウス様の秘書を勤めています……いえ、勤めていました、フューズと申します。現在はヴォルクス領の取りまとめを、代行させて頂いております」
「初めまして。ボクは『白の叡智』のアレクです」
ボクの事は、ある程度知っているだろう。なので、挨拶は簡単に済ませる。
そして、フューズさんも特に、気を悪くした様子は見られない。小さく頷き、話を先へと進める。
「まずは、現状の状況からご説明致しましょう。……ユリウス様の病状が出たのは、昨晩の就寝前となります。寝室で一人になられたユリウス様は、そのタイミングで心臓発作が起きたみたいなのです。その状況は、物音に気付いたメイドが発見致しました」
「その時点では、まだ生きていたのですね……?」
ボクの問い掛けに、フューズさんが頷く。そして、その意図を察して、補足説明を入れてくれる。
「中から呻き声が聞こえ、メイドは中へと入りました。そこで、ベッドの下で倒れるユリウス様を発見したのです。そして、メイドはすぐに私と医者を呼びました。ユリウス様には外傷も無く、ただ胸を抑えて苦しんでおられました」
「薬が飲めない状況でしたので、魔法による治療を試みたそうです……。ただ、それでも、ダメだったみたいですが……。そして、内的要因だからでしょう……。『蘇生の霊薬』も効果が無かったそうです……」
ポルクも補足説明を行ってくれる。蘇生を試みたが、それでも助ける事が出来なかったと言う事か……。
それに、その状況なら、他殺の可能性も低い。本当に病気で、亡くなってしまったという事である……。
ボク達は何も言えず沈黙する。そして、間を開けて、フューズさんが説明を再開させる。
「そういう経緯で、ユリウス様はお亡くなりになられました……。そして、この後の相談となるのですが、まずは領民への報告についてです……」
「ユリウスさんが亡くなったこと……。そして、次期領主がアベルさんだと、説明を行うんですよね?」
ボクの質問に、フューズさんが頷く。そして、その内容に補足を加える。
「ただし、それだけを伝えれば、領民の皆さんは不安に思うでしょう……。余り良い噂の無いアベル様です……。本当に、ユリウス様の後を継げるのか……と」
「ですので、発表の場には、アレクさんも同席して頂けないでしょうか……? ボクとアレクさんが手助けすると伝えれば、不安もかなり和らぐと思いますので……」
なるほど……。ボクが呼ばれた理由は、その為だったのか……。
今のボクとポルクは、ユリウスさんに匹敵する信頼を、ヴォルクス市民から得ている。アベルさん一人では不安かもしれないが、ボク達が一緒であれば、何とかなると思ってくれる可能性が高い。
今の状況であれば、それが最も混乱の少ない選択肢と言えるだろう。
「わかりました。それでは……」
「――ちょっと、待って貰えるかの」
ボクの言葉が遮られる。本来は居ないはずの第三者により。
ボク達は一斉に、声の方へと視線を向ける。そこに居たのは、黒装束姿のヴェインさん。彼は窓枠に腰掛け、ボク達をジッと見つめていた。
「え……? 何故、ヴェインさんが、ここに……?」
クランハウスに居ないとは思ったが、こんな所に居るとは思わなかった。
ボクが疑問に思っていると、フューズさんが手で顔を覆う。そして、絞り出す様に、ヴェインさんへと質問を投げ掛ける。
「やはり……見つかったのですね……?」
「ああ、証拠は押さえた……。ユリウスを殺したのは、その医者と、アベルで確定じゃ……」
「「「な……!?」」」
ヴェインさんの言葉に、ボク、アンリエッタ、ポルクの声が重なる。
驚くボク達を他所に、フューズさんは項垂れて呟く。
「信じたくなかった……。ユリウス様の、気持ちを思えば……」
「じゃが、ユリウス自身が、その可能性も考慮しておった。だからこそ、ワシが呼ばれたのじゃろう?」
フューズさんとヴェインさん。二人だけで会話を続ける。その様子から、薄々と状況が見えて来る……。
「ユリウスさんは……殺された……?」
「心臓発作に似た症状を持つ毒……。そして、『蘇生の霊薬』に見せかけた偽薬……。その二つを、ワシが見つけて確保しておいた」
つまり、偽装されていたが、ユリウスさんは暗殺されたという事なのか……?
それも、その手引きを、実の息子であるアベルが行ったという事なのか……?
その衝撃の事実に、ボク、アンリエッタ、ポルクの三人は固まる。
しかし、ヴェインさんはボクから視線を逸らし、フューズさんへと喝を飛ばす。
「わかっておった事じゃろう? この可能性が高いという事は……。ならば、腑抜けておらんで動け! それが、ユリウスが託した、お主の最後の仕事であろう!」
「……ええ、その通りですね。それでは、参りましょう」
その叱責で、フューズさんは顔を上げる。毅然とした表情で立ち上がり、扉に向かって歩き出した。
そして、その後を追いながら、ヴェインさんがボクを一瞥する。
「ちと、後片づけに行って来る。アレクとギルは、二人の世話を頼むぞ……」
そう言い残すと、フューズさんとヴェインさんは、二人で退室して行く。チラッと見えたが、外には数名の兵士が待機していた。
つまり、暗殺の件は伏せておき、証拠が無ければ先程の話通り……。証拠が出れば、ヴェインさん達が動く手筈になっていたと言う事である……。
ボクは視線をポルクに移す。彼の顔は蒼白となり、両手をギュッと握り絞めている。その表情から、暗殺の件は知らされていなかったのだろう。
続いて、アンリエッタの様子を伺う。隣に座る彼女は、顔を伏せ、肩を震わせていた。
――そして、顔から雫が落ちる。
その様子を、ボクは何も言えずに見守る。すると、彼女の頭が揺れ、ボクの胸へと倒れ込んで来た。
「ア、アンリエッタ……?」
「……ぐっ……ぐすっ……」
アンリエッタは、声を押し殺していた。口を押え、その悲しみが漏れ出さない様に……。
ボクはそっと、その背中に手を回す。少しでもその悲しみが和らぐ様にと、そっとその背中を撫でた。
「ア、アレク……。アレク……! あ、あああ……! こんなのって……こんなのって……!」
それを皮切りに、アンリエッタは叫び声を上げる。堪え切れなくなり、その悲しみを、ボクの胸で爆発させた。
ボクはただ、そんなアンリエッタを抱きしめ、その悲しみを受け止める事しか出来なかった……。




