クラン交流戦(決勝戦)
今日は交流戦の最終試合、決勝戦である。その試合はお兄ちゃんに代わり、私達が出場する事になってしまった……。
闘技場の中で観客に囲まれ、私は心臓が破裂しそうになる。緊張でどうにかなってしまいそうだ……。
それに、対戦相手は王都で一番のクラン。そのリーダーも、怖い顔でこちらを睨んでいる。きっと彼女も、本当はお兄ちゃんと戦いたかったのだろう……。
――怖い。
初めて人と戦う……。それも、知らない人達に囲まれた中で……。
――怖い。
試合に負けた時……。『白の叡智』の名を汚してしまう事が……。
いつもと違うフィールド……。私の体は、いつもみたいに動いてくれない……。
それにも関わらず、無情にも審判は入場して来る。否応なく、試合は開始されてしまうのだ……。
「それでは、決勝戦を……」
――ダン……!!
審判の声を遮り、会場に大きな音が鳴り響く。その音源に、全員の視線が集まる。
そして、その音の主はルージュだ。何故か彼は、自らの巨大な盾を、地面に突き立てていた。
「――オーラ・バースト!」
会場中に響く、ルージュの叫び。そして、その声に合わせてスキルが発動する。
彼の持つ、守護者の基本スキルが……。
「光の戦士だ……。あれは、まさか……?」
「彼は確か……。ハワード家の人間……?」
「盾の騎士……。盾の騎士の再来じゃ……」
ルージュの使った『オーラ・バースト』は、『オーラ・アーマー』『オーラ・シールド』『オーラ・ソード』を同時に発動させるスキルである。
そして、守護者となり、オーラ・スキルのレベルを上げたルージュは、その効果によって全身が眩い光に包まれていた。
それは、人々が知る姿にそっくりなはず。彼の祖父『カイン=ハワード』の、伝説に謳われるその姿に……。
ルージュは光輝く盾を掲げ、見る者全てに宣言する。
「我こそは、『白の叡智』がルージュ! あらゆる攻撃を防ぐ、盾の騎士である! この私が居る限り、いかなる攻撃も『白の叡智』に届かぬと知れ!」
ルージュの名乗りに会場がどよめく。堂々とした彼の姿が、会場の視線を一手に集めていた。
私がその大きな背中を見つめていると、急に右肩が叩かれる。振り向くと、そこにはロレーヌの笑顔があった。
「アンナちゃん、いつも通りで大丈夫だよ。私達も一緒だからね!」
「かましてくれたな……。これは、無様な姿は見せれないよな……」
気付くと左側にはハティも立っている。私に視線を向け、二っと笑顔を見せていた。
その姿には、気負った様子が見られなかった。いつも通り、私の側には仲間達が立っていた……。
「さあ、アンナ殿! いつも通り、我々を勝利に導いて下さい!」
最前線に立つルージュは、顔だけをこちらに向ける。そして、いつもの笑みを、私に見せていた。
「みんな……」
仲間達のいつも通りの姿……。そして、その気持ちに勇気を貰う……。
私の中の恐怖は、気付けばいつの間にか、どこかに居なくなっていた。
「うん、いつも通り宜しく……」
私の声に、仲間達が頷く。そして、対戦相手へと視線を移す。
それで準備が整ったと判断したのだろう。審判は気を取り直し、改めて試合の合図を行う。
「それでは、決勝戦を開始する。……両者、始め!」
「ルージュは後衛のガード……。ロレーヌは前衛の足止め……。ハティは後衛を狙って……」
私の指示に、仲間達が活動を開始する。各々が、自らの役目を果たす為に。
そして、一番に動いたのはロレーヌだ。彼女は急にその姿が消えてしまう……。
いや、正確に言えば、本当に消えた訳では無い。存在が希薄になり、意識の中に留めるのが難しくなっただけだ。
実際、ロレーヌは前衛の剣士二人に、交互にアタックを仕掛けている。ヒット&ウェイでチマチマ叩くだけだが、相手はその特性に翻弄されていた。
きっと、相手の前衛からは、ロレーヌが消えたり現れたりを、繰り返して見えているはずだ……。
これはロレーヌの暗殺者としてのスキルと、装備した『暗殺者シリーズ』のスキル強化による結果である。
……次に活躍しているのはルージュ。彼は直立不動で一歩も動かず。その場で全ての攻撃を防いでいた。
それを可能とするのが『オーラ・バリア』と言うスキルだ。ルージュが広く展開したバリアにより、相手の魔法や矢は私達の元へと届かない。
しかも、その耐久力は非常に高い。複数の大技を受けない限り、そのバリアは破れる事はないだろう。
……最後に、敵を追い詰めるのがハティ。彼は『気功』の上位スキル『龍気』を発動させている。これは地脈から、大地に流れる気を吸い上げるスキルである。
そして、十分な『龍気』が溜まったら、次に使うのが『龍牙連弾』。『指弾』の上位スキルであり、その攻撃力は、私の黒魔術をも凌駕する。
相手のリーダーは、それを召喚した精霊で相殺していた。しかし、精霊の再召喚を強いられ、精神力の消費故に顔色を悪くしている。
……では、私が何をしているかというと、仲間の支援と戦況の分析だ。
ロレーヌへのヘイスト。ルージュへのプロテス。ハティへのエナジー・インジェクション。これらによって、仲間の動きはより円滑となる。
そして、戦況分析としてはこちらの有利。観客からは、戦況が膠着して見えるかもしれない。しかし、相手に余裕は無く。私達には、まだまだ余力があるのだ。
これならば、私が魔導士を封印したままでも勝てる。お兄ちゃんの指示通り、全力を出さなくても勝つ事が出来るだろう。
私は目の前の状況を観察し、そしてようやく理解する……。
――私達は強い。
私達はいつも、お兄ちゃんの庇護下にあった。お兄ちゃんの指示する、勝てる相手とだけ戦い続けて来た……。
危険な場所では、お兄ちゃんやギリー達が前に出る。私達は『白の叡智』の中で、常に二軍という立ち位置だった。
その事で、私達はまだまだ弱く、お兄ちゃんの背中が遥か先にあると考えてていたのだ……。
――だけど、そうじゃなかった。
確かに、お兄ちゃんの背中には、まだ届いていないかもしれない……。
だけど、私達は弱くない。何故なら、王都で一番のクランを相手にし、それを上回っている。
既に私達は、そこまで強くなっていた。国内でもトップクラスの実力となっていたのだ……!
「私達は強い……。私達なら勝てる……!」
私の声に、仲間達が反応する。チラリと視線を向け、その目で同意を示す。
皆の気持ちも、私と同じなのだ。皆の気持ちが一つになり、私はその事に高揚感を感じる。
戦う事が……。相手に勝つ事が……。こんなに気持ち良い物だと、私は知らなかった……!
自然と笑みが浮かぶのを感じる。全身を巡るゾクソクに、杖を持つ手に力が入る……。
――パチパチパチ。
唐突に鳴り響く拍手。その音に、私達の試合は、一時中断させられる。
私達は一斉に、音の出所を探る。そして、その音は、観客席の一番奥から響いていた。
戸惑う私達に対し、拍手の主は予想外の発言を行った――。




