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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第九章 ヴァーム砦防衛戦編

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アレク、死者を送る

 全てが終わった戦場をボクは歩く。向かう先は、昨日演説を行った訓練スペースだ。


 途中、いくつもの兵士の躯を目にする。その全ては帝国兵の物である。ヴァーム砦側は怪我人こそ多数だが、その躯はどこにも見当たらなかった。


 ボクに背後には、ギリー、ギル、ユリウスさん達も付いて来ている。更には、生き残った兵士達の大半も、何が起こるのかと、ボク達の後を追っていた。


 そして、ボクは訓練スペースに到着する。眼前には、昨日と同様に、兵士達が整列していた。


 ――ただし、昨日と異なり、全てアンデッドの姿である。


 ボクは静かに視線を這わせる。すると、一人のスケルトン騎士ナイトが前に出て来る。


 彼はボクの前に跪いて、彼等の気持ちを代表して述べる。


『アレク様……。コノ度ハ、我等ヘノ助力、誠ニ感謝致シマス……』


「…………」


 彼は恐らく、ヴァーム砦の隊長だった人。彼との繋がりを感じるボクは、何となくそんな事が理解出来てしまった。


 そして、彼の背後に並ぶ兵士達。彼等とも繋がりを感じる。彼等の気持ちが、ボクへと流れ込んでいた。


『オ陰様デ、我々ハ、誇リヲ失ワズニ済ミマシタ……。大切ナ物ヲ、守ル事ガ出来マシタ……』


「そう、ですか……」


 彼の気持ちは本心だ。それは良くわかる。彼の気持ちが流れ込んで来るのだから。


 そして、ボクはその事に、胸が締め付けられる思いだった。彼等から向けられる感謝が、ボクにはとても辛かった……。


『我々ノ役目ハ、ココデ終ワリマス……。シカシ、ヴォルクス……ソシテ、ソコニ住マウ人々ハ、未来ヘト繋ガリマシタ……』


「ええ、貴方達の活躍によって……」


 しかし、彼はボクの言葉に首を振る。そして、下げていた頭を上げ、ボクへと視線を向ける。


『アレク様ガ、居タカラコソデス……。アレク様ガ居ナケレバ、我々ハ、タダ無駄死ニダッタノデス……』


「…………」


 彼の言葉に、ボクは何も言えなかった。否定する言葉は掛けられない。かといって、ボクはその言葉を、受け取る事も出来ずにいた。


 彼はそんなボクに構わず、右手を胸に当て、再び頭を下げた。


『最後ニ、感謝ノ気持チヲ伝エラレテ良カッタ……。我等ノ感謝ト忠誠ヲ、アレク様ニ捧ゲマス……』


『『『アレク様万歳……! ヴォルクス万歳……!!』』』


 背後の兵士達は、自らの剣を掲げて見せる。そして、全員で万歳コールを続ける。


 その光景は、昨日に見た、生前の彼等を彷彿とさせる姿であった……。


『ソレデハ、我々ハモウ行キマス……』


「……っ!?」


 そう告げると、彼の身体は崩れて行く。骨で出来た体と、金属の鎧が、砂の様にサラサラと崩れて行った。


 更に、背後の兵士達も、同様に崩れ去って行く。その姿で、彼等の姿が仮初の物と、改めて思い知らされた……。


 ボクは自らの手を、グッと握りしめる。そして、去り行く彼等に、最後の言葉を贈る。


「誇り高い戦士達に……。安らかな眠りを……」


 全ての兵達が、跡形も無く去って行った。そこに存在していたのが、まるで嘘だったかの様に……。


 そして、ガランと空いた広場と同じく、ボクの胸内にもポッカリと穴が開く。その悲しみを埋めるかの如く、ボクは天に向かって叫び声を上げる。


「何故、ボクの力は……! 死者の願いを聞く物なんだ……!?」


 ボクのユニーク・スキルは真価を発揮した。そして、その能力は帝国兵を押し返す程、強力な物であった。


 しかし、それと同時に、この力は死者の魂を必要とする。誰かが死んだ後にしか、この力は真価を発揮出来ない物だった。


「違うだろ……! もっと、他にあっただろ……!? 誰かを助ける力が……!」


 確かにこれも、チートと言えるスキルだ。転生物に良く有る、特別な能力と言える。この世界の人々には無い、超常の能力に違いは無いのだ。


 ――ただ、どうせ貰えるなら、もっと別の力も有ったはずだ。


 人が死ぬ前に助けたり、人が死んだ事を無かった事に出来る能力等だ。こんな酷い能力は、ボクの望む物では無かった。


 ……勿論、こんな愚痴はお門違いなのだろう。


 この砦の半分の命が救われた。それだけでも、奇跡的な事なのである。もっと良い能力が良かった等、それこそ我が儘と言われても仕方が無い話だ……。


「アレク君……」


 呼び掛けられた声に、ボクは振り返る。重い体を、ゆっくりと動かして……。


 ボクに呼び掛けたのは、ユリウスさんだった。彼は悲痛な表情で、ボクに対して頭を下げた。


「君の気持ちはわかった……。それでも、私は君に礼を言おう……」


「…………」


 ボクはボンヤリと、ユリウスさんの行動を見つめる。鈍った頭では、彼の気持ちが汲み取れなかったが為に……。


「私達と、街の皆を救ってくれて、ありがとう……。そして、彼等の誇りを、魂を救ってくれて、ありがとう……」


「……っ!?」


 去って行った、彼の気持ちはわかっていた。その感謝の念は、痛い程に伝わっていたからだ。


 しかし、ボクはその気持ちを受け止められなかった。それが自分にとって都合の良い、卑しい考えに思えて仕方が無かった為だ。


「う、うぅ……」


 だから、ユリウスさんに感謝され、その思いを言葉にされ、ボクは初めて受け止める事が出来た。彼等の思いが、ボクの身勝手な思い込みでは無いのだと……。


 守る事が出来た人々。守る事が出来なかった人々。それらが胸内で混ざり合い、自分でも制御出来ない感情となる。


 そして、ボクは静かに涙を流す。自らの感情に、整理を付ける為に……。

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