アレク、怒りを堪える
第二回戦の第二試合は『銀の翼竜』vs『精霊の守り人』である。ボク達『白の叡智』の一同は、観客席からその試合を観戦していた。
『銀の翼竜』はポルクがリーダーで、後方から指示を出している。前衛は二人の魔法剣士であり、その少し後ろでは聖騎士が中衛としてフォローを行う。
対して、『精霊の守り人』はリリアナさんがリーダー。彼女は精霊術士であり、後方から召喚した精霊で支援を行っている。
前衛は二人の剣士で、簡単な精霊魔法を使っている。そして、最後の一人は弓使いで、こちらも簡単な精霊魔法を使っているみたいだった。ボクの知らないジョブなので、エルフ固有の何かだ。
両チームの実力は拮抗している。ただ、時間の経過と共に、形勢は『精霊の守り人』へと傾いて行く。これは、経験の差が大きいので、仕方の無い結果だと思われた。
そして、三十分程の白熱した試合の結果、『精霊の守り人』が勝利を収める。リリアナさんとポルクは、最後に中央で握手をする。お互いに良い笑顔で、相手を讃えたっているみたいだった。
「まあ、これも順当な結果かな?」
「ああ、『精霊の守り人』は、経験を感じさせるな……」
どうやら、ギリーさんも満足の行く結果だったらしい。口元を綻ばせ、両チームを優しく見守っていた。
……とはいえ、次の試合はギリー抜きだな。彼を出せば、また圧勝してしまう気がする。
実力的にはボク達の方が上なのは間違いない。しかし、勝ち過ぎるのも良くないのだ。
過ぎた力を見せれば、引き抜きがまた強くなってしまう。そうで無くても、王都の方々の心象が良く無いだろうからね。
そんな感じで、ボクは決勝戦のメンバーを考える。今の所は、一回戦と同じ編成が無難だろうか……?
――パチパチパチ。
試合会場に、唐突な拍手が響く。この音の大きさから、マジック・アイテムによる音声拡張が行われている。ボク達を含む観客は、その音源へと視線を向けた。
「――素晴らしい。実に素晴らしい試合で合った」
声の主は、観客席の最奥。最も高い位置にある貴賓席から響いていた。
そして、その貴賓席を利用する者達は決まっている。ペンドラゴン国王と、その親族達である。
「我が王国の冒険者が、これ程の実力を持つ事……。大いに喜ぶべき事である」
会場の全ての人間が、国王の言葉に耳を傾ける。国王の言葉を邪魔する様な、不敬な存在は皆無だった。
誰もが国王の意図を探る。その言葉が、ただ感動を伝えたいだけなのか。或いは、別の目的を持っているのかと……。
「そして、私は今日の試合で、『白の叡智』には非常に驚かされた。二試合とも、目を見張る結果を出してくれたのだから」
国王の視線がボクに向く。それに釣られ、観客の注目もボクへと移る。
この流れは、とても嫌な予感がする……。まさか、そんな事は……?
「それ故に、私は更に『白の叡智』を知りたいと思う。まだ見ぬメンバーの実力が、如何程の物であるかを」
「――っ」
その言葉に、ボクの血が沸騰する様な感覚を覚える。手に力が入り、自然と握り締めていた。
「どうだろう? 『白の叡智』には、他にも優秀な人材が揃っていると聞く。皆もその実力を、知りたいのではないだろうか?」
会場に動揺が走る。異なる二つの感情故に。
それは、国王の言葉通りに、知りたいと言う好奇心。そして、それを決勝戦で強要するのかという疑問だ……。
「『白の叡智』のリーダーがアレクよ。どうであろう? 私の……いや、私達の願いを聞き入れてはくれないかね?」
国王の望みは、アンナ、ハティ、ルージュ、ロレーヌによる編成。そのメンバーで、決勝戦を戦えという事である。
そして、この公式の場で、その願いを口にした。それはつまり、王命に従えと言う意思表示である。
――そこまでして、負けたくないのか。
激しい怒りが体中を駆け巡る。しかし、その怒りは瞬時に冷え固まり、やがてボクの奥底へと押し込められる。
そして、ボクはその場で跪いて、国王に向けて頭を下げた。その王命を受諾すると、その意思を示す為に。
「よろしい。それでは、決勝戦も楽しみにしているぞ」
その言葉を最後に、国王の声が途絶える。マジック・アイテムの効果を切ったのだろう。
代わりに聞こえてくるざわめき。先程の出来事と、明日の予想で観客は互いに意見をぶつけ合っていた。
「アレク……」
心配そうなギリーの声が聞こえた。なので、ボクはその場で立ち上がる。
そして、ギリーと視線が交差する。ギリーの表情が苦しそうに歪んで行った。
「戻ろう……。ポルクとも話がしたい……」
その言葉に、メンバー一同が静かに頷く。誰も口を開かず、ボクの後ろに付き従った。内心に同じ思いを抱きながら……。
よくも、ボクの仲間達を馬鹿にしてくれたな……。
アンナ達になら負けないと、そう考えてるって事だな……?
ボクは以前、ユリウスさんから忠告を受けた。今のボクでは実績が足りないと。
そして、彼等は悪魔公の再封印の他に、ヴァーム砦の件でも力の一端を示した。
だが、それでもまだ、彼等には足りないらしい……。
ならば、見せてやるしかない。ボク達の仲間達の実力を。そして、ボク達を敵に回す事の愚かさを……。
ボクは激しい怒りを、心の奥底でゆっくり練る。そして、試合会場を後にするのだった。




