アレク、凶報を受け取る
ボク達はヴォルクスへ戻り、アンリエッタ達と別れた。そして、クランハウスへ続く通りを歩く。ヴォルクスの街は、いつも通りに平和な日常である。
そして、クランハウスに到着し、中に入るとメリッサが待ち構えていた。彼女はかつて見た事が無い程の、苦痛に満ちた表情でボクに告げる。
「アレク様、緊急の知らせが御座います……。こちらへどうぞ……」
メリッサの視線は、ボクの後ろのギルへと向く。どうやら、二人だけで聞いた方が良い内容みたいだ。
ギリーやアンナ達には、各自の部屋へ戻る様に指示を出す。そして、ボクとギルは、メリッサを先頭にリビングへ向かう。
リビングでは、既にメアリーがお茶の準備をしていた。しかし、その表情は姉同様に、とても堅い物であった……。
「まずは、お掛け下さい……」
メリッサに促され、ボクはソファーへと腰掛ける。ギルは当然の如く、ボクの背後に控える。
その様子を確認し、メリッサは口を開く。一瞬の躊躇の後に、小さく囁いた。
「……ユリウス様が、お亡くなりになられました」
「…………は?」
その言葉の意味が、ボクには理解出来なかった。頭が真っ白になり、背後のギルへと視線を送る。ギルも同様に、口をポカンと開けていた。
そして、そんなボク達に対して、メリッサは説明を続ける。
「心臓の発作との事です……。昨晩、お亡くなりになられ、今はまだ、情報が規制されている状況です……」
「亡く……なった……?」
ヴォルクスの領主……。そして、アンリエッタとポルクの父親である、ユリウス=ペンドラゴンが亡くなった……?
ほんの十日程前には元気な姿で、ボク達と会話していたというのに……?
「嘘……ですよね……?」
その有り得ない知らせを、ボクは疑ってしまう。しかし、メリッサは苦しそうに首を振る。
そして、その目がボクを見つめる。不安に揺れる、その眼差しで……。
「現在、領主業務を代行中の、フューズ様からお呼びが掛かっています……。国王や領民への報告前に、アレク様ともご相談したいとの事です……」
「そんな……バカな……」
メリッサの目を見ればわかる。彼女は決して、嘘を言っていないと。
一瞬、またユリウスさんの悪ふざけかとも思った。しかし、彼はその様な、悪質な嘘で騙す人では無い……。彼の嘘は、いつも人を喜ばせる物だった……。
つまり、本当にユリウスさんが、亡くなったという事なのか……。
ソファーの背もたれに、ボクは身体を投げ出す。そして、この先に待つ展開に思考を巡らす。
このヴォルクスは……いや、ペンドラゴン王国は、ユリウスさんのお陰で、帝国への備えが出来ている。
ユリウスさんが亡くなったら、それはどの程度の影響となる……? 私兵団はすぐに機能停止しないだろうが、その機能はどこまで維持される……?
それに、ポルクやアンリエッタはどうなる……? ユリウスさんが領主で無くなれば、二人は城に出入り出来なくなるのか……?
更に、領主の死を知った領民はどう思う……? 爺ちゃんの死すらも、まだ知らされていないと言うのに…‥。
いや、違う……。それ以前に――
「次の領主は……どうなるんだ……?」
ボクはポツリと呟く。答えのわかりきった、その質問を……。
そして、背後から答えが返る。とても、苦しそうな声で……。
「長男である、アベル様が……お継ぎになる手筈かと……」
それは、そうだろう……。ユリウスさんが、こういう事態を想定して無いはずがない……。
ユリウスさんは、ポルクとアンリエッタに『銀の翼竜』を与えた。つまり、次期領主は、内々で長男に決まっていたはずなのだ……。
ボクの胸に不安が広がる。メリッサの瞳から伝わった感情が、ようやくボクにも理解出来た……。
この不安定な情勢の中で、ヴォルクス領主の死が、どれ程のインパクトを持つのか……。そして、人々を導く存在を欠いた事で、このヴォルクスはどこへ向かう事になるのか……。
ヴォルクスの……そして、この国の未来は、どうなってしまうのだろうか……?
その明るくない未来を憂い、ボクはじっと迎えの馬車を待ち続けた……。




